IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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お気に入り件数800&ランキング6位記念番外編② ゲームは一日一時間

 あれから俺たちは街に帰って来て、装備を整えるためにプレイヤーの店やNPCの店の立ち並ぶ一画に来たのだが――

 

「むう……この装備とこの装備ではどちらの方がよいのだろうか……」

 

「ああ、それは強化していくとステータスが上がっていくからこっちの方がいいと思うぞ」

 

『……………』

 

「このアクセサリーはかわいいですが買って何か効果があるのでしょうか………」

 

「それは俊敏性にプラスのあるアクセサリーだな。後々他のアイテムと一緒に錬金できるから買っといて損はないぞ」

 

『……………』

 

 もっぴーとティア、その他初心者組の疑問に答える人物、それは俺でもかんちゃんでもシャーリーでもない。

 

「……みんなそれなりに気になっているだろうけど……俺が訊くってことでいいか?」

 

「私が聞こうか?」

 

「僕でもいいけど?」

 

「いや、知り合いだし俺が訊くから………で、なんでラブライバーがいるんだよ!」

 

 俺の言葉に買い物してるメンバーの横にいたラブライバーが振り返る。

 

「ん?」

 

「〝ん?〟じゃねぇよ!さっき帰って行ったじゃん!」

 

「いいだろ、別に!俺だって女の子と遊びたいんだよ!」

 

「知るか!」

 

「いいじゃん!俺も仲間に入れろよ!」

 

「次遊ぶ時には誘ってやるから!今日のところは初心者が多いから初対面のやつは帰れ!」

 

「ちぃぃぃきしょぉぉぉぉ!!」

 

 と、一昔前のお笑い芸人のように叫び

 

「バーカバーカ!!ハヤテのバーカ!!バーカバーカ!!!次誘ってくれる日を心待ちにしてます!!!!」

 

 という、怒ってるのかなんだかよくわからない捨て台詞とともに今度こそ走り去って行った。

 

「その……かわった友達だね」

 

「にぎやかな友達だね」

 

 苦笑いまじりのかんちゃんとシャーリーの言葉に俺も苦笑いしかできなかった。

 

 

 ○

 

 

 そんなことがありつつ、全員のメンバーの装備の新調が終わった。

 ワンサマーは全体的に白っぽい軽装備の鎧。頭にも同色の兜をかぶっている。武器は変わらず片手剣。

 もっぴーの装備は全体的に和服テイストだった。赤と白の着物がどことなく巫女服のような印象だ。わかりやすく言えば、某艦隊をコレクションするゲームの大飯食いな一航戦みたいな感じ。腰には刀を装備している。

 ティアはザ・魔法使いと言った感じの姿だ。青の全身を包むローブにとんがり帽子。背中には木の杖を持っている。

 スズネはチャイナ服のような格好だ。武器はなく、これまで同様素手で戦うようだ。

 くろうさぎの服装は全体的に黒を基調とした衣装。口元を隠す白のマフラー。イメージは某艦隊をコレクションするゲームの夜戦大好き軽巡の改二だな。武器は腰に携えた短剣。

 ちなみに俺たち経験者三人の装備は

 かんちゃんは紺のローブに紺のとんがり帽子。ティアに似た衣装だが、ティアの装備の何倍も防御力などのステータスは高い。武器は杖。なんでもこの杖、相当レアなものらしい。

 シャーリーの装備は全体的に西部劇のガンマンと言った姿だ。背中に背負った大型の弓が存在感を放っている。

 俺の装備は青い全身タイツのような超軽装備。あれだ、某魔術師のアニメの槍使いにそっくりな装備だ。武器の名前も同じだし。

 

「さて、次はどこに行こうか」

 

「そろそろもう少し強い敵が出るところでもいい気がするよ」

 

「そうだな。じゃあ――」

 

「ねえねえ、みなさん。皆さんのパーティーに踊り子はいかがですか?」

 

