IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第223話 偽りの英雄

「やあ、歓迎するよ、井口海斗君のお友達」

 

 サンジェルマンに連れられてやって来た少女に向けて、大仰に両手を広げながらアダムは言った。

 

「未来!なんでお前が!?」

 

「ごめん……でも、海斗君のことが心配で!下手にクリスやセレナさんたちが来るより、私の方がいいと思って、私が志願したの!」

 

「………っ?」

 

海斗の問いに未来が叫ぶように答える。そんな未来の言葉に息をのんだ海斗は

 

「未来……お前ホントに――」

 

「おっと、そこまでにしてもらえるかな、そういう話は?」

 

 何かを言いかけた海斗の言葉を遮ってアダムがニコニコと笑いながら言う。

 そんなアダムにゆっくりと歩み寄るサンジェルマン。

 

「一応最低限のISのセンサーによるスキャンを行いました。特に怪しいものはありません。強いて言えば、彼女の身体から微弱な電波が出ていますが、彼女の話では、万が一危害を加えられた時のために心電図をモニターする機械を身に着けているようです。確認できていないので、確かではありませんので、盗聴器や隠しカメラの可能性もありますが……」

 

「構わないよ、それでも」

 

 サンジェルマンの言葉に笑いながら頷いたアダムは未来に視線を向ける。

 

「それで…持ってきてくれたかな、例のものは?」

 

「持ってこれるわけない。あれは僕の部屋の金庫の中にあるんだ。だから彼女がここに来たのは別の目的で――」

 

「……………」

 

 アダムの問いに海斗は淡々と言う。が、未来は肩にかけていたワンショルダーバックを床に下ろし、中からオレンジ色の巾着袋を取り出す。

 

「っ!なんでそれを!?部屋の鍵は!?金庫の電子ロックは!?」

 

「部屋の鍵は織斑先生が合い鍵で開けてくれた。電子ロックは了子さんが……」

 

「だぁぁぁ!!」

 

 驚く海斗の言葉に未来が答え、その答えに海斗が愕然と頭を抱えて膝をつく。

 そんな海斗の姿を尻目に未来は巾着袋を開け、中から真っ黒な手の平サイズのHDDを取り出す。

 

「なるほど、確かに持ってきてくれたようだね、僕たちの要求通りに」

 

 言いながらアダムは立ち上がり、未来へそのHDDを受け取るために手を伸ばす。が、未来はそれを庇うように胸に抱きながら一歩後ずさる。

 

「どういうつもりかな、それは?」

 

「ひ、人質を解放する方が先です!」

 

「言えた立場かな、そんな要求を。でも――」

 

 怯えた様子で、しかし確固たる意志の籠った目で睨む未来の視線にやれやれと言った様子で肩をすくませたアダムはサンジェルマンに視線を向け

 

「人質を解放してきてくれるかな、手筈通りに」

 

「了解しました」

 

 アダムの言葉に頷いたサンジェルマンは部屋の中にいたカリオストロに目配せをし、椅子に縛り付けていたイゴールとともに部屋を後にする。

 カリオストロは広い部屋の中を移動し、出入り口の向かいの壁に埋め込まれている大きなディスプレイ、その脇の操作用のPCの前に立ち操作する。

 起動し映し出されたディスプレイは六つに分割され、それぞれ施設内の監視カメラの映像らしきものが映っている。

 

「見てごらん、これを」

 

 アダムの言葉とともにその中の一つが大きく映される。

 そこには先ほど部屋を後にしたサンジェルマンとイゴール、どこかで合流したらしいプレラーティが一つの扉の前に立ち、ゆっくりと開く。

 音声は来ていないので何と言っているのかはわからないが開いた扉の向こうにサンジェルマンが呼びかけている。すると――

 

「あれは…人質にされてた人たち……?」

 

 海斗の言葉通り、画面の向こうではスーツ姿の男女が数名現れる。その中にはハヤテの事務所のメンバーであるハルトたちの姿もある。

 

「どうかな、これで?」

 

 画面を見つめる未来にアダムが訊く。

 

「こちらは人質を解放した、君の言うとおりに。約束を守る番だよ、今度は君が」

 

「……海斗君と私の安全は保証してもらえるんですか?」

 

「保証しようじゃないか、君たちが大人しくしている限りは」

 

「……大人しくしていないと?」

 

 未来の問いにアダムはただ笑っているだけだった。しかし、その表情は雄弁に物語っていた。

 

「………わかりました」

 

「やめろ!それはそいつらが欲しがっているようなものじゃない!」

 

