IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第32話 ラーメンと風呂と勘違いと……

「――そんなわけで、今回のトーナメントは中止。ただ、今後のための個人データ指標のために一回戦は全部やるそうよ。変更日時や情報は各人に通達らしいけど、あなたたちは試合が終わったから関係ないわね」

 

「なるほどなるほど」

 

 俺は醤油ラーメンをすすりながら師匠の説明に頷く。

 試合後、俺たちを待っていたのは教師陣からの事情聴取だった。ついでに不調の『火焔』を指南コーポレーションへメンテナンスに送ってもらい、事情聴取自体もつい先ほど解放され、食堂にやって来た時には夕食時間ギリギリ。とりあえず晩飯を食べようとしていたところに師匠とシャルル、簪と出会ったので、今回の最終決定を師匠から聞きながらの夕食となったのだ。

 ちなみに俺の事情聴取は少し早めに終わったらしく、一夏たちとは合流できなかった。さっき確認したところ師匠から説明を受けている途中で食堂に入ってきた一夏を見かけたが、セシリアと鈴とともに別のテーブルへ行ってしまった。

 

「大体のことの顛末はこんなものだけど、何かほかに訊いておくことはあるかしら?」

 

「特にないっす。とりあえずは俺や一夏はこれ以降に予定されてた試合はないってことですよね?」

 

「まあ、そういうことね」

 

 師匠が頷く。

 

「てことは、あとはもう他の人の試合を見るしかできないってことですか。………完全に暇じゃないですか。あとの試合って他に知り合いでないですし」

 

「あれ?でも簪さんは?」

 

 俺の言葉にシャルルが首を傾げる。

 

「あれ?言ってなかったっけ?そもそも簪は今回の試合に出てないんだよ」

 

「えっ!?そうなの!?」

 

 俺の言葉にシャルルが簪の方を見る。紙パックのジュースをストローですっていた簪が口を放しながら頷く。

 

「私の専用機……まだできてないから……」

 

「え?でも専用機持ちなのに専用機が完成していないって……」

 

「実は――」

 

 ~~颯太説明中~~

 

「――てなわけだ」

 

「なるほどね。そんなことが……」

 

 俺の説明に納得したようにシャルルが頷く。

 

「で、どうなんだ?進行具合は」

 

 俺は麺をすすりながら訊く。

 

「武装の方は何とか……。ただプログラミングの一部でどうしても上手くいかないところが……」

 

「どうも同じところで上手くいかないのよ。どこかに不備があるんだろうけど、それがどうしてもわからなくてね」

 

 師匠にもお手上げとは、これは本格的に難題なようだ。

 

「まあ整備課の子たちにも応援頼んでやってみるわ」

 

「そうですか……」

 

 何かいい手はないだろうか。例えばプログラミングものすごく詳しい人とか……あっ!

 

「あの人がいた!」

 

「「あの人?」」

 

 師匠とシャルルは声に出して、簪は声に出さずに首を傾げる。

 

「指南コーポレーションの開発部の人です。『火焔』のプログラミングもほぼ一人でやったそうですよ」

 

「それは……すごいね」

 

「颯太君のISって相当複雑なんじゃないの?」

 

「俺はその辺のことはよくわかんないけど、一度作業してるところは見たことはありますよ。なんていうか……〝すごい!〟の一言ですよ」

 

 あの指の動きはまじぱない。

 

「まあ会えばどのくらいすごいかわかりますよ。一応その人に頼んでおきます」

 

「お願い……できる?」

 

「おう。任せろ」

 

 簪の言葉に笑顔で頷く俺。

 

「あっ、指南コーポレーションといえば」

 

 と、そこで師匠が口を開く。

 

「今日の試合にも来ていたのね、指南社長たち。避難誘導の時に軽く話したわ」

 

「はい、そう聞いてます……って、〝たち〟?」

 

 師匠の言葉に俺は口へと運んでいたラーメンを口の前で止める。

 

「ええ。噂の女社長さんの他にふたりいたわよ」

 

「へ~、誰だったんだろう?」

 

 師匠が社長以外の名前を言わないってことは、貴生川さんはいなかったのだろう。

 

「社長さんの他にいたのは、一人は黒髪で小柄な女性だったわよ。なんだか眠そうな半眼の人だったわ」

 

「あ、野火さんか」

 

