IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第24話 黄色の雷鳴と漆黒の雨

「お待たせー」

 

「おう、遅かったな」

 

 シャルルが転校してきてから五日が経った土曜日。

 IS学園は土曜だろうが平気で学校がある。まあ授業自体は午前中の理論学習だけで、午後からは完全に自由。土曜日はアリーナが全開放されるためほとんどの生徒が実習に使うので、俺たちもこうしてアリーナを使用しているわけだ。が、いつもなら初めから一緒に練習しているところを、今日は俺は少し遅れてきた。

 

「新装備のインストールは済んだの?」

 

「おう。だから今から性能実験だ」

 

 シャルルの問いに俺は頷く。

 

「やあ、アリーナの先生に許可取ってきたよ」

 

 そうしているうちに貴生川さんと師匠、簪がやって来た。

 新装備のインストールを師匠と簪には手伝ってもらった。ふたりともISを自分で組み上げているだけあってとても助かった。

 

「許可って何の許可なんですの?」

 

 セシリアが訊く。

 

「『火焔』の新装備を試すのに場所を空けてもらう許可」

 

「許可が必要なほどの規模なの?」

 

「まあな。俺の専用機初の射撃装備だからな」

 

 鈴の疑問に俺は頷きながら答える。

 ちなみに今この場には俺と一夏、シャルルの他にはセシリア、鈴、篠ノ之、そして師匠と簪と貴生川さんがいる。

 俺の装備の話になったことで皆俺の周りにいるが、その集まりの一番外側で微妙な顔して俺を見つめる人物がいた。篠ノ之である。

 先日の襲撃者騒動の時危うく死にかけた篠ノ之を叩いて説教したことで篠ノ之にどうやら嫌われたようだ。一緒に特訓していても、話しかけても妙に距離を置かれるし、《火人》を使う関係で剣術について質問するのだが、あの一件以降からそれも大分よそよそしい。前はもう少し積極的に教えてくれたのに。

 ちなみに、俺が関係しているかはわからないが篠ノ之と一夏の関係もなぜかぎくしゃくしている。

 まあそれは置いておいて、そんなわけで篠ノ之には多分嫌われたのだろうが、それはしょうがないと受け止めるしかないだろう。なんにしても、女子から嫌われるというのは誰からであれ、精神的にきついものがある。

 

「どうしたの、颯太?」

 

「いや、なんでもない」

 

 シャルルが俺に訊くが、俺は首を振る。

 

「さて、ぱぱっとやって早めに終わらせますか。アリーナはみんな使いたいだろうし」

 

「そうだね」

 

 俺の言葉に頷いた貴生川さんは投影ディスプレイを出し、キーボードで操作する。

 

「それじゃあ始めようか。『火焔』を展開してくれるかい?」

 

「はい」

 

 貴生川さんの言葉に頷きながら、頭の中で『火焔』を呼ぶ。一瞬の浮遊感とともに体が軽くなる。

 今の俺は両肩に《火打羽》を装備し、左腰には鞘に収まったままの《火人》、両手の甲には《火ノ輪》がついている。最近は基本的に『火焔』を展開すればこの状態だ。

 

「こうしてみると……なんというかすごいな。うまく言葉にできないけど、とりあえずかっこいいと思うぜ」

 

「だろ?」

 

 一夏の言葉に笑う。

 

「さて、それじゃあ新装備《火神鳴(ひかみなり)》を展開してみようか」

 

「はい」

 

 俺が頷くと同時に師匠と簪が他のみんなを少し遠ざける。この《火神鳴》、そこそこ規模がでかいのである程度離れておいてほしいのだ。

 

「《火神鳴》!」

 

 まだ慣れていないのでコールしないとまだ展開できない。

 俺のコールによって背中に新たな重みが加わる。粒子が集まり黄色い塊が形成される。

 

「これが……」

 

「颯太の新装備……」

 

「でかい……手?」

 

 一夏の言葉が一番しっくりきたのだろう。その場の全員が頷いた。

 俺の背中には大きな黄色の手が二本付いている。長さで言えば俺の腕の倍はある。太さも四倍はありそうだ。前方には四本の指。それが背中側から、《火打羽》の下を通っている。下へはアーム、上へは二つの四角い砲門。

 

「問題なく使えるかい?」

 

