IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

271 / 309
第235話 不器用な兄弟

 

「と、いう訳で新しく我が社に入社した――」

 

「サンジェルマンだ」

 

「カリオストロよ~」

 

「プレラーティなワケダ」

 

「これからも会う機会もあるだろうからよろしくね~」

 

「そんなことはどうでもいいデス!!」

 

 と、自己紹介をする三人と笑いながら言うハヤテに切歌が叫ぶ。

 現在海斗たち五人とハヤテ、サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティに加え、シャルロットとクリス、さらには後から合流した楯無と簪が会議室に集まっていた。

 

「私たちが訊きたいのは……」

 

「なんで…その人たちがここにいるか、と言うことです……」

 

 ジト目で睨む切歌と調。その言葉に

 

「あぁ、それは――」

 

「僕が頼んだからだよ」

 

「「先輩がぁ!?」」

 

 言いかけたハヤテの言葉を遮って海斗が言う。

 

「なんで海斗君がそんなことを?」

 

「しかも、ハヤテさんに」

 

「そう言う交換条件だったから」

 

 首を傾げる響と未来に海斗が答える。

 

「交換条件デスか?」

 

「うん」

 

「いったいこの人たちを入社させる代わりにハヤテさんに何をしてあげるんですか……?」

 

「ん?あぁそれは」

 

 首を傾げる切歌と調の問いに笑顔で頷きながら海斗は

 

「〝五年間自分を死んだことにして音信不通だったことを父さんたちに黙っておくこと〟だよ」

 

「えぇっ!?それってつまり!?」

 

「もしかして海斗……!」

 

「ハヤテさんの正体、知ってるんですか……!?」

 

「デェェェェェス!?」

 

 海斗の意外な言葉にひびきたち四人が驚きの声を上げる。

 

「あぁ、たぶんそうだろうと思ってたけど、やっぱり四人は知ってたわけね」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 海斗の言葉に四人が「しまった!」と言う顔をして押し黙る。

 

「………い、いったいいつから気付いてたんですか?」

 

「怪しんでたのは結構前だけど、確信したのは二週間前のあの誘拐事件の時だよ」

 

 調の問いに海斗が答える。

 

「全然知らなかった……」

 

「と言うかどのあたりに気付く要素があったんだろう……?」

 

「え?そこかしこに」

 

「ま、そう言う妙な察しの良さはお兄さん譲りの洞察力よね」

 

 驚く響と未来の言葉に首を傾げる海斗を見て楯無が笑う。

 

「ま、まあなんで海斗君がハヤテさんに頼んだかは分かったけど……」

 

「最大の謎なんだけど、なんで海斗はこの三人を助けたの?」

 

「あ、そういやそれ僕も知らねぇや」

 

 未来の問いにハヤテも海斗へ視線を向ける。

 

「それはあーしたちも疑問に思ってたのよね~」

 

「最後は早めに降参したとはいえ、私たちは君を誘拐した張本人なワケダ」

 

「何故そんな私たちに便宜を図るように動いてくれたのかしら?」

 

「……………」

 

 元パヴァリア光明結社の三人もジッと海斗の顔を見る。その場の全員の視線を受けた海斗は少し押し黙り

 

「なんて言うか……三人が根っからの悪人に思えなかったんですよね……」

 

 と、ぽつりと口を開く。

 

「いくら僕が舌噛んで死ぬって脅したからって、本当に何もせずに響達を見逃したり、僕のことが必要だって攫ったくせに自分たちの思想とかそう言うものを語って僕のこと仲間に勧誘したりしないし、むしろ僕を巻き込んだことを少し申し訳なさそうにしてたり。なんて言うか、これまで会った〝そう言う人たち〟と全然違って……自分たちのやってることが真っ当なことじゃないってわかってて、それでも自分たちの目指す未来のためにどうしようもなく悩んだ末に自分を無理矢理に納得させて戦ってるような……」

 

「どうしてそう思ったのかしら?」

 

 海斗の言葉にサンジェルマンが訊く。

 

