IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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ifⅠ-8話 記者会見

 明けて月曜日。俺はさわやかな気持ちで目覚めた。

 ルンルンで朝の支度をし、学校に向かう。

 土曜日までと同じ風景なのに輝いて見える。世界はこんなにも美しい。

 

「おっはよ~!」

 

 さわやかな気持ちのまま教室に入る。

 

「おう!おはよう、颯太!」

 

 と、先に登校していた一夏たちが応じる。

 一夏の他には箒、セシリア、鈴、ラウラがいた。

 

「どうしたんだ?」

 

「ん?何が?」

 

 自分の席にカバンを置き一夏たちと合流した俺は箒の言葉に首を傾げる。

 

「いや、なんだかすごく機嫌がいいからな」

 

「そう?」

 

「そうですわよ。すごくニコニコしていますわ」

 

「えぇ~?ホントにござるかぁ~?」

 

「うっざ!!」

 

 セシリアの言葉にニコニコ笑いながら答えた俺に鈴が鬱陶しそうに言う。

 

「これは相当いいことがあったんだな」

 

「もったいぶってないで教えろよ」

 

「えぇ~?どうしても聞きたい~?」

 

『うっざ!!』

 

 ラウラと一夏の言葉にもったいぶる俺に今度は全員が口を揃えて言う。

 

「う~ん、あのねぇ~?あのねぇ~?実はねぇ~――」

 

 五人の問いに俺は言いかけ――そこでふと気付く。

 この場にシャルロットはいない。しかし、俺が刀奈さんと付き合うことになったことを言っていいのか?無論言わないわけにはいかない。だが言い方を考えなければむやみに傷つけることになるのではないか?

 

「何か急に黙ったな?」

 

「さっきまでの笑顔が一変して難しい顔になりましたわね」

 

「もったいぶってないでさっさと言え」

 

 俺の顔を見て一夏とセシリア、箒が言う。

 

「あぁ~……いや、そのだな?なんと申しますか……」

 

 五人の視線を受け、俺はどう言ったものかと考え、言葉を選んで口にしようとして――

 

「ちょっと颯太ぁ!」

 

 と、教室のドアから誰かが俺の名前を呼びながら駆けこんできた。

 見るとそこに立っていたのはシャルロットと簪だった。

 

「お、おう。シャルロットに簪、おはよう。いったいどうしたんだ?」

 

「どうしたもこうしたもないよ」

 

「颯太からも言ってあげて…お姉ちゃんがいい加減鬱陶しいの…」

 

「へ?」

 

 二人の言葉に首を傾げる俺だったが

 

「みんな~!おっはよ~!」

 

 その後ろから刀奈さんが超ハイテンションでやって来た。

 

『お、おはようございます……』

 

 突然の刀奈さんの登場に教室にいたクラスメイト達が呆然と挨拶を返す。

 

「ん~?みんなぁ元気ないぞ~?月曜日なんだからもっと元気に行きましょう~♪」

 

 言いながらスキップで窓辺により

 

「ほら、今日もこんなにいいお天気なんだから元気がないともったいないぞっ♪」

 

『…………』

 

 刀奈さんの様子に全員がポカーンと呆ける。

 

「え?どうしたの、楯無さん?颯太以上になんかウザいんだけど?」

 

「いつも変だが今日は輪をかけて変だな」

 

 鈴とラウラがコソコソという。

 

「昨日の夜からずっとこの調子なんだよ」

 

「颯太、何とかして…」

 

「え、なんで俺!?」

 

 げっそりとした二人にふられる俺。

 

「だって彼氏でしょ!?」

 

「お姉ちゃんがああなったのは颯太と付き合ったからなんだから颯太がなんとかしてよ!」

 

「えぇ~………ん?待って」

 

 二人の言葉にため息をつき、直後二人の言葉の内容にハッとする。

 

「なんで知ってるの!?」

 

「何が?」

 

「俺がかt――楯無さんと付き合うことになったことだよ!」

 

「そんなの昨日お姉ちゃんが自分で言いに来たからに決まってるでしょ…」

 

「それからずっとあの調子……どうにかして」

 

「俺今それどころじゃないんだけど。いろいろ衝撃的過ぎてどうしていいかわからないんだけど……」

 

「いやいやいや!!衝撃的なのはこっちなんだけど!?」

 

 ため息をつく俺に一夏が叫ぶ。

 

「楯無さんと付き合ったのか!?いつ!?」

 

「昨日」

 

『昨日!!?』

 

