苦手なんで温かーい気持ちで読んでください。
「お待たせ、一夏」
放課後。俺とシャルルは教室で待っていた一夏と合流し、特訓の場へと向かい始めた。
「ふたりは今までどこに行ってたんだ?」
一夏が訊く。
「ちょっと織斑先生のところにな。シャルルが報告と相談があったんだ」
「報告と相談?」
「うん。実は急な事なんだけど、僕ちょっと実家に帰らないといけないんだ」
「え!?本当か!?どうしたんだよ急に」
シャルルの言葉に一夏が驚いたように訊く。
「実家の方で問題があってね。詳しくは言えないんだけど、その問題が僕にも関わることだから、僕も一度戻らないといけないんだ」
あながちウソでもないが、これは事情を知っている人間の間で決めてある表向きの理由だ。ちなみに織斑先生は事情を知っているらしい。さっき会いに行ったらめんどくさそうに頭を抱えていた。
「じゃあ、シャルルは学年別トーナメントはどうするんだ?」
「トーナメント開始三日前くらいに出発して数日かかる予定だから、残念だけど出られないかな」
「そうか。シャルルには特訓で世話になってるし、その成果を戦って見せたやりたかったんだがな」
「それはまたの機会だな」
悔しそうに言う一夏に俺は笑いながら言う。
「その分フランスに戻るまでは特訓に付き合うし、帰ってきたらまた協力するよ」
「ああ、ありがとう。さっそく今日の特訓頑張るか」
「そうだな。えっと、今日使えるのは――」
「第三アリーナだ」
「「「わあっ!?」」」
俺の言葉にかぶせるように現れた篠ノ之に三人で驚きの声をあげる。
「……そんなに驚くほどのことか。失礼だぞ」
「お、おう。すまん」
「す、すまん…」
「ごめんなさい。いきなりのことでびっくりしちゃって」
「あ、いや、別に責めているわけではないが……」
折り目正しく頭を下げて謝るシャルルに、さっきまで眉をひそめていた篠ノ之が申し訳無さそうな顔になる。
「と、ともかく、だ。第三アリーナへと向かうぞ。今日は使用人数が少ないと聞いている。空間が空いていれば模擬戦も出来るだろう。……そ、それと、井口」
「ん?」
「そ、その……だな。お前の動きは前から思っていたがいろいろと技を使う割に剣術の基礎がなっていない。だ、だから、私がお前の剣術を見てやる」
「…………」
「な、なんだ?」
呆然としている俺に篠ノ之が少しまごつきながら聞く。
「い、いや、なんでもない。ぜひよろしく頼む」
「う、うむ」
頷いた俺に篠ノ之も照れ臭そうに顔を逸らす。
どうやら篠ノ之も俺を許してくれたようだ。これから仲良くして行ければいいが。
と、やっていたところに、第三アリーナへと歩いていた俺たちはふと騒がしくなってきたことに気が付いた。どうやら騒ぎの元は第三アリーナのようだ。騒ぎの原因を見ようと、観覧席に入った俺たちが見たのは――
「あ、あれは!」
「鈴!セシリア!」
アリーナ内では鈴とセシリアが二人で一人の相手との模擬戦を行っていた。相手は――
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」
漆黒の機体『シュヴァルツェア・レーゲン』を駆るボーデヴィッヒの姿があった。
二対一であるにもかかわらず鈴もセシリアも苦戦を強いられている。
何よりも不思議なのは二人の攻撃がボーデヴィッヒに届かないことだ。右手を突き出しただけで衝撃砲を完全に無力化している。ボーデヴィッヒに向かって行くセシリアのビットも空中で急に動きを止める。
「くっ!」
鈴は衝撃砲を展開し、その砲弾エネルギーを集中させる。
「甘いな。この状況でウェイトのある空間圧兵器を使うとは」
その言葉通り、衝撃砲は弾丸を射出する寸前にボーデヴィッヒの実弾砲撃によって爆散した。
「もらった」
「!」
肩のアーマーを吹き飛ばされて大きく体勢を崩した鈴に、ボーデヴィッヒさんがプラズマ手刀を懐へ突き刺す。
「させませんわ!」
間一髪のところで二人の間に割りに行ったセシリアは、《スターライトmkⅢ》を楯に使って一撃を逸らす。同時に以前、俺と一夏に使った弾頭型ビットをボーデヴィッヒさんに向けて放出する。
ドガァァァァンッ!