「響と戦ってる時のあなたは、響の言葉を否定しながらも響の差し出す手を取りたい、でもそんなことできないって諦めてる様に見えました」

 

「それは……」

 

 海斗の言葉にサンジェルマンが言い淀む。

 

「その顔がなんだか僕のよく知ってるある人に似てる気がしたんですよね」

 

「ある人?」

 

 海斗の言葉にカリオストロが首を傾げる。

 

「もうずっと昔、十年くらい前のことです。その人にすごく悲しいことがあって、一時期とても辛そうな顔をしていたんです」

 

 カリオストロの問いに答えるように海斗は優しく微笑みながら言う。

 

「まるでどうしようもない罪を背負ってしまったような。ずっと誰かに謝り続けているような、祈り続けているような」

 

「それって……」

 

 海斗の言葉に簪は呟く。簪と同じく何かを察したらしいシャルロットと楯無も顔を強張らせる。

 

「今ならわかるんです。世の中には誰かから許されないと、必要とされないと生きていけない、そんなどうしようもなく不器用な人もいるんだなぁって」

 

 そんな三人の視線を受けながら海斗は苦笑いを浮かべる。

 

「だから、その人と同じように、まるで祈るように拳を振るってるサンジェルマンさんたち見てたら、なんか他人事と思えなかったって言うか……きっとこの人たちは本当はものすごく言い人たちなんだろうなぁって……」

 

「なるほど……つまり我々はその誰かさんの代わりと言うワケダ」

 

「ハハハ。それは否定しません。僕はその人に何もしてあげられませんでしたから。せめてその人に似てるあなたたちに何かしてあげたかったんです」

 

「ふむ……」

 

 意地悪く笑みを浮かべたプレラーティの言葉に苦笑いを浮かべて答える海斗。素直に認めたその様子にプレラーティが少し驚いた顔をする。

 

「まあそんなわけで、三人を助けてもらえるように口添えしたのは全部自分勝手な自己満足です」

 

 肩を竦めて笑う海斗の様子に

 

「なんて言うか、流石兄弟ね」

 

「お人好しと言うかなんと言うか……」

 

「そう言う考えすぎなところ、そっくり……」

 

「ねぇ?不器用なお兄さん?」

 

「ノーコメント」

 

 楯無、クリス、簪、シャルロットが笑いながらハヤテ――颯太を見て笑い、それに照れたように顔を背けながら颯太が言い

 

「すごく優しいんだよ」

 

「そこが先輩のいいところデェス!」

 

「先輩はそのままで……」

 

「それでこそ海斗君だもんね!」

 

 未来、切歌、調、響が笑いながら言う。

 

「ま、まあそう言うことです!納得してくれました?」

 

 照れたようにそっぽを向きながら海斗が言う。

 

「なるほど、まあ何にしても君のその自己満足で私たちは救われたわけだから、そのことにはちゃんとお礼が言いたい」

 

 言いながらサンジェルマンは立ち上がり

 

「ありがとう」

 

 折り目正しく90度に頭を下げる。

 

「まったく、そう言うところサンジェルマンは真面目よねぇ~」

 

「だが、サンジェルマンの言う通りではあるワケダ」

 

 言いながらカリオストロは苦笑いを浮かべ、プレラーティはニッと笑う。

 

「この借りはいつか返すワケダ。さしあたっては人間の三大欲求の一つでも満たしてやるワケダ」

 

「三大欲求?」

 

「デェス?」

 

 プレラーティの言葉に響と切歌が首を傾げる。

 

「人間が持ってる重要な欲求のことだよ。いろんな説があるけど、一般的には『食欲』『睡眠欲』それと『性欲』の三つのことだな」

 

 わからないという顔の二人に颯太が答える。

 

「性欲って!?」

 

「要はスケベ心?エロいことしたいとかそう言うアレ」

 

「デデデデェェェス!?」

 

 颯太の言葉に切歌が叫び声を上げる。

 

「どうだ?興味あるワケダ?」

 

 悪い顔で笑いながらプレラーティが海斗に視線を向ける。

 

「それは……」

 

