IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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if√第一弾である楯無√もいよいよ最終話です。
どうぞ!





ifⅠ-最終話 刀と鞘

「ねぇ、パパ?」

 

「ん?どうした、小太刀ちゃん?」

 

 休日の昼前、のんびりとリビングのソファーに座ってテレビを見ていた俺に娘の小太刀が背後から声をかけるので俺はソファーの背もたれにもたれたまま顔を向ける。俺の視界に上下が逆さまになった小太刀の顔が見える。

 今年5歳になった小太刀は刀奈に似たおかげかそれはもう可愛い。それはもう可愛い。宇宙一可愛い。芸能界に入れようものなら一躍大人気の国民的大スターになりハリウッドからオファーが来るまであるだろう。愛娘の活躍は見たいがもしそうした場合こうして休日の昼下がりにのんびり一緒に過ごすのも難しくなるだろう。うぅ~む、悩ましい。

 この話を刀奈に以前言ったところ親バカと爆笑された。解せぬ。

 

「パパに訊きたいことがあるんだけど」

 

「おう、いいとも。我が愛娘の疑問、パパで力になれるのならいくらでも応えよう。しかし、小太刀ちゃんや?さっきまでママとキッチンで何か作ってたんじゃないの?確かこの後お友達のお誕生日パーティーで、そのプレゼントを作るんじゃなかったっけ?もういいのかい?」

 

「うん。あとは片付けだけなんだけど、ママが全部やっておくからって」

 

「そうか……で?どうしたんだい?」

 

 小太刀の言葉に頷いた俺は少し横に避け、ソファーの隣をポンポンと叩いて示す。

 小太刀は少し短めのツインテール状に縛った髪を揺らしながらトテトテと歩いて来て俺の隣に座る。

 

「うん、あのね――」

 

「ほいほい」

 

 小太刀の言葉に頷きながら俺はテーブルに置いていたカップを取ってコーヒーに口を付け――

 

「パパってどうしてママと結婚したの?」

 

「ブ~!!?」

 

 愛娘の想定外の質問に思わず口に含んでいたコーヒーを盛大に吹き出してしまった。

 

「え~っと、パパがどうしてママと結婚したか?」

 

「うん、どうして?」

 

「そうねぇ……」

 

 口とテーブルに飛んだコーヒーをティッシュで拭きながら小太刀の言葉に頷き、何と答えたものか思案する。力になると言った以上娘の疑問には答えてあげないと。

 

「まあ大前提としてパパはママのことが大好きだからだよ」

 

 俺は咳払いをして小太刀に視線を合わせて言う。

 

「でも、パパってママと結婚したから今のお仕事してるんだよね?」

 

「お、よく覚えてたね。そうだよ」

 

「パパってよくお仕事したくないって言ってるよね?」

 

「う、うん……そうだね……」

 

 よく覚えていらっしゃる。娘の前で仕事の愚痴なんていうもんじゃないな。反省だ。

 

「嫌なのにしたくないお仕事してて、それがママと結婚したからなら、ママと結婚しなかったらしたくないお仕事しなくてもよかったんじゃないの?」

 

「ふ~む……」

 

 子どもながらになかなか鋭いというかなんと言うか、こういう頭の出来の良さは刀奈に似たんだろうか。しかし、やはり子ども故か、大前提が間違っている。

 

「確かに小太刀ちゃんの言う通り、パパのお仕事は大変なことが多い。長い間海外を飛び回ることはざらだから、ママや小太刀ちゃんとの時間が減っちゃう。パパのお仕事のチームの中でパパが二番目に年下なのにパパがリーダーしてるのだって面倒多いし気を使うこと多いから出来れば変わってほしい」

 

「じゃあ――」

 

「確かにママと結婚したからこのお仕事をパパはしてる。でもそれは、ママの力になりたくてパパがこのお仕事を選んだんであって、必ずしもママと結婚したらこのお仕事をしなきゃいけなかったわけじゃないんだよ」

 

「???」

 

 俺の言葉の意味が分からないようで小太刀は首を傾げる。

 

「ママのお仕事はね、パパのお仕事なんかよりももっともっと大変なことが多いんだ。それはママにしかできないとっても大事なお仕事なんだ。変わってあげたくてもパパが変わってあげることは出来ない。でもね、パパがしているお仕事でママのお仕事を手伝うことは出来るんだ」

 

「お手伝い?」

 

「そう。パパがたくさんお仕事をすれば、その分ママのお仕事を減らしてあげられる。パパが頑張ればその分ママは困らなくて済むんだ」

 

