海斗君の誕生日祝いの後編です。
さてさて、今回海斗君を祝うのは誰なのか?
ちなみに数時間前に中編を更新していますので、もしそちらが未読の方はそちらからどうぞ。
~パヴァリア三人組の場合~
「急に呼びたててすまなかったワケダ」
「いえいえ。どうせ暇してましたし」
歩きながら言うプレラーティの言葉に海斗は頷きながら苦笑いを浮かべる。
「ただまぁ、奇跡的に予定が何もなかったからよかったですけど、これからは前もって知らせてほしいっす」
「それに関してはこちらの連絡ミスだ。本当に申し訳ない」
海斗の言葉に同じく歩くサンジェルマンが言う。
「本当は前もって連絡し、アポを取るはずだったんだが……」
「その役だったやつがポカをして連絡を入れていなかったワケダ」
「その役だったやつ……それって今ここにいない……」
「ええ。カリオストロよ」
「あいつには罰として準備のほとんどを押し付けて来たワケダ」
「あぁ……それで……」
二人の言葉に本来ワンセットになっているもう一人がいない理由に合点がいったように頷く海斗。
「というか、ここの一室が三人の今の住まいなんですね」
「ええ、そうよ」
海斗が興味深そうに見渡すのを見ながらサンジェルマンが頷く。
三人がいるのは都内の某所に立つマンション。そのとあるフロアーである。高級と言うほどではないにしろ、通常のマンションよりはワンランク上のそれなりに家賃もするであろうその場所の廊下を目的の場所へと三人は歩いていた。
「まあ最終的に選んだのは私たちだが、いろいろと制約が多くて面倒だったワケダ」
「制約?」
「私たちはまともな生活ができる身ではない。日本政府や国連の監視もある」
「なるほど、大変ですね……」
「まあこうなることはわかっていたことだ」
「わかっていたうえで選んだ道なワケダ」
「そうっすか……」
二人の言葉に海斗は頷く。と、そんな話をしているうちに
「さ、着いたワケダ」
フロアーの中の一つ、目的のドアに着いた三人。ポケットから取り出したカギをドアに差し込みカギを開けるサンジェルマン。
「さ、どうぞ」
「はい、お邪魔します」
サンジェルマンとプレラーティに示され入る海斗。
しかし、予想に反して中は静かで人の気配はない。
「ん?おかしいわね?」
「おい、カリオストロ。戻ったワケダ」
首を傾げるサンジェルマンと呼びかけるプレラーティだったが、玄関から伸びる廊下はシーンと静まり返り、奥のリビングの扉への道中にいくつかあるドアからも件の人物が顔を出すことはない。
「おかしいわね。買い物に出ているのかしら?」
「でも靴ありましたよ?」
「他の部屋にでも居るワケダ?すまんが先にリビングに行っていてくれ」
「あ、はい」
プレラーティの言葉に頷く海斗は奥のドアへと向かって行く。サンジェルマンとプレラーティはそれぞれ他のドアを開けながら覗き込み呼びかけている。
「カリオストロさんどこ行ったんだか……」
言いながらリビングへのドアを開け――
「きゃぁぁぁ!」
途端にドアの向こうから黄色い悲鳴が聞こえる。
「もぉ!海斗君のエッチスケッチワンタッチィ!」
リビングの向こうにいたのは見慣れた露出の高い黒い服にそでを通さずいかにも着替えの途中と言った様子で胸元を隠すカリオストロだった。
「はぁ……居ないと思ったら、何をしているの?」
「まったく黄色く張り上げて馬鹿馬鹿しい」
そんなカリオストロに海斗の後ろからやって来た二人がため息まじりに言う。
「ほら。男の子が美女の家にやって来たんなら多少のエッチなイベントが起こるものじゃない?少なくとも彼の好きな漫画やアニメでは定番よ?」
「……………」
カリオストロの言葉にやれやれと言った目で見ていたプレラーティはため息をつき。
「咄嗟に『エッチスケッチワンタッチ』などと叫ぶやつが何を言っているワケダ。美女どころか中身はおっさんじゃないか」
「もうプレラーティ!こんな美女を捕まえておっさんとは失礼じゃない!」