「えっと……」

 

 試しに右側のアームを上にゆっくりと動かすイメージ。ゆっくりとした動きで上へと上がる。

 今度は左側のアームを上げるイメージ。それと同時に左アームが上に。

 

「問題なさそうだね」

 

「そうですね」

 

 頷きながら今度は地面にアームを地面に着き胡坐をかく。アームはどっしりと地面に立ち、俺の体を支える。

 

「おお、こんなこともできるのか」

 

 感心しながら足を地面に戻し、アームを地面から離す。

 

「鈴、掛け声頼む。右上げて、とか、左上げてって、旗上げゲームみたく頼む」

 

「う、うん」

 

 鈴が頷く。

 

「右上げて」

 

 鈴の言葉とともに《火神鳴》の右アームが俺の命令に応じてすばやく上がる。

 

「左上げて」

 

 今度は左がすばやく上がる。

 

「右下げないでー、左下げる」

 

 左のみが下がる。

 

「右下げないで~左あーげない」

 

 どっちのアームも動かさない。

 

『おお~』

 

 その場の全員がそれを見て拍手する。篠ノ之も感心している。

 

「うまく動きそうだね」

 

 貴生川さんが嬉しそうに笑う。

 

「それじゃあ次の性能テストいってみようか」

 

「はい」

 

 俺が頷くと、貴生川さんがキーボードを操作する。それと同時に十五メートルほど前方に四つのターゲットサークルが出現した。

 

「あれを的に撃ってみようか」

 

「はい」

 

 頷いてターゲットの方に向き直る。

 

「それの射撃装備って上の二つの砲門ですか?」

 

「それもそうだよ。でも、それだけじゃない」

 

 シャルルの質問に貴生川さんが楽しそうに答える。

 

「それだけじゃって……」

 

「まあ見ていればわかるよ。颯太君、さっそく撃ってみよう」

 

「はい」

 

『アリーナ内の人に連絡します。これより一年一組井口颯太君のISの新装備の性能テストを行います。少し離れていてください』

 

 俺が頷き、貴生川さんがアリーナ内のスピーカーに繋がれたマイクで放送する。みな指示に従って俺の背後に回る。射線上からもアリーナ内の全員が離れる。放送したから周りからの視線を集めて正直むず痒い。

 

「よし、準備完了だ。いってみようか、颯太君」

 

「はい」

 

 貴生川さんの言葉に頷き、俺は射撃体勢に入る。足を肩幅に開き、アームを《火打羽》の下から出し、アームの指を開く。イメージ的に言えばUFOキャッチャーのアームがものを取るために開くイメージだ。

 

「カウント5で行くよ。5,4,3――」

 

 貴生川さんのカウントを聞きながらターゲットを見つめ、その瞬間を待つ。

 

「――2,1…発射!」

 

「テー!!」

 

 掛け声とともに発射。両肩の二つの砲門から、そしてアームの両方の先から黄色い閃光とともにターゲットへと向かって行く。

 

 ズドドン!

 

 ターゲットサークルに当たると同時に爆発、衝撃による風が俺たちのいるところまでやってくる。

 

「うーむ、真ん中二つは狙いやすかったけど、やっぱアームが鬼門だな」

 

 ターゲットがこちらにやって来て、結果を見る。真ん中二つは肩の上の砲門二つで狙った結果、真ん中近くに被弾していた。が、アームで狙った外側二つは真ん中から逸れて円の一番外側のサークルに当たっている。

 

『……………』

 

 みな呆気にとられたように口を開いて見ている。

 

「でも、初めてでここまでの精度はなかなかだと思うよ」

 

「そうですかね」

 

 投影ディスプレイに表示されたデータを見ながらターゲットを見る。

 

「射撃精度の前に……今の何!?」

 

 鈴が呆気にとられた顔で訊く。

 

「何って……荷電粒子砲」

 

「出力がわたくしの上でしたわよ!?」

 

「いやいや両肩のやつはセシリアの《スターライトmkⅢ》より低いぜ」

 

「アームの方は?」

 

「セシリアより上」

 

「…………」

 

 セシリアが唖然としてる。

 

「お前の装備ってホントとんでもないの多いな」

 

「とんでもないって言うけど、まだまだ試作品ばっかりなんだけどね」

 