「そんな破廉恥なこと……!!」

 

「興味あるわけないデス!!」

 

「そ、そうだよ!そういうことはちゃん必要な順番を踏まないと!」

 

「というわけですので……」

 

 切歌、調、響の叫びに海斗は苦笑いを浮かべて言う。

 

「そうか、そいつは残念なワケダ」

 

 言いながらプレラーティは大して残念そうなそぶりを見せずに笑い

 

「まあ気が変わったらいつでも言うワケダ。私はいつでもうまいラーメン屋をリサーチしておくワケダ」

 

「「「………ラーメン?」」」

 

 プレラーティの言葉に響と切歌と調は呆けた顔をする。

 

「何だそのアホ面は?言っただろう、三大欲求の一つを満たしてやると。『食欲』も三大欲求の一つなワケダ」

 

「「「っ!」」」

 

 プレラーティの言葉に三人は羞恥に顔を真っ赤に染める。

 

「プレラーティは三大欲求の追及に余念がないものね~」

 

「欲望に耽る怠惰は改めたが、それでも拘るのは質の高い睡眠と美味しい食事、そして……フフフッ、とてもここでは言えないワケ――あうっ!?」

 

「言わなくていいワケダ」

 

 ニヤリと笑いながら言うプレラーティの頭を小突きながらサンジェルマンがため息をつく。

 

「まあご飯を奢るかはともかく、この借りはいつかどうにか返させてもらう」

 

「僕の自己満足なんで別に気にしなくてもいいんですけど、まあ何か助けが必要な時は頼ります」

 

「ああ」

 

 海斗の言葉にサンジェルマンは頷き

 

「あーしは別に『性欲』でもいいわよ?♡」

 

「いいわけないデス!!」

 

「先輩には指一本触れさせない……!」

 

 カリオストロの言葉に切歌と調が警戒した表情で睨む。

 

「やん、怖い怖い。なら怖~い後輩ちゃんたちがいないときかしらね?♡」

 

「「キシャァァァァ!!」」

 

「キャッ!怖いわぁ~」

 

 威嚇するように雄たけびを上げる二人の様子に冗談めかしてカリオストロが言う。

 

「さて、話が大体済んだところで、そろそろ次のことやりたいんだけど?」

 

 と、苦笑いを浮かべた颯太が言う。

 

「三人は今度正式にうちに入社するわけだし、社内を案内しときたいんだけど……」

 

 言いながら一瞬颯太は海斗に視線を向け

 

「じゃ、キネクリ、案内任せた」

 

「はぁ!?なんでアタシが!?」

 

「はいはい、文句言わない。社長命令。やれ」

 

「チッ、なんでアタシがこいつらを……」

 

 颯太の言葉にぶつくさ文句を言いながらドアへ向かい

 

「おら、めんどくせぇからさっさと済ませるぞ」

 

「ああ。わかった」

 

「よろしく、先輩」

 

 クリスの言葉に頷くサンジェルマンと冗談めかして言うカリオストロ。

 

「あ、そいつお前らよりうちに来たのは先だけど、まだインターン中で正式に入社してないから」

 

「なんだ、見習いで私たちよりも立場は下なワケダ。おい、焼きそばパン買ってくるワケダ」

 

「ふざけんな。ハチの巣にしてやるぞ」

 

「やれるものならやってみるワケダ」

 

 ムカッとした顔で睨むクリスに余裕の笑みでプレラーティが笑みを浮かべる。

 

「はいはい、会社の中でドンパチ禁止。――いい機会だから君らもついて行って来ていいよ」

 

 火花を散らす二人にため息をつきながら言った颯太は海斗の回りに座る四人に向けて言う。

 

「いいんデスか?」

 

「じゃあ…せっかくだし……」

 

 興味を持った切歌と調に響と未来も頷く。

 

「海斗君も行こう?」

 

「あぁ、僕はいいよ」

 

 手を差し出しながら言う響に海斗が言う。

 

「どうかしたの?」

 

「ちょっと簪姉さんに課題のレポートについて助言貰いたいことがあったんだ」

 