 これからのことを話し合っていたところに勧誘がかかる。

 見るとそこにはビキニのような布面積の少ない装備にいくつかのアクセサリーで着飾った槍を背負った女性プレイヤーがいた。というか――

 

「あ、たっちゃん。ログインしてたんですね」

 

 知り合いだった。

 

「もう!私をのけ者にして、みんなで楽しんで。私も誘ってよ」

 

「しょうがないじゃないですか。たっちゃん忙しいんですから」

 

「誘われたら全部の仕事ほっぽって参上したわよ」

 

「そんなことしたらまた虚さんに怒られますよ」

 

「えへへへ~♡」

 

 ダメだこの人まったく悪いと思ってない。

 

「なあ、ハヤテ。この人知り合いか?」

 

 俺たちのやりとりを見ながらワンサマーが訊く。

 

「うん。ていうかお前らも知ってる人だぞ」

 

「え?そうなの?」

 

「「「うん」」」

 

 三人で頷きながら答える。

 

「師匠」

 

「お姉ちゃん」

 

「楯無さん」

 

「えっ!楯無さんなの!?」

 

「やはろ~」

 

 五人が驚いているのを尻目にたっちゃんがふりふりと手を振る。

 

「たっちゃんはもう今日は大丈夫なんですか?」

 

「ええ。リアルの方の用事は全部終わってるわ」

 

「じゃあ、とりあえずこの九人で行くとして、どこへ行く?」

 

『ん~………』

 

 たっちゃんを含めた経験者四人で頭を抱える。

 

「我々もそれなりに経験を積んだ。それにこの人数ならどんな敵にも勝てるだろう」

 

「いっきに強い敵のところへ行こうじゃないか」

 

「どんな敵でも余裕よ、余裕」

 

『…………』

 

 このゲームに慣れてきてどうやらちょっと調子に乗ってきたらしい、初心者組。何も言わないがワンサマーやティアも同じようなことを考えているのだろう。

 

「どうしよっか。そこそこ強い敵が出て、今の俺たちのパーティーで安全性のあるところか……」

 

 俺たちが頭を抱えていると

 

「あれ?ハヤテじゃない」

 

 新たな知り合いその3が現れた。

 

「あ、RAINBOWさん」

 

「おひさ」

 

 赤毛に紫のローブ姿の魔術師、プレイヤーネーム『RAINBOW』さん。俺の知り合いだ。

 

「あ、みんな初めてだよね。知り合いのRAINBOWさん」

 

「RAINBOWです。よろしく」

 

 自己紹介しつつ皆フレンド登録する。

 

「で?ネト充よろしく女性プレイヤーはべらせて何してるの?」

 

「言葉じりに悪意を感じる気がしますけどそれは置いといて、初心者が五人ほどいるんですが、初心者向きの経験値稼ぎにいい狩場ってないですかね?」

 

「初心者向きか………」

 

 RAINBOWさんは少し考え込み

 

「D-2地区でどう?あの辺りはこの人数なら十分安全圏だと思うよ」

 

「なろほど、そこがありましたか……そうですね。そこにします。ありがとうございます」

 

「どういたしまして。また一緒に狩りしましょ」

 

「はい。リアルの方でもまた」

 

「あ、うん」

 

 そこでRAINBOWさんと別れ、俺たち九人はD-2地区へと向かった

 

 

「あっ。そう言えば忘れてた。最近のアップデートでD-2地区ってモンスターのポップ率上がったんだった。あの人数で大丈夫かな?」

 

 

 

 ○

 

 

 ウキギャァァァァァ!!