「事実なワケダ」
文句を言うカリオストロだったがプレラーティはどこ吹く風で肩を竦める
「さ、いつまでもコントしていないでそろそろ座りましょう」
「賛成なワケダ」
「え?私放置?」
「そんな格好してないでさっさと服着なさい」
「は~い」
サンジェルマンに促されカリオストロが渋々袖に手を通す。
「さて、今日来てもらったのは他でもない」
気を取り直したようにカーペットの上に三人が並んで正座している。その正面に机を挟んで反対側に、同じようにした方がいいのかと正座で座る海斗。そんな中で気を取り直したようにサンジェルマンが口を開く。
「実は先日が君の誕生日だったのを小耳に挟んでな」
「どっから聞きつけたんですか?」
「うちの社長が他のやつと話しているのを聞いたワケダ」
「もぉ~!言ってくれればもっと早くに準備できたのに~!」
海斗の問いにプレラーティが答え、カリオストロがブーブーと文句を言う。
「そんなわけで君には世話になった。そのお礼も兼ねて誕生日を祝わせてもらおうと思った……んだが」
「一つ問題が出たワケダ」
「問題?」
「あーしたちって行動に制限があるじゃない?そのせいで自由に出かけられないのよぉ」
首を傾げる海斗にカリオストロが答える。
「別に無理にお祝いしてもらわなくても『おめでとう』って言葉だけで十分ですよ?」
「そうは行かないワケダ」
「君の口添えが無かったら、いまだ我々は塀の中で、もしかしたらそのまま一生を終えていたかもしれない」
「不自由はあるもののこうしてあーしたちがそれなりの自由を謳歌できるのも、君のおかげなのよ」
「少しでも君への感謝の気持ちを表しておきたいんだ」
「はぁ……そうですか……」
三人の言葉に海斗は頷く。
「そんなわけで我々は考えたワケダ」
「そうだ、店に行けないなら自分たちで用意すればいい、とな」
「そんなわけで今日は君を招いたってわけ」
「はあはあ、なるほど」
合点がいったらしい海斗は頷く。
「と言うわけでまずは我々で料理を用意した」
「まあほとんどはサンジェルマンが作ったワケダ」
「サンジェルマンって凝り性だから手の込んだ料理とか得意なのよね~」
「へ~、意外。サンジェルマンさん料理できたんですね。なまじテロリストだったわけだし身なりいいし外食とかが多いのかと思ってました」
海斗はその意外性に驚いたように声を漏らす。
「世界のためにと活動するうえで資金はいくらあっても足りない。無駄にできるお金はないわ」
「サンジェルマンってそういうとこ徹底するからねぇ~」
「料理をするときも食材は余さず使い、新聞に挟まれているスーパーのチラシでセールを行う商品とその時間帯を徹底的に調べ、付属している割引券は忘れずにチェックする。少しの無駄遣いも許さない見事な倹約家だったワケダ」
「何をするにも入念な準備と用意を周到に!真面目に地道な努力を積み重ね、いつの日か我々の本懐を遂げるために!と、活動していたわ」
「へ~……なんか世界に喧嘩売ろうっていう悪者だったわりに苦労人だったんですね」
「私たちは悪者ではない!正義の味方だ!ちょっと個性的な正義を振りかざす以上それくらいがちょうどよかったんだ!!」
海斗の言葉にサンジェルマンが何かが琴線に触れたらしく力強く言う。
「サンジェルマンさんって大体いつもこう?」
「まぁねぇ~」
「根が真面目な分スイッチが入るとかなりメンドクサくなるワケダ」
コソコソとサンジェルマンを指さしながら訊く海斗に二人は肩を竦めながら頷く。
「ンンッ!気を取り直して、君の誕生日を祝うためにささやかながら食事を用意させてもらったわ。待っていなさい、後は仕上げをするだけだから」
「手際がいいっすね」
立ち上がりキッチンに向かうサンジェルマンを見送る。と――
「さて、今のうちに私からのプレゼントも渡しておくワケダ」
「「え?」」
