突如ハヤテ――颯太の前に現れ衝撃の一言を放った海斗。
果たして何故彼はその答えに至ったのか?
海斗君の謎解きが始まります。
追記:前回のお話の最後、海斗とともに来たメンバーにセレナを入れ忘れていたので修正しました。
「久しぶり、〝兄さん〟」
突如僕の前に現れた海斗の一言に詳しく話を聞いていなかったであろう五人の少女たちは言葉を失い息をのみ状況を見守る。
六人分の視線を受けた僕は静かに閉じていた目を開け、口を開く。
僕の言葉を固唾を飲んで待つ五人とどこか余裕のある海斗に対して、僕の第一声は――
「……あんだって?とんでもねぇあたしゃ〝社長さん〟だよ」
耳の遠い老人の真似をしつつ答えた。
「志村けんかよ……まあ正直に認めるとは思ってなかったけど」
そんな僕の受け答えに海斗は肩をすくめる。
「認めるも何も、事実とは違うしね」
「まあそう言うと思ったよ」
「と言うか、君、今日は月曜だろ?学校は?」
笑って言う海斗にハヤテが訊く。
「昨日あんなことがあったからね。流石に療養ってことで一日休む許可は出てるんだ」
「なら療養しろよ。ばれたら怖~い先生たちに怒られるぜ?」
「織斑先生のことかな?それなら大丈夫、ちゃんと兄さんに会いに行くって言ってあるから」
「……よくそれで許可が下りたな」
「墓参りに行くって思われたんじゃない?ちょうどオフだった奏さんと翼先輩、セレナ先輩、マリアさん、僕と同じく療養で休む許可の下りてたクリス先輩が護衛についてくれたのも大きかったろうね」
「なるほど」
「それはそうと話は戻して、あなたが兄さんだって話だけど――」
「いやいやいや!ちょっと待てよ!」
と、そこに待ったをかけた人物がいた。待ったの声を上げたのはクリス、そして、他の四人も同じように真剣な表情で海斗を見ていた。
「和やかに話してるけど、お前、いつからそんなこと!」
「確信を持ったのは最近だけど、結構序盤から違和感はありましたよ」
クリスの問いに何でもないことのように海斗は答え
「ていうか、その様子だとやっぱり五人は知ってたんですね」
「「「「「っ!?」」」」」
海斗の言葉に五人は息をのみ
「い、いやぁ~?」
「な、何のことだか……」
「さっぱり……」
「わからないですね……ね?」
「あ、ああ……」
「ふむ……」
素知らぬ様子で答える五人に対して海斗は少し考えるように顎に手を当て
「まああくまでしらを切るならそれもいいでしょう。それならそれで――」
言いながらニッと笑い
「しらを切れないように退路をなくしていくだけですから」
そう朗らかに言うのだった。
〇
「さっきも言ったように僕は結構序盤から違和感を覚えてました」
六人に対して海斗は冷静に言い始める。
「ハヤテさんの挙動や喋り方とかになんとなく覚えがあるというか、懐かしい感じとかね……」
「で、でも、そんな違和感なんて……」
「たぶんマリアさんや、それこそセレナさんでも感じると思いますよ」
マリアの言葉に海斗は返す。
「たとえ、顔が変わっていても、声が変わっていても、大事な兄弟のことなら気付くと思いますよ」
「「それは……」」
海斗の言葉にマリアとセレナは言い淀む。
「話を戻しましょう」
気を取り直して海斗が言う。
「最初は自分の中の違和感の正体には気付かなかった。でも、僕の中でいくつかの点と点に気付いて行くうちにそれらの点が違和感とともに繋がって一つの線で繋がったんですよ」
「点と点?」
海斗の言葉に奏が首を傾げる。
「まず最初に気付いたことは、ハヤテさんの所属です」
「へぇ?僕の所属?」
海斗の言葉にハヤテが訊く。
「アナタは僕の前に現れ、テロリストから救い出した。しかも、あなたの仲間と一緒にね。その仲間たちは随分と物騒な人たちのようだった。最初は僕を攫ったのとは別のテロリストか何かかと思った。でも、そのことが問題にされる様子もなかったし、ハヤテさんも普通に治療を受けているようだった。国連下部組織である『S.O.N.G』の息のかかってる病院でね」