 野火さんこと野火麻里絵さんは指南社長の秘書をしている人だ。なんでも指南社長とは高校の時からの友人だそうだ。口数の少ないマイペースな人だが気配りのできる有能な人だ。ときどき無表情で人をからかったりするが……。

 

「あともう一人は白衣着た赤毛の女性だったわ」

 

「白衣で……赤毛?」

 

 どうしよう、一人しか思い浮かぶ人いないけど、一番ありえない気がする。

 

「その赤毛の人は他に何か特徴はなかったですか?」

 

「ん~、そうね~……あっ!そうそう。なんだか挙動不審な人だったわ」

 

「……アキラさんですね」

 

 今ので確信した。間違いなくアキラさんだ。

 

「珍しいな。アキラさんは絶対にこういう場には来ないと思ってました」

 

「どんな人なの?」

 

 師匠が訊く。

 

「さっき言ってた人ですよ。連坊小路アキラさん、俺の専用機をプログラミングした人です」

 

「あっ。あの人だったんだ」

 

「ええ。でも、いつもだいたい研究室か会社内からできるだけ出たがらない人なんですよ。だから珍しくて。そっかそっか、アキラさんが……」

 

 初めて会った時もできるだけ俺に目を合わさないように、きょどりながらの対面だったな。ここだけの話、あの人は軽く対人恐怖症なんだそうだ。

 そこまで話したところで何かの放送がかかる。詳しく聞いたところ、先ほどの師匠の説明と同じ内容だった。

 俺はもうすでに聞いていたので特に衝撃はなかったが、なぜか周りでは女子たちがざわついていた。

 

「……優勝……チャンス……消え……」

 

「交際……無効……」

 

「……うわああああんっ!」

 

 バタバタバターっと数十名が泣きながら走り去っていった。

 

「なんなんだろう?」

 

「さぁ……」

 

 俺とシャルルが首を傾げる中、師匠と簪は苦笑いだった。どうやら何か知っているらしいがあの様子では教えてくれないだろう。

 そうやって騒ぎながら去って行く女子の中に呆然と立っている人物がいた。篠ノ之箒氏だった。心なしか口から魂が抜け出てる気がする。

 

「何やってんだ、篠ノ之は?」

 

「さぁ……あっ。一夏だ」

 

 シャルルの言葉に目線を動かすと、篠ノ之に向かって歩いて行く一夏の姿があった。

 

「そういえば箒。先月の約束だが――」

 

「ぴくっ」

 

 ふたりの会話に耳を傾けていると、一夏の言葉に篠ノ之が反応する。

 

「付き合ってもいいぞ」

 

「――。――――、なに?」

 

 ――なに?

 

「だから、付き合ってもいいって……おわっ!?」

 

 突然バネ仕掛けのように大きく動き、身長差のある一夏を篠ノ之は締め上げる。ぶっちゃけ俺もすぐさま飛んで行って追求したい。

 

「ほ、ほ、本当、か?本当に、本当に、本当なのだな!?」

 

「お、おう」

 

「な、なぜだ?り、理由を聞こうではないか……」

 

 パッと一夏を離し、腕組しながら咳払いをする篠ノ之。俺も聞きたいです。

 

「そりゃ幼なじみの頼みだからな。付き合うさ」

 

「そ、そうか!」

 

「買い物くらい」

 

「………………」

 

 ………絶対違う!話の前段階を知らない俺でも断言できる。これは絶対に買い物じゃない!それを物語るように篠ノ之の顔から表情が消える。

 

「………だろうと……」

 

「お、おう?」

 

「そんな事だろうと思ったわ!」

 

 どげしっ!!!

 

「ぐはぁっ!」

 

 腰のひねりを加えた正拳が一夏の腹に叩き込まれる。

 

「ふん!」

 

 追い打ちの蹴りが一夏を襲い、箒のつま先が一夏のみぞおちに刺さる。

 

「ぐ、ぐ、ぐっ……」

 

 ずかずかと去って行く篠ノ之を視線ですら追うことのできない一夏。相当のダメージなようでその場に崩れ落ちる。

 

「一夏って、わざとやってるんじゃないかって思う時があるよね」

 

「わざとだったらいつか刺されるな。むしろ俺が刺す。夜道には気を付けろよ一夏」

 

「お、お前ら見てたのか……てか、シャルルは帰ってたんだな」

 

「うん。ただいま~」

 

