IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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連日投稿です。
昨日更新したお話『ifⅠ-1話』をまだ読んでいない方は前話からお読み下さい。





ifⅠ-1.5話 強制介入

「~~♪~~~♪~~♪」

 

 IS学園の屋上で柵の上に腰掛けた一人の人物が鼻歌を歌いながら夜空の月を見上げる。

 

「ここにいたか」

 

 と、そんな人物の背後から声をかける人物が現れる。

 

「一体どういうつもりだ――束?」

 

「フフッ……久しぶり、ちーちゃん」

 

 柵の上から自身へ呼びかけてきた人物――織斑千冬をちらりと見て微笑んで束は言う。

 

「久しぶり?言うほど会っていなかったか?臨海学校以来だから…精々三か月ぶりくらいじゃないか?」

 

「そうだね……〝今のちーちゃん〟にとってはそうかもね」

 

言いながら束は柵から飛び降り千冬の数歩前にひらりと降り立つ。

 

「束……お前……」

 

 そんな束の姿に千冬は息を飲む。

 束は水色のエプロンドレスに長いボリュームのある髪、頭にはウサ耳と、千冬の以前見た姿と変わらない。だが――

 

「お前、老けたか?」

 

「ちょっ!言い方!!」

 

 千冬の言葉に束はずっこけ、地団駄踏んで抗議する。

 

「このビューティフルな最強美女の束さんを老けた呼ばわりなんて!!」

 

「すまん。だが……なんと言うかどことなく雰囲気と言うかなんと言うか、何かが三か月前に会ったお前と違う気がして……」

 

「そりゃ束さんもいつまでも子どもじゃないからねぇ~。三十路になって年相応の魅力を身に着けたのさ」

 

「何っ……!?」

 

 束の言葉に千冬は顔を強張らせる。

 

「どういうことだ!?三十路!?お前は私と同い年なんだからまだ26だろ!?それがなぜお前だけこの三か月で4年以上年を取る!?」

 

「うん、本来の私はそうなんだけどね。私はその篠ノ之束とは厳密には別人だから」

 

「どういうことだ……?」

 

 束の言葉の意味が分からず千冬は困惑の表情を浮かべる。

 

「私はね、ちーちゃん……この時代からだいたい8年後の未来から来たんだよ」

 

「8年後の未来……だとっ……!?」

 

 束の衝撃的な言葉に千冬は愕然と驚きの表情を浮かべる。

 

「お前……作ったのか!?タイムマシンを!?」

 

「まあね。と言ってもはじめは興味なかったよ。作ろうと思ったのも7年前、この時代で言えば1年後だね」

 

 驚く千冬の言葉に束は笑いながら答える。

 

「いやはや、この大天才篠ノ之束をもってしても、タイムトラベルの理論を確立し、さらに完璧なタイムマシンを作るのに、まさか7年もかかるとは思わなかったよ」

 

「もはやお前が何を作っても驚くまいと思っていたが……まさかタイムマシンを作るとは……」

 

 束の言葉に呆れたように千冬が言う。

 

「それで?その天才篠ノ之束は何を思ってタイムマシンを作ろうと思い至り、何の目的でこの時代にやって来た?」

 

「ん~……興味があったから、かな」

 

「興味?」

 

 問いに答えた束の言葉に千冬は首を傾げる。

 

「ねぇちーちゃん、タイムマシンを使って過去に戻って、何か行動を起こし、未来を変えてしまったら、そのタイムトラベラーのいた未来はどうなると思う?」

 

「は?いきなりなんだ?」

 

「いいから」

 

 千冬は突然の問いに困惑するが促され少し考えこむ。

 

「それは……その変えてしまった出来事に沿って未来も書き換わるんじゃないか?」

 

「ブッブ~♪はずれ~!」

 

 千冬の答えに束は顔の前で両腕を交差させ大きく×を作りながら言う。

 