「パパがお仕事するのはママのためなの?」

 

「そうだよ。まあ小太刀ちゃんが生まれてからは小太刀ちゃんのためにも頑張ってるけどね」

 

 小太刀の言葉に俺は言いながら頷く。

 

「ママはね、すごく頑張り屋さんなんだ。しかも、自分のためだけじゃなく、誰かのためにママは頑張るんだ。パパはそんなママが大好きで、そんなママを助けたかった。だからママと結婚したし、パパはお仕事を頑張れるんだ」

 

「そっか……」

 

「どう?小太刀ちゃんの疑問の答えになったかな?」

 

「う~ん……よく分かんなかった」

 

「アハハハ、そっか……」

 

 小太刀の言葉に俺は苦笑いを浮かべる。

 

「まあ、小太刀ちゃんにもいつか分かるよ。パパはママのことが大好きで、だから結婚したし、大好きなママのために大変でやりたくないお仕事も頑張れる。――まあ小太刀ちゃんが生まれてからはママだけじゃなく小太刀ちゃんのためにも頑張ってるけど」

 

 そう言いながら俺は小太刀ちゃん頭を撫でる。

 

「誰かと結婚するって言うのはその人のことが大好きで、その人とずっとずっと一緒にいたくて、その人のために頑張りたいって思うからするんだよ」

 

「ふ~ん……」

 

 俺の言葉に小太刀は頷いているが、やはりピンと来ていないようだ。

 

「で?なんで急にそんなこと気になったんだい?」

 

 俺は小太刀の頭を撫でながら訊く。

 

「うん、たっくんがね、この間言ってたの」

 

「たっくん?保育園のお友達かな?」

 

「うん。ゆり組の男の子」

 

 ゆり組、というのは小太刀の通う保育園の年長クラスのことだ。ちなみに小太刀はその一個下の年中クラスであるさくら組だ。

 

「そのたっくん?が何を言ったんだい?」

 

「うん。たっくんね、私の事大好きだから大きくなったら結婚したいんだって」

 

「……ほう?」

 

 小太刀の言葉に俺は撫でていた手を止める。

 

「小太刀ちゃんや、そのたっくんとやらはどんな子かな?」

 

「えっとね~、本が好きで、とっても物知りで、女の子もカッコいいって言ってる子がいるよ」

 

「へ~?小太刀ちゃんもカッコいいと思うかい?」

 

「ん~、まあカッコいいかなぁ~」

 

「そっかそっか」

 

 小太刀の答えに俺は頷き

 

「じゃあ、そのたっくんとパパ、どっちがカッコい――」

 

「こ~ら!」

 

 と、言いかけた俺の言葉を背後から遮って刀奈がペシンと俺の頭を軽く叩く。

 

「小学校にも上がってない子どもと何張り合ってんの?」

 

「止めるな刀奈よ。これは父親の沽券に関わることなんだ。さあ小太刀ちゃん、そのたっくんとパパ、いったいどっちがカッコいい?」

 

 苦笑いの刀奈に言いながら俺は小太刀に訊く。

 

「んっとねぇ~……」

 

 考える小太刀の答えを待ちながら俺はゴクリンコとつばを飲み込み――

 

「パパの方がカッコいいよ」

 

「ッシャァオラァァァァァ!!」

 

「うわぁぁぁ、全力のガッツポーズ……大人げな~い……」

 

「勝てばよかろうなのだぁぁぁぁ!!――小太刀ちゃん、今度前から欲しがってたプリキュアのおもちゃ買ってあげるからね~♡」

 

「わぁい!パパ大好きぃ!」

 

「俺もだよ~♡」

 

「うわぁぁぁ、緩み切った顔……買うのはいいけど颯太君のお小遣いから出してよね?」

 

 小太刀を抱っこし頬擦りする俺に刀奈が苦笑いで肩を竦める。と――

 

 ピンポ~ン♪

 

「あ、ほら、小太刀。マリちゃん来たんじゃない?準備できてるの?」

 

「あ、うん!」

 

 刀奈の言葉に小太刀が頷くので下ろしてやる。

 

「マリちゃんがなんで?」

 

「今日のお誕生日パーティーに一緒に送ってくれるのよ」

 

 俺の問いに刀奈が答える。

 マリちゃんというのは小太刀の保育園での友達だ。どうやらマリちゃんも今日のお誕生日パーティーに呼ばれてるらしい。

 

「ほら、忘れ物は無い?」

 

「うん!」

 

 言いながら小太刀はテーブルの上に置いていたポーチを肩から掛ける。

 

