クリスマスの番外編を書こうと思いましたが、よく考えたら本編で颯太君と刀奈さんの関係があやふやなままだと描きずらいのでこっちから進めます。
そんな訳で最新話です。
クリスマス番外編は近々更新しますのでお楽しみに!
先日福引で遊園地のペア無料チケットを手に入れた俺は、さっそく寮に帰ると刀奈さんを誘った。
刀奈さんは二つ返事でOKした。
そして、その二日後の日曜日、つまり今日、俺たちは遊園地へとやって来て――
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ジェットコースターで歓声を上げていた。
手始めに乗ったのは絶叫系の超速ジェットコースターだった。
「「ふぅ~……」」
ジェットコースターから降りると二人そろって息を吐く。
「なんか面白いっすね。普段乗ってるISの方が圧倒的に早いのに、こっちの方が恐怖感ありましたね」
「確かにね。やっぱISの方がかかる風圧とか衝撃とかを消してくれてるからじゃない?こっちはもろに風を受けてるんだから」
「あ、なるほど」
刀奈さんの言葉に俺は納得して頷く。
「さ、次行きましょ?何がいいかしらね?」
「え~っと、それじゃあ……」
刀奈さんの言葉に俺は園内の地図を取り出し次の目的地を探す。俺の隣では刀奈さんが自然な動作で左腕に組みながら地図を覗き込む。
「よし、近いところから攻めていきましょう!」
「オッケー!」
俺の言葉に頷いた刀奈さんとともに俺たちは一番近いアトラクションを目指す。
その後は――
――コーヒーカップでは
「それそれそれそれ~!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
刀奈さんがハンドルをぶん回すのを必死にしがみ付きながら楽しみ
――お化け屋敷では
「きゃー、おばけこわ~い。たすけてそうたく~ん」
言いながら刀奈さんが俺に抱き着く。抱き着くのだが
「あの、演技するならせめてもうちょっと台詞に感情入れてくださいよ。かなり棒読みでしたよ」
「あら?ダメだった?こういう時の定番だと思ったんだけど」
「そう言うのいいんで普通に楽しみましょうよ。あとおっぱい当たってますよ」
「当ててるのよ」
「…………」
「まあ颯太君が普通でいいなら――」
「まあ定番は大事ですね。うん、大事大事。というわけで現状のままで行きましょう」
「颯太君のそう言う欲望に正直なところ大好きよ」
お化けよりも右肘に当たる柔らかな感触を楽しみ
――遊園地内のレストランにて
「はい、颯太君。あ~ん」
「何しれっと当然みたいにあ~んしようとしてるんですか?」
「いいじゃない。デートなんだからこれくらい。ほらほら、あ~ん」
「……あ~ん」
「どう?」
「うん、普通に美味しいです」
「普通って……こんな美少女に食べさせてもらったんだから美味しい料理が10倍100倍に美味しくなったよって言えないの?」
「いや、だって普通ですよ。刀奈さんが作った料理の方が美味しいです」
「そ、そう…へ、へ~……ふ~ん……」
「……何ニヤニヤしてんですか?気持ち悪いっすよ」
頬を赤く染めてニヤニヤニヨニヨする刀奈さんに首を傾げながら食事を楽しんだ。
――そして
「うわぁ……綺麗ね」
俺と刀奈さんは小さなゴンドラに向かい合って座っていた。
一日遊び倒した俺たちは二人で沈んでいく夕日を少しずつ登っていく観覧車のゴンドラの中から眺めている。
遊園地の名物である巨大観覧車のだいたい4分の1くらいの高さまで来たとき
「今日は楽しかったわ」
刀奈さんが微笑みながら言う。そして
「それで?今日はどうして私を遊園地に誘ってくれたの?」
俺を見据えて訊く。
「………刀奈さんに訊きたいことと聞いてほしいことがあります」
「何かしら?」
俺の問いに微笑みを崩さず刀奈さんが首を傾げる。
「まず訊きたいことから……刀奈さん、あなた、俺に隠してることがあるでしょ?」
「隠してること?」
刀奈さんはとぼけたように肩を竦める。が――
「いつ行くんですか?」
「行くってどこへ?」
「女性権利団体への告知無しの監査です」
「………誰から聞いたの?」