言いながら海斗はハヤテを指さす。
「その時点で、ハヤテさんの所属は恐らく国連、それも『S.O.N.G』に近い位置にいるんじゃないかって思いました」
「なるほど……」
ハヤテは海斗の言葉に頷き先を促す。
「次に気付いたのは、ハヤテさんの左足が義足だということです」
海斗は言いながらハヤテの左足をちらりと見ながら右手でピースサインをして「2」を示す。
「ハヤテさんは僕を助けに来た時、テロリストの一人に左足を刺された。でも、その傷口からは確かに血は出ていましたし、刺された時は痛がる素振りを見せていたけど、テロリストたちが席を外した瞬間、あなたは痛がる素振りをやめた。さらにはまるで初めから怪我なんてしていなかったように動いて見せた。その時点で本当に怪我はしていなくて、痛がっていたのも演技だったんじゃないかって思った」
「だ、だが、演技だったらバレるかもしれない。そんなリスクを……」
「ええ、ですから、痛みに悶えてるのは本当だったんですよ」
翼の問いに海斗は頷く。
「あの時、ハヤテさんは手の小指を怪我していた。てっきり椅子からの脱出の時に折ったのかと思ったけど、恐らくそれは刺された瞬間に自分で折ったんだ。骨折の痛みを刺された痛みの演技のリアリティのために利用するために」
「「「「「っ!」」」」」
五人は息をのむ。それは確かに以前ハヤテ本人から事件の顛末として聞いていたことだったからだ。
「あとは、あの廃屋から逃げるときには普通に歩けてたのにその夜に病院で会ったときには左足を庇っていました。恐らくその時にはそれまで使っていた高性能な義足から別のものにしてたんじゃない?」
「あの時は庇ってるように見えないように気を使ったんだけどよく気付いたな」
「細かいことが気になるのが僕の悪い癖」
ハヤテは感心したように言い、それに対しておどけるように海斗は言う。
「次に、今度はハヤテさんのことではなく、〝兄さん〟のことです」
気を取り直したように一つ咳払いをしたかいとは続ける。。
「昨日僕の前に現れた〝兄さん〟は確かに本物の兄さんでした。兄さんでしか知りえないであろう、あのHDDのパスワードについて言った。そのパスワードについては誰にもいったことが無いのにです」
「パスワードについてって、あの『好きなお話』ってやつか」
奏が思い出したように言う。
「ええ。兄さんって結構日本史が好きだったんですよ。特にその中でも好きだったのが『忠臣蔵』です」
奏の言葉に頷きながら海斗は言う。
「『忠臣蔵』っていうのは要は敵討ちのお話です。兄さんの起こしたあの事件も突き詰めれば敵討ち」
「と言うことはあのパスワードはその討ち入りのあった日付と言うことか……」
「いえ、と見せかけて討ち入りをした赤穂浪士たちの切腹の日です。『忠臣蔵』のお話の中でも事件後に赤穂浪士たちが切腹するまでに期間が空いた点などが、その当時の幕府の対応や他藩の赤穂浪士たちへの待遇なんかもあって、兄さん的には面白かったみたいですよ」
翼の言葉を否定しながら海斗が解説する。
「では、本物の兄さんなのであれば、何故稀代のテロリストである井口颯太と『S.O.N.G』は協力したのか?いくら弦十郎さんが柔軟な思考力を持っているとは言っても後で確実に問題になる。協力した先輩達や響達にもリスクを負わせることになる。そんなことを弦十郎さんがするはずはない」
言いながら海斗は右手をクルクルと回しながら演説するように言う。
そして、すっとその右手の人差し指を伸ばしちょいと振る。
「でも、兄さんがテロリストとしてではなく、『S.O.N.G』と同じ扱いだったら、そう言った面倒極まりないしがらみはなくなるわけです」
