最近リアルの方が忙しくてなかなか投稿が出来ず悶々としながら過ごしておりました。
てなわけで今回はちょっと長めです。
部屋での一夏とラウラのイチャツキを見せつけられた後、一夏に入れ替わりにシャワーを浴びて朝食をとった俺は制服に着替えて校門前に来ていた。
現在の時刻は八時半。おいおい、学校はどうした学校は、完全に遅刻じゃないか、と思うかもしれないが、今日は休日だ。
じゃあなぜ休日に制服着て校門に立ているのかと聞かれれば、答えは簡単。今日はそれなりにちゃんとした格好が必要な人物と会うからだ。本当はもう一人一緒に行く人物がいるのだが……約束の時間が八時半だったはずなんだけどな……。
「ご、ごめん、颯太!お待たせ!」
と、噂をすればなんとやら。待ち合わせ相手のシャルロットがやって来た。俺と同じく制服姿、もちろん女子の制服だ。
「おう。気にしなくても俺も今来たところだけど、珍しいな。どうかしたのか?いつもは時間にきっちりなシャルロットが遅れてくるなんて」
「う、うん。ちょっと……その……うっかり二度寝しちゃって。そのまま……寝過ごしちゃった」
「ふ~ん………」
まあ人間誰しも眠い時はある。誰もあの布団の温かさには抗えないのだよ。ただ気になるのことが一つ。
「なあ、シャルロット」
「う、うん?」
「なんか俺のこと避けてない?」
「えっ!?そ、そんなことは、ないと思うけど?うん、ないよ?」
そういうシャルロットは間違いなく顔を若干赤く染めて俺のことを警戒していた。
先月まで一ヶ月も同じ部屋で暮らしていたせいか、なんとなくシャルロットがごまかそうとしている雰囲気は分かるようになった。
………まあいっか。本人が否定してるんだ。しつこく訊くのも鬱陶しいし。例えシャルロットが俺のことをもうすでに嫌いで鬱陶しく思っていても、そのせいで俺を警戒してるんだったとしても……。
「ど、どうしたの、颯太?蹲って……」
「いや……うん……なんでもない……。ちょっと自分のネガティブな考えにテンションが駄々下がりになっただけだ。この程度のこと大丈夫だ。うん……大丈夫だ………ぐすんっ」
べ、別に泣いてなんかないしっ!
「さて!」
掛け声とともにその場に立ち上がり、シャルロットに顔を向ける。
「さっそく行くか。時間的に余裕があるとはいえ、早く着く分には問題ないだろう」
「うん」
シャルロットが頷いたのを確認し、俺たちは歩き始めた。
………気のせいか?シャルロットと俺の間に三歩分くらい間があるような……。あれだよね?女性は男性の三歩後ろを歩くって言う日本の大和撫子を実践してるだけだよね?俺が嫌いで少し離れて歩いてるんじゃないよね?………ぐすんっ。
○
「……………」
「……………」
そんな二人を離れた位置から観察する人影がふたり。
「見た、簪ちゃん?」
「うん、お姉ちゃん」
ふたりは顔を見合わせ頷き合うと
「Let’s尾行!」
「おー!」
○
さて、目的地まで進むうちにシャルロットとの(物理的な)距離も縮み、目的地に着いた時には完全に俺の隣にはシャルロットが立っていた。
「俺は何度も来たけど、シャルロットはここに来たのこれで二回目くらいだっけ?」
「うん。前に来たのはフランスから帰った時だったね」
そう返しながら俺とともにシャルロットの見上げる先には、俺は何度か訪れて見慣れた高層ビル、指南コーポレーション本社があった。相変わらずでかかった。
「んじゃま、入るか。入口につっ立ってても暑いだけだし」
「そうだね。通行の邪魔にもなるし」
頷くシャルロットとともに入口の自動ドアをくぐると、空気が一変した。じりじりと肌を焼く日差しがなくなり、冷房の効いた涼しい空気が肌を包む。
広々とした空間の中を俺たちは歩を進め、受付へと向かい、何度も来ているうちに顔見知りになった受付嬢の女性に声をかける。
「こんにちは、七海さん」
「あ、井口君。お久しぶり~」
そう笑顔で返すのは指南コーポレーションで受付嬢をやっている七海リオンさん。年上だが気さくで話しやすく、こうして受付で会うたびに話し、いつの間にか仲良くなった。年上なのにどこか年上っぽい感じのしない人で、どことなく雰囲気が山田先生に似ている気がする。性格とか、あとはまあ、どことは言わないけど体型とかも。
「おやおや?隣にいるのはもしかして彼女?井口君も隅に置けないな~」
「か、かのっ!?」
楽しそうに言う七海さんの言葉にシャルロットが顔を赤くしながらモジモジしだす。まあ急にそんなこと言われたら驚くわな。