「それは『バッ○トゥザフューチャー』の受け売りでしょ?あれは嘘っぱち。正解は、〝未来は変わらず、別の未来を迎えるパラレルワールドが生まれる〟んだよ。要は『ドラ○ンボール』と『ア○ンジャーズエン○ゲーム』の理論が正しかったってわけだね」

 

「お前……『バッ○トゥザフューチャー』に『ドラ○ンボール』、『ア○ンジャーズエン○ゲーム』…だとっ!?見たのか!?お前が!?自分より頭の悪い人間が嫌いなお前が!?そんな人間の作った創作物を!?」

 

「驚くところそこなんだね……」

 

 驚愕に震える千冬の言葉に束は苦笑いを浮かべる。

 

「ま、ある知り合いがそういうの好きでね。楽しそうに語るもんだから物は試しと見てみたんだよ」

 

 それなりに楽しめたよ、と肩を竦めながら言う束に心底信じられないといった表情で千冬は目の前の未来から来た友人の姿を見つめる。

 

「お前が他人の勧めに興味を持つなんて……一体これから8年の月日で何が起こるんだ?」

 

「………まあいろいろ、かな」

 

 千冬の言葉に束は答える。その視線は千冬を見ながら、しかし、その眼は千冬を見ておらず、どこか遠い場所を見ているような眼だった。

 

「束……?」

 

「で、この時代に来た目的だけどね!」

 

 束の様子に何かを感じた千冬だったが、一瞬で元の様子に戻った束はニッコリ笑いながら言う。

 

「時間って言うのは面白いものでね、実は案外ちょっとした選択の変化で分岐するもんなんだよ」

 

「ちょっとした変化?」

 

「例えばねぇ~」

 

 首を傾げる千冬に束はムムムッと少し考えるそぶりを見せ

 

「そうだね~……例えばちーちゃん、先週の日曜のお昼に『スタミナ焼肉定食』と『特上天丼』で迷って『スタミナ焼肉定食』にしたでしょ?」

 

「な、なんで知ってるんだ!?」

 

「ちーちゃんのことなら、私は何でも知ってるよ」

 

 驚く千冬に束はニシシッと笑いながら言う。

 

「でね、ちーちゃんは迷った挙句およそ女子力の欠片もないメニューの『スタミナ焼肉定食』にしたわけだけど」

 

「悪かったな、女子力の欠片もないメニューで」

 

 束の言葉に千冬はジト目で睨みながら束に続きを促す。

 

「でも、もしそこで『スタミナ焼肉定食』じゃなく『特上天丼』を選んでいたら?その選択で、もしかしたら世界は大きく変化するかもしれない。もしかしたらその選択がまわりまわって第三次世界大戦にまで発展するかもしれない」

 

「そんなバカな……」

 

「かなり大袈裟にいったところはあるけど、要は可能性の問題だよ。具体的な例を上げればそうだね……ちーちゃんの部下のあのおっぱい眼鏡の親がもしもその日ワインを一杯多く飲んでハッスルしていたら、彼女は男として生まれ、今頃有名なイケメン俳優になっていた」

 

「は?」

 

「先日バイク事故起こして泣く泣く引退したちーちゃんの好きな格闘家。彼のバイクのタイヤは実は力学的見地から欠陥があった。製造ラインで出た欠陥だけどほんの少しの誤差みたいなものだ。走行にはなんら問題はない。でも、あの日の路面の状況やその他の条件が重なってその微々たる欠陥が致命的になった。もしもその欠陥が無ければ今頃あの格闘家は今でもリングの上に立ってたよ」

 

「……………」

 

 束の言葉に千冬は呆然としている。

 

「奇跡って無いように思われるけど本当に起きるんだよ」

 

「………じゃあ、お前はその奇跡を起こすためにこの時代にやって来たって言うのか?」

 

「まあね」

 

 千冬の呆然とした言葉に束は頷く。

 

「だが、わからん。だとしたら、何故この時代の今日の〝アレ〟なんだ?」

 

 千冬は呆然と聞く。

 