ミサイル攻撃の爆発はセシリアと鈴を巻き込み、二人を床にたたきつける。
「やった!」
歓喜する俺。が、煙の晴れた先にほぼ無傷状態の漆黒のISが姿を現す。
『なっ!?』
その場の俺を含めた四人が驚きの声をあげる。
アリーナの中でも鈴とセシリアも驚愕している。
「終わりか?ならば――私の番だ」
その言葉と同時ボーデヴィッヒがふたりに向けて瞬時加速をする。
そこからは試合でもなんでもない、圧倒的な暴力だった。ボーデヴィッヒの攻撃になすすべなくされるがままな鈴とセシリア。
「一夏!」
「おう!」
同じことを考えていたらしく、一夏は瞬時に『白式』を展開、同時に《雪片弐型》を構築し、『零落白夜』を発動させる。俺も『火焔』展開する。
「おおおおおっ!」
掛け声とともに本体の倍になった実体剣から放出するエネルギー剣を一夏がアリーナを取り囲むバリアーへと叩き込む。
そのまま二人で一夏の空けた穴からアリーナに侵入。
「一夏!二人の方は任せろ!お前はボーデヴィッヒを!」
「わかった!」
俺の言葉に一夏は頷き、ボーデヴィッヒへと向かって行く。
「その手を離せ!!!」
「ふん……。感情的で直情的。絵に描いたような愚図だな」
一夏の刃が届くその寸前。一夏の体がびたっと止まる。
「だりゃ!!」
そんな一夏の背後から《火ノ輪》をボーデヴィッヒに向けて放つ。
「くっ!」
一瞬の逡巡の後にセシリアと鈴を放し、一夏とも距離を離す。
その隙に《火ノ輪》を手の甲に戻し、セシリアと鈴を抱える。ダメージが一定を超えたのか、ふたりの体からISが消えている。
「う……。颯太……」
「無様な姿を……お見せしましたわね……」
「喋るな。そんなのはいいから」
そのままふたりを安全なところまで運び、保健室に連れて行くように手配する。
戦っている一夏たちの方を見ると、一夏とボーデヴィッヒ、そしてシャルルも加勢し二対一の戦いを繰り広げている。
一夏と剣を交え、シャルルの銃撃の雨を避けるボーデヴィッヒ。その余裕綽々とした雰囲気を見ていると、俺の中で怒りが沸き上がってくる。俺の目の前にはボロボロのセシリアと鈴。そしてそれをしたのはあそこにいるボーデヴィッヒだ。
「よくもっ…!」
腰に構えた鞘に収まった《火人》に手を添え、腰を落とす。
「……しっ!」
一歩目から最大速度で走り出し、さらに瞬時加速も加え、狙うはボーデヴィッヒただ一人を標的にし、一心不乱に向かって行く。
「っ!」
完全に意識外だった俺が猛スピードで向かってくることを感じたボーデヴィッヒだったが、シャルルや一夏に気を取られていたせいか俺への反応が圧倒的に遅い。
こちらに顔を向けた時には俺はボーデヴィッヒの目の前にいた。
突進の勢いを殺すことなく、《火人》に勢いすべてを乗せて一閃する。
「ぐあっ!」
左手に持った鞘に《火人》を収めると同時に俺の渾身の一閃を受け、俺の背後でボーデヴィッヒが苦しげな声を出す。
「き、貴様……!」
意識外からの攻撃とはいえ、不意打ちで食らった俺の一撃が悔しかったのだろう。ボーデヴィッヒは憎々しげに俺を睨む。
「やるか?三対一だぞ」
「面白い。世代差というものを見せてつけてやろう」
俺の言葉に獰猛な笑みを浮かべ、ボーデヴィッヒが構える。
「行くぞ……!」
ボーデヴィッヒがまさに飛び出そうとする瞬間、俺たちの間に影が入ってきた。
ガギンッ!