「違いますよ。彼女は俺の友達で、先月から新しく俺と同じくここの所属IS操縦者になった子です。今日は一緒に社長に会うことになってるんですけど」
「あ~、そう言えば聞いてるよ。元フランスの代表候補生の子をヘッドハンティングしたって社長が嬉しそうに言ってたわ。あなたがその噂の子か。私はこの会社で受付とか事務仕事をしてる七海リオンです。よろしくね」
「はい。シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」
笑顔で挨拶をしあうシャルロットと七海さん。
「ちょっと待ってね。あなたたちが来たことを報告するから。すぐ迎えが来ると思うわ。そこの椅子にでも座って待ってて」
「はい」
七海さんに会釈をしつつ示された椅子に座る。
七海さんの言葉通り五分もせずに見知った顔が数名やって来た。
「やあ、お待たせ」
そう言いながら片手を挙げてやって来たのは貴生川さん。その後ろにはミハエルさんや犬塚さん、そして、俺も初めて出会う体格のいい男性が一人いた。
「あっ、そう言えばまだどちらにも紹介してなかったね。彼は営業部部長の――」
「サンダーだ!よろしくな!」
そう笑顔で言う男性の顔はどう見ても日本人だった。日本人なのにサンダーさん?と俺もシャルロットも首を傾げていると
「ちゃんと本名を名乗らんか。お前の名前は山田雷蔵だろう」
ミハエルさんがため息とともに指摘する。
「いいじゃねえか、営業の時とかはちゃんと名乗ってんだからよ。ここには今身内しかいねえんだし」
なんか、豪快な人だった。
「えっと……とりあえず、よろしくお願いします、サンダーさん」
「おう!お前わかってんじゃねぇか」
そう言いながら俺の背中をバンバンと叩くサンダーさん。正直そこそこ痛かった。
「挨拶はその辺にしてそろそろ移動しよう。社長が待ちくたびれて文句を言ってきそうだ」
犬塚さんの言葉に全員頷く。あの人なら遅れてきた俺たちにブーブー文句を言いそうだ。
さて、今日俺とシャルロットがここ、指南コーポレーション本社にやって来たのは多忙な指南社長とシャルロットの顔合わせのためである。その付き添い兼修理の完了した『火焔』の詳しい説明と新装備の件で俺もやって来たわけだ。
そんな俺たちが会いに来た相手、指南社長は変わった人で、その変人っぷりを表すエピソードには事欠かない。ある時は『火焔』のメンテナンスに来たはずが開発部で紛失した工具を瓦礫の山から社員総出で捜索する手伝いをし(もちろん社長が率先して油まみれになりながら探していた)、またある時は夕食会にお呼ばれして手料理を振る舞われたところ、明らかに料理とは思えない社長曰くシチューとの紫色のスープをごちそうになり、しかもものすごくおいしかったり、社員食堂名物焼きそばパン大食い大会を突然開いて出場させられたり。
とまあそんなもろもろのエピソードにことかかない変人社長ではあるが、いくら自分たちの所属する会社とはいえ、大会社の社長に会うのだ。もちろん下手な格好はするわけにはいかないので制服でやって来たのだが……。
「やあやあ!いらっしゃい、颯太君!シャルロットちゃん!」
そう満面の笑みで俺たちを出迎えた指南社長の格好はキッチリした格好で来た自分たちがあほらしくなるような、ものすごくラフなものだった。
短パンのジャージに半袖シャツ。何より目を引くのがそのシャツの柄である。正直言って変だ。変としか言えない。コミカルな、笑ったような表情の牛の顔、その横には文字で「牛」、その下には加工済みのステーキ肉のイラスト。どこで買ったんだと言いたくなるようなシャツだった。
その様に電話でしか話したことのなかったシャルロットは唖然とし、社長のそういうところを見慣れているであろう社員の皆さまは苦笑いを浮かべ、その中でもミハエルさんは大きなため息をついて頭を抱えている。
「おい、時縞副社長。社長のセンスは群を抜いて壊滅的だと何度も言っているだろう。こいつの暴走を止めるのがお前の役目だといつも言っているじゃないか」
「ア、 アハハハ……。僕も止めたんだけど……」
ため息まじりに言うミハエルさんの言葉に時縞副社長も苦笑いだ。
「え~、この服のどこがダメだって言うの!?」
「全部だ。お前は仮にも社長だろう。柄のセンスはもちろん、ラフすぎるのもダメだ。もっと上に立つものらしいしっかりとした服装でいろ」
「いいじゃない。今は身内しかいないんだから。仕事の時にはちゃんとした服着るわよ」