「お前から今朝送られてきたメール『井口颯太宛に今日届く荷物を人知れず回収して調べろ。扱いには十分注意して』と言うアレ……一体何かと思いながら山田君に回収させて調べたら、荷物の中身は爆弾だった」

 

「…………」

 

 千冬の言葉に束はニコニコと笑いながら黙って聞いている。

 

「確かにあれが爆発していたらとんでもない騒ぎになっただろう。だが、どうしても腑に落ちない。――お前は、何故井口を助けた?」

 

 千冬はそんな束をジッと見つめながら訊く。

 

「無能で平凡な人間を嫌うお前が、〝凡人〟と蔑んで嫌っていたあの井口を何故救った?あの爆弾が後々大きな出来事を引き起こすとしても、お前が知的好奇心だけで忌み嫌う相手を助けるものなのか?」

 

「……………」

 

 千冬の問いに少し考えこんだ束は振り返るように視線を上へと向ける。

 そこには雲一つない秋の夜空に輝く満月が浮かんでいる。

 

「――私にさっきの作品を勧めたやつ、そいつは私のことを『引き籠りの寂しがり屋で世界一のボッチ』って言ったんだ」

 

 ぽつりとつぶやく様に束は口を開く。

 

「私のことを分かったような口ぶりであれやこれや言って人の踏み込んでほしくないところにずけずけ歯に衣着せない感じで踏み込んで来て、うざったいったらなかった……でも――あいつだけだった。私のことを『天災』でも、『ISの生みの親』でもなく、一個人の『篠ノ之束』として見てくれたのは。ちーちゃんですら気付いてくれなかった私の気持ちを見透かしやがった」

 

 千冬からは束の顔が見えない。だから千冬には今束がどんな顔で話しているのかわからない。

 

「そんなあいつは、自分の大切なもの、守りたいもののために世界に喧嘩売って、最後には持ってた大事なもののそのほとんどを失くした。世界から自分と言う存在を誤認させ『最悪の魔王』っていう虚像を作り上げるというおよそ平凡とは程遠い大それたことをやってのけ、そのまま世界中の悪意を全部背負って自分と言う存在を捨てた。そして、本当の自分を失くしたあいつは、およそ平凡とはかけ離れた人生を送ったあいつは、最後にはそこそこの幸せを掴んだ」

 

「……何の話をしているんだ?」

 

 束の言葉に千冬は訊く。

 

「ありえたかもしれない未来の話さ」

 

 そんな千冬に束は振り返りながらニッコリと微笑む。

 その笑みに千冬は驚く。その束の笑みは、間違いなく千冬がこれまでに見た中で束の浮かべる初めての慈愛にあふれた誰かを思いやる優しい笑みだった。

 

「きっとあいつはもっと別の未来を手に入れていたはずだったんだ――私はね、それを見てみたくなったのさ。あの凡人が凡人のまま終わる未来って言うのを、さ」

 

「束……」

 

「まっ!もはやそんなこと、この分岐した世界のちーちゃんには関係のない話だね~」

 

 まるで夢か幻だったように慈愛に満ちた笑みから一転、いつもの人を食ったような笑みに変わった束はケラケラと笑いながら言う。

 

「さて、私はそろそろ行くね」

 

 グ~っと伸びをしながら束は言う。

 

「あ、そうそう」

 

 踵を返して歩きだしぴょんと柵の上に軽やかに飛び乗った束は、ふと思い出したように振り返る。その様はほんの10センチにも満たない足場の上に立っているとは思えないほど軽やかだった。

 

「今回の世界の分岐はかなり危険な綱渡りだったんだけど」

 

「危険な綱渡り?」

 

「そう。お昼ご飯の内容を変えるのとはわけが違う。例えるならトップスピード出して走ってる新幹線を無理矢理外部から路線変更させるような力技だからね。世界にも時間にも与える影響は計り知れなかった。そのスピードのまま新幹線が脱線して大惨事になってたかもしれなかった」

 

「つまり……?」

 