ニッと笑いながら海斗は六人に視線を巡らせ
「つまり、生きて身を隠していた兄さんは今は国連の所属。しかも『S.O.N.G』と近しい位置に所属しているってわけです」
「なるほど。その読みは確かに面白い」
海斗の言葉にハヤテが頷く。
「でも、お兄さんとハヤテさんの所属が同じ国連だと気付いたからと言って、イコール同一人物って言うのは、少し無理があるんじゃ……」
「確かにセレナ先輩の言う通りです。いくら『国連所属の朽葉ハヤテ』という点と『国連所属の兄さん』という点、『ともに左足がない』という点が繋がりそうでも、その点と点を繋ぐには遠すぎる」
セレナの言葉に海斗が頷く。
「でも、そこで僕はもう一つの点の存在を思い出したんですよ」
「もう一つの……」
「点…だと?」
奏とクリスが海斗の言葉に首を傾げる。
「先週の日曜日、クリス先輩と一緒に出掛ける場に、僕ら遭遇しましたよね?」
「あぁ、クリスのインターンで僕の依頼に一緒に連れて行ったアレな」
海斗の言葉にハヤテが頷く。
「あの時、ハヤテさんは自分を叩いたクリス先輩に対してこう言いました、『おっとろしゃー』って」
「っ!」
「あ……」
「「「「おっとろしゃー?」」」」
海斗の言葉にハヤテはあぁ…と自身の失態に気付いたようにため息をつき、クリスは何かに気付いたように声を漏らし、他の四人はその言葉の意味が分からず首を傾げる。
「『おっとろしゃー』って言うのは京都の北部、それも一部の地域だけで使われてる丹後弁っていう方言なんです。意味は…まあ『怖い』とか『恐ろしい』って感じですかね」
海斗はわからない四人に解説をするように言う。
「京都の北部の一部地域だけ……」
「それって……」
「ええ。僕の故郷も含まれています」
奏と翼の言葉に頷く海斗。
「でも、その方言はいまどき使ってる人は少ないです。せいぜいお年寄りくらいですね。今でも使ってる若者がいたら、きっと身内で使ってる人がいて聞きなれてる人くらいでしょうね」
言いながら肩をすくめた海斗は
「もちろん、そのことを知っていることからわかる通り、僕の祖父母も使っていました。僕や兄さんも時々茶化していうときに口を突いて出てくることがあります。半分無意識でですけど。たぶんクリス先輩は五年前に兄さんと行動を共にしていた当時、もう既にその言葉を聞いていた。だからあの時も特に困惑した様子がなかったんですよね?」
「それは……」
「京都のごく一部でのみ使われている方言を使っている。と言うことは――」
言いながら海斗はハヤテへと視線を向ける。
「ハヤテさん、あなた、僕と同じ出身ですね?」
「「「「「っ!?」」」」」
「……………」
海斗の問いに五人が息を飲み、ハヤテは口を噤む。
「『ハヤテさんが国連所属である』という点、『兄さんが現在国連に所属している』という点、『二人とも左足がない』という点、『同じ出身地』という点。これで四つ……まだ必要ですか?」
「……………」
海斗の問いにハヤテは考えるそぶりを見せ
「あぁ、クソ」
顔を覆いながら悪態をつき、そのまま髪をかき上げたハヤテは
「だぁめだ、否定する言い訳が見つからねぇ」
「おい!お前、そんな簡単に!?」
ハヤテの言葉にクリスが叱咤するように叫ぶ。
「だって、もう決定的だろ?」
「と言うことは認めるんだね、自分が『井口颯太』だって?」
クリスに向けて言うハヤテに海斗が問う。
「ああ、認めるよ。僕は……いや、俺はお前の兄、井口そ――」
頷きながら白状したハヤテ――颯太の言葉は
「こぉんのバカチンがぁぁぁぁ!!!」
「ぶべっ!?」
全力で振るわれた海斗の拳によって遮られた。
「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」」」」」
その情景に霊園に五人の少女たちの驚愕の声が響いたのだった。