プレラーティの予想外の言葉に海斗が驚きの声を漏らす。が――何故かカリオストロまで驚きの声を漏らす。
「って、なんでカリオストロさんまで驚いてんすか?」
「だってあーし聞いてないし!ちょっとプレラーティどういうこと!?抜け駆けなんてずるいわよ!?」
「言っていなかったからな。誕生日を三人で祝うのに料理は主にサンジェルマンが手配し調理もほとんど一人で行っている。これを我々からのプレゼントと言うには些かどうかと思うワケダ」
カリオストロの言葉にプレラーティは素知らぬ顔で答える。
「と言うわけで私からのプレゼントはこれだ。受け取るといい」
「わぁお、ありがとうございます!」
プレラーティの差し出した紙袋を受け取る海斗。
早速開けてみると中から出て来たのは枕だった。
「言ったろう?私は三大欲求の追及に余念がない。『食欲』をサンジェルマンが満たすなら私は残りの二つのうちの一つ、『睡眠欲』なワケダ」
「うわぁ、なんか肌触りと言いクッション性といい、高いのがわかりますね」
「寝具にこだわれば質のいい睡眠を手に入れられるワケダ」
「ありがとうございます。ありがたく使わせていただきますね」
「ぐぬぬ~」
嬉しそうに微笑む海斗を見て悔しそうに歯噛みするカリオストロ。
「今回は三人でお祝いするって思ってたから個人的なプレゼントなんて頭からすっぽり抜け落ちてたわぁ!まさかプレラーティに後れを取るなんて!これじゃあまるであーしだけなにも用意してないみたいじゃない!」
「ふん。思考がそこまで回らなかったおのれの思慮の浅さを棚に上げているワケダ」
「ぐぬぬ~……こうなったら今からでもプレゼントを用意してやるんだから!」
「いや、無理しなくていいですよ。祝ってくれる気持ちがあれば十分ですから」
「い~えっ!これは乙女の沽券に関わることなの!君は大人しくあーしからのプレゼントを味わいなさい!――サンジェルマン!」
「なんだ?いったい何の騒ぎ?」
海斗の言葉に強い口調で宣言したカリオストロはキッチンへ呼びかける。
「もうそろそろ料理は準備できる頃かしら?」
「ああ、まあそうね。あと仕上げに盛り付けるくらいかしら」
「あ~らベストタイミング!サンジェルマン!その料理まだ盛り付けないで頂戴。お皿は私が用意するわ」
「お皿を用意する?いったいどういうワケダ?」
カリオストロの言葉に意味が分からず首を傾げるプレラーティ。
「サンジェルマンが『食欲』。プレラーティは『睡眠欲』。ならあーしは残った最後の三大欲求を担当するわ!」
「三大欲求の残りって……」
「『性欲』よ!」
そう言ってカリオストロはおもむろに服に手を掛ける。
「いやいやいや、何してんすか?なんでいきなり脱ごうとしてるんですか?」
「そりゃ脱がなきゃ女体盛りは出来ないでしょ!」
「「「は?」」」
海斗の言葉にカリオストロが力強く答える。が、その答えに三人は理解できないようで首を傾げる。
「女体盛り!女の体をお皿に料理を盛り付ける!これぞまさに『食欲』と『性欲』コラボレーションでしょ!サンジェルマンの料理をあーしの体に盛り付ける!君はそれを食べるのよ!あ、なんならそのままあーしのことをいただいちゃってもいいのよ?ウフッ♡」
「いい訳あるか」
「キャインッ!」
体をくねらせてウインクを飛ばすカリオストロだったが、プレラーティの力強いツッコみと言う名の後頭部への攻撃に地面に倒れ伏す。
「サンジェルマン、今すぐ布団を持ってくるワケダ。下手なことをする前にこいつを簀巻にしてしまおう」
「ええ、ちょっと待ってなさい」
「ちょっと!?それひどいんじゃない!?あーしは心から彼を祝おうと――」
「ちょっと黙ってるワケダ」
文句を言うカリオストロにプレラーティがさらに追撃してる間にサンジェルマンが布団を持ってきて、二人でえっちらおっちらカリオストロを布団で巻き簀巻状態にしてしまう。
「さて、この阿呆は放っておいて我々だけでいただくとするワケダ」