 箒の問いに答えた俺に一夏たちだけじゃなく話を聞いていたクラスメイト達が全員叫ぶ。

 

「というか付き合ったんじゃなくて婚約したんでしょ?」

 

『婚約ぅ!!?』

 

 シャルロットの言葉に再び全員が叫ぶ。

 

「じゃあ何!?あんた結婚すんの!?」

 

「まあ将来的にはね。今は俺の年齢が法律的に無理だし、学生の間は彼氏彼女かな」

 

『……………』

 

 俺の言葉に全員が呆然とし

 

「大変!!大ニュースよ!!すぐに準備しなきゃ!!」

 

「新聞部に連絡!!」

 

 直後クラスメイト達が大慌てで駆けだす。

 

「え?ちょっと待って。今不穏な言葉聞こえた。新聞部に連絡したらあることないこと書かれそうなんだけど?それ以前に一瞬で学園中に知れ渡るじゃん!」

 

「新聞部が介入しなくても知れ渡るんじゃありませんの?」

 

 叫ぶ俺にセシリアが言う。

 

「ほら、颯太。諦めて成り行きを見守れ。どうせなる様にしかならん」

 

「お前悟りでも開いたように落ち着いたセリフだけど、完全に他人事だもんな」

 

 箒が俺の肩にポンと手を置きながら言う言葉にため息をつく。

 そして、あれよあれよという間に準備は進み、気付けば俺と楯無さんは

 

「えぇ、それではただいまより緊急記者会見を始めまーす」

 

 司会席に立ったのほほんさんの言葉に目の前に集ったクラスメイト達と新聞部とその他学園の生徒たちが興味津々の様子で俺たちに視線を向け

 

 パシャパシャパシャパシャ

 

 大量のフラッシュとともにあちこちからシャッター音が響く。

 さっきまで見慣れた教室だった一年一組はものの数分で記者会見の会場へと様変わりしていた。

 教卓のあった場所に机を二つ並べ座らされた俺たちに目の前に集まった人たちが携帯やカメラで次々に写真を撮っている。よくよく見ると教室の外にもひとだかりができている。

 

「それでは、何か質問のある方は挙手をお願いしまーす」

 

 のほほんさんの間延びした声とともにシュババッとあちこちから手が上がる。

 

「え~……では、そちらのアナタ」

 

「はい!新聞部の黛薫子です。この度はご婚約、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます♡」

 

 呆然と呆けながら成り行きを見ている俺に対して、隣に座る刀奈さんは幸せいっぱいという顔で笑顔で応える。

 

「プロポーズはどちらから?どのような言葉だったのか、教えていただけますか?」

 

「アプローチしていたのは私の方からですが、最終的にプロポーズは彼の方から。『俺と結婚してください』と、指輪も♡」

 

『おぉぉぉぉぉっ!!』

 

 刀奈さんが言いながら左手をスッと見せると歓声が上がる。

 

「一年の鷹音です。具体的にアプローチとはどのようなことをしたのでしょうか?」

 

「毎日お弁当を作って、彼の好みを研究しながら、少しずつ彼の好みドストライクになるように作っていきました♡」

 

『おぉぉぉぉぉっ!!』

 

 再び歓声とともにフラッシュの嵐。

 

「今の気持ちを率直に教えてください!まずは会長から!」

 

「はい!とっても幸せです!」

 

 満面の笑みで応える刀奈さん。

 

「なるほど!幸せが溢れていますね!では井口君は如何ですか?」

 

「そうですね、この茶番は何だろう……?というのが正直な気持ちですね」

 

 つられて正直に答えた俺は

 

「いやホントなんなのこれ!?なんでこんな記者会見してんの!?」

 

「え?だって学園の会長と副会長が婚約したんだし、変に噂に尾鰭がつくよりこうやって正式に答えた方がいいでしょ~?」

 

「いや、そうなんだけどね!?」

 

 叫ぶ俺にのほほんさんが答える。

 

「で、司会も下手に他の人がやるより同じ生徒会がやる方がいいってことで私が任命されました~」

 

「いや、そこに文句はないけど、こうい時は大抵虚先輩じゃ!?」

 

「お姉ちゃんは今先生たちへの対応ちゅ~」

 

 のほほんさんの言葉に俺は想像する。今頃きっと織斑先生やその他先生方に頭を下げていろいろ状況説明中だろう。一番面倒なところ押し付けられてる。なんかあの人今後もそう言うの押し付けられそうな気がする。主にいま俺の隣に座ってる人から。

 

