IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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時間が作れたので連日投稿です!
まだ前回の話を読んでいない方はそちらを読んでからどうぞ!






第221話 ハヤテは止まらない

 

「――以上が海斗君誘拐の経緯らしい」

 

「なるほど」

 

 弦十郎の説明を聞いたハヤテは頷く。その表情には特に感情は見えない。

 

「それで?あのバカたちは今は?」

 

「響君たちは医務室で安静にしている。幸い大きなケガもなく意識もはっきりしている…が……」

 

 弦十郎が徐々に歯切れが悪くなりながら続ける。

 

「その、問題は精神面の方で。目の前で海斗君を誘拐され、敵にも手も足も出なかったことが相当堪えたらしくてな。三人とも塞ぎ込んでしまっている。今は小日向君とセレナ君が様子を見ていてくれている」

 

「彼女たちのISは?」

 

「それなりにダメージはあるもののそれほど深刻なモノではないらしい。今は了子君や簪君、ウェル博士、ナスターシャ博士、キャロル君とエルフナイン君たち技術部のメンバー総出で修復にあたっている。恐らくテロリストたちのもうけた制限時間には修理は間に合うだろう」

 

「ISが直っても…本人たちがそんな状態じゃ……」

 

「………………」

 

 弦十郎の言葉に悔しそうに言う奏と同意するように悲痛の面持ちで頷く翼とマリア。

 ハヤテはそんな様子を見ながら少し考えるそぶりを見せるが、すぐに顔を上げ

 

「とにかく、現状戦えるのはこの場にいるメンバーとセレナちゃんだけだと思った方がいいかもしれませんね」

 

『……………』

 

 弦十郎達S.O.N.Gのメンバーは頷きつつも悔しそうに唇を噛む。

 

「すみません、遅くなりました」

 

 と、そんな重苦しい空気の中、弦十郎の座る席の背後にあるドアが開き、楯無が入室してくる。

 

「大丈夫だ。まだ現状確認が終わったくらいだ」

 

「そうですか……――お久しぶりですね、篠ノ之博士」

 

 弦十郎の言葉に頷いた楯無は束に向き直る。

 

「そうだね~。五年ぶりくらいかな?」

 

「ええ、颯太くんの解毒剤をいただいたとき以来なので。あの時はありがとうございました」

 

「別に。ただの気まぐれだし」

 

 頭を下げる楯無に対し、束は特に何も感じることなくテキトーに流す。

 

「それでは、楯無君も来たことだし、改めて作戦立案だ。何か考えや思いついたことのある者はいないだろうか?」

 

『……………』

 

 弦十郎は言葉とともに周りを見渡すが誰も発言をする者はいない。そんな中

 

「………誰も思いつかないのであれば僕に一つ考えがあります」

 

 挙手をしながらハヤテが口を開く。

 

「考え、と言うか、少し――いや、かなり無理がある作戦なんですが……」

 

「言うだけ言ってみてくれないか?どんな作戦なんだ?」

 

 言い淀むハヤテに弦十郎が促す。

 

「作戦内容を言う前に、束博士に二、三確認したいことがあるんですが」

 

「ん?なんだい?」

 

「あのですね――」

 

 首を傾げる束に歩み寄りハヤテは小声で何やら訊く。

 

「そうだね~……それなら――」

 

「なるほど……じゃあ――」

 

「ああぁ、だったら――」

 

「えっ!?マジっすか?じゃあ――」

 

「うん、できると思うよ」

 

 小声で話すので当事者の二人と、束の隣に立つクロエ以外には会話の内容は聞こえない。

 

「OKです。これでたぶん僕の作戦ができると思います。ただ、それでうまくいくかはわかりませんけど……」

 

 頷きながら周りに視線を向ける。

 

「聞かせてくれ。どんな作戦なんだ?」

 

 弦十郎が促し、その場にいる全員分の視線がハヤテへと集まる。

 

「僕の考えた作戦はいくつか手順と同時進行がありますけど、まず一つ、皆さんに提案しないといけないことがあります」

 

 ハヤテはそこでいったん言葉を区切り、真剣な顔で周りを見渡し

 

「『井口颯太』を生き返らせません?」

 

 

 

 〇

 

 

 

「やぁ……手痛くやられたな」

 

 医務室に入ったハヤテはベッドに座る三人に向けて言う。

 ハヤテが入室したことでベッドに座る響、切歌、調の三人に加えて三人に付き添っている未来とセレナもハヤテへと視線を向ける。

 

「聞いたよ。テロリストと交戦したらしいな。まあその程度で済んでよかった」

 

「……よくありませんよ」

 

 丸椅子に腰かけながら言うハヤテに響がつぶやく様に言う。

 

