IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第232話 怒涛の2日間が空けて……

 明けて火曜日。

 テロリストに誘拐されたり、死んだと思っていた兄が生きてたり、4年と言う時間を経て初恋相手の真実を知ってしまったり、親しい友達や先輩たちが実は兄の生存を知っていたり、5年ぶりの兄がとんでもないクズになっていたり……とにかく濃い二日間を経験した僕はIS学園に登校していた。

 教室の自分の席に腰掛け頬杖をつきながら考える。

 とりあえず兄が生きていたことは嬉しいし、昨日僕がずっとため込んでいた思いは全部ぶつけたししこたま殴っておいたのでとりあえず気持ちの整理はついている。ただ、気持ちの整理がつくと今度は余計な心配が出てくる。――そう、クリス先輩のことだ。

 正直出会った頃からうすうす感じてはいたが、LikeかLoveか確証はなかった。が、この間の反応で確信した。あの人は兄さんに惚れている。無論Loveの方だ。

 クリス先輩にはこのIS学園に入学してからたくさんお世話になった。学園で初めて兄のことを気兼ねすることなく話せる人ができたことが嬉しかった。僕のことをたくさん気にかけてくれたし――憎まれ口を叩きながらだったがあの人のツンはわかりやすすぎる――なんだかんだと世話を焼いてくれた。クリス先輩の昔の話も全部ではないだろうが話してくれた。

だからだろう、クリス先輩には幸せになってほしいと思うのは。なんと言うか楯無姉さん、簪姉さん、シャルロット姉さんに続いてできた四人目の姉のように思っているのかもしれない。

 だが、だとして、クリス先輩が幸せになるためにはどうすればいいのか。恋を成就させること?だが、果たしてあのクz――兄にクリス先輩を任せていいのだろうか?あの甲斐性なしのダメ人間が相手でいいのか……。

――え?他三人の姉さんたちはいいのかって?いいんじゃない?クリス先輩と違ってあの三人は心臓に毛が生えてる感あるし。上手く兄さんの手綱を握ってくれるんじゃない?まあ強いて心配を上げれば五年と言う時間お預け喰らってた三人がいろいろ抑えられるかどうかだけど、まあその結果兄さんが干からびても男としてはご褒美でしょ、あんな美女三人で腹上死とか。

 まあとにかく、あの兄に任せるのは多少不本意なところはあるがそれでクリス先輩が幸せになるというのなら1万歩くらい譲って良しとしよう。

 ただ、一番の問題があるとすれば、あのクリス先輩が兄への恋心を素直に認めるかどうかである。

 あのいまどき一周回ってアニメでも見なくなってきたレベルの化石ツンデレのクリス先輩が、意外と純情で何なら仲間内で一番ピュアなクリス先輩が、読めば砂糖を口から吐き出したくなるようなベタベタな少女漫画を愛読しているクリス先輩が、そのくせそのことをツッコむと赤面ファイヤーで殴ってくるようなクリス先輩が、人のことを子ども扱いするくせに自分はお化けが苦手と言う驚きの弱点のあるクリス先輩が、萌えの権化のようなあのクリス先輩が、果たして素直に自身の恋心を認めることができるのだろうか?

 

「………まあ無理だな」

 

「何が無理なんだ?」

 

 思わず苦笑いを浮かべて呟いた僕の言葉に返事をする人物がいた。

 

「あぁ、マイルス。おはよう、いつからいたの?」

 

「いつって、結構前からいたぞ。『おはよう』ってアイサツしたらちゃんと返事してたぞ」

 

「マジか……!?無意識だわ……」

 

「うん、そんな気はしてた。視線合わないし」

 

 僕の言葉に目の前の黒人の少年が苦笑いを浮かべる。

 彼の名前はマイルス・モラレス。アメリカからこのIS学園の技術部にやって来た僕の同級生で、この学園でも一番の友人ともいえる相手だ。聞いた話ではアフリカ系とヒスパニック系の両方の血を引いているらしい。服装は僕と同じくIS学園の制服のズボンに上はカッターシャツさらにその上から緑に赤いフードのパーカーを着ている。趣味は絵を描くことでかなりの腕前だ。

