IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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本編の最新話だと思った方すみません!
そろそろこのお話も連載し始めて4周年なので、記念の番外編にしたいと思います!
ちなみに次回も番外編にしようと思っていますのでよろしくお願いします!

そんなわけで番外編です!






連載4周年記念番外編「噂をすれば影が差す」

「脱出ゲームのスタッフ?」

 

 クリスは怪訝そうな顔で言う。

 

「そそっ」

 

 そんなクリスの疑問の表情に答えるようにハヤテが言う。

 

「今回の依頼はとある会社が行う謎解き脱出ゲームの企画にスタッフとして入ってほしいってことなんだよ」

 

「いや、それは聞いてたからわかるけど……そう言うのってちゃんとした派遣会社とかに依頼するもんじゃないのか?」

 

「普通はね」

 

「…今回うちにこの依頼が来たのは、この会社の社長の護衛を前にやった縁なんだよ…」

 

 クリスの問いに二人のほかに社長室にいたシャルロットとムラサキが答える。

 

「そんなわけで今回は僕、シャルロット、ムラサキ、お前で行こうと思うんだ」

 

「クリスに来てもらうか最後まで迷ったんだけどね。場所と企画の関係でそのイベント、夕方6時から9時まであるから、確実にIS学園の寮の門限は過ぎちゃうし」

 

「まあそこは弦十郎さんに頼んで学園の許可はとったから」

 

「それならあたしとしては問題ないな。断る理由もないし」

 

「そっか。それはよかった。じゃあ当日は頼むな。来週の日曜日、イベントの概要はこの冊子にあるから目を通しておいてくれ」

 

「ああ」

 

クリスの答えに頷いたハヤテは冊子を渡す。

 その表紙には大きくこの企画のタイトルがおどろおどろしいフォントで描かれており

 

「……おい、ちょっと待て。これ……『亡霊たちの呼び声』って……」

 

「おう。今回のイベントのタイトルだな」

 

「謎解き脱出ゲームってホラー系なのか!?」

 

「おう」

 

 クリスの問いにハヤテが頷く。

 

「その企画書の中にも書いてあるけど、今回のイベントはある廃病院を買い取って謎解きゲーム用のギミックを仕込んだりした本格ホラー系ミステリーなんだよ」

 

「ホラー系だから明るいと雰囲気でないから夜にやるんだよね」

 

「そうそう。ストーリーは、幽霊が出るって噂の廃病院に肝試しでやって来た集団の前に本当に幽霊が現れる…って感じだな。幽霊から逃げつつ廃病院からの脱出を目指す――ってどうした?顔青いぞ?」

 

「そ、そんなことねぇよ……」

 

「あ、もしかしてこわ――」

 

「怖がってねぇし!!全然平気だ!!」

 

 ハヤテの言葉に食い気味に叫ぶクリス。

 

「でも足が生まれたての小鹿のようだよ?」

 

「こ、これは……そう!武者震いだ!」

 

 シャルロットの指摘にも叫ぶクリス。

 

「と、とにかく!あたしは大丈夫だから!来週はそのイベントのスタッフやりゃいいんだろ!任せろっ!じゃあな!」

 

「あ、おい!――行っちゃった」

 

 まくしたてるように叫んだクリスは逃げるように社長室を去って行った。

 

「大丈夫かな~……?」

 

 そんな様子を見ながらシャルロットは心配そうに苦笑いを浮かべた。

 

 

 〇

 

 

 時は流れて一週間後の日曜日。時刻はゲームが始まって一時間ほど経った頃……

 

「…キネクリ、マフラー掴まれてると歩きずらいから…」

 

「っ!す、すみません……」

 

 ムラサキの指摘にクリスは慌てて手を放す。

 現在ムラサキとクリスは脱出ゲームのスタッフとして働いている。

 仕事内容の関係で今はハヤテとシャルロット、ムラサキとクリスのそれぞれがペアになり業務に当たっている。

 今、ムラサキとクリスは参加者がゲームと関係のない場所や立ち入り禁止のエリア、今後の進行上に入られてはまずいエリアに行かないように見回りをしている。ちなみにハヤテとシャルロットも同じように別のエリアを見回っている。

 廃病院という設定(実際に廃病院だがゲーム用にある程度の改装はされている)のため、辺りは薄暗いが完全に真っ暗にならないように要所要所に電灯がつけられている。

 

「その……薄暗いんではぐれないようにと思ったんで……」

 