金属同士が激しくぶつかり合う音が響き、ボーデヴィッヒさんは割り込んできた相手を見るとすぐに加速を中断する。
「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」
「千冬姉!?」
「織斑先生……」
それはつい先ほどあった織斑先生だった。服装も先ほど会った通りのスーツ姿。しかしその手には一七〇センチはある長大なIS用近接ブレードを握っていた。
「模擬戦をやるのは構わん。――が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそう仰るなら」
「お前たちもそれでいいな?」
「はい」
「あ、ああ……」
呆けていた一夏が素で返事をする。
「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」
「は、はい!」
「僕もそれで構いません」
俺たち三人が頷いたのを見て、織斑先生は改めてアリーナ内すべての生徒に向けて言う。
「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」
○
それから、セシリアと鈴の運ばれた保健室に向かった俺たちだったが、ふたりはむすっとした顔でベッドに腰掛けていた。
「別に助けてくれなくてよかったのに」
「あのまま続けていれば勝っていましたわ」
「お前らなぁ……。でもまあ、怪我がたいしたことなくて安心したぜ」
「こんなの怪我のうちに入らな――いたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味――つううっ!」
無理して動こうとするので、ふたりとも痛みに顔をしかめる。
「ほら。ちゃんと安静にしてろよ。先生は落ち着いたら帰っていいって言ってたんだから、しばらく休んで――」
そんな俺の言葉は徐々に大きくなってくる地響きに遮られる。
「な、なんだ!?」
廊下から響いている音に一夏が戸惑い、俺たちは保健室のドアに視線を向ける。
すぐにドカーンッ!と保健室のドアが吹き飛んだ。
「織斑君!」
「デュノア君!」
「ついでに井口君も!」
雪崩れ込んできたのは大量の女子たちだった。それが一気に俺たちを囲む。
「な、な、なんだなんだ!?」
「ど、どうしたんだ!?」
「みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」
「「「「これ!」」」」
状況が呑み込めていない俺たちにパン!と女子生徒一同が出してきたのは緊急告知文の書かれた申請書。
それによると、どうやら今回の学年別トーナメントはタッグマッチになったようだ。そのため、是非とも学園に三人しかいない男子……のイケメン枠と組みたいがためにここまで押し寄せてきたようだ。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
流石の人気だ。これは俺は関係なさそうだ、と、この状況をどうにかしようとしたところで、俺も数名の女子に囲まれる。
「井口君!私と組んで!」
「いやいや、私と!」
なんと!とうとう俺にもモテ期到来か?
「俺でいいのか?」
「いいのいいの」
「井口君強いし」
「織斑君やデュノア君よりは競争率低いし」
「妥協案かよ!」
だと思ったわ!
実際この場の女子を100とするなら割合で言えば一夏&シャルル:俺=9:1くらいの割合だな。
まあそれはともかく。
「悪いみんな!俺たちもうタッグ決めてんだ!」
俺は一つ手を叩き、大声で言う。
「あと、実はシャルルは今度の学年別トーナメントに出られないんだ!」
俺の言葉に少しざわつく。
「一夏も俺と組むから!」
俺の言葉を聞いて納得したらしく、女子たちはぞろぞろと引き上げていった。
「ふう……」
「助かったぜ、颯太」
「いいってことよ」
女子の勢いに圧倒されていた一夏が俺に礼を言う。俺も笑顔で頷く。
「一夏っ!」
「一夏さんっ!」
解決したと思ったら、鈴とセシリアが一夏に詰め寄る。
「あ、あたしと組みなさいよ!幼なじみでしょうが!」
「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」
怪我人のくせに動き回りすぎだろこのふたり。
「ダメですよ」
と、山田先生が現れる。
「おふたりのISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥が生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」
「うっ、ぐっ……!わ、わかりました……」
「不本意ですが……非常に、非常にっ!不本意ですが!トーナメント参加は辞退します」
素直に引き下がるふたり。まあダメージレベルがC超えちゃってたらしょうがないな。
一夏はちんぷんかんぷんだけどな。
「一夏、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第三だよ」
シャルルが一夏に言うが、一夏はまだ首を傾げている。
「……『ISは戦闘経験を含むすべての経験を蓄積することで、より進化した状態へと自らを移行させる。その蓄積経験には損傷時の稼動も含まれ、ISのダメージがレベルCを超えた状態で起動させると、その不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時での稼動に悪影響を及ぼすことがある』……だっけ?」
「あってるよ、颯太。流石だね」
「この間シャルルに教えてもらったところだしな」
シャルルが笑顔で頷いたことで、俺は安堵する。
「しかし、何だってラウラとバトルすることになったんだ?」
「え、いや、それは……」
「ま、まあ、なんと言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」
………ああ、そういうことね。
「ああ。もしかして一夏のことを――」
「あああっ!デュノアは一言多いわねえ!」
「そ、そうですわ!まったくです!おほほほほ!」
シャルルをふたりがすごい勢いで取り押さえた。ふたりから口をふさがれてもごもごともがいている。
「こらこら、やめろって。シャルルが困ってるだろうが。それにさっきからケガ人のくせに体を動かしすぎだぞ。ほれ」
そう言って一夏は鈴とセシリアの肩を指でつつくと、
「「ぴぐっ!」」
おかしな声かつ甲高い声をあげてその場に凍り付く鈴とセシリア。
「………………」
「………………」
「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」
恨めしそうな顔でふたりが一夏を睨む。
「い、い、いちかぁ……あんたねぇ……」
「あ、あと、で……おぼえてらっしゃい……」
あーあー、こりゃ後でなんかさせられるかもな。なんか奢らされるとか。
ドンマイ、一夏♪
はい、というわけで颯太のタッグは一夏となりました。
シャルロットもフランスに行きますし。
もうすぐタッグトーナメントと思うと戦闘描写の苦手な僕は難産が予想されます。
今から憂鬱ですが頑張ります。