俺の言葉に刀奈さんは俺の言葉に一瞬困惑を滲ませながら、すぐに微笑みにその驚きを隠して問う。
「織斑先生から聞きました」
「そっか……言わないように口止めしたんだけどなぁ~」
「半分以上先生のうっかりミスでポロッと教えてくれました」
「織斑先生~……」
俺の言葉に刀奈さんはため息をつきながら額に手を当てる。
「……再来週の月曜日よ」
ため息とともに呟くように刀奈さんは言う。
「その監査がこの間三日くらいご実家に帰ってるときに決まったことなんですよね?」
「ええ。最近あの団体は怪しい動きを見せていたからね。私も一応更識家の人間として同行することになったわ」
「そうですか」
「それで?それがどうかしたの?」
問いかける刀奈さんに俺は意を決し
「それ、俺も同行させてください」
「……どうして?」
「だって、俺から始まったんですよね、その監査は」
「……それも織斑先生がうっかり?」
「はい」
「そう……お~り~む~ら~せ~ん~せ~い~……」
俺の返事に頷いた刀奈さんは大きくため息をつきながら頭を抱える。
「その様子だと、全部聞いちゃったのね?」
「はい」
「相川清香ちゃんが〝転校〟した理由も?」
「………はい」
「そう……」
俺の返事に刀奈さんは少し考え
「そうね、ならもう隠すことは出来ないわね」
頷いた刀奈さんは真剣な顔で俺を見据え
「そうよ。君の言うとおり、今回の監査の引き金は君へ仕掛けられた女性権利団体による攻撃よ。まあ被害がなかったとはいえ、それを実行した証拠も揃ってる。実行犯もこっちが押さえている。彼女たちも言い逃れできないわ」
「でしょうね」
「だから、私が同行するのはあくまでも保険。危険があるわけじゃ――」
「嘘、ですね」
「っ!」
言葉を遮って行った俺の言葉に刀奈さんが一瞬息を飲み
「う、嘘なんて――」
「ならどうして黙ってたんですか?」
「それは……」
「俺に攻撃された自覚をさせないため?『更識』への仕事、家業だから?俺に余計な心配を掛けたくなかったから?――違いますよね?俺が知ったら、確実に一緒に行きたいって言うことがわかってたんですよね?そして、あなたは俺に着いて来てほしくなかった。……危険だから」
「…………」
刀奈さんは言葉に詰まった様子で言い淀む。
「あなたがしようとしているそれは、危険が伴うんだ。だから俺に教えなかった。――そうですよね?」
「……ええ、その通りよ」
刀奈さんは観念したように頷く。
「女性権利団体は大手で、国連や各国への影響力を持つ団体よ。正直前々から怪しい動きは多かったけど上手く立ち回られてなかなかそのことへの追及ができなかった。でも、今回は証拠が揃ってる。さすがにこれを躱すことは出来ないわ。ただ――」
「ただ?」
「颯太君の言う通り、この仕事には危険が伴う。証拠が揃ってるからってあの団体が大人しくお縄に着くとは限らない。何かしら抵抗を見せるのはまず間違いないわ」
「ならやっぱり戦力は多い方が――」
「でもだからこそ、あなたは連れて行けない」
「……どうして?」
刀奈さんの言葉に俺は問う。
「女性権利団体はもともと君を標的にしていた。そんな颯太君を一緒に連れて行くことは出来ないわ」
「でも俺当事者なのに」
「当事者だからこそよ。君を連れて行けばやつらはきっとどさくさで君を狙うわ。そうなったら私はあなたを守り切る保証はできない」
言いながら刀奈さんは優しく微笑む。
「だから、あなたには安全な場所にいてほしい。私が帰って来るのを待っていてほしい。私の帰る場所でいてほしい」
「…………」
刀奈さんの言葉に俺は少し黙り口を開く。
「え、嫌ですけど?」
「はい?」
俺の言葉が予想外だったのか、刀奈さんが呆けた顔をする。
「だって、俺にこの件に関わってほしくないのも、俺が危険な目にあってほしくないのも、俺に帰る場所でいてほしいのも、全部刀奈さんのわがままじゃないですか」
「え、いや……そうだけど……」
「だいたい刀奈さんはずるくて勝手ですよ。逆の立場だったら絶対納得しないじゃないですか」
「そ、それは……」
「刀奈さんできますか?俺が刀奈さんが当事者の事で刀奈さんを除け者にして危険なことしようとしたら、絶対ついて来るでしょ?意地でもついて来るでしょ?」