「…そんなに薄暗くもないと思うけど…?」

 

 ワタワタと言い訳じみた様子で言うクリスにムラサキはいつもと変わらない眠たげな視線とともに顔を向け

 

「…怖いなら手、繋ぐ…?」

 

「なっ!?べ、別に怖くなんてねぇ――ないです!」

 

 すっと左手を差し伸べたムラサキに慌てて否定するが、動揺したのか口調が荒くなりかけ、言い直す。

 

「…ホントに…?」

 

「う…………」

 

 それでもなお左手を差し出すムラサキの視線に悩ましそうに顔をしかめたクリスはムラサキの顔と手を交互に見比べ

 

「じゃ、じゃあ……」

 

 恐る恐ると言った様子でクリスは右手を出――

 

「あ、すみません!ちょっとこっち人手ほしいんで一人来てもらってもいいですか?」

 

 ――そうとしたところで、二人に声を掛ける男性がいた。

 二人と同じくスタッフ、しかし、二人と違いこの男性はこのゲームを運営する会社の社員である。

 

「…あ、じゃあ私行きます…」

 

「えっ!?」

 

「すいません、ありがとうございます。ストーリーの展開上必要な準備をしますのでよろしくお願いします」

 

「は~い」

 

 スタッフの言葉に頷いたムラサキは差し伸べていた手をおろし、スタスタと歩きだす。

 

「ちょっ!じゃああたしも――!」

 

「あ、いえ、準備している間にプレイヤーの方がこられるとまずいので、引き続き見回りをする方にもいていただきたいんです」

 

「…そういうことらしいから、一人で見回りお願いしてもいい…?終わったら連絡して合流するから…」

 

「で、でも!」

 

「…大丈夫だよね?別に怖いわけじゃないしね…」

 

 そう言ってじゃっ、と手を振ったムラサキは呼びに来たスタッフとともに去って行く。そんな後姿を見送ったクリスは一人残され

 

「え~……」

 

 この世の終わりのような顔で呆然と立っていた。

 

「そんな……強がるんじゃなかった……」

 

 不安そうな表情で寂しげに周りを見渡し

 

「と、とりあえず…仕事はしないと――」

 

 ガチャァ~ンッ!!

 

「ひぃっ!?」

 

 どこからか聞こえてきた大きな音に飛び退き悲鳴を上げる。

 

「な、なんだよ!?なんなんだよ!?驚かせんじゃねぇよ!!」

 

 誰に向かってかわからない文句を言いながら周りを見渡すが特に変わった様子はない。タイミングや見回った順路の関係か周りに人影もない。

 

「と、とりあえず…仕事するか……見回り…見回りを……」

 

 言いながらクリスは進行方向に視線を向け

 

「……………」

 

 そこには薄暗く、どこまでも続くと思えるような長い廊下が続く。

 病院特有の無機質な廊下には足元を照らす等間隔の小さなライトはあるものの、雰囲気を壊さないために最低限しか照らされていない。

 

「うん…行くか!なんか手伝いもあるかもだし!とりあえず人の多そうな方に!仕事だしな!うんうん!」

 

 と、だれに対してなのかわからない言い訳をしつつ歩き始めようとしたクリスは

 

「お姉ちゃん……」

 

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 突如背後から声を掛けられると同時に腰のあたりをつつかれ、大声で悲鳴を上げながら飛び退く。

 

「な、なななななんっ………ってあれ?」

 

 大慌てでガクガクと震えながら振り返った先にいたのは、一人の少女だった。

 その少女は年のころは6歳くらいだろう。背中の中頃までありそうな長い黒髪のストレート。服装は少し肌寒い時期ではあるものの、ノースリーブの真っ白なワンピースだった。顔の造りはよく、恐らくこのまま成長すればかなりの美人になるだろうと思われるその少女は、不安げな表情を浮かべクリスを見上げていた。

 何かの怪奇現象にでも遭遇したのかと思ったクリスはその少女の姿にほっと一安心して少女に視線を合わせてかがむ。

 

「わ、悪いなちょっと驚いちまった。どうかしたか?」

 

「……………」

 

 クリスの問いに何か言おうとしつつも、もじもじとクリスの顔をちらちら見ながら視線を足元を見つめて黙ってしまう少女。

 その少女の様子に自分が大声を上げたことで驚かせてしまったかと心配になったクリスは少し周りを見渡す。しかし、相変わらず周りにはクリスと少女以外人の気配はない。

 そこでハタと気付く。

 

