それからは順調に進み、あっという間に月日は流れ、クリスも無事IS学園を卒業。その後は俺がこの五年間で貰っていた給料の貯金で五人全員で住める一軒家を建てて全員で移り住み生活している。と言っても国連が手をまわしてくれた土地に『S.O.N.G』の息のかかった建築会社などを経由してるので、相場よりもうんと安く建てられている。
俺たち四人は特に変わりなく働き、クリスは『S.O.N.G』のIS操縦者をしつつ卒業と同時にうちの会社に就職した。
そして、それからさらにあっという間に10か月が過ぎ――
「………やっぱり納得がいかない」
「は?何がです?」
ブスっと顔を顰める楯無さんに訊く。
「なんで……なんで……」
俺の問いに肩をわなわなと震わせた楯無さんは涙目で顔を上げ
「なんで一番最後にハーレム入りしたクリスちゃんが一番に授かってるのよ!!?」
「また始まった……」
と、俺たちの目の前でベッドに横になり、ベッドを少し起こして座るクリスを指さしながら言う。
俺はため息をつきながら件のクリスに視線を向ける。クリスのお腹は丸々と大きく、はち切れんばかりだ。
「いや、なんでって言われても、こういうのって天からの授かりものだし……」
「だとしてもおかしいでしょ!私たち毎回一回の量も回数もそりゃぁ~もうたくさん注ぎ込まれてるわよ!?」
「言い方ってもんがあるでしょうよ……」
楯無さんの物言いに呆れる俺。
「でも、実際私も予想外だった……」
と、楯無さんと同じくベッドの脇の椅子に座っている簪が頷く。
「確かに僕たちの方が先にしてもらってるし最初に赤ちゃんができるのは、僕たち三人の誰かだと思ってた」
と、シャルロットも言う。
「そりゃ、理由なんて明白だろ。この中であたしが一番愛されてるってことだろ。なぁ、〝ダーリン〟?」
と、そんな三人に見せつけるように三人とはベッドを挟んで反対側のベッドの脇に立つ俺の腕を取って抱き着く様に言うクリス。その顔は三人を煽る様にニヤニヤと意地悪い笑みが浮かんでいた。
俺たちは現在『S.O.N.G』の融通の利く病院の一室にいる。いろいろ便宜を図ってもらえたようで個室のかなりいい部屋を用意してもらえたようだ。個室として使うにはかなり広い。
「何を~!?私たちだってそりゃもうめちゃくちゃ愛されてるわよ!」
「平等に愛してくれてる…!」
「そんな誰か一人を贔屓するようなことあるわけないよ!」
「でも実際一番遅かったあたしがこうして正妻になったわけだし?」
と、反論する三人にドヤ顔で左手を見せるクリス。その薬指には俺のものとお揃いの指輪がはまっている。
「ぐぬぬ~!やっぱりあれか!その胸についてるメロンに惑わされたか!?結局でかい乳がいいってか!?」
「ずっと脚フェチって聞いてたのに……!!」
「嘘つき!!」
「えぇ!?そこでこっちに矛先向けるの!?」
と、三人が俺に詰め寄ろうとしたとき――
「ちょっと!お静かにしてください!ここは病院ですよ!」
ドアを開けて一人の女性が入ってきた。
その女性は青みがかった首にかかるほどの黒髪にピンクの縁の眼鏡をかけた美人の女医さん。
「や、薬師寺先生……」
「またですか、朽葉さん……」
ジトッとした視線で俺を見ながらため息をつく女医さん――薬師寺先生に俺は苦笑いを浮かべながら頭を下げる。
「いや、本当に毎度毎度すみません」
「まったく……奥さん安定しているとはいえもう臨月でいつ陣痛が来てもおかしくないんですからね?」
「は、は~い……」
「〝ご家族〟で仲がいいのはいいですが、他の患者さんのご迷惑にならない範囲で、お願いします」
「〝ご家族〟?」
「それでは、何かありましたらナースコールでお呼びください」
俺の疑問には答えず、薬師寺先生はそのまま病室を後にする。
「………なぁ、気のせい?最初のころに比べて薬師寺先生俺に対してあたり強くなってる気がするんだけど?日増しにゴミを見るような眼になってる気がするんだけど?」
「そう?気のせいじゃない?」
「いや、なんと言うかお世話になり始めた頃はもっとこう……『お母さんもまだお若いですし、お父さんもしっかり支えてあげてくださいね。私たちも全力でサポートしますから』って感じだったのに……」