「うん、絶対行くわ」
刀奈さんが納得したように頷く。
「俺も一緒なんですよ、刀奈さんと。自分の大事な人が、自分の知らないところで、自分のせいで傷つくかもしれない。そのことがたまらなく嫌で嫌で仕方ないんです」
「颯太君今、私の事を大事な人って……」
俺の言葉に刀奈さん目を見開く。
「刀奈さん、聞いてもらってもいいですか?あなたにどうしても伝えたいことがあるんです」
俺は言いながら刀奈さんの前に跪く。
「刀奈さん、俺、あなたのことが好きです」
「っ!」
跪き見上げる俺に刀奈さんは息を飲む。
「はじめはただの師としての尊敬でした。でも、いつしかそれが尊敬って言葉じゃ納まらなくなって、師として以上に大切な存在になっていました。でも、俺はずっとその事実に気付かなかった。――いえ、気付かないフリをしていたんです」
俺は言いながら自嘲気味に笑う。
「自覚したきっかけはつい最近、あなたから受けた宣戦布告です。あの時、あなたに好きだって言われて、俺、戸惑ったけど、嬉しかったんです。そこから刀奈さんに毎日お弁当を作ってもらって、それがどんどん俺の好みになっていくのが嬉しかった。俺のことを見てくれてるって、俺のことを知ってくれてるって、知ろうとしてくれていることが嬉しくて、俺ももっともっと刀奈さんのことが知りたくなった。そして気付きました。俺は、あなたのことが好きです。大好きです。愛してます」
「颯太君……」
刀奈さんは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「だから、刀奈さん。俺と……俺と……」
「……………」
俺は最後の、一番大事な言葉を発することへの緊張で言い淀む。そんな俺に期待を込めた視線を向ける刀奈さんの表情に俺は心の中で奮起し
「刀奈さん、俺と……俺と、結婚して下さい!!!」
「はい、喜んで……って――えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
俺の一大決心とともに発した台詞に刀奈さんは頷き――直後大声で驚きの声を上げる。
「け、け、け、結婚!?」
「はい、結婚してください。俺の伴侶になってください。奥さんになってください」
「いや……えぇ~……?」
俺の言葉に刀奈さんは戸惑いを隠せない様子で首を傾げる。
「俺と、結婚はしたくないですか?」
「い、いやそう言うことじゃないのよ!?むしろしたい!超したい!颯太君以外とは考えられないくらい私も颯太君のことが好きよ!ただ……なんというか、交際すっ飛ばして結婚?」
「はい。なんて言うか、俺、刀奈さんの料理で胃袋と舌を掴まれちゃったから、正直他の人のごはんで満足できなくなったんですよ。これからも毎日でも食べてたい。だったらもう結婚するしかないかなぁって」
「そ、そう……」
俺の言葉にまんざらでもない様子で嬉しそうに微笑む刀奈さん。
「あ、結婚してくださいとは言いましたけど、さすがに今すぐじゃないですよ?二人ともまだ学生ですし、何より法律上男は18歳まで結婚できませんし。なのであくまで婚約ってことで。まあいわば『結婚を前提とした交際』ですね」
「いや、それはわかるんだけど……」
「あ、ちなみにちゃんと〝これ〟も用意してますよ」
言いながら俺はポケットから小さな箱を取り出す。
「それ、まさか!?」
驚く刀奈さんの前で箱をパカリと開ける。
そこには真ん中に光り輝くダイヤののった銀色のリングが納まっていた。
「婚約指輪です。ちゃんと給料三か月分のを用意しました」
「っ!」
箱から取り出した指輪を刀奈さんに見えるように掲げる。指輪と俺の顔を交互に見る。
「俺はこれからも刀奈さんと一緒にいたい。ずっと一緒に歩んでいきたい。だから、受け取ってほしいです」
「……………」
俺の言葉に少し悩むそぶりを見せた刀奈さんは、間を空けた後、スッとその左手を最出した。
「え?」
「着けてよ」
驚く俺に照れたようにそっぽを向きながら左手をさらに示す刀奈さんの真意に気付いた俺は頷き、そっとその手を取って指輪をその薬指に添え、指輪を通していく。