「おい、パパやママはどうしたんだ?」

 

「っ!」

 

 クリスの言葉に顔を上げた少女は不安そうに顔をゆがませる。

 

「もしかして……迷子か?」

 

 その問いに少女はゆっくりと頷く。

 

「そっか……」

 

 少し考えるように黙るクリスに少女は不安そうな表情なまま見つめる。

 その様子ににっこり微笑み

 

「大丈夫だ。あたしがちゃんとママとパパに会わせてやるから、安心しろ」

 

 そう言って優しく頭を撫でたクリスに少女は少しだけ表情を和らげた。

 

 

 

 

 

 それから少女の手を繋いだクリスは人のいる場所を探し歩き回るが、歩き始めてかなり経つが人に遭遇しないまま今に至る。

 

「「…………」」

 

 少女に歩幅を合わせつつ周りを見回しながらクリスは歩く。

 クリスと一緒にいることで少しは安心しているようだが、なかなかと両親と会えないせいか少女は押し黙っている。

 

「……その~、なんだ……えっと……

ママとパパのことは好きか?」

 

 クリスの問いに少女はゆっくりと頷く。

 

「ママはいつも優しくて、おやつによくクッキーを焼いてくれたの。とってもおいしいの。パパは私やママのためにお仕事頑張ってくれて、お休みの日もよくお出かけに連れて行ってくれたの」

 

「そっか……」

 

 少し不安げだった少女は嬉しそうに話して語る。

 拙いながらも沙少女の様子には両親のことを大好きだということがひしひしと伝わってきた。

 

「お姉ちゃんは?」

 

「ん?」

 

「お姉ちゃんは、ママとパパのこと、好き?」

 

「それは……」

 

 少女の純粋な視線を受けたクリスは言い淀み、しかし、少し間をあけて口を開く。

 

「そうだな……うん、あたしもママとパパのことは大好きだったし、今でも大好きだ」

 

「そっか」

 

 笑顔で答えるクリスに少女も楽しそうに笑う。

 と、そんなことを話していると

 

「あ!ママとパパ!」

 

 少女はパッと表情を綻ばせて進行方向を指さす。

 そこには薄暗い廊下の先、「手術中」の文字に明りの灯る扉の前に立ち、こちらに手を振る男女が立っていた。

 少し距離がある上に薄暗いのでその表情は見えないが少女は嬉しそうに笑っている。

 

「そうか、よかったな、見つかって」

 

「うん!」

 

 頷く少女の手を放そうとするクリスだったが、なぜか少女は手を放さない。

 

「ん?どうかしたか?」

 

 少女の様子に首を傾げるクリス。

 そんなクリスに少女は微笑みながら

 

「お姉ちゃんも一緒に行こ?」

 

「あたしも?」

 

 笑顔で言う少女の言葉にどうしたものかと考えるが

 

「悪い。あたしはお前と違ってこのゲームのプレイヤーじゃなくてスタッフ側なんだ」

 

「でも……」

 

「まだ仕事も残ってるしな。ほれ、あたしのことは言いからさっさとママとパパのところ行ってやれ。お前のこと探して心配してただろうからさ」

 

「………うん」

 

 少女に微笑みかけながら優しく頭を撫でたクリス。

 そんなクリスの顔を数秒見つめた後、少女はゆっくりと頷き歩き出す。

 歩いてきた少女を優しく迎えた両親。その表情は薄暗くて見えないが、なぜか優しく微笑みかけているように見える。少女もうれしそうに笑っている。

 

「……よかったな」

 

 その様子に嬉しそうに微笑んだクリスは踵を返し歩き出す。

 

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

 と、そんなクリスの背後から声が聞こえる。

 その言葉に返事をしようと振り返ろうとしたクリスは

 

「あ、キネクリ、こんなとこにいた!」

 

 突如横合いからかけられた声にそちらに視線を向ける。

 そこには呆れたような表情でクリスを見るハヤテの姿があった。

 

「お~い、キネクリいたぞ~」

 

 言いながらハヤテは自身の背後に声を掛ける。と――

 

「え?ホント?」

 

「…よかったよかった…無事合流できたね…」

 

 ハヤテの後ろの通路の先からシャルロットとムラサキが現れる。

 

「まったく、心配かけやがって」

 

「そんな大騒ぎすることでもねぇだろ」

 

「でも、全然連絡もつかないし」

 