 怪訝そうに訊く未来に海斗が答える。

 

「だから、四人で見てきてよ」

 

「それじゃあ……」

 

「早く済んだら海斗君もおいでよ」

 

 海斗の言葉に調と響が言い、切歌と未来も頷き、八人は部屋を後にする。

 八人を笑顔で見送った海斗に

 

「……で?今日来た目的は?俺がちゃんと頼み事聞いてるかどうかの他にも、何か用事があったんだろ?」

 

「さすが兄さん、察しがいいね」

 

 颯太の問いに海斗がニッと笑う。

 

「そう言うのいいから本題は?」

 

「うん。実はもう一つ兄さんに追加でお願いしたいことがあってさ。もちろん聞いてくれるよね?」

 

「えぇ~……?なんか嫌な予感するんだけど……あのね、今回はうまくいったけど、俺の立場も結構微妙で、できることとできないことが――」

 

「クリス先輩のことだよ」

 

 嫌そうに顔を顰めて言う颯太の言葉を遮って海斗が言う。

 

「兄さんだってわかってんだろ?クリス先輩の気持ち……」

 

「……キネクリの気持ちなんて、なんのことだか――」

 

「クリス先輩は兄さんに惚れてるんだよ」

 

 素知らぬ顔で言おうとした言葉は海斗によって潰される。

 

「薄々でも感づいてたんでしょ?少なくとも姉さんたち三人の気持ちに答えたんだから」

 

「…………」

 

「クリス先輩の気持ちにちゃんと答えてあげてほしいんだよ」

 

 海斗の言葉に数秒考えた颯太は

 

「はぁぁぁぁぁぁ」

 

 大きくため息をついた。

 

「確かにクリスの気持ちはなんとなく察してたさ」

 

 言いながら海斗へ視線を向け

 

「海斗、お前はクリスの過去についてどこまで知ってる?」

 

「そうだね……聞いた限りではあの内乱続きのバルベルデ共和国にいて、奴隷扱いされてた。さっきまで命だったものが辺り一面に転がるような酷い地獄の中、明日は我が身。そんな死を覚悟した状況で兄さんが助け出したんだろ?」

 

「ふむ、まあ大筋その通りだな……」

 

 海斗の言葉に頷く颯太。

 

「知ってるならわかるだろ?あいつの恋心は死に瀕した場面で自分を救い出してくれた俺への感謝を恋愛感情と混同してる、謂わばつり橋効果みたいなものだって……」

 

「……………」

 

 颯太の言葉に今度は海斗が押し黙る。

 

「そんなあやふやな気持ちで俺みたいな人間に人生賭けてほしくないんだよ」

 

 颯太の言葉に海斗は少し考え

 

「……確かに兄さんの言う通り、始まりはつり橋効果のあやふやなモノだったのかもしれない。でもさ――」

 

 真剣な表情で颯太を見ながら

 

「始まりはどうあれ、その気持ちを五年間持ち続けてたんだ。それはもう、あやふやなモノじゃなくて、れっきとした愛情だと僕は思う」

 

「…………」

 

 真剣に自分へと向けられる海斗の視線と言葉に颯太は言葉を失い

 

「でも、俺は……」

 

「別に兄さんの方から告白しろって言ってるんじゃないんだよ。僕はただ、クリス先輩がちゃんと答えを出して、兄さんへの思いを言葉にした時、茶化したり突っぱねずに、自分のそばでは幸せになれないとか面倒なこと考えずに、ちゃんと正面からクリス先輩に答えてあげてって言ってんの――兄さんだって、クリス先輩のこと憎からず思ってる、むしろすっごく大事に思ってるんだろ?」

 

 言い淀む颯太に海斗が言う。

 

「もしも、もしもクリス先輩が自分の気持ちに折り合いつけて、それを言葉にした時は……その時は……頼むからちゃんと答えてあげてくれよ……」

 

「海斗……」

 

 海斗の言葉に颯太は言い淀み

 

「アナタの負けよ、颯太君」

 

「楯無さん……」

 