 蹲る一夏にシャルルは笑顔で手を振る。

 

「あ、織斑君に井口君、デュノア君。ここにいましたか。さっきはお疲れ様でした」

 

 そこへ、山田先生がやって来た。

 

「山田先生こそ。ずっと手記で疲れなかったですか?」

 

「いえいえ、私は昔からああいった地味な活動が得意なんです。心配には及びませんよ。何せ先生ですから」

 

 そう言ってえへんと胸を張る山田先生の動きに合わせて山田先生の胸が躍る。俺は目のやり場に困って視線を逸らす。

 

「颯太のエッチ」

 

「ちょっと待て。一夏も目逸らしただろ」

 

「ふん」

 

 ぼそっとシャルルの口ら呟かれた言葉に俺は小声で反論するが、なぜか不機嫌なシャルルさん。なんで?

 

「?どうかしましたか?」

 

「いいえ、なんでもありません」

 

「そうですか。それよりも、朗報です!」

 

 グッと山田先生が両手拳を握りしめてガッツポーズ。それによってまたもやダンシングバスト。……もう何も言うまい。

 

「なんとですね!ついについに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」

 

「おお!そうなんですか!?てっきりもう来月からになるものとばかり」

 

「それがですねー。今日はボイラー点検があったので、もともと生徒たちが使えない日なんです。でも点検自体はもう終わったので、それなら男子の三人に使ってもらおうって計らいなんですよー」

 

「ありがとうございます、山田先生!」

 

 山田先生の手を取って喜ぶ一夏を尻目に、俺もシャルルも完全には喜びずらかった。だって……シャルルどうするんだよ。

 

 

 ○

 

 

 妥協案。俺たちが早めに上がって、シャルルに後から入ってもらうことに決定。なおかつ長湯が予想される何も知らない一夏をどうにかして早めに上がらせるというミッション付。

 デッデッデッデッ♪デーデンッ♪デッデッデッデッ♪デーデンッ♪(ミッ○ョンイン○ッシブルのテーマ)

 

 

「ふううぅぅぅ~~~……」

 

 一夏の間の抜けた声が風呂場に響き渡る。その響き具合はこだまが聞こえるほどだ。広すぎだろ。サウナもあるし、そっちも広いし。地元の銭湯の方がもっとこじんまりしてたぞ。

 ちなみに現在一夏は湯船。俺はシャワーを浴びながら体を洗っている。

 

「シャルルも一緒に来ればよかったのにな~」

 

「実家に帰ったことについての報告しなきゃいけなかったんだからしょうがないだろ」

 

 ということにしてある。

 

「よし!体洗い終わったし、湯船にドボーン!」

 

 と言いつつもちゃんと飛び込まずに湯船に入りましたよ?

 

「はああぁぁぁ~~~……」

 

 一夏同様間の抜けた声が出る。

 

「こう……いろいろとどうでもよくなる気持ちの良さだな~」

 

「なあ~」

 

 俺の間延びした言葉に一夏も間延びして答える。

 

「そう言えば、シャルルは実家に何しに帰ってたんだろうな~」

 

「……そうだな~。でも、どうでもいいじゃないか~、そんなことは~」

 

「そうだな~」

 

 説得力のかけらもない俺の言葉に一夏は頷く。ナイスだ風呂。

 風呂のへりにうつ伏せになってぷかーっと浮かぶ。あ~、このたゆたう感じ好き。

 

「あ~、このまま寝てしまいたい」

 

「激しく同意~」

 

 一夏の言葉にぼんやりと頷く。

 

「はああぁぁぁ~~~……あぁぁぁ!!!」

 

 間延びした声が漏れる中、そこから急に一夏の声が絶叫に変わる。

 

「どうした~?」

 

「千冬姉に後で来いって言われてたのすっかり忘れてた!」

 

「別にどうでもいいじゃないかそんなこと~」

 

「……そうだな。どうでもいいか――ってならないから!」

 

 俺の罠に引っかからなかった一夏。

 

「悪いけど先上がる!」

 

「おお~。織斑先生によろしく~」

 

 慌ただしく出て行く一夏に手を振りながら俺はぼんやりと目を閉じる。

 

(あ~、マジでこのまま寝られそう)

 

 カラカラカラ……。

 

(ん?誰かはいってきた?あ、一夏が忘れ物でもしたかな?……いや、それはないか。アイツが持って入ったものなんてタオルくらいなものだし、そのタオルもちゃんと持ってあがってたし)