 頷く未来を見て、海斗が叫ぶ。しかし、未来はその言葉に答えず、アダムへとHDDを差し出す。

 

「フフフ…フハハハ!ついに、ついに手に入れたぞ!井口颯太の遺産を!」

 

 その手に持ったそれを見てアダムが高らかに笑う。

 

「局長、お連れしました」

 

「ご苦労様だったね」

 

 と、先ほど人質となっていた人たちを解放していたサンジェルマンとプレラーティが戻ってくる。しかし、やって来たのは二人だけではなかった。

 

「なっ!?シャルロットさん!?それに――」

 

「織斑先輩……篠ノ之先輩……」

 

「海斗君……」

 

「なんで颯太の弟がここに……?」

 

「それに未来ちゃんまで……」

 

 二人とともに来た人物たちの姿に未来と海斗が驚きの表情を浮かべる。

 同様に連れて来させられた一夏、箒、シャルロットも状況が呑み込めない様子で呆然としている。そのまま後ろ手に縛られたままの三人はサンジェルマンとプレラーティの手によって床に座らされる。

 

「どういうことですか!?人質は解放するって!」

 

「ちゃんと解放したさ、もちろんだとも。でも、言っていないのさ、全員を解放するとはね」

 

「そんな屁理屈!」

 

「君が悪いのさ、確認を怠った」

 

「っ!嘘つき!」

 

「っ!」

 

 未来の言葉にどこ吹く風で飄々と語るアダムに未来は叫ぶが、それはアダムへは届かない。しかし、その言葉にカリオストロが人知れず唇を噛む。

 

「それに、人質ではないのさ、彼らだけはね」

 

「どう言うことですか?」

 

 海斗の問いにアダムはニヤリと笑い

 

「さぁ!ともに祝おうじゃないか!新たな幕開け、新たな英雄の誕生の瞬間を!」

 

「何……?」

 

「どう言う意味ですか?」

 

 アダムの言葉の意味がわからず、海斗と未来が訊く。

 

「これは必要なことなのさ、君が英雄へと至るためにね」

 

 海斗へ笑みを浮かべながら言い、シャルロットへと視線を移すアダム。

 

「海斗君が英雄に至る……何をしようって言うの?」

 

「俺たちに何をさせるつもりだ?」

 

「何かをさせるつもりはない、君たちには。彼さ、それをするのは」

 

 そう言って海斗へと視線を向ける。

 

「分かり合えるものか、この不完全な世界では。だが、一つになれば話は別だ。統率者を得ることで、無秩序なこの世界は完全に至る。彼にはなってもらうのさ、その統率者に、新たな英雄に」

 

「なっ!?」

 

 シャルロットが驚愕の表情を浮かべる。

 

「だが、そのためには邪魔なのさ、織斑一夏と言う存在が。彼の兄、井口颯太を死に至らしめることでその座に着いた英雄が」

 

「っ!」

 

 アダムの言葉に一夏が息をのむ。

 

「一夏はそんなこと――」

 

「わかっているさ、そんなことは。でもそうは思っていないのさ、世界は。それに間違いじゃないはずだ、あながちすべてが」

 

「それは……」

 

 アダムの指摘に一夏は言い淀む。

 

「井口海斗君、君だって一度は思ったことがあるはずだ、井口颯太の死の原因の一端は彼にあると」

 

「………………」

 

 アダムの言葉を海斗は黙って聞いている。

 

「そして、それは君だって思っているのだろう、織斑一夏?」

 

「…………ああ」

 

 アダムの言葉に一夏がゆっくりと頷く。

 

「この五年間何度も考えた。あの時、もっと早くあいつに追いついていれば、銃を構えるあいつを言葉じゃなく行動で止めていれば、自力で脱出するっていうあいつの言葉を鵜呑みにしなければ、ミサイルを他のみんなに任せて颯太を助けに行っていれば……」

 

「一夏……」

 

 ゆっくりと胸のうちにため込んでいたものを吐き出すように一夏が言う。

 そんな一夏の様子に箒は唇を噛む。

 

「そいつの言うとおりだ。颯太が死んだ原因は俺だ……俺は颯太を見殺しにした……俺が、颯太を殺したんだ」

 

「そんなのはお前だけじゃない!それを言えば私だってそうだ!だから、颯太が死んだ原因が一夏にあるのなら、私だって同罪だ!」

 

 一夏の言葉に箒も叫ぶ。

 