 優しく微笑みながら言う楯無の言葉に颯太は傍らにいる彼女へと視線を向ける。

 

「五年間待たせたんだから、ちゃんと答えを出してあげなきゃかわいそうだよ」

 

「シャルロット……」

 

「私たちにとってそうだったように、クリスちゃんにとっても颯太はヒーローなんだよ……」

 

「簪……」

 

 三人の言葉に目を閉じた颯太はゆっくりと瞼を開き

 

「これ以上他の女に手を出すなって言ったの三人じゃん」

 

「それはそれ、これはこれよ」

 

 ジト目で言う颯太の言葉に楯無が答える。

 

「そりゃね、私らもほいほいと他の女に手を出されちゃたまったもんじゃないよ?こっちは五年間颯太君のそばで一蓮托生で生きて来たんだから、今更どこの馬の骨とも知れない奴が私たちの仲間入りとか冗談じゃないわよ」

 

「でも、僕らが五年間颯太を思い続けたように、彼女も五年間思い続けてたんだから」

 

「しかも、彼女が颯太君のこと思ってたのは私たちも察してたから……」

 

「だから!クリスちゃんなら別に私たちはいいの」

 

 三人の言葉に颯太は考え込み……

 

「……はぁ、俺の方からは何もしないぞ。あくまでも、クリスが自分で結論を出すんだからな。クリスがちゃんと言葉にするまでに俺もちゃんとクリスへの気持ちには結論付けてやる。それでいいか?」

 

 ため息をつきながら颯太は言う。

 

「もちろん。それでいいよ」

 

 颯太の言葉に満足そうに頷く海斗。

 

「たく、人のことクズだのダメ人間だのゴミいちゃんだの言うくせに、そんな奴に大事な先輩託すなよ。そこはお前が率先して反対するところだろ」

 

「そりゃ兄さんに任せるのは癪だけど、クリス先輩の一番の幸せは兄さんとくっつくことなのかなぁって思ったら……ねぇ?」

 

 はぁ……とため息をつきつつも海斗は晴れやかな顔で頷く。

 

「ま、お前の心配は分かった。クリスの気持ちにはちゃんと答えてやる。その代わり――お前も素直になれよ」

 

「は?」

 

 颯太の思わぬ言葉に海斗は訊き返す。

 

「楯無さんたちに言われるまでもなく、お前が俺そっくりなのは知ってる。だからこそ、もし俺がお前の立場ならって考えれば、お前の考えそうなことなんてわかる」

 

「な、何言って――」

 

「俺のことを言い訳にするなって言ってんだよ」

 

 海斗の言葉を遮って颯太が言う。

 

「井口颯太の弟だから、そんな奴と付き合ったらその子まで周りから白い目で見られる。そんなもんお前のエゴだ。お前のこと本気で好きなら気にしないだろうよ、そんな些事。お前だって〝彼女たち〟がそう言うタイプじゃないってわかってんだろ?」

 

「か、彼女たちって、僕は別に……」

 

「まあ結論を出すのはお前だけどさ、これだけは言っておいてやる。お前は俺みたいになるなよ。ちゃんと答えを出さないと〝こうなる〟んだから」

 

 ため息をつきながら言う颯太。明確に言葉にはしないものの、その視線は彼の周りに侍っている三人の女性たちを示していた。

 

「こうなりたくなかったら、もっと素直になれ」

 

「兄さんがそれ言う?」

 

「俺だから言うんだ。お前はまともな恋愛して父さんたちにちゃんと孫の顔見せてやれ。俺にはもうできないんだからさ……」

 

「兄さん……」

 

 寂しそうに微笑む颯太に海斗は呟き

 

「兄さんがまともな恋愛できなかったのは兄さんの自業自得だと思うんだけど」

 

「言うな。自分がこの中で一番拗らせてるって自覚はあるから……」

 

 海斗の辛辣な言葉に颯太は力なく項垂れるのだった。

 




弟から叱咤を受けた颯太が下すクリスへの気持ちとは?
クリスは自分の気持ちを言葉にすることができるのか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。