 

「ああああぁぁぁぁ!!!」

 

 俺たち九人は森の中を逃げ回っていた。背後からは人間サイズのゴリラのようなモンスターが数十匹追いかけてきていた。

 

「なんだよあの数!倒しても倒してもキリねえ!」

 

「しかも一体一体がそこそこ強いし!」

 

「経験者四人だけならまだしも初心者五人も一緒だとあの数はきつい!」

 

「一体と戦ってる間に邪魔されるし!」

 

「しかもある程度ダメージ食らったら回復するし!」

 

「どこが安全圏だ!」

 

 全員がいろいろ文句を言いながら逃げる。ときどき遠距離攻撃組が牽制をしつつ逃げるがキリがない。

 

「あっ!RAINBOWさんからメッセージ来てる!」

 

 俺はそう言いながらRAINBOWさんからのメッセージを開く。

 

『ごめん。最近のアップデートでそのあたりのモンスターポップや敵の強さが変更されたの忘れてた。

もしこのメッセージを呼んでいるとき、窮地だったら一言だけ言わせてもらう。

 

グッドラック!

 

RAINBOW』

 

「グッドラック……じゃねえ~~!!!!」

 

「マジでどうすんだよ!?」

 

「だ、誰か助けて!!」

 

 誰かがそう叫んだ時

 

 ズドン!

 

 大きな爆発音とともに背後で大きな爆発とともにオレンジ色の煙が広がる。

 

 ウギギャァァァァァ!!!

 

 ゴリラたちは苦しげな雄叫びとともに来た道を逃げていく。

 

「これ……肥やし弾だ!そっか!あのタイプの動物系モンスターは嗅覚がいいからあれで散らせるんだ!」

 

「でもいったい誰が……?」

 

「あっ!見て!あそこ!」

 

 スズネの言葉に全員が指さした方を見ると、大き目の岩の上に大型のランスを抱えた一人の男性プレイヤーが立っていた。

 

「あれはガンランスだ!」

 

「ガンランス?」

 

「簡単に言えば大型の槍でありながら大砲のように弾丸を発射できる装備だ。ただ、一発撃ってからの装填までが時間かかるうえに弾丸は自分で錬金しないといけないから、少し手間のかかる装備だ」

 

 俺が説明している間にその謎の男性プレイヤーがこちらにやってくる。

 俺たちを助けてくれた人物ではあるが一応少し警戒しつつ近づいてくる人物を見つめる。

 このゲームはプレイヤーキルが可能なのでどうなるかわかったものではない。

 

「…………」

 

『…………』

 

 俺たちの目の前までやってくる男性プレイヤー。上半身裸に手足や腰には動物の毛皮のような装備。頭には恐竜か何かの頭蓋骨のような装備をしている。

 

「あの、大丈夫でしたか?(笑) 大変そうだったのでつい手を出してしまいましたが、いらないお世話でしたか?(笑)」

 

「………い、いえ、ありがとうございました。助かりました」

 

 思いのほか物腰が柔らかかった。しかも語尾になんかつけてる。

 

「それはよかった。見たところ初心者の方が多そうだったので助けた方がいいと思いまして、助けになったのなら幸いです(笑)」

 

 なんとなくだがめっちゃいい人そうだ。

 

「この辺りは最近のアップデートで難易度が上がっていますので、街に戻るようでしたら、よければご一緒にどうですか?(笑)」

 

「ええ。もちろんいですよ。あ、俺、ハヤテって言います(笑)」

 

「かんちゃんです(笑)」

 

「シャーリーです(笑)」

 

「たっちゃんでーす(笑)」

 

「ワンサマーです(笑)」

 

「もっぴーだ(笑)」

 

「ティアですわ(笑)」

 

「スズネよ(笑)」

 

「くろうさぎだ(笑)」

 

 なぜか知らんが(笑)が伝染した。

 

「ははははは(笑) この(笑)って言うの僕の癖でして(笑)」

 

 笑いの上にさらに(笑)を付けている!何この人絶対いい人じゃん!