「下手したらこの世界そのものが可能性の中から消えてたかもしれない。要はこの世界線の消滅だね」

 

「はぁっ!!?」

 

「大丈夫大丈夫。そうならないように事前に色々小さい可能性の変更をしたから。まあ最悪そうなってたってだけで、今はもうそうはならないから」

 

「お前は……」

 

 束が笑いながら言う言葉に千冬は頭を抱えてため息をつく。

 

「34にもなったなら、年相応の落ち着きと思慮深さを身に付けろ」

 

「変わらない私も魅力的でしょ?」

 

 酷い頭痛に悩まされたような顔で言う千冬にウィンクしながら束は答える。

 

「ただ、世界線の消失は免れたけど、やっぱりかなり強引な路線変更だからね。無視できるレベルのだけど、ちょっとしたバグが出てるかもしれない」

 

「ちょっとしたバグ?」

 

 束の言葉に千冬は首を傾げる。

 

「うん。大したものじゃないよ。ふとした瞬間にデジャヴを感じたり、ものすごくリアルな――まるで本当に体験したような夢を見たり、そんな感じ。まあ言うなれば〝本来歩むはずだった未来の残滓〟ってところかな?そういうモノを見る人がいるかもしれない」

 

「それを見ると何か問題があるのか?まさか最悪死んでしまうとか!?」

 

「あぁ、そういうモノじゃないから安心して。そう言う心配は一切ないっていうことだけ言いたかっただけだから」

 

「そうか……」

 

 一瞬頭を過った可能性に冷や汗をかいた千冬は束の言葉に安心して息をつく。

 

「だからまぁ、もしちーちゃんの周りでそう言うのを見たって人がいたら『何寝ぼけたこと言ってんだ?フハハハハ!』って笑って流してやって」

 

「私はそんなRPGの魔王みたいな笑い方じゃないぞ」

 

 不遜な態度で笑う束を千冬が睨む。

 

「………最後に一つ訊かせてくれ」

 

「ん?なぁに?」

 

 ため息をついてから真剣な表情に戻った千冬は束に訊く。

 

「8年後の未来……その時代の私はどうなっている?」

 

「ん?どう…とは?」

 

「その……なんだ……」

 

 千冬は首を傾げる束に少し照れたように頬を掻きながら

 

「未来の私には……その、いい相手はいるのか?結婚とか…な?」

 

「……………」

 

 千冬の言葉にポカーンとした表情を浮かべた束はすぐにクスリと笑い

 

「……禁則事項です♡」

 

 と、にこやかにウィンクしながら立てた人差し指を口に当て『秘密』とジェスチャーする。

 

「……は?」

 

「チッ……元ネタ知らない人にやっても滑るだけか……」

 

 イラっとした様子で睨んでくる千冬に束は舌打ちしながらボソリと呟く。

 

「まぁ訊かない方がいいと思うよ?私の世界とこの世界はもはや別の世界になったんだし、こっちのちーちゃんが到達した未来にこのちーちゃんがたどり着くとは限らないわけだし」

 

「……そうか」

 

 束の言葉に千冬は一応は納得した様子を見せて頷く。

 

「じゃ、今度こそ行くね。バイバ~イ。もう〝私〟と〝このちーちゃん〟がもう会うことはないだろうけど」

 

「そうか……じゃあな、束」

 

「うん。〝こっちの私〟によろしくね~」

 

 そう言って軽やかに一歩踏み出した束はそのまま下へと落下していく。

 ゆっくりと屋上の縁に歩いて行き柵越しに下を見た千冬だったが、そこには束がいた痕跡は一切残されていなかった。

 




と言うわけで、世界が分岐した理由がわかりましたね。
そうです、あの天災キャラの仕業でした。
今後のif√の分岐理由も基本この人のせいだと思ってください。
ちなみに今回の分岐条件は『織斑千冬が個人の行動で井口颯太に向けた爆弾を処理した』です。

ちなみに千冬と束の年齢は独自設定です。
原作でもちゃんと明言されてなかったんで(^-^;

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