「じゃあこれは何でしょう?」

 

「あっ!」

 

 刀奈が差し出したものに小太刀が驚きの声を上げる。

 それは小さなラッピングされた箱だった。

 

「せっかく作ったクッキー、忘れてるわよ」

 

「アハハハ~、ごめんなさ~い」

 

 頭を掻いた小太刀は刀奈が紙袋に入れたその包みを受け取る。

 

「パパ、私可愛い?」

 

「宇宙一可愛い。小太刀ちゃんまじ天使」

 

 スカートのすそを摘まみながらくるっとその場で回る小太刀に俺はサムズアップする。

 

「楽しんでおいで、小太刀」

 

「うん!行ってきま~す!」

 

「たっくんによろしくね~」

 

「行ってら――おい、待て。今日の誕生日パーティーってたっくんのなの!?」

 

 笑顔で見送ろうとした俺は刀奈の言葉に慌てて訊く。

 

「うん、そうだよ~」

 

「………小太刀ちゃん、やっぱりパパも一緒に行ってもいい?」

 

「え?どうして?」

 

「もちろん小太刀ちゃんに這い寄る悪いむs――じゃなかった、小太刀ちゃんのお友達にはパパもちゃんとご挨拶しておきたいからねぇ~」

 

「漏れてる漏れてる。本音漏れてるから」

 

 苦笑いで言いながら刀奈が言い

 

「もうパパったら、この後私とすることがあるでしょ?」

 

「え?そんなのなかっ――ふぎゅ!?」

 

 刀奈の言葉に首を傾げながら否定する俺だったが、脚の小指に走った鈍痛に言葉は途中で遮られる。

 

「そんなわけで小太刀ちゃん、たっくんにはママとパパがよろしく言ってたって伝えてくれる?」

 

「わかった~!いってきま~す!」

 

「いってらっしゃ~い!」

 

「あぁ小太刀ちゃん待って!パパも行くから!」

 

「はいはい行かないから。パパは私とお留守番だから」

 

「離せ!離してくれ刀奈!父親として娘によって来る悪い虫は早めに駆除しなくては!!」

 

「もはや本音を隠しもしてないじゃないの」

 

 首根っこを掴まれ呆れたように言う刀奈を振りほどこうとするが、がっちり掴まれ逃れられない。

 そうこうしているうちに「いってきま~す」という愛娘の声とともに玄関の扉の閉まる音が聞こえた。

 

「うぅ……小太刀が……小太刀がお嫁に行ってしまう……」

 

「いや、ただのお誕生日パーティーに行くだけだから。そもそもまだ小太刀は小学生にもなってないから……」

 

膝をつき涙する俺に呆れたように言いながら刀奈が引っ張って行きソファーに座る。

 

「まったく、小太刀のことになると一気に颯太君はポンコツになるわね」

 

「当たり前だろ!目にいれても痛くない宇宙一可愛いうちの愛しい娘だぞ!」

 

「あら?じゃあ私は?私より小太刀の方が大事なのかしら?」

 

「刀奈の事は11次元一愛してるからもはや殿堂入り」

 

「お、おうぅ……からかうつもりで言ったのに素で返されたわ……」

 

 俺の言葉にニマニマとだらしなく微笑む。

 

「まあそうよね。私のことが大好きで、私のことを助けてくれるために結婚して仕事まで決めたくらいだもんね?」

 

「……聞いてたのね」

 

 刀奈がニヤニヤしながら言う言葉に俺は頬を掻きながらそっぽを向く。

 

「ねぇ、前から聞きたかったんだけどね」

 

「なんでしょうか?」

 

 自身の膝に両手で頬杖をついて俺の顔を覗き込みながら刀奈が訊く。

 

「颯太君が仕事用に――更識家の人間として動くときに使ってる名前、『更識鞘也』ってさ、颯太君が自分で考えたわよね?」

 

「ええ、そうですね……」

 

「それって……刀と鞘はセットだから?」

 

「……それ今更聞きます?」

 

 刀奈の問いに俺はため息をつく。

 

「どんなに鋭くて切れ味のいい〝刀〟だって抜身のままじゃ刀自体が痛むしなんだったら必要以上に周りを傷つける。必要ないときは〝鞘〟に納めて護らないと」

 

 俺はソファーの背もたれに体を預けながら、しかし、刀奈から視線を外したままに言う。

 

「『更識刀奈(あなた)』という刀を護る鞘になる、そんな俺の覚悟が『更識鞘也』って名前の由来です」

 

 言ってから俺は自分の顔を両手で覆い、大きくため息をつく。

 