「そうかな……?私たちは普通に世間話もするし……」
「相談にも乗ってもらってるし」
「相談?」
簪とシャルロットの言葉に俺は首を傾げる。
「うん、妊活の」
「食生活とか健康管理についてとか」
「排卵日予測とか?」
「あぁ~……あ?待って?それもしかして俺の名前出してんじゃないの?」
「「「…………あ――」」」
「原因それじゃねぇか!!俺らの関係性バレてんだろ!!?だからさっき〝ご家族〟って!!」
俺の言葉に三人が慌てたように口を開く。
「待って待って!確かに妊活相談はしてるけど颯太君――ハヤテ君の名前は出してないわよ!」
「私たちは純粋に相談しか……」
「そりゃ世間話の延長で名前出さずに颯太の話はちょっとはしたけど……」
「いや、あんたらが単にナチュラルにそいつとの距離感がちけぇからだろ」
「「「「へ?」」」」
クリスの言葉に四人で首を傾げる。
「自覚なしなのがタチわりぃな……」
「何よ!?恋人とイチャついて何が悪いのよ!?」
呆れるクリスに楯無さんが言いながら三人が俺に抱き着く。
「そう言うのは家でやれ!」
「家ではもっとイチャついてるじゃない」
「それはクリスだって知ってるでしょ……?」
「クリスちゃん普段素直じゃないのにベッドの上ではしおらしいし」
「っ!そ、そう言うことを外で言うんじゃねぇよ!」
「俺はどっちのクリスも可愛いし好きだぞ?普段素直じゃないのにベッドの中ではその分ダダ甘に甘えてくるところとかドチャシコだと思う」
「おめぇもそういうこと言うんじゃねぇよ!!」
俺の言葉に顔を真っ赤にして叫ぶクリス。
「クリスちゃん最初はキスでキャパオーバー起こしてたとは思えないくらい性欲強いもんね~」
「ナチュラルにエロい……」
「その割にピュアだしね」
「う、うるさいなぁ!わ、わりぃかよ!!?そ、その……好きな男にたくさん愛されたいってのは普通のことだろ……?」
「「「たはぁ~!」」」
顔を赤くして拗ねたように言うクリスの様子に三人が顔を覆いながらため息をつく。
「なるほど、私たちに無かったのはこういう素直さか」
「狙ってやってない分、破壊力がすごい……」
「僕らの忘れた純粋さだね……」
「な、なんだよ!?バカにしてんのか!?そもそもあんたらは欲望に忠実過ぎるところが――ふぐっ!?」
叫ぶクリスの言葉が不自然なところで止まる。
「ん?どうした?舌でも噛んだか?」
「……来た……」
「来た?誰か来る予定だったか?今日は海斗たちやあの後輩たちや歌姫たちや弦十郎さんたちが来るなんて聞いていなかったが……」
首を傾げる俺にクリスが顔を顰めながら首を振るう。
「違う……来たんだよ…っ!……つうが……」
「は?何が来たって?」
何かをこらえるように唇を噛みながら言うクリスの言葉がよく聞き取れず俺は聞き返す。
「だ、だから…じ、陣痛が来たんだよ!」
「あぁ、陣痛か。なんだ陣痛ね。陣痛………陣痛!!?」
「「「陣痛!!!?」」」
クリスの言葉に俺は一瞬理解が遅れ、四人で驚きの声を上げる。
「た、大変だ!びょ、病院!医者!!」
「落ち着いて颯太!ここが病院!まずはナースコール!!」
「簪ちゃんそれベッドのリモコン!!」
慌てふためく俺を窘める簪だったが、彼女が手に取ったそれのボタンを押すとクリスの持たれていたベッドの角度が床と平行に傾いて行く。
「と、とりあえずクリスちゃん落ち着いて!しっかり呼吸!ヒッヒッフー!」
「楯無さんこそ落ち着いて!それラマーズ法!まだ分娩室にも行ってないのに早すぎです!そもそもまだ破水もしてな――」
「あっ!」
「「「「えっ?」」」」
「………破水したかも」
「「「「や、薬師寺センセ~~!!!」」」」
その後駆け付けた薬師寺先生や他の産婦人科医、看護師の人たちに連れられクリス、そして付き添いとして俺は分娩室へと連れて行かれ、それから一時間と経たないうちに
「――おぎゃぁぁぁぁ!!おぎゃぁぁぁぁ!!」
新たな命がこの世界に産声を上げた。
こうして、俺は子を持つ『父親』となった。