「なんでサイズ知ってるの?いつの間に測ったの?」
「虚先輩に協力してもらいました」
「そう」
話しているうちに指の付け根まで指輪が納まる。聞いていた通りのサイズでぴったりだったらしい。
「……これで」
「そうね。うん、『婚約』かしらね」
「それじゃあ……」
期待で顔を綻ばせる俺に照れてそっぽを向いていた刀奈さんは顔を真っ赤に染めながら視線を俺に向け
「ちゃんと幸せにしてね、ダーリン♡」
「っ!は、はい!もちろんです!」
刀奈さんの言葉に俺は全力で頷いた。
「それで、あの、この指輪は俺の決意でもあるんです」
「決意?」
俺の言葉に刀奈さんが少し首を傾げる。
「俺はあなたのことが好きだ。だから、この指輪に誓って俺はあなたを守りたい。刀奈さんが危険な場所に行くのなら、俺もついて行って二人でちゃんと戻って来たい」
「颯太君……」
「だから、お願いです。今度の女性権利団体への監査、俺も連れて行ってください!」
「……………」
俺の言葉に刀奈さんは黙って俺の顔を見て
「はぁ……私の負けね」
大きくため息をついた。
「惚れた弱みかしらね。前に颯太君の貸してくれた漫画では先に告白した方が負けってなってたのに」
「告白した云々はともかく刀奈さんの方が先に宣戦布告したんですから実質刀奈さんの方が先に思いを伝えたってことになるんじゃないですかね?」
「………あぁ!!」
俺の言葉に今更気付いたように刀奈さんが声を上げる。
「そっか、つまりあの宣戦布告の時点で私の方が惚れた弱み、負けだったわけね」
「恋愛関係に勝ち負けがあるかはよくわかりませんけど、たぶんそうですね」
肩を竦める刀奈さんに俺は笑う。
「わかった、あなたが監査に参加できるように進言するわ。たぶんなんとかねじ込めると思う。私と同じ担当にできるようにするわ」
「はい、よろしくお願い――」
「――ただし」
俺の言葉を遮って刀奈さんは俺を指さし
「できるだけ私があなたを守るわ。でも、戦いの場では何が起こるかわからない。だから、無茶だけはしないで。ちゃんと元気に戻って来ましょ?」
「はい」
「あと、さっき言ってたことも忘れないでね」
「さっき言ったこと?」
刀奈さんの言葉に俺は首を傾げる。
「私のこと、守ってくれるのよね?」
「ああ……」
「あなたの事は私が守る。だから、私のことはあなたが守ってね」
「はい、もちろんです。あなたの事は俺が絶対に守ります。命に代えても」
「だから無茶しちゃダメなんだってば」
「あ、そうでした……」
刀奈さんは俺の言葉に楽しそうに微笑んだ。と、そうしているうちに観覧車は一番上まで来たらしく
「すごい……」
俺たちの視線の先には少しずつ夕日と夜の闇のちょうど中間、紫がかった空と建物に灯り始めた街の明かり、そして、遊園地の明りが煌めいていた。
「そう言えば、お化け屋敷で定番は大事って颯太君言ってたわよね?」
「え……?はい、言いましたけど……」
並んでゴンドラの窓から外を見ていた俺たち。そんな中突然の刀奈さんの言葉に俺は首を傾げる。
「夕暮れの遊園地、ゴンドラに二人きりの恋人たち、美しい外の光景を見ながらロマンチックな雰囲気、これもまた定番のパターンよね?」
「それは……」
「じゃあ、この後の定番は?」
微笑みながら訊く刀奈さんの言葉に俺はその言わんとすることを理解する。でも、正直こんなシチュエーション、彼女いない歴=年齢だったインドアでオタクな俺にはハードルが高い。ハードルって言うかもはやハイジャンプレベルだ。そんなもん一息に飛び越えられるか!
しかし、俺の葛藤とは裏腹に刀奈さんはそっと目を閉じ、顔を唇を突き出すように少し上向き加減に傾ける。
「っ!」
「ほら、女の子に恥かかせるものじゃないわよ、ダーリン♡」
俺は刀奈さんの言葉にゴクリとつばを飲み込み
「えっと、それじゃあ……」
俺は意を決し刀奈さんの肩に手を置く。
「刀奈さん……」
「颯太君……」
そのまま俺は刀奈さんの方へと顔を寄せていく。
視界の端では夕日に照らされてゴンドラの床に俺たちの影が浮かんでいる。その影が少しずつ近づいて行き、やがて一つに重なったのだった。
ちなみに「P大作戦」のPは「プロポーズ」のPです。