「あぁぁぁもう!命名してから八年も経ってほじくり返されるとは思ってませんでしたよ!」

 

「フフ、私は八年越しの推理の答え合わせができて嬉しかったわよ」

 

 言いながら俺の肩にしなだれる様に体をもたれさせてくる刀奈。

 

「ところで気付いてる?いま颯太君昔みたいに敬語になってるわよ。フフ、なんだか懐かしいわね」

 

「結婚したときにこれからは夫婦で対等だから敬語やめろって言ったのどこの誰でしたっけねぇ?」

 

「それはそれ、なんだか学生の頃に戻ったみたいで燃えない?」

 

「燃えてどうするんですか?」

 

 笑いながら言う刀奈の言葉に俺は呆れながら言う。と――

 

「そりゃぁも・ち・ろ・ん……♡」

 

 刀奈が妖艶な笑みを浮かべながら舌なめずりする。同時に艶めかしい手つきで俺の胸元や首に刀奈の手が這い寄って来る。

 

「何ですかこの手は?」

 

「もう、わかってるくせに……♡」

 

 言いながら刀奈は俺の首に手をまわし顔を耳元に寄せ

 

「私、そろそろ二人目欲しいなぁ~♡」

 

「っ!」

 

 刀奈の言葉が脳を揺さぶる。

 

「小太刀ちゃんも大きくなったし、私たちの仕事も当分落ち着いてるし……ね?♡」

 

「いや、ね?って言われても……」

 

「大丈夫、私今日危険日ど真ん中だから」

 

「それは果たして大丈夫なんでしょうか……?」

 

 笑顔でサムズアップしながら言う刀奈の言葉に俺は脳をフル回転させ

 

「で、でも、小太刀ちゃんがいつ帰って来るかも」

 

「今日は六時までお誕生日パーティーだし帰りもマリちゃんちが送ってくれるわよ」

 

「あ、ほら、まだ昼ごはん食べてないですし」

 

「今日のメニューは颯太君の好きなうな重と肝吸い、レバニラ炒め。もう今すぐにでも食べられるように準備してあるわよ」

 

「なんですかそのメニューは?鰻にレバニラって食い合わせどうなんですか?」

 

「あ、冷蔵庫に赤マムシ冷えてるわよ?」

 

「これ以上精力を付けて何をしようってんですか?」

 

「ナニをするのよ」

 

 ドストレートだった。今日の刀奈は何が何でもヤる気だ!

 

「最近颯太君イギリス行ってたりしてご無沙汰だったし……」

 

「それはまあ……」

 

 刀奈の言葉に俺は言い淀む。

 

「ねぇ……ダメ?」

 

「っ!」

 

 上目遣いで見てくる刀奈の視線に俺は息を飲み、少し考え――

 

「とりあえず、手を放してもらえます?」

 

「………そう」

 

 俺の言葉に刀奈は肩を落としてシュンとする。

 

「俺もご無沙汰で、たぶん歯止め聞かなくなりそうなんで、先に食べとかないとせっかくの料理無駄にしたくないですし……」

 

「え……?」

 

 キョトンとする刀奈にニッと笑い

 

「覚悟してくださいね、刀奈さん?そっちから言い出したんですから、俺が満足するまで付き合ってもらいますよ」

 

「っ!やだ、男らしいんだけどうちの旦那様!」

 

 口元を抑えて言う刀奈さんはそのまま慌てて立ち上がり

 

「こうしちゃいられない!ベッドメイキングしてくる!」

 

「その前にご飯食べたいんですけど……」

 

 ピューッとまるで漫画かアニメのように突っ走っていく刀奈を苦笑いで見送りながら俺は立ちあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たぶん、俺のこの日常は世間一般的ではない、非日常なのだろう。

 それでも、俺にとってはこれが日常であり、何物にも代えがたい幸せだ。

 これからも俺はこの幸せを護るために全力で生きていく。

 差し当たっては約10か月後に生まれるかもしれない息子or娘の名前でも考えるとしよう。

 




これにて楯無√完結です。
本編ハーレム√とは違う結末。颯太君の至った別の非日常です。
楽しんでいただけたでしょうか?
波乱万丈そうではありましたが、それでもこっちの颯太君もかけがえのない幸せを手にすることが出来たようです。



さて、次のif√第二段についてはまた近々更新したいと思います。
皆さん気になる次回のヒロインについてですが、次回は簪を予定しています。
どんな√になるかは読んでからのお楽しみ、ということで( ´艸`)

それでは、次回の簪√でお会いしましょう!

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