「大袈裟だな。たかだか二、三十分だろ?ちょっと過保護すぎるだろ?」

 

「…何言ってるんだい?もう脱出ゲームも終わろうかって時間だよ…?」

 

「えっ?」

 

 ムラサキの言葉にクリスは慌てて携帯を取り出す。

 そこには確かにムラサキの言う通り、もうそろそろこのイベントも終わろうかという時間だった。

 

「ウソ……全然気づかなかった……」

 

「まったく、心配かけやがって。一体どこで何してたんだ?」

 

「いや……迷子がいたからそれで……」

 

「迷子ぉぉ?」

 

 クリスの言葉に怪訝そうな顔でハヤテがジト目を向ける。

 

「いや、ほら、あそこの……ってあれ?」

 

 クリスは背後を振り返りながら指さすが、そこには誰もおらず、先ほどついていたはずの「手術中」のライトも消えていた。

 

「おかしいな。あそこ突き当りなのに……それについ今までいたのに……」

 

「何言ってんだ?」

 

「いや、迷子の女の子がいたから一緒に保護者探してて、つい今しがたその保護者を見つけてその女の子と別れたところで……」

 

「…迷子とか、女の子とか、何を言ってるんだい…?」

 

「は?いや、だから、つい今まであたしは……」

 

「何かの間違いじゃないの?」

 

 クリスの言葉に益々怪訝そうな表情になる三人。

 

「はぁ?間違えるはずないだろ。だってホントについ今しがた一緒にいたんだぞ?何が間違いだって――」

 

 なかなか話の噛み合わない三人の様子に首を傾げるクリスだったが、そんなクリスにハヤテは

 

「いや、いるはずないだろ、迷子の女の子なんて。だって――」

 

 おかしなものでも見るような表情で続ける。

 

「今日の参加者に女の子どころか15歳以下の子どもはいないだろ」

 

「………はぁ?」

 

 ハヤテの言葉にクリスは一瞬理解が追い付かない。

 

「いや、前に渡した資料にもあっただろ?このイベントはホラー系だから結構怖い演出もあるし、時間も時間だから、15歳以下は保護者同伴でも参加できないって」

 

「そう言えば……」

 

 ハヤテの言葉にクリスはハッと思い出したようで驚いた顔をする。

 

「え…?でも、あたしは確かに……」

 

「…ねぇ、キネクリが見たっていう女の子はどんな感じの子だったの…?」

 

 と、困惑するクリスにムラサキが訊く。

 

「え?えっと……年は6歳くらいで、長い黒髪が背中の真ん中くらいまであるような長さで。服装はノースリーブの真っ白いワンピースでした」

 

「ふむふむ……」

 

 クリスの話に少し頷いたムラサキはうん、と一つ大きく頷き、いつもと同じ無表情でクリスを見て

 

「それ、たぶん幽霊だよ」

 

「…………は?」

 

 クリスはその言葉の意味が分からずポカンとした表情を浮かべる。

 

「どういうこと?何か知ってるの?」

 

「…ええ、まあ…」

 

 シャルロットの問いにムラサキは頷く。

 

「…このイベントをする前に一応この廃病院についても調べたんですけどね…この病院がつぶれる一年位前に一組の家族が事故で運ばれてきたらしいんですよ…

…その家族って言うのが、父親と母親の六歳になる娘の三人で、手術室の都合で父親と母親は同じ第一手術室だったんですけど…娘だけ少し離れた場所にある第三手術室で処置されて、結局残念ながら手遅れで、三人とも助からなかったんですよね…」

 

「その話が今回クリスが遭遇したこととどういう関係があるんだ?」

 

 ムラサキの話にハヤテが首を傾げる。

 

「…話はここからなんですよ…それから少しして、この病院で深夜に幽霊騒ぎが起こるようになったんですよ…」

 

「幽霊騒ぎ?」

 

 シャルロットの問いに頷きながらムラサキは話を続ける。

 

「…曰く、六歳くらいの長い黒髪のワンピースの少女が現れるって…でもその時にはそんな風な子は入院患者にはいないらしいんですよ…」

 

 ムラサキの言葉に三人が息をのむ。

 

「…しかも、その女の子、パパとママを探してるっていうらしいんです…恐らく手術室が離れて死んだことで、死後も出会えてなかったんじゃないかってもっぱらの噂だったらしいですよ…そんな噂のせいで気味悪がられてこの病院を利用する患者さんも減って、それが潰れる原因の一端にもなったみたいですね…」