 

「以前ネット上でもめまして。文字だとこちらの感情が伝わりづらいでしょう?誤解を生まないように感情も書き込むようにしているんです」

 

 そういうエピソードはよく聞くことだ。ネットで気を付けないといけないことのひとつだろう。

 

「あっ、すいません。余計な話をして自己紹介遅れてしまった(笑) フルーツポンチ侍Gです(桂)」

 

 ………思いのほか変な名前のプレイヤーだった。てか(桂)って何!?

 

 

 そんなこんなでフルーツポンチ侍Gさんとともに俺たちはいったん町へと戻ることになった。

 

「――そうですか、みなさんリアルでもお知り合いなんですか(笑)」

 

「ええ。休日に揃って予定が無くて、みんなでできることってことで経験者が何人かいるこのゲームをやろうってことになりまして」

 

「いいですね、友人同士っていうのは(笑) 僕も仲のいい奴はいますがお互い忙しくて(悲) あ、よければ僕ともフレンド登録しませんか?(笑)」

 

「ええ、もちろんですよ」

 

 そんなことを話していると、森を抜け、川の流れる野原へとやって来た。

 

「どうやら危険域を脱したみたいですね(笑) ここからはもう少し進めばすぐに街に戻れます(笑)」

 

「そうですね。それじゃあもう少し頑張りましょ――」

 

「おい、ここには面出すなって言ったはずだぜ」

 

『!?』

 

 突然横の川辺にいた男性プレイヤーが言った。俺たちはそろってそちらを見る。

 その男性プレイヤーは黒い軽装備に逆立った髪。顔の周りと額を覆う鉄の額当てをしていた。背中には獣の毛皮の巻かれた大きな弓を備えている。

 

「来るならその名を捨ててから来いと言ったはずだ、フルーツポンチ侍G!」

 

「き、貴様は…(怒) フルーツチンポ侍G!!」

 

 なんか卑猥なプレイヤーネームの持ち主だった。てか名前がかぶっとるやん。

 

「貴様、まだこのゲーム内にいたのか?その紛らわしい名を変えろと何度言ったらわかるのだ?(怒)」

 

「名を捨てるのは貴様の方だ!フルーツの称号は誰にも渡さん!」

 

 なんかものすごくしょうもない気がするのは俺だけだろうか。

 

「すみませんがみなさん。僕はこいつと決着を付けなければいけない(怒) すみませんがここからは皆さんだけで進んでください(願)」

 

「……えっと、はい。了解です。頑張ってください」

 

「もちろんだ!フルーツの称号は誰にも渡さん!(燃)」

 

 そう言ってフルーツポンチ侍Gさんはランスを構え、フルーツチンポ侍Gへと向かう。

 

「「いくぞ!」」

 

 そこからよくわからないフルーツの称号とやらをかけた謎の戦いが始まったが、俺たちは関わらないようにさっさと町へと進んだのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「ゲームの中にはいろんな人がいるんですね」

 

「ああいう人はまれだよ」

 

 ティアの言葉に俺は苦笑い気味に言う。

 

「すごい人はちゃんといるぜ。たとえば――」

 

 俺は言葉の続きを言う前に断続的な金属のぶつかる音を聞いた気がして咄嗟に周りを見る。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「今何か……あ!あれだ!」

 

 見るとそこには数匹の武装したリザードマンと戦う男女の二人組がいた。

 

「噂をすればだ。あれはこのゲームでも結構有名なふたりだ」

 

「そうなの?」

 

「うん。間違いない」

 

 スズネの言葉にかんちゃんが頷く。

 

「どういうふたり組なのだ?」

 

 もっぴーも興味を持ったようだ。

 

「あの片割れの全身黒ずくめの真っ黒いロングコート着た二刀流使いの男性プレイヤーがいるだろう?あれはこのゲームの中でもトップクラスのプレイヤーだ。通称《黒の剣士》。ぶっちゃけ男性プレイヤーでもトップクラスの実力だ」

 

「そんなにか!?」

 