 貴生川さんが苦笑いを浮かべる。

 

「彼の装備でちゃんと完成してるのは《火人》と《火打羽》くらいだよ。《火ノ輪》とこの《火神鳴》はまだ試作段階だからね」

 

「これで試作段階って……いったいどこを目指してるのよ」

 

 師匠も苦笑い気味だ。

 

「《火ノ輪》は本当ならオルコットさんのブルー・ティアーズみたいに自由自在に操作できることが目標なんだけど、せいぜい射出して手元に戻ってくるのが限界だから。《火神鳴》もまだまだ出力が安定しないんだ。今と同じレベルの射撃を連続ではできないね。出力抑えないと」

 

 貴生川さんは画面のデータを睨みながら難しい顔をしている。

 

「やっぱり第三世代兵器は難しいよ」

 

 貴生川さんは頭をがりがりと掻きながら笑う。

 

「そういえば、颯太の装備ってもう一つあるんじゃ……」

 

 簪がふとつぶやく。

 

「あー、あれもなかなか調整が難しくてね。開発部でも苦労してるよ。お披露目はまだまだ先になりそうだよ」

 

「それも含めて第三世代相当の兵器っていくつあるんですの?」

 

「第三世代は『操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代』なんだけど、彼の装備では《火ノ輪》、《火神鳴》、そしてまだ調整中のもう一つの計三つがそれだね。この中で颯太君の使用でうまくデータとれて、一番いい出来になったものをうちの押し出す第三世代機のメイン装備にしようと思ってるんだ」

 

「ここまで来ると最後のひとつがすごく気になってくるな」

 

 篠ノ之も興味を持ったようだ。

 

「颯太はどんなものか知ってるのか?」

 

 一夏の問いに頷く。

 

「資料としてしか知らないけどな」

 

 資料で見た限り完成形がすごかった。あんなものマジで作れるのだろうか。

 

「まあできてからのお楽しみってことで」

 

 貴生川さんは楽しそうにニヤッと笑った。

 

「とりあえず今日のところはこんなものですかね?」

 

 投影ディスプレイの画面を見ながら俺は貴生川さんに訊く。

 

「そうだね。これから《火神鳴》のデータ収集もよろしくね」

 

「はい」

 

 投影ディスプレイを消し、

 

『これにて装備の性能テストは終了です。ご協力ありがとうございました』

 

 アリーナへと放送をし、みな各自の練習に戻っていく。

 

「お二人もありがとう」

 

「いえいえ。なんせ颯太君の師匠ですから」

 

「これくらいどうってことないです……」

 

 師匠と簪が笑顔で頷く。

 

「ますます強くなるな、颯太は」

 

 一夏が苦笑い気味に言う。

 

「性能だけはな。これを使いこなせるようにならないとな」

 

 しかもいくつかは未完成品だからな。

 

「シャルル。射撃のこと教えてくれよ。シャルル射撃上手いだろ?」

 

「うん、もちろんだよ」

 

 笑顔で頷くシャルル。ああー、いい奴だー。これ以上ないっていうくらいいい奴だー。その分時々よそよそしくなるのが気になるけど。

 と、そんな話をしていたところ

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

 急にアリーナ内がざわつき始めたので、俺たちはその声の主たちの見つめる方を見る。

 

「………………」

 

 そこにいたのは真っ黒な機体に身を包んだドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「おい、織斑一夏」

 

 ISのオープン・チャネルで声が飛んでくる。もちろんその声はラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

「……なんだよ」

 

 いやいやそうに一夏が答える。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

 冷たい視線で見下ろすボーデヴィッヒ。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 

「…………」

 

 ボーデヴィッヒの言葉は俺たちには理解できないが、一夏は思い当たることがあるらしく、無言でボーデヴィッヒを見ている。

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 言うや否や、ボーデヴィッヒさんの漆黒のISが戦闘状態へシフトし、その瞬間、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。

 

「「「!」」」

 

  ゴガギンッ!