「あの場にいた人間はみんなそう考えるよ。僕だって、颯太を止められるはずだったのにって……そんなことを言わせて、あなたはどうするつもりなんですか?颯太の死の原因が私たちにあったとして、それが海斗を英雄にすることとどう関係するっていうんですか?」

 

 じっと、真剣な目で睨むシャルロットの視線を受けてもなおアダムは飄々とした雰囲気を崩さない。

 

「彼にはあると思わないかい?兄の敵を討つ資格が、友を殺して民衆の信頼を得た偽りの英雄からその座を奪う資格が」

 

「まさか……!?」

 

 アダムがニヤリと笑う。

 

「海斗君、今こそ英雄に至る時だよ、君のお兄さんの遺志を継いで」

 

 言いながらアダムは懐からそれを取り出す。

 それは一丁の小型拳銃だった。

 アダムの言葉を聞きながら海斗はじっとその拳銃を見つめるが、それを手に取ることはない。

 

「君にはこれを向ける資格がある、英雄となるはずだった君のお兄さんを見殺しにした彼らに」

 

「……………」

 

「さあ手に取りたまえ、そして、井口颯太の遺志を継ぎ、君が新世界の英雄となるんだ」

 

「……………」

 

 数秒考えこむそぶりを見せた海斗はアダムの差し出す拳銃を手に取る。

 そんな海斗にニヤリと笑い、床に座らされる三人のもとへエスコートするように優雅に道を開けて示すアダム。

 

「ダメ、海斗!そんなこと――」

 

「おっと、言ったはずだよ、大人しくしているようにと」

 

「っ!」

 

 叫びながら海斗へ駆け寄ろうとする未来を睨むように視線を向けるアダム。

 その視線に未来が足を止める。

 

「さぁ、海斗君」

 

「…………」

 

 アダムに促され、海斗がゆっくりとした足取りで三人のもとへと歩み寄る。

 そんな海斗の様子を少し離れた位置から楽しげに眺めるアダム。

 

「さあ、海斗君、躊躇う必要はない、これは正当な行為だからね」

 

「……………」

 

 アダムの言葉を聞きながら三人の前で目を閉じた海斗は数秒間、ゆっくりと呼吸を整え

 

「……どういうつもりかな、それは?」

 

「見たままだよ」

 

 銃口を向けてきた海斗へ笑みを崩さずアダムは訊く。

 

「確かにあんたの言う通りだ。この人たちは兄さんの死んだあの場にいた。この人たちの行動次第では兄さんは死ななかったかもしれない」

 

「だったら……」

 

「でも、だからと言って兄さんの死んだ原因がこの人たちにあるなんて、僕は思わない」

 

 言いかけたアダムの言葉を遮って海斗は言う。

 

「あの日あの場所で兄さんが死んだのは兄さんの選択の結果だ。そのことでこの人たちを恨むつもりは毛頭ない」

 

「なるほど。では何故こうなる?何故僕は向けられているのかな、君から銃口を?」

 

「それはな、あんたが兄さんにかこつけてただ自分の欲望を満たしたいだけの、僕の敵だからだ」

 

 納得したように頷きつつ訊いてきたアダムの問いに海斗は答える。

 

「あんたはさっきから言ってたよな、僕が兄さんの遺志を継いで英雄になるんだって」

 

「ああ、言ったね。そうだろ?君のお兄さん、井口颯太の遺志を継げるのは彼の弟である君を置いて他に――」

 

「そこが間違ってるんだよ」

 

 アダムの言葉を遮って海斗が言う。

 

「あんたたちはいつだって口をそろえて言う。やれ兄さんの遺志を継いで、だの、兄さんの思い残したことをする、だのって……馬鹿らしい。兄さんの行動に継ぐべき遺志なんてない。兄さんは僕に託すような思い残しなんてない。兄さんは英雄なんかじゃない。魔王なんかじゃない。ただの平凡な一人の人間だ。兄さんはただ、自分の周りの人たちが傷つくのが嫌だっただけだ。自分の周りで誰かが泣いてるのが我慢ならなかっただけだ。そこに思想だなんだと御大層な考えなんてない。ただ兄さんは気に食わなかっただけだ」

 

 海斗はアダムを睨みつけるように目を細める。

 

「それを、あんたたちは兄さんのことを何も知らないくせに勝手なことを言うんじゃないよ!暴れたきゃ自分の理由で暴れろ。世界を変えたきゃ自分の意志で行動しろ。兄さんを言い訳にするのはやめろ!」

 

「なるほど。つまり……?」

 

「僕は英雄になんてならない。ありもしない兄さんの遺志なんて継がない。テロをすることに他人を言い訳にするやつには、絶対に協力しない」

 