 

「で?難しい顔してたけど一体何を考えこんでたんだ?」

 

「ん~……」

 

「言えないことだったら詳しく訊かないけど」

 

「いや、別に言えないってわけじゃないんだけど……なんて言ったものか……」

 

 マイルスの言葉に僕は考え

 

「まあ大雑把に言うと」

 

「うんうん」

 

「知り合いに好きな人がいるんだけどその相手がど~しようもうないダメ人間でさ」

 

「はぁ……つまり苦労するのが目に見えてるし止めたいってわけか?」

 

「いんや、別にそこは問題ない。と言うかダメ人間ではあるけど悪いやつじゃないし。まあきっとなんだかんだ幸せにはなれるんじゃない?」

 

「ん?じゃあ何が問題なんだ?」

 

「問題はその知り合いが自分の恋心を絶対認めないだろうなぁ~ってことかな。あの人素直にそう言う気持ちを認めないの目に見えてるし」

 

「あぁ、そう言うタイプの人なんだ……」

 

 僕の言葉にマイルスが苦笑いを浮かべる。

 

「だから、あの人に素直に認めさせるにはどうしたものかなぁ……って」

 

「なるほど、それは難問だ」

 

「はぁ……どうしたもんか。恋心ってのは、難しいねぇ~……」

 

「いま恋って言った!?」

 

「「うおっ!?」」

 

 突如横から大きな声で話しかけられ僕もマイルスも驚きの声を上げる。

 

「たくっ……急に出てくるとびっくりするだろ、ペニー」

 

「えへへ~、ごめんごめん」

 

 突如現れた目の前の黒髪短髪の少女にため息まじりに言うと少女は笑いながら頭を掻く。

 彼女の名前はペニー・パーカー。日系アメリカ人で日本人よりの顔立ちをしており、体格は小柄で調やキ切歌達くらいの身長だろう。服装はIS学園の制服のスカートに上はカッターシャツ、その上に黒色に襟の部分にピンクのラインの入った袖の無いセーターを着ている。同じクラスの学友であり天真爛漫な明るい性格をしており、友人も多い。

 

「で?で?恋心って?マイルスがとうとうグウェンに告白するとか!?」

 

「はぁ!?だ、だからグウェンとはそう言うのじゃないから!」

 

「「え~?ホントに~?」」

 

「ホントに!!ていうか今は海斗の知り合いの話だろ!?」

 

 声を揃えてニヤニヤと訊く僕とペニーにマイルスが叫ぶ。

 

「まあそっちも気になるけど、今は海斗の方で!」

 

「お、おう」

 

 楽しそうに笑いながらペニーが僕に視線を向ける。

 

「まあもう一回説明すると――」

 

 と、改めてペニーと、そしてマイルスにも細部を暈してより詳しく事情を説明する。

 

「――って訳なんだけど」

 

「なるほど!青春だね!!」

 

 僕の説明を聞いたペニーは楽し気に笑う。恋愛話に興味津々な感じ流石は華の女子高生、いつもより目の輝きが増している。

 

「で、そのクリス先輩の相手って誰なの!?」

 

「………僕クリス先輩の名前出してなかったはずなんだけど」

 

「え?いや、今のは話聞いててわかるよ」

 

「うん、僕でも分かったし」

 

「oh……」

 

 自分の説明の仕方が悪かったのか、それともこの二人が鋭かったのか……恐らく前者だろうな。

 とりあえず気を取り直して僕は眼鏡をクイッと押し上げて掛け直し

 

「まあクリス先輩の相手はいろんな理由で秘密」

 

「えぇ~……」

 

 僕の答えにペニーが不満そうな声を上げつつ気を取り直したように咳ばらいをし

 

「まあ要は素直になれないクリス先輩を素直にさせるにはどうすればいいかってことね?」

 

「まあそう言うことだね。放っておくとたぶんあの人は一生自分の気持ちに目を反らし続けるし」

 

「それならもう一つしか手はないんじゃない?」

 