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

「貴様等……」

 

 シャルルが一夏を庇うようにシールドを展開して実弾を弾き、それと同時にシャルルの右腕に六一口径アサルトカノン《ガルム》を展開してボーデヴィッヒに向ける。

 師匠は貴生川さんと簪を庇うように師匠の専用機『ミステリアス・レイディ』を展開している。

 俺は俺で近くにいたセシリアと鈴と篠ノ之を《火打羽》で包むように庇い、同時に《火神鳴》の四つの砲門をボーデヴィッヒに向ける。

 

「フランスの第二世代型と日本の半端物ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型よりは動けるだろうからね」

 

 俺とシャルルと一夏に対してボーデヴィッヒという形で睨み合う。

 

『そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 睨み合いの膠着状態が続く中、突然アリーナにスピーカーからの声が響いた。さっきの騒ぎを聞いて駆けつけた担当の教師だろう。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

 言葉とともにボーデヴィッヒは戦闘体勢を解いてアリーナゲートへ去っていく。

 

「一夏、大丈夫?怪我とかなかった?」

 

「あ、ああ。助かったよ」

 

「お前らも大丈夫だったか?」

 

「え、ええ」

 

「庇われなくても自分で何とかできたわよ」

 

「………」

 

 素直に頷くセシリアと強がる鈴、無言の篠ノ之。篠ノ之は前のことを思い出したのか微妙な顔をしている。

 

「簪や貴生川さんは……大丈夫に決まってますね」

 

「もちよ」

 

「うん」

 

「君の師匠さんのおかげで」

 

 ドヤ顔の師匠、頷く簪と笑っている貴生川さん。どうやら全員無事だったようだ。

 

「今日はここまでにしておこう。今の騒ぎでみんなこっち見てるし」

 

「そうだね。それに四時を過ぎたし、どのみちもうアリーナの閉館時間だしね」

 

 俺の言葉にシャルルが頷きながら言い、全員が頷く。

 

「えっと……じゃあ、先に着替えて戻ってて」

 

 いつものセリフだ。なぜだかシャルルは俺たちと着替えたがらない。それに対していつも一夏も

 

「どうしてシャルルは俺たちと着替えたがらないんだ?」

 

「どうしてって……その、は、恥ずかしいから……」

 

 この感じのやりとりは毎度だ。

 

「慣れれば大丈夫。さあ、一緒に着替えようぜ」

 

「いや、えっと、えーと……」

 

 視線を泳がせているシャルル。

 

「なあ、シャル――」

 

「はい、そこまで」

 

「はいはい、アンタはさっさと着替えに行きなさい」

 

 俺と鈴に両脇から抱えられ、一夏を引きずって行く。

 

「で、でも……」

 

「引き際を知らないやつは友達なくすわよ」

 

「親しき中にもってやつだよ、織斑君」

 

 まだまだ食い下がる一夏に鈴と貴生川さんの言葉が効いたのか黙る。

 

「こ、コホン!……い、一夏さん。どうしても誰かと着替えたいのでしたら、そうですわね。気が進みませんが仕方がありません。わ、わたくしが一緒に着替えて差し上げ――」

 

「こっちも着替えに行くぞ。セシリア、早く来い」

 

「ほ、箒さん!首根っこを掴むのはやめ――わ、わかりました!すぐ行きましょう!ええ!ちゃんと女子更衣室で着替えますから!」

 

 セシリアはセシリアで箒に引き摺られていく。そういえばイチカスキーな人たちはお互いを名前で呼び合うようになったようだ。同じ人を好きになったもの同士変な結束ができたようだ。

 

「じゃあ、師匠、簪。更衣室行くから今日はここで」

 

「ええ。《火神鳴》用の特訓考えておくわ」

 

「それじゃあまた」

 

「今日はありがとうございました。じゃあシャルル、先着替えてるから」

 

 ふたりに手を振りつつシャルルに言う。

 

「う、うん。僕もすぐ行くから」

 

 頷いたシャルルを確認しつつ鈴と交代した貴生川さんとともに一夏を引きずって更衣室に向かう。

 

「なあ、シャルルってなんで俺らと着替えたがらないんだろうな。他ではいい奴なのに」

 

 更衣室で着替えつつ一夏が呟く。

 

「なんか理由があるんだろう。人のいいシャルルが嫌がるんだから相当な理由が」

 

 俺も着替えつつ答える。

 

「例えば、背中とかに大きな傷とかあって人に見せたくないとかさ」

 

「……その可能性を考えてなかった」

 

 一夏が唖然とする。

 

「お前いろいろ考えてるんだな」

 