 

 ぴたぴたぴた。

 

 そう思考する間にも入ってきた謎の人物は徐々にこちらに近づいてくる。

 

「お、お邪魔します……」

 

「……!?」

 

 その声とともに俺は目を開けると、目の前にはなぜかシャルルがいた。全裸で。いや、全裸だと誤解が生じる。ちゃんとタオルは装備している。

 

「って、シャルルっ!?」

 

「……あ、あんまり見ないで。颯太のえっち……」

 

「はい!すいません!」

 

 なぜか謝りながら回れ右する俺。

 

「どっ、どっ、どぅおしたっ!あれか!?一夏が上がって勘違いしちゃったか!?悪いけど俺まだ上がってなかったんだ!今すぐ上がるから待ってくれ!だから訴訟だけは!訴訟だけは何卒!」

 

「ま、待って!落ち着いて!訴訟とかもないから!ちょっと二人っきりで話したいことがあったの!……それとも、僕とじゃイヤ……?」

 

「そんなことないです!」

 

 つい元気よく言ってしまった。

 

「じゃ、じゃあいいかな?大事なことだから、颯太に聞いてほしいんだ……」

 

「お、おう」

 

 そんなふうに言われたら頷くしかない。俺はシャルルを背にしたまま聞くことにした。

 シャルルはシャルルで湯船に入り、俺のすぐ後ろで背中合わせになる。

 

「その……実家のことなんだけどね……」

 

「お、おう」

 

「昨日無事に解決したんだ」

 

 そこでシャルルは言葉を区切る。

 

「颯太のおかげで、僕はここに残れることになったんだ…女の子として」

 

「そっか……よかったな」

 

「うん。全部颯太のおかげだよ」

 

 シャルルの言葉に少し考え、口を開く。

 

「……俺のしたことなんて些細なことだぞ。結局最後は指南の人に丸投げしたし」

 

 俺がしたことなんてブラフとハッタリだけで電話しただけだ。

 

「そんなことない。颯太にはたくさん助けてもらったよ。颯太が僕に選択させてくれたんだよ。颯太が一歩踏み出す勇気をくれたんだよ。僕は…たくさん颯太に感謝してるんだから」

 

「そ、そうか」

 

「僕がここにいるって決められたのも、僕が残れるようになったのも……」

 

「…………………ん?」

 

 あれ?なんで黙るんですかシャルルさん?

 

「しゃ、シャル――」

 

 急に黙ったシャルルに声をかけようとしたところで背中に手を置かれ、そのまま抱きしめられる。背中に華奢な、しかし柔らかい感触が密着して、心臓が痛いほど、それこそ口から飛び出そうなほど早鐘をうつ。

 てか、おぱっ!おぱっ!おぱっ!おぱぱっ!あたっ!あたっ!背中に当たって!俺の脳内がピンク色に!!

 

「ふんっ!!」

 

 バチン!

 

「な、なんで自分で殴ったの?」

 

「気にするな」

 

「鼻血出てるけど……」

 

「……気にするな」

 

 はたしてこの鼻血は……いやこれ以上は考えまい。

 

「………颯太がいてくれたから、颯太が相談にのってくれたから、僕はここにいたいって思えた。ここに残れるようになったんだよ。これは……まぎれもなく颯太のおかげなんだ。だから、颯太のしたことは些細な事なんかじゃないんだよ」

 

 そう言って抱きしめる手に力を込めるシャルル。

 

「お、おう。そう……か」

 

 なんとか返事するが、正直もう無理。限界。いっぱいいっぱいアウトです。なんか頭も痛くなってきた気がする。てか痛い。なんか目もまわってきた。

 

「ねえ。これからは、僕と二人きりの時は、シャルロットって呼んでくれる……?」

 

「シャル…ロット?」

 

「そう、僕の名前。お母さんがくれた、本当の名前」

 

「そ、そうか。じゃあ――シャルロット」

 

「ん」

 

 嬉しそうなシャルロットの返事が耳元で聞こえた。

 

「えっと、それでだな、シャルロットさん」

 

 俺は咳払いとともに口を開く。

 

「俺としてはいろいろとやばいので、そろそろ離れていただけると……」

 

「あっ!う、うん!そうだね!ぼ、僕、髪と体洗っちゃうから!」

 

 そう言いながら俺の背からシャルロットが離れる。それによって俺の背中に押し付けられていた柔らかな感触も去って行く。………これを残念に思うのはいけないことでしょーーか~~~~~!?いけなくないと思います先生!