 

 だから、と言葉を区切ってムラサキはクリスへ視線を向け

 

「…キネクリが会ったっていう女の子も、案外それなんじゃないかなぁ~って…噂話と一致するし…」

 

「………え?何それこわっ」

 

「もしその噂が本当だったとして、今日クリスが会った女の子たちがそうだったとしたら…今日までその子たちは出会うことができずにずっと成仏できずにいたのかな?」

 

「…かもしれませんねぇ…」

 

 冗談めかして言うハヤテと真剣に言うシャルロット、シャルロットの言葉に頷くムラマサに対してクリスは茫然としたままハッとした表情を浮かべる。

 

「ま、待ってくださいよ。実はさっきあの子がママとパパだって言った人たちを見つけた時、あたしにも一緒に行こうって言ってたんすけど……それもし着いて行ってたら……」

 

「それ危なかったな。たぶん気に入られたんだよ」

 

 クリスの言葉にハヤテが言う。

 

「これまで自分と一緒にママとパパ探してくれるような親切な人いなくて、しかもやっと再会することをできたから、それを手伝ってくれたクリスを気に入って、一緒に連れて行こうとしたんだろ」

 

「つ、連れて行くって、どこに……?」

 

「そりゃぁ――」

 

 そこで言葉を区切ったハヤテは意地悪く笑い

 

「黄泉の国ってやつだよ」

 

「~~~~~~~!!!」

 

 ハヤテの言葉にクリスは顔を真っ青に染めて声にならないような悲鳴を上げる。

 

「どどどど、どうしよう!?これ、もしかして憑りつかれたのか!?」

 

「だ、大丈夫だよ。今の話が本当ならきっと成仏したはずだし」

 

「…まあそんな気はするね…」

 

「いや、そうとも限らないぜ?」

 

 慌てふためいていうクリスを安心させようと言うシャルロットとムラサキだったが、ハヤテは肩をすくめながら言う。

 

「こういう病院って場所はどうしても人の死が身近な場所だからか、幽霊が居つきやすいってなんかで聞いたことがある。今日のクリスの行動を他の幽霊が見てて、こいつなら自分のことなんとかしてくれるって思われてついて来るかもよ?そういういい意味だけじゃなくても、幽霊と関わったことでなんか悪いものも惹きつけるかも……」

 

「そ、そんなぁっ!?」

 

 クリスはハヤテの言葉に絶望の表情を浮かべる。

 

「な、何か方法はないのかよ!?除霊とか!?」

 

「そんな方法そうそうあるわけ――」

 

「あるよ」

 

「あるの!?」

 

苦笑いを浮かべていたシャルロットは頷くハヤテに驚きの表情を浮かべる。

 

「除霊っていうか、どんな悪霊からでも身を守るおまじない、ってやつだな」

 

「そ、それはどうやるんだよ!?教えてくれよ!」

 

「おう、いいぞ。ただここではできないから寮に帰ってからやれよ」

 

「わ、分かった!」

 

 切羽詰まった様子で縋り付くクリスに頷いたハヤテは説明を始める。

 

「ではまず、服を脱いで全裸になります」

 

「お、おう」

 

「そして、自分のお尻をバンバン叩きながら白目をむき、『びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!』と、ハイトーンで叫びながら、ベッドを昇り降りするんだ。これを10分ほど続ければ悪霊も去っていくさ」

 

「いやそれ絶対嘘だよね?そんなので除霊できるわけないよね?」

 

「真実か信じないかはお前次第だぜ、クリス」

 

 ハヤテの説明に呆れ顔で言うシャルロットだったが、ハヤテは真剣な表情でそう言って

 

「さ、何はともあれ、片付けまでが依頼内容だからな、さっさと片付けて帰ろうぜ」

 

 そう言ってスタスタと歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、IS学園の寮の一室にて――

 

「クリスちゃんお帰り~!」

 

「借り手た本を返しに来たデ~ス!」

 

 クリスが帰ってきたことを聞いた響と切歌がクリスを訪ねたところ

 

「びっくりするほどユートピア!!!びっくりするほどユートピア!!!」

 

 全裸で自分のお尻を叩きながら白目をむき、ハイテンションで叫びながら絶叫するクリスの姿が目撃された。

 

 

 

 その後、クリスは五日間ほど部屋に引き籠ったのだった。

 




質問コーナーは次回!
次の番外編もお楽しみに!!

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