「守りたいものがあったんです。それは、なんでもないただの日常。そんな日常を大切にしたいと、強く思っていたんです。だからいつだって私は私の信じた正義のために戦えたし、手を伸ばせたんです」

 

 なのに、と響が俯き、ぎゅっと布団を握り締める。

 

「なのに、私の伸ばした手は届きませんでした」

 

「響……」

 

 悲痛な面持ちの響の言葉に未来が胸で手を握りながら呟く。

 

「私の正しいと信じたことは、私の言葉はあの人たちには届きませんでした」

 

「私たちが、助けるはずだったのに……」

 

「私たちの方が、先輩に助けられたデス……」

 

「調ちゃん……切歌ちゃん……」

 

 響と同じく、俯き悔しそうに唇を噛む調と切歌の様子にセレナもなんと声を掛けたらいいのかわからず視線を足元に落とす。

 

「確かに一度はダメだったかもしれない、でも、まだ――」

 

「まだ、なんですか!?」

 

 ハヤテの言葉を遮って響が叫ぶ。

 

「私たちが海斗君を助けなきゃいけなかったのに……!」

 

「私たちに力がないばかりに……!」

 

「私たちは、無力デス……!」

 

 悔しそうに顔をゆがませながら三人は叫ぶ。

 

「だったらなんだ?」

 

 そんな三人の視線を受けてなおハヤテは冷静に、しかし、先ほどよりより冷ややかな目で三人を見る。

 

「諦めるのか?ここでウジウジと引き籠ってるつもりか?」

 

「「「っ!?」」」

 

 ハヤテの言葉に三人が息をのみ、その眼の鋭さにひるむ。

 

「ハヤテさん!」

 

「そんな言い方――」

 

 未来とセレナがハヤテに詰め寄ろうとするが、ハヤテはそれを手で制して三人に再び視線を向ける。

 

「確かにお前たちの力はテロリストどもに届かなかった。お前らの信じた正義は否定されたのかもしれない。だからどうした?正義なんて10人いれば10通りあるもんだ。だったら自分の信じた正義を突き進むしかないんだよ」

 

 ハヤテの言葉に三人は押し黙る。

 

「あいつがなんでお前らを助けたと思ってんだ?お前らを信じたからだろ?お前らならきっと助けに来てくれるって信じたからだろ!」

 

「「「っ!」」」

 

「わかったら立て。立って行動しろ!みんな海斗を救うために動いてるんだ!」

 

 三人は手を握りしめながら、しかし、なかなか動けずに俯いている。

 

「何をためらってる!お前らには守る物があるんじゃないのか?自分が信じる正義のために戦うんじゃないのか?それとも全部嘘だったのか!?」

 

「「「っ!!」」」

 

 ハヤテの言葉に三人は今度こそ顔を上げる。その表情は先ほどまでの悲しみに暮れるものではなく、確かな決意の見える顔だった。

 

「……よし、いい顔になったな。僕も準備があるからもう行く。詳しい作戦の内容は弦十郎さんたちに聞け。自分たちのできることをしっかりと準備しろよ」

 

「「「はい(デス)!!!」」」

 

 ハヤテの言葉に力強く頷いた三人の表情を見て満足げに頷いたハヤテは未来とセレナに視線を向けて微笑み医務室を後にする。

 

「………準備もせずにどこ行ったのかと思えば、相変わらずのお人好しだな、お前は」

 

 と、医務室の扉の隣に背中を預けて立つ束がハヤテに声を掛ける。

 

「こんなところでサボりですか?」

 

「お前なんかと一緒にするな。誰のせいでここにいると思ってるんだ?」

 

「………もしかして僕に用があったんですか?」

 

「まあね」

 

 言いながら壁から背を離し普通に立った束は足元に置いていた紙袋をハヤテに手渡す。

 

「ほれ」

 

「……なんですかこれ?」

 

 紙袋を受け取りながらハヤテは訊く。

 

「『井口颯太』を生き返らせるんだろ?今のお前じゃ顔も声も違うんだ。だったら〝これ〟がいるんじゃないの?」

 

 束の言葉を聞きながら紙袋から中身を取り出す。それは――

 

「なるほど、確かに必要ですね。ありがとうございます」

 

「ん。それじゃあ私は作業戻るから。あんたもやることあるんだろ?さっさと準備しろよ」

 

 そう言って手を振りながら去って行く束。

 そんな束の後ろ姿を見送りながらハヤテは受け取った〝それ〟――狐のお面を顔が見えるように右側に被る。

 

「さ、準備始めますか」

 




ハヤテ ハ 「狐のお面」 ヲ 手二入レタ
さあ反撃開始です
ハヤテの言う〝『井口颯太』を生き返らせる〟とはどういう意味なのか!?
お楽しみに!!

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