「それでは、会見を再開したいと思いまーす。では……そちらのアナタ」

 

「はい!二年の小野典子です!いつからお付き合いされてるんですか?」

 

「付き合うって言うかプロポーズされたのは昨日です♡」

 

「おぉ~!新婚ホヤホヤだぁ~!」

 

「いや、まだ結婚してませんから……」

 

 小野先輩の言葉に俺は答える。

 

「はい!井口君は会長のどこを好きになったんでしょうか?」

 

「え?あぁ…まあ単純にもともと師としても先輩としても人間としても尊敬していたんですがそれがいつしか尊敬以上の気持ちになったというか……あとは毎日着々と好みの味になってく料理に胃袋をがっつり掴まれて、他のじゃ物足りなくなったのも大きかったですね」

 

「なるほど!会長のじゃないと満足できない身体にされてしまった、と」

 

「おい待って言い方に意図を感じますよ!黛先輩そのまま新聞に書かないで下さいよ!?」

 

「??? 何か間違いがありますか?」

 

「間違ってません!間違ってないけど明らかに誤解を招く書き方になってますから!」

 

 黛先輩の言葉に俺は叫ぶ。

 

「え~では――」

 

 

 

 ○

 

 

 教室の一番後ろ。目の前で行われる記者会見を見ながら簪とシャルロットはどこか憂いのある視線で見ていた。

 

「よかったのか?」

 

 と、そんな二人の元に箒、セシリア、鈴、ラウラが歩み寄る。

 箒の言葉に簪とシャルロットが視線を向け

 

「よかったんだよ」

 

 ニッコリと微笑みながらシャルロットが言う。

 

「昨日ね、お姉ちゃんが私たちを呼んで、全部話してくれた。すっごく申し訳なさそうに謝りながら……」

 

「だから僕ら言ってあげたの。『一番大事なのは颯太の気持ちだから、最後に楯無さんを選んだのは颯太で、それを謝るなら颯太の気持ちに失礼だ』って」

 

「『そんなんじゃ、私たちが横取りしちゃうよ』って言ったらお姉ちゃんも慌てふためいてね。この件でこれ以上罪悪感を抱かないってことで決着ついたの……」

 

「そう……」

 

 二人の言葉に鈴が呟くように言う。

 

「まあ、まさかそこから楯無さんが開き直って延々惚気話聞かされるとは思わなかったけどね」

 

「気にするな、とは言ったけど、まさかあそこまで振り切るとは思わなかった……私たちのことで胸のつっかえが無くなったのかもね……」

 

「それは災難ですわね……」

 

 ため息をつきながら言う二人にセシリアが苦笑いを浮かべる。

 

「でもまぁ、楯無さんにも言ったけど結局一番尊重しなきゃいけないのは颯太の気持ちだから。颯太が楯無さんを選んだなら、僕らにどうこうできないよ」

 

「私たちは一歩踏み出せなくて、お姉ちゃんは颯太を振り向かせるために頑張った。その差の結果が現状だよ…甘んじて受け入れないとね……」

 

「強いんだな」

 

 二人の言葉に箒が感心したように言う。

 

「強くなんかないよ。今も泣き出しそうなのを必死に堪えてるんだから」

 

「…………」

 

 シャルロットの言葉に簪も頷く。

 

「……よし!女子会しましょ!」

 

「「へ?」」

 

 と、そんな二人を見ながら鈴が言い、二人が呆けた顔をする。

 

「こういう時は女同士でワイワイやって忘れましょ!」

 

「ふっ…いいな、それ」

 

「私も乗りますわ」

 

「六人で学食のデザートメニュー全制覇するか」

 

 鈴の言葉に箒、セシリア、ラウラが頷く。

 

「全制覇って、カロリー大変なことになるんじゃない?」

 

「たまにはいいだろ?」

 

「甘いものでも食べて楽しめば少しは気分も晴れるだろう」

 

「そのせいで別の理由で気分落ち込んじゃいそう……」

 

「その時はその時。そうなったらみんなで体を動かして一緒にダイエットしましょう」

 

「二人の分はアタシたちが奢ってあげるわよ」

 

 四人の言葉に二人は顔を見合わせ

 

「……フフ、そうだね。そうしようかな」

 

「ご馳走になるね……」

 

「ん。今日はとことん付き合ってあげるわよ」

 

 そう言って六人は笑い合うのだった。

 

 

 

 

 

 その後、記者会見は予鈴のチャイムとともにやって来た織斑先生の解散の言葉まで続いたのだった。

 


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