「ほう?と言うと?」

 

「簡単だよ、目を反らし続けるなら目を反らせないくらいその感情が大きくなればいいんだよ」

 

「「っ!」」

 

 ペニーの答えに僕とマイルスはハッとする。

 

「ね?いい手でしょ?」

 

「確かにそれはいい手だね」

 

「でしょでしょ?我ながらいい手だと思うんだよね~」

 

 感心したように頷くマイルスにドヤ顔で胸を張るペニー。だが、その胸はいくら張ってもなだらかで――

 

「とうっ!」

 

「あてっ?」

 

 突如ペニーが僕の頭に拳を当てる。

 

「何するのさ?」

 

「いまなんか失礼なこと考えてた気配を感じた」

 

「そんなバカな。いったい今の一連の流れに何を考えるというのか?」

 

「……ホントに~?」

 

 ペニーのジト目に頷く。ホントホント、カイトウソツカナイ。

 

「まあそれはともかく、問題はその相手にクリス先輩の気持ちを無視できないレベルまで育て上げる技量があるかどうかだが……」

 

「大丈夫だ。こういう時こそ僕がおじさんに教えてもらったテクニックを授けてやる」

 

「へぇ~?」

 

「いいかこういう時は相手の目を見ながら……」

 

 言いながらマイルスは僕の肩にポンと手を置き

 

「Hey」

 

「「……………」」

 

 ニヒル気取って口角を片方上げる形で笑みを浮かべるマイルスに僕とペニーは少し黙ってから

 

「なんかいい方法ないか、ペニー?」

 

「そうだね~」

 

「いやいやいや!なんか言ってくれよ!」

 

 何もなかったように二人で話し始めた僕たちにマイルスがツッコむ。

 

「いや……だって今のでは……」

 

「なんだよ!?ダメだって言うのか!?試してもいないのに!」

 

「え~……やったところで……」

 

「いいから!やってみろ!」

 

「え~………」

 

 マイルスの言葉に半信半疑で、しかし、物は試しだと考えることにして先ほどのマイルスの一連の流れを思い出しながら

 

「じゃあ……」

 

 咳ばらいを一つして眼鏡をクイッと掛け直し、手近なところにいたペニーの肩にポンと手を置き

 

「Hey」

 

「(トゥンク)」

 

 と、ペニーが凍り付く。そのまま徐々に頬が赤く染まっていく。

 

「あれ?なんか僕と反応違くね?は?え?おい、ペニーまさか!?」

 

「い、いやいやいやいやいや!!違うから!!ホントに!!ホントにそう言うんじゃないから!!別に『あ、海斗ってまつげ長いな』とか『眼鏡の奥の瞳に吸い込まれそう』とかそんなこと別に全然これっぽっちも思ってないから!!」

 

「いや、それもう自白してるじゃん」

 

「違うから!!『あ、そんな顔もできるんだ』とか思ってないから!!」

 

 とかとか、マイルスとペニーが話しているのを尻目に僕はと言えば

 

――クリス先輩の恋心を育てるとか……あのアホ兄貴にできるんだろうか……

 

 と、ちょっとした不安を感じているのだった。

 とりあえず、今度発破かけに行こうかな。この間の〝お願い〟がどうなったかも知りたいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッキシッ!!」

 

 突如ムズムズッと来た鼻にこらえることができず加藤茶さんのようなコントみたいなくしゃみをしてしまう。

 

「大丈夫かい?風邪か?」

 

 と、そんな僕に隣に立つ筋骨隆々の男、風鳴弦十郎さんがこちらに視線を向ける。

 現在僕と弦十郎さんはとある施設の廊下を歩いている。

 

「いや、寒気とかしないし、別に体調悪い感じもしないんですけどね……全裸で一晩中いたからかな?」

 

「お、おう、そうか……」

 

 僕の答えに弦十郎さんが何とも言えない顔をする。

 比較的常にドンと構えているイメージのあるこの人をドン引きさせてしまった。

 

「まあそれは置いておきましょう」

 

 咳払いをして僕は弦十郎さんに視線を向ける。

 