「逆にあそこまで嫌がるんだからなんか理由があるって考えるだろ」

 

 汗を拭きつつ着替える。

 

「ふう」

 

 着替え終わってから近くにあったベンチに座る。

 

「まあそんなわけだから、これからはもうちょっと考えた方がいいぞ」

 

「颯太君の予想があってるかはわからないけど、あれだけ嫌がるんだったらそれなりの理由だろうからね」

 

「そっか……これからは気を付けないとな」

 

 俺と貴生川さんの言葉に納得したように頷く一夏。

 

「あの、織斑君と井口君とデュノア君いますかー?」

 

 と、そこに山田先生の声が響く。

 

「はい、デュノア以外はいますよ」

 

「着替え中とかではないですかー?」

 

「はい。俺も一夏も着替え終わってます」

 

「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」

 

 ドアが開いて山田先生が入ってくる。

 

「デュノア君は一緒ではないんですか?」

 

「まだアリーナにいますよ。やることがあるらしくて。呼んで来ましょうか?」

 

「いえ、それほど大事な話ではないですから、お二人から伝えてください。実は、今月下旬から大浴場が使えるようになります。時間帯を別にすると問題が起きそうだったので、男子は週に二日の使用日を設けました」

 

「本当ですか!」

 

「やっとですか」

 

 長かった。ずっとシャワーばかりだったから嬉しい。

 

「大浴場使えてなかったんだね」

 

「ええ。使用時間の兼ね合いでいろいろ大変だったらしいです」

 

「いや~助かります。ありがとうございます、山田先生」

 

「い、いえ、仕事ですから……」

 

 感激して山田先生の手を取って喜ぶ一夏。

 

「一夏は何やってるの?」

 

 そこに戻ってきたシャルルが首を傾げる。

 

「おう、シャルル。実は男子の大浴場の使用が今月下旬から解禁だってさ。それを一夏が山田先生の手を握ってしまうほど喜んでるのさ」

 

 俺が言葉にすることで現状を自覚したようで、慌てて二人は手を放す。

 

「なんというか、ほどほどにね」

 

 シャルルも苦笑いだ。

 

「あ、それでですね、井口君と織斑君には他にも用事があるんですよ。ちょっと二人には書いてほしい書類がありまして井口君の方の書類は今回の新装備に関するものなので貴生川さんにも一緒に来てくださると助かるんですが」

 

「俺もですか。わかりました」

 

「わかりました」

 

「了解です。――シャルル、そういう訳だから先にシャワー使ってていいから」

 

「うん。わかった」

 

「じゃあ行きましょうか、山田先生」

 

 

 

 ○

 

 

「終わった終わった~」

 

 書類自体の量は思ったよりもなく、またほとんどが名前を書く程度のものだったので簡単に済んだ。一夏はもう少しかかるようで先に寮に戻ってきた。貴生川さんはそのまま別れ、会社に戻った。

 

「ただいまー。って、あり?シャルルは……」

 

 と、思ったのだが、よく聞くとシャワーの音が聞こえるので、まだシャワー中のようだ。

 俺は制服からジャージに着替え――ようとしたところでいつも羽織っている上着がないことに気付く。

 

「あれ?どこやったっけ…………あっ」

 

 そういえば昨日シャワー浴びた時にシャワー上がりで暑かったから着なかったことを思い出す。

 汗は先ほど着替える時にしっかりと拭いたのだが、体が少し冷えて来たので半袖半ズボンでは少し肌寒い。これは取りに行った方がいいだろう。

 

「WAWAWA忘れ物~♪」

 

 鼻歌まじりに洗面所の扉を開ける。

 

 ガチャ。

 

(ガチャ?)

 

 おかしいな今開けたはずなのにそのあともう一度扉を開けた音が。って、ああ。シャルルがシャワーから上がったのかな?

 

「ああ、悪いなシャルル。ちょっと忘れ物が――」

 

 扉を開けた態勢で俺はフリーズしてしまった。なぜかって?それは

 

「そ、そ、そう……た……?」

 

 シャワールームから出てきたのが、見ず知らずの全裸ブロンド美少女だったからだ。




きゃあ、颯太さんのエッチー

というわけで颯太君が遭遇してしまいました。
次回もお楽しみに~。

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