「ちょっと待ってよ!あーしこのまま!?それはいくらなんでもあんまりなんじゃない!?」
さっさと席に着くプレラーティに床に転がされたままカリオストロが叫ぶ。
「知るか。お前が女体盛りとかトチ狂ったことを言い出すのが悪いワケダ」
「だって何かしないとって思ったんだもん!それに『女体盛りには男の夢と浪漫が詰まってる』って言うじゃない?」
「あっ!そのフレーズ!さてはセレナ先輩に変なこと吹き込んだ犯人はカリオストロさんだったんですね!?」
「ちょっと待って!それは誤解!あーしじゃないわ!濡れ衣よぉ!」
カリオストロの言葉に思い付いたように言う海斗だったがカリオストロは慌てて否定する。
「あーしはそれを聞いただけ。君のお友達にそれを吹き込んだのはあーしじゃなくてうちの社長よ」
「はぁ!?」
カリオストロの言葉に海斗は思わず驚きの声を上げてサンジェルマンとプレラーティに視線を向ける。
「奴の言ってることは本当なワケダ」
「少し前から君の友人たちが会社に入れ代わり立ち代わり現れて社長に何やら相談していたんだ。私たちはそれをたまたま聞いたことで君の誕生日の件を知ったのよ」
「え?入れ代わり立ち代わり!?ってことはセレナ先輩以外にも兄さんに何か聞きに来ていたやつがいるんですか!?」
「他にもと言うか」
「『S.O.N.G』にいる操縦者どもは軒並み来ていたワケダ」
「えぇぇぇぇぇ!?」
予想外の言葉に海斗の絶叫が響き渡ったのだった。
「あの~、ところであーしはこのままなわけ?」
~???の場合~
「おいこらテメェの仕業かクソ兄貴!!」
扉を蹴破るように飛び込んだ海斗は開口一番に叫ぶ。
「人のことを!ずいぶん気やすく呼んでくれるじゃァないか!」
「うるせぇ!どこのブランドーのつもりだこの野郎!」
読んでいた本を閉じて椅子から立ち上がった部屋の主、朽葉ハヤテにして井口颯太のどこか演技がかった言葉に海斗がツッコむ。
「すごい剣幕だね」
「なんだよ?何怒ってんだ?」
「シャルロット姉さんとクリス先輩聞いてくださいよ!このクソ兄貴、僕の友達や先輩たちにテキトー吹き込んでしっちゃかめっちゃかしてやがったんですよ!」
「「あぁ~……」」
海斗の言葉にしかしその剣幕に対して二人は「そのことか~」とでも言わんばかりに納得の表情を浮かべる。
「おいおいちょっと待ってくれよ我が弟よ。誰がいつ誰に対してテキトー吹き込んでしっちゃかめっちゃかにした?」
「しらばっくれんじゃねぇよ!」
海斗は言いながら手近にあったソファーのクッションをひっつかんで投げつける。と、それは颯太へ向かって飛んで行き
「うぉぉ……!」
胸に当たり、颯太が苦しげにうめき声を上げる。
「そりゃ…ないぜ……相棒……」
と、颯太が胸を左手で抑えたまま震わせながら右手を伸ばして悲し気に言う。
「イッアッウッ!ウッアッイッ!」
颯太は苦しげな呻き声を上げながらよたよたと海斗に歩み寄り
「ウゥ~…ウァァァ~!」
そのまま海斗に向かって倒れ込む。突然のことに咄嗟に海斗はそんな颯太を右腕で受け止める。
「アァ……」
そのまま颯太は海斗の胸元にしがみ付き吐息を漏らしながら悲しげに表情を曇らせて口を開く。
「しっかり抱いて……ハッハッハッハッハッ……あたしもうダメ……」
息も絶え絶えな様子でそう言った颯太は海斗から顔を背け
「エホッ!エホッ!エホッ!エホッ!」
咳をし、また海斗へ顔を戻す。
「エムおばさんによろしく伝えて……」
今度は先ほどより幼い雰囲気の声でそう言うと
「アハッ!アハッ!アハッ!アハッ!」
また顔を背けて咳をし、海斗へと視線を戻す。
「今年のクリスマスには帰れないわ……」
今度は鼻にかかるような女性っぽい喋り口調で言い
「エハッ!エハッ!エハッ!エハッ!」
またまた顔を背けて咳をし、海斗へと視線を戻す。
「スカーレットに伝えてくれ……愛している、と……」
今度は野太い芯のある声で言うと