「今日は本当にすみません。うちの弟の無理難題に付き合ってもらって」

 

「まあ構わんよ。子どもの無茶を聞くのが大人の甲斐性の見せ所だ」

 

「カッコいいなぁ~、僕もそんなこと言える大人になりたいですよ」

 

 弦十郎さんの言葉に僕はしみじみと言う。

 

「何を言うんだ。無理難題とは言いつつ実現しようと頑張るあたり、君だっていい大人――いい兄であろうとしているんだろう?」

 

「……どうですかねぇ?買被りですよ。僕の場合は弦十郎さんほど100%善意だけじゃないですよ。結局は自分のためですよ……」

 

 弦十郎の言葉に僕は自嘲気味に笑う。

 そう、こうしてここにいるのはあのとき海斗から出された交換条件のためでもある。

 あの聡い弟は僕がその交換条件を出されると断れないのを見越してこの無理難題を出してきたのだろう。

 本当に、今思い出しても、あの時最後に僕へとマイ〇ィキックを放ち、地面に大の字で倒れ伏す僕を見下ろして言ったあの顔――

 

 

 

『ねぇ、兄さん。とりあえず兄さんの事情は分かる。だから今のキックで手打ちにしてあげる。本当は今すぐにでも言いたいけど、みんなには黙っておくよ。もちろん父さんと母さんにもね。まあ兄さんが生きてた、なんて言ったらみんなを余計な面倒に巻き込むし、何より兄さんが死んだままの方が世界はいい方向に回るだろうし――おっと感謝するのはまだ早いよ。その代わり僕の言うことも聞いてもらうよ。え?もし実現できなかったら?そうだね、とりあえず……30人からフルボッコにされるんじゃない?』

 

 

 

 そう言って笑っていた顔は我が弟ながら悪魔か何かかと思った。

 

「それこそ、買被りだ。俺が君や君の弟君の願いを聞くのは、君たちを頼るしかない俺たちが何もできない無力な大人ではないと思いたいだけさ」

 

 弦十郎さんも寂しい笑顔を浮かべて言う。

 

「おっと、着いた。ここだ」

 

 と、弦十郎さんがとある扉の前で足を止める。

 

「ここで最後だな」

 

「ええ。前の〝二人〟はたった一言『私たちは決める立場にない』だったんで、この最後の〝彼女〟次第ですね。〝彼女〟から色よい返事をもらえれば、あとは何とかなるでしょう」

 

「なるほど、だからこそ〝彼女〟を最後にしたわけか」

 

「ええ。〝彼女〟次第であとの〝二人〟もなんとかなるでしょうから」

 

 弦十郎さんの言葉に頷きながら僕は歩を進める。弦十郎さんは足を止めたまま。ここからは一人だ。

 扉の前に立つとその扉が開く。その中にゆっくりと進むと背後で扉の閉まる音がする。

 ――その部屋は薄暗い部屋だった。

 飾り気のない薄ら寒いコンクリートの薄暗い部屋学校の教室ほどもあるその部屋にあるのは三つだけ。

一つは壁に備え付けられた照明。あまり光量は強くない上に照明の角度的に部屋の隅など光が届いていない。

二つ目は一脚のパイプ椅子。これは何の変哲もないよくある折り畳みの一人用のパイプ椅子だ。

そして、最後に三つ目。部屋の真ん中に転がされているのは長い白金髪の一人の女性だった。

 その人物は白い拘束服――某学園反乱超能力ロボット戦略アニメの緑髪ヒロインの服みたいなの――を着せられ両手を拘束された状態で転がされている。顔は力なく俯き眠っているように瞼を閉じている。照明の関係でよく表情は見えないが無表情で本当に寝ているようだ。だが、恐らく寝ていない。

 そんな女性に視線を向けつつ僕はパイプ椅子を動かし、背もたれを前にして座る。背もたれに両手を合わせてもたれかかり、目の前のその女性を見下ろしながら口を開く。

 

「やあ、サンジェルマンさん、こんにちは。快適に過ごしてますか?」

 

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