「そうか……」

 

 海斗の言葉に考え込むそぶりを見せたアダムは

 

「残念だよ、非常にね。君にはなってほしかったのに、自分の意思で仲間に。でも、仕方がない、こうなったら」

 

 残念そうにため息をついたアダムはゆっくりと懐に手を入れ。

 

「必要ないのさ、君の意思は。なってもらうよ、僕たちの傀儡に」

 

 海斗に渡したものと同じ拳銃を取り出し、海斗に向ける。

 それを見た海斗が息をのみ、三人が顔を強張らせる。

 

「局長、これでは計画と違う!彼とは話し合いで決着をつけるはず!」

 

「変わったのさ、計画が。話し合っても無駄だ、彼は一筋縄ではいかなそうだからね。無理やりにでも協力して貰おう」

 

 銃を構えるアダムにサンジェルマンが言うがアダムは飄々とした雰囲気のまま答える。

 その答えにはサンジェルマンだけでなくカリオストロとプレラーティも苦渋の表情を浮かべる。

 

「あんたと僕、どっちの銃が速いかな?」

 

「銃は同じものなら、ものを言うのは技術力と覚悟だ」

 

 海斗の言葉にアダムが言う。

 

「この状況で僕に銃を向ける精神力は褒めてあげよう。でも、君にはできるのかな?人間を撃つということが」

 

「っ!」

 

 アダムの指摘に海斗が息をのむ。

 

「いざとなったら撃てるだろう。でも、一瞬できるはずだ、致命的な躊躇いが」

 

 アダムの言葉に海斗は言い返せず唇を噛む。

 

「手荒な真似はしない、今ならまだね。銃を下ろすんだ、ゆっくりと」

 

 アダムはいまだ飄々とした雰囲気のまま言う、が、海斗は拳銃を下ろさない。しかし、その銃口は少し揺れ、彼の恐怖を滲ませていた。

 

「残念だよ、井口海斗君。できれば君は手に入れたかったよ、無傷でね」

 

 そう言ってアダムは拳銃を構え、引き金に指をかけ――

 

 バァン!!

 

 部屋に銃声が響いた。

 

「くぅっ!?」

 

 が、うめき声を漏らしたのはアダムだった。

 アダムは手から弾き飛ばされた拳銃を見ながら拳銃を握っていた右手を庇い、銃弾の飛んできた方向を睨む。

 海斗やシャルロットたち三人、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロも同じように銃声の聞こえた方向を見る。

 そこには――

 

「やれやれ、さすがにそれは見過ごせねぇぜ、アダム・ヴァイスハウプト」

 

 一丁のリボルバーを構えた未来が立っていた。

 リボルバーの銃口からはうっすらと煙が見えることから、先ほどアダムの手の拳銃を撃ったのは彼女だと思われる。

 

「悪いがお前らの計画は潰させてもらうぜ、パヴァリア光明結社」

 

 そう言って未来はリボルバーを構たままニヤリと不敵に笑ったのだった。

 




放たれた銃弾の出所は無害と思われていた未来だった!?
果たして彼女の行動の理由とは!?
ちなみに彼女が撃ったリボルバーは「S&W M19 コンバット・マグナム」です。


さてさて、今回の質問コーナーのお時間ですが……
~前回の出来事~
謎の乱入者が現れた。
と、言うわけで――



お、お前は……!?
僕は書いてるもう一つの作品、「IS~無い物だらけの物語~」の主人公、梨野航平!?

航平「その通り!ちゃんと覚えていたみたいだな!」

なんでここに?
こっち平凡な俺の非日常だよ?出る方違えた?

航平「ちっげ~よ!お前が最近全然無い物の方を更新しないから文句言いに来たんだろうが!質問コーナーにも来てただろ!?針金はやてさんから『無いものだらけはいつ更新しますか?』って!」

あぁ~それは……

航平「こっちは二年近く待たされてんだぞ!いい加減無い物も更新しろよ!」

いや、ホントに申し訳ない。
できるだけすぐにそっちも書くから。

航平「ホントに~?全然信用できんのだが?」

ホントだって!

航平「嘘だったらぶっ飛ばすからな?」

ら、らじゃー!
そんなわけで読者の皆さん!
ちゃんと無い物の方も更新するようにしますんでそっちもよろしくお願いします!



それではまた次回!
4月に入るとちょっと忙しくなるので少し間が空くかもしれませんが、必ずどっちかを更新しますんで、お楽しみに!
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