「ブアハァッ!ブ~――アァゴメン」
今度は顔を背けず海斗に向けて大きく咳き込み、そのまま白目を剥いて仰け反るように海斗の腕の中で倒れる。
と、そんな颯太に向けて横合いから人が立ったようなトロフィーがパッと差し出される。それを見た颯太は一瞬でパッと表情を明るくさせ
「っ!っ!――ありがとぉ!」
どこかへと、まるで自分を見ている大勢の誰かがいる様にお礼を言いながら笑みを浮かべ、そのトロフィーを愛おし気に持ちながらまるで涙を堪える様に何度も瞬きをする。
「っ!っ!私は心からみなさんに愛されてるのねぇ!あぁっ!あっ!ンマッ!」
嬉し気に笑いながら投げキッスを一つし、そのまま退場するようなそぶりを見せ
「アァ、コッチ?」
まるではける方向を間違えたことを誰かに指摘されたように小声で何か言いながらにこやかに扉に向かおうとして
「なんじゃこの茶番は!?」
寸でのところで海斗に腕を掴まれ引き戻される。その勢いのまま颯太は床にしなだれる様に倒れる。
「僕が訊きたいのはそんな三文芝居じゃなくて兄さんがぜぇぇんぶ今回の件で糸引いてたって言う自供だよ!!」
海斗の言葉に床に倒れる颯太は顔を上げ
「違うぅ!あたしじゃないわぁ!犯人はムキムキの男よぉ!」
と、なよなよとした口調で叫ぶ。が、すぐにすくっと立ち上がり
「えぇ~い、こうなったらヤケだ!そうとも俺だ!俺がお前のお友達たちの相談に乗ったんでぇい!」
そう威勢よく言った。が、すぐに目の前の海斗の足元にひざまずき両手を合わせて
「あたしはこれからどうなるのぉ?あたしはどうなるんでしょぉぉ!?」
海斗に懇願するように言う。
そんな颯太を見ながら海斗は
「たく…相変わらずその映画好きだね兄さん」
「見過ぎて台詞覚えちゃったよ」
ため息をつきながらジト目で言う海斗の言葉に颯太もニッと笑いながら答える。
「シャルロット姉さん普段からこれやってんの?タイミングと言いなんと言い、こんな丁度いいトロフィーまで用意して……」
「あはは……最近は私もちょっと楽しくなってきた」
「お前はいいだろ、今回だけなんだから。あたしなんか毎回この茶番見せられてるんだからな?」
海斗の言葉に苦笑いを浮かべるシャルロットと、やれやれと言った様子の海斗にうんざりとした表情のクリスが言う。
「で?結局黒幕は兄さんだったってことでいいのね?」
「黒幕とは失敬な。俺はあくまでアドバイスしただけでお前のお誕生日をお祝いしようと思ったのも、俺のことを頼ってきたのも、全部彼女たちの選択だ」
海斗の言葉に颯太は答える。
「もしそうだったとしても、他にアドバイス無かったの?メイド服とかチャイナとかナースとか水着とかマイクロビキニとか裸エプロンとか女体盛りとかさぁ……」
「お前の言わんとすることはわかる。でもなこれにはマリアナ海溝よりも深い理由があってな」
「ほう?聞こう」
颯太の神妙な様子での言葉に海斗は同じく真剣な表情で頷く。そんな海斗に颯太は
「あいつらはそれぞれ、ツヴァイウィング、マリア、響と未来、切歌と調、セレナの順番で俺のところに訊きに来たんだがな?」
「うん」
「お前も気付いているとは思うが、彼女たちはお前のことを大なり小なりLIKEかLOVEかの違いはあるだろうが、お前を憎からず思っている」
「黙秘」
「うん。その答えは予想通りだ。そこをツッコむと面倒だし脇に置いておく。まあとにかくさ、俺はこの機会にお前と彼女たちの関係が少しでも進展してほしいと思ったんだよ」
「余計なお世話だけど、それも言い出すとキリ無いから僕も黙っとく」
「うんうん。それでね?俺は余計なおせっかいはわかっているが、それでも彼女たちの相談に乗ることで少しでもお前が幸せになる方向に行ってくれないかと、思案し少しでも助けになろうと意気込んだわけですよ」
「うんうん」
「でもね?計五回、別々に違うタイミングでそれぞれから相談されるとね……なんか、後半かったるくなってきてさ……」