 

「お、おう!じゃあ俺は上がるから!」

 

 そう言ってシャルロットが向かった方とは別のシャワーで水を浴び、のぼせあがった頭を冷やし、そそくさと着替えたのであった。

 

 

 ○

 

 

 翌日。教室にはもうすぐ始業時間だというのにシャルロットの姿はなかった。

 朝はいつもと同じく同じ部屋で起きたのに、『先に行ってて』といわれ、俺は一夏と登校した。

 他にも関係あるかどうかはわからないがボーデヴィッヒの姿もなかった。まあこっちは昨日の負傷と事情聴取あたりだろうが。

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

 なぜかものすごく元気のない山田先生がやって来た。漫画で言えばどんよりとした縦線が何本も顔に出ているだろう。顔文字で言えばこんな→ (´c_,`lll)。

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。けど紹介は既に済んでいるといいますか。ええと……」

 

 山田先生の言葉にクラスがざわつく。そりゃそうだ。要領を得ない説明だもんな。でも俺は今の言葉でなんとなーく状況を理解した。そしてこれから阿鼻叫喚で無法地帯になるであろうことに不安を感じていた。……逃げる準備だけはしておくべきだろう。

 

「じゃあ、入ってください」

 

「失礼します」

 

 山田先生の言葉に聞き覚えのある声が返事をする。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 ぺこりとスカート姿のシャルロットが礼をする。

 

「ええと、デュノア君は本当はデュノアさんでした。ということです。……はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業がはじまります」

 

 山田先生……心中お察しします。さて、逃げるか。

 コマンド入力、逃げるヲ選択。

 

「おい、どこへ行く。授業中だ、席に着け」

 

 バシンッ!

 

 颯太は織斑先生の出席簿アタックを受け、強制的に席へ。颯太は逃げられなかった。

 はい、詰んだ!

 

「え?デュノア君って女?」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね」

 

「って、井口君、同じ部屋だったから知らないってことは――」

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

 バシーンッ!

 

「一夏ぁっ!!!」

 

 突然教室のドアを蹴破って鈴が登場した。

 

「待て待て!俺もシャルルのことは知らなかったんだ!」

 

「問答無用!!」

 

 ISを展開し、それと同時に衝撃砲が…って

 

「これ俺も危ないじゃん!」

 

 『火焔』を展開しようにもメンテに出したまま。……辞世の句何にしよう。

 

 ズドドドドオンッ!

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」

 

 発射後、怒りのせいで肩で息する鈴。まあ怒りも何もこのことに関しては誤解なんだけどね。

 ………って、あれ?生きてる?

 

「俺、生きてる!」

 

「………………」

 

 間一髪一夏(ついでに俺)を助けた人物はなんとボーデヴィッヒだった。

 その体は漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏っている。おそらく衝撃砲をAICで相殺したのだろう。しかしよく見ると以前のままではないようだ。あの大型レールカノンがない。

 

「助かったぜ、サンキュ――むぐっ!?」

 

「…………は?」

 

 助けられた礼を言おうとした一夏、が、その言葉は途中で遮られた。ラウラ・ボーデヴィッヒの唇によって。ようするに、織斑一夏はラウラ・ボーデヴィッヒにキスをされていた。

 突然のことに俺を含むクラスメイト達はおろか本人すら理解に及んでいない。

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

「……嫁?婿じゃなくて?」

 

「え?そこ?」

 

 一夏の冷静なつっこみに、つい俺もつっこんでしまう。

 

「日本では気に入った相手を『嫁にする』と言うのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

 

 ……どうしよう。間違った文化を学んでしまってるぞこのドイツ人。誰だよこいつにそんなこと教えたの。

 

 

 結果、その日のホームルームは俺とシャルロットを除く専用機持ち女子たちと日本刀を携えた篠ノ之によって轟音爆音斬撃飛び交う阿鼻叫喚地獄絵図なホームルームとなった。

 




気付けばいつの間にやらお気に入り件数が800ごえ。
次回は番外編だよ!
お気に入り件数500ごえとか(もはや800ごえ記念)、ランキング六位入りとかいろいろこめて書きます。
お楽しみに~。

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