「ああ。そして、もう一人の方、《黒の剣士》と対照的な白い装備の細剣使い。あっちはこのゲーム最大規模のギルドの副団長をしている人物だ。その剣技のスピード、華麗さから《閃光》と渾名されてる」

 

「せ、《閃光》……」

 

 みな呆然としている。

 

「しかし、あの二人が有名なのはそれだけじゃない。あの二人が有名なのは、あの二人が夫婦だからだ。このゲーム最大知名度の夫婦だな」

 

『ふっ、夫婦~!?』

 

 初心者の皆さまが驚いたように叫ぶ。

 

「あれ?言ってなかったっけ?このゲームのプレイヤー間の関係の種類」

 

『???』

 

「簡単に言えば、プレイヤー間の関係は他人、フレンド、パーティー、ギルド、なんかの基本的のものの他に恋人、そして、結婚があるんだよ」

 

「結婚するとどうなるの?」

 

「お互いのアイテム欄が共通になる。だから、片方が手に入れてアイテム欄に仕舞ったものをもう片方もアイテム欄から取り出せるようになるってわけ。それくらいだよ。ステータス的に何かが変わるわけじゃない――でも、一番は気持ちの面だろうな。共通アイテム欄なんてギルドでもあるしな。ちなみに、これは俺の持論だが、このゲーム内で結婚する奴はリアルでもそれなりに深い関係にあるやつらだな………リア充爆発しろ」

 

『へ、へ~』

 

 なんか初心者組(ワンサマーを除く)がソワソワしだした。

 

「な、なあワンサマーよ。何事も経験ということで私たちも結婚してみんか?」

 

「は?」

 

 もっぴーの言葉にワンサマーが首を傾げる。

 

「ちょっと、もっぴーさん!抜け駆けはいけませんよ!」

 

「そうよそうよ!ワンサマー!試すなら私としなさいよ!幼なじみでしょ!」

 

「それ幼なじみ関係ないだろ!」

 

「おい、ワンサマー。リアルでもゲームでも夫婦になるのは当然の理だ。私と結婚しろ」

 

「リアルでも違うからな?」

 

 ゲーム内でも安定の一夏スキーの皆さまでした。

 

「………爆ぜればいいのに」

 

「アハハハ……みんなゲームでも相変わらずだね」

 

「リアルでも何度も見た光景」

 

 シャーリーやかんちゃんも呆れているようだ。

 

「ハ~ヤテ♪」

 

 と、なぜか後ろからたっちゃんに抱き着かれた。

 

「ねえねえ、君は〝結婚〟には興味ないの?興味あるなら私とどう?」

 

『えっ!?』

 

 その言葉に驚いたのは俺ではなくかんちゃんとシャーリーだった。

 

「は、ハヤテも興味あるの?興味あるなら別に僕もハヤテなら結婚してもいいよ?僕も興味あったし……」

 

「わ、私も。ど、どうせゲーム内のことだし……」

 

 なんと!?俺もモテ期が……なわけないか。どうせたっちゃんのはいつものからかいだろうし、シャーリーやかんちゃんはただ〝結婚〟というシステムに興味があっただけだろう。

 

「……遠慮しておきます」

 

 やんわりと抱き着くたっちゃんを解いて三人の申し出を断る。

 

「アイテム欄が増えたらって思ったことは何度かありますけど。そんなのギルド組めば解決だし」

 

「そう……」

 

「まあハヤテがそういうなら……」

 

「わ、私も別にそこまで興味あるわけじゃないし……」

 

 俺の答えを聞いて、三人は引き下がりはしたが、どことなく残念そうだった。

 

「ところでさ……今ふと思ったけど、このメンバーでギルド作りません?なんならラブライバーやRAINBOWさんも入れて」

 

「おっ!いいじゃない!」

 

「おもしろそうだね!」

 

「私も賛成」

 

 俺の提案に三人も乗ってくる。

 