「うんう――ん?」
「内容も同じなわけだし一気に全員で訊きに来てくれれば楽なのになんて思いつつ、でもまあせっかく頼ってきてくれたわけだし彼女たちのペースに合わせるべきかとも思ったのさ、最初の方は」
「う~ん?」
「でもなんかどの子も攻めあぐねてるし、見てるこっちとしてはヤキモキするし、考えに考えた末に俺は」
「うん」
「面倒なのでちょっと強引にいってみようかと思ってちょっと過激めのアドバイスしてみました」
「何故その思考にいたった!?」
テヘッと舌を出す颯太に海斗が絶叫する。
「過激な誕生日祝いで関係が進めば御の字。お前が強靭な理性でこらえてもそう言う過激な手を取った人物がいるという事実が他の子に伝わればそれが焦りとなり彼女たちの気持ちに変化が出るかもしれない。少しでもそれが状況の変化をもたらすことになればと思ってね」
「………で?本音は?」
「見ててつまらないからちょっと面白くしようと思って。あとあんな美少女たちにあれこれしてもらえるって思うとなんか腹立たしかった。だから、むしゃくしゃしてやった。後悔はしてない」
「だろうと思った……さすがだよ兄さん。相変わらず兄さんはクズ中のクズだね」
「ハッハァ~!よしてくれないかぁ~?本当のことをストレートに語るのは」
海斗の辛辣な言葉に颯太は朗らかに笑いながら言う。
「で?どうだった?感想は?」
「……黙秘」
「あっそう」
ニヤニヤと笑いながら訊く颯太だったが、海斗はそれにそっぽを向いて言う。が、それも颯太にとっては予想通りだったのか大して困った様子はない。むしろ――
「黙秘するってことは、それなりに感じるものはあったわけだな」
「っ!」
「さてさて、彼女たちの誰がお前との関係を進められてるのかね?」
「他人事だと思って面白がりやがって……」
「面白がられるのが嫌なら簡単だ。正直になれ。でなきゃ俺みたいになるぞ?」
「へいへい。その話は前にも聞いた。お前は俺みたいになるな、だろ?」
「そういうこと」
ため息をつく海斗に楽し気に笑う颯太。
「まあ悩めよ少年」
「うるへー……」
ニヤニヤと笑う颯太に海斗は顔を顰める。
「まあそうへそを曲げんなよ。ほい、これやるから」
「ん?」
颯太の差し出す紙袋に首を傾げる海斗。
「何これ?」
「誕生日プレゼント」
「え……?」
「おいおい。何も用意してない薄情な兄貴だとでも思ってたのか?ショックだね~」
驚く海斗に冗談めかして颯太は肩を竦める。
「まあ気に入らなかったら売るなり人にやるなりしろ」
「じゃ、じゃあ遠慮なくもらっとく……」
フリフリと手を振りながら言う颯太の言葉に海斗はおずおずと頷く。
何とも言えない表情を浮かべつつ、その顔はどこか嬉しそうに微笑んでるように見えた。が――
「ちなみにそれは今後のお前らへの見物料込な」
「はぁ!!?」
ニッと笑いながら言う颯太の言葉にそんな海斗の笑みもしかめっ面へと変わったのだった。
――その後
「いいですかみんな?うちの兄貴は基本的にアホでバカなクズです。選択肢に迷ったらとりあえず面白いことになりそうなこと選ぶ快楽主義者です。今後あの人になんか相談してアドバイス貰っても、絶対に、ぜぇぇぇったいに鵜呑みにしないでください!ホントに!お願いですから!」
と、仲間たちに全力で拝み倒す海斗の姿があった。
そして、そんな海斗の寮の部屋、そこに置かれた本棚に並ぶフィギュアのコレクションの中に、一つ、新たなモノが一番中心のよく見える位置に飾られるようになった。
と言うわけで海斗君のお誕生日の祝いの番外編でした。
正直お気に入り件数はもうこれ以上伸びないかな?と思っていたので3900件を超えるとは思いませんでした。
ここまで読んでいただいている読者の皆様、本当にありがとうございます。
本編は少し前に終わりましたが、if√としてお話はもう少し続きます。
今後とも応援よろしくお願いします。