「よし、そうと決まったらほかのみんなにも……ってまだやってるし」

 

 

 

 ○

 

 

 

「さ、というわけで、先ほど言ったように俺たちのギルドを作ることになったわけだけど、そのためにはギルド作成クエストをやらないといけません。というわけで今からクエスト条件のダンジョンに俺たち九人で潜りたいと思います!」

 

『おお~~!!』

 

 俺の言葉に九人全員が頷く。

 

「え~、このダンジョンは比較的に難易度は高くなく、またレア度の高い装備や武器がドロップする可能性が高い。今日はじめたメンバーも今使ってる装備のワンランクツーランク上の装備を手に入れられるかも。てなわけで頑張っていきましょ~!!」

 

『おお~~!!』

 

 というわけで俺たち九人はダンジョンに入る。と言っても洞窟系ではなく岩山のようなエリアダンジョンだ。

 ダンジョン探索も順調に進み、クエストと関係のないアイテムもどんどん集まっていく。おかげで武器や装備がランクアップした人も何人か出てきた。

 そうやって進んでいくと、このクエストで討伐条件となっているボスのもとへとやって来た。

 

 

 ○

 

 

 

 グルァァァァァァ!!!

 

 岩山の中のまるでコロシアムのようになった場所で、俺たちの目の前には一匹の白い大型龍、ティガレウスが雄叫びを上げる。その巨体は見上げるほどで俺たちの背はやつの膝のあたりまでだった。

 

「よし!あともう少しだ!後は弱点の角を破壊すればすぐだ!」

 

「行くぜ!」

 

 ワンサマーが言葉とともに背後からティガレウスの尾を斬り上げる。

 

 グギャァァァァ!!

 

 雄叫びとともにワンサマーに向くティガレウス。が、

 

「させん!」

 

「私の嫁に手は出させん!」

 

 もっぴーとくろうさぎが同時に飛び出しそれぞれティガレウスの右足と左足に刀とナイフを突き刺し切り裂く。

 

 グギャァァァァ!!!

 

 雄叫びをあげ地に膝をつくティガレウス。しかし俺たちの攻撃はそれでは終わらない。

 

「『火竜の鉄拳』!」

 

 スズネの叫びとともにティガレウスに向けて赤い一閃が走る。そのまま一発の弾丸のようにティガレウスの腹にスズネの拳が突き刺さる。

 

 グギャァァァァ!!!

 

 苦しげな声をあげて雄叫びを上げるティガレウスから鈴が離れると同時にティガレウスの頭へと、頭の角へと氷の礫が数十発と襲う。

 かんちゃんとティアの魔法コンビの攻撃だった。

 ティガレウスが地に膝をつき、スズネの一撃により体勢を崩したことで弱点の角が狙いやすくなったのだ。

 

「僕も行くよ!『アルティメットアロー』!」

 

 シャーリーの言葉とともに上空へと向けて放たれた数十発の矢がティガレウスの角に向けて降り注ぐ。

 それが最後のとどめになったようでティガレウスの角が砕け散る。

 

 グギャァァァァァ!!!!

 

 今までで一番の雄叫びを上げるティガレウス。

 

「これで締めよ、ハヤテ!」

 

「はいよ!」

 

 俺とたっちゃんは示し合わせてお互いに自身の槍を構えて走り出す。同時にたっちゃんの体が青白い光に包まれ加速していく。

 

「『颯の如く』!」

 

 加速状態のままティガレウスの腹に突き刺さり、貫くたっちゃん。

 それを見ながら俺は走っている状態から上へジャンプし、ゲイ・ボルグを投擲の体勢で構える。ゲイ・ボルグが真紅の光に包まれる。

 

「ゲイ!ボルグ!!」

 

 叫びながら投擲したゲイ・ボルグはティガレウスの胸へ突き刺さり、そのまま突き抜ける。

 

 グゲギャァァァァァァ!!!!!

 

 ティガレウスは断末魔の雄叫びを上げ、地面に倒れ伏す。

 

『ぃぃぃよっしゃ~~~~!!!!』

 

俺たちはその場でガッツポーズし叫ぶ。

 

「これでギルド作れる!」

 

「やったぜ!」

 

 近くにいたワンサマーと一緒になって喜ぶ俺。

 

「どうだった?ヒマつぶしにやったゲームは」

 

「すっげ~楽しかった!」

 

 俺の問いニッと笑いながら答えるワンサマー。他のみんなもとても楽しそうだった。

 とりあえず街に戻ることにした俺たちは急いで撤収準備を始めたのだが――

 

グギギャァァァァァ!!!!

 

 天を裂くような雄叫びが聞こえ、俺たちは咄嗟に身構える。

 

「ちょっと、今の雄叫びは何!?」

 

「わ、わからない!でも、今の声って――」

 

 俺の言葉が終わる前に空の雲を割って姿を現したのは、大きな赤い龍だった。その体は大きく、先ほどのティガレウスの倍はありそうなほどだった。

 

「おい、ウソだろ!?アマレイアじゃねぇか!」

 

「アマレイアって!?」

 

「さっき倒したティガレウスの倍は難易度の高い敵だよ!俺たち経験者四人がフル回復状態でだったらまだ勝負になったかもしれないけど、ほとんど回復薬もMPもない状態じゃどうしようもない!このままじゃやられる!」

 

 そう言っている間にアマレイアは俺たちの目の前に着地する。その姿は一種の神々しさを持っていた。

 

「これ逃げられないかな!?」

 

「ほぼ無理です!」

 

「これやばいだろ!」

 

「どうするのだ!?」

 

「どうにか切り抜けられませんの!?」

 

「転移アイテム的なものないの!?」

 

「あるけど発動まで時間差があるんだ!使ってる間にやられちゃう!」

 

「もうどうしようもないのか!?」

 

「どうしようも……ない!」

 

 俺たちが右往左往としている間にもアマレイアは身構え、翼と一体化した右腕を振りかぶる。

 

『ああああぁぁぁぁ!!!』

 

 全員で泣き叫んだ時――

 

 ズブシュッ!

 

 刃物が突き刺さるような音がした。

 それから待てども待てどもアマレイアの攻撃は来ない。

 

 ズドーンッ!

 

 恐る恐る視線を上げたのと、目の前にアマレイアが頭から倒れてきたのは同時だった。

 

「い、いったい何が……」

 

「あ、あれを見て!」

 

 たっちゃんが何かに気付き指さす。

 見るとアマレイアの頭の上に誰かが乗っていた。

 その人物はかがんだ状態から体を起こす、と同時に手に握っていた何かを引っ張り、アマレイアの頭に刺さっていた大きな、その人物の身長の倍はありそうな太刀を引き抜く。

 

「あ、アマレイアを一撃で……」

 

「いったい何者なんだアイツは……」

 

 俺たちの疑問の中その謎の人物は太刀を背の鞘に仕舞い、アマレイアの頭から飛び降りて俺たちの目の前に降り立つ。

 驚いたことにその人物は女性プレイヤーだった。女性プレイヤーの中でも長身な方で、長い黒髪の切れ長なまるで狼を思わせる吊り目。口元は黒いマフラーで隠されて見えない。装備は青白い鎧。その上から黒いマントを羽織っていた。どの装備も輝きからして超一級品だとわかる。

そして、何よりも目を引くのが、頭の上に浮かぶ光る輪だった。誰もが天使の輪と言われて思い浮かべるタイプの光輪。

 

「あ、あの光輪……まさか『ヴァルキリー』!?」

 

「なんだよその『ヴァルキリー』って!」

 

 俺の言葉にワンサマーが訊く。

 

「このゲームのジョブの一つだ。最初の説明で言っただろ。下位職六つ、上位職五つを育て上げると最高職が解放されるって。その最高職は男性女性で名前が違うんだ。男性なら『ジョーカー』。女性なら『ヴァルキリー』になる。『ヴァルキリー』の職が解放されるとプレイヤーの頭上にはあの光輪ができるらしい。まだ最高職まで行った人なんて男性女性でそれぞれ片手ほどしかいないから、俺も最高職まで到達した人なんて初めて見たけどな」

 

 ワンサマーたちに説明しながら謎の『ヴァルキリー』に視線を戻す。

 『ヴァルキリー』にまでなったプレイヤーは先にも言った通り片手ほどしかいない。それはつまり、『ヴァルキリー』の容姿は噂になっているのだ。

 今目の前にいる人物の姿は俺の記憶が正しければ……

 

「礼を言わせてくれ。あんたのおかげで助かった」

 

 とりあえず礼を言う。俺たち九人は頭を下げるが、

 

「礼には及ばん。私は私のやるべきことをしたまでだ」

 

 謎の人物にはそっけなく返されてしまう。

 

「なあ、あんた……もしかして、このゲームで最初に最高職に到達したっていう…プレイヤー名『ブリュンヒルデ』なんじゃ……」

 

「…………」

 

 俺の言葉に数秒黙ったのち、その場でくるりと踵を返す。

 

「あ、ちょっと待って――」

 

 呼び止めようとしたが、それよりも早く、ブリュンヒルデはものすごい跳躍力を発揮し、飛び去って行った。

 

「え?ねえ、今のプレイヤーってブリュンヒルデっていうの?」

 

 ブリュンヒルデの飛び去った方を呆然と見ていた俺にスズネが言う。

 

「ああ、そのはずだ。だよね?」

 

「うん、間違いないわね」

 

「噂通りの容姿だった」

 

「あの人は『ヴァルキリー』に到達した人の中でも活発にいろんなところで活躍してるから、三人より遅く始めた僕の耳にもあの人の噂は届いてるよ」

 

「ブリュンヒルデ……いったい何者なんだ……?」

 

 全員がぼんやりとブリュンヒルデの飛び去った方向を眺める中

 

「………ブリュンヒルデ…って織斑先生みたいだな」

 

 俺はひそかに画面を見ながら呟くのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「ふう……」

 

 と、ため息とともに山田真耶は耳に当てていたヘッドフォンを外す。

 

「いあぁ、ここの所忙しかったからなかなかログインできませんでしたが、やっぱり息抜きにいいですね」

 

 そう呟く真耶の視線の先にあるパソコンの画面には青白い鎧と黒いマントに身を包んだ黒髪に狼のような吊り目の女性キャラクターが映っていた。

 

「そう言えば、さっきの人たちどこかで見たような………」

 

 そう考え込む真耶の思考は

 

 コンコン。

 

 扉を叩く音に遮られる。

 

「は~い」

 

 返事をしながら扉を開けた先には

 

「休日にすまないな。書類に君のチェックが必要なところがあってな。すぐ目を通してもらえるか?」

 

 織斑千冬が立っていた。

 

「はい、わかりました。あ、こんなところでは何なので、どうぞ中へ」

 

「うむ。すまないな」

 

 真耶は千冬を招き入れ、イスを示したのち、千冬の持ってきた書類に目を通し始めた。

 

「今日は休日だったが、君はどこにもいかなかったのか?」

 

 真耶の出したお茶を飲みながら千冬が訊く。

 

「ええ。ネットでゲームをしていました」

 

「ふむ……ゲームか。それでゆっくりできたか?」

 

「ええ。とても有意義な休日になりましたよ」

 

 そう答えた真耶の笑みは晴れやかだった。

 




もう少し仕上げるつもりだったんですが遅くなってしまいました。
番外編はこれで終わりです。
お付き合いいただきありがとうございました。
次回からは本編に戻りますのでお楽しみに~。

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