「そう言いながら以前他の会社との会議に行こうとした時のお前の服装は何だ。どこの気違いな帽子屋かと思ったぞ」
「そんな~。私あれ結構気に入ってるのに。どうせならみんなおそろいにしようかとも思ったのに」
『却下』
「えぇ~」
曰く気違いな帽子屋風の服装を見ていたであろう人物たち(ミハエルさん、犬塚さん、時縞副社長)の間髪いれぬ否定に不満げな声をあげる社長だった。
「えっと……とりあえず社長の服のセンスについては置いておいて――」
そんな中、このままだと話が進まないと思い、俺は口を開く。
「お久しぶりです、指南社長。社長は顔を合わせて会うのは初めてですよね?こっちが――」
「シャルロット・デュノアです。お電話では何度もお話してますよね。デュノア社やフランスでの件、また、所属IS操縦者として雇っていただきありがとうございます」
俺が示すと、一歩前に出てシャルロットが頭を下げる。
「いいのいいの。困ってる時はお互いさまよ。それに話聞いてると個人的にあいつらのやり方も気にくわなかったしね」
「うちとしては有望な操縦者に加え、デュノア社やフランスにいい交渉材料ができた。おかげでうちはぼろ儲けというわけだ」
「まったくエルエルフはまたそうやってなんでも損得勘定するんだから」
「事実を言ったまでだ」
不満げな指南社長を尻目にミハエルさんは素知らぬ顔で言う。
「実際利益が無ければここまで面倒なことは二度とごめんだ」
「「本当にご迷惑をおかけしました」」
俺とシャルロットは二人で声を揃えてミハエルさんに頭を下げる。
「ホントにいいのよ、気にしなくて。そこの仏頂面がなんて言っても私はこの方針を変えるつもりはないし、なんだかんだ言ってそいつも最後には協力してくれるんだから」
ニヤニヤと楽しそうに言う指南社長の言葉に否定も肯定もせずふんっとそっぽを向くミハエルさんの姿に「ツンデレ」という言葉を思い浮かべたのはおそらく俺だけではないだろう。
「あ、そうそう。今日二人に来てもらったのはね、実はフランスやデュノア社のシャルロットちゃんの処遇に関する契約やらが先週やっと片付いてね。シャルロットちゃんには仮契約だったうちとの契約の更新と、颯太君には先月の『火焔』の件と新装備のことで呼んだわけだけど……実はもう一つお願いがあるのよ」
「「お願い?」」
社長の言葉にふたりで首を傾げる。
「うん。と言ってもシャルロットちゃんにだけど。所属IS操縦者とか国家代表候補生にはIS関連だけじゃなく雑誌やCMに出てもらう仕事があるのは知ってる?」
「はい。なんとなくは」
「僕もフランスにいた時にそういう話は聞きました」
国家代表その候補生には国の広告塔の面もあるせいかそう言う仕事もあるらしい。というか各国意図的に美人を代表に選んでる節はあると思う。
「そんなわけでシャルロットちゃんには今度うちで発売する新商品のスポーツドリンクのCMに出てほしいのよ」
「スポーツドリンクって……ISと関係ないですよね」
「そうでもないよ」
俺の疑問に答えたのは貴生川さんだった。
「うちではISが人間に与える影響や人間に負担をかけないISスーツの開発のために人間の体のメカニズムも研究してたんだけど、その過程で体にいい栄養素の組み合わせを偶然見つけてね」
「どうせならとそれを元に提携を結んでいる飲料水メーカーと合同でスポーツドリンクにした、というわけだ」
「な、なるほど」
前からいろんなことに手広く営業してる会社だと思っていたが、ホント色々やってるなこの会社。
「てなわけで、どうせなら大々的に宣伝しようってことでテレビCMもしっかりしたもの作ろうってなってね」
「で、でも、そんな大役、僕でいいんですか?」
「大丈夫よ。シャルロットちゃん可愛いしCMのイメージにもぴったりだわ」
「まあ確かにシャルロットみたいな可愛い子が出てるCMの商品なら買ってみようって気になるかもな」
「か、かわっ!?」
俺や社長の言葉に顔を赤く染めるシャルロット。
「お、お世辞はいいよ、颯太」
「いや、事実だし」
「ふ、ふ~ん。そうなんだ………颯太がそう言うならやってみようかな……」
と、照れたように呟くシャルロット。
「やってくれる?よかった!今日はその打ち合わせのために共演者の人も来ることになってるのよ」
「共演者?」
「うん。シャルロットちゃんの他にもう一人女の子の出演者がいるの。シャルロットちゃんとその子でダブル美人キャストで行こうと思って」
「へ~。ちなみに有名な人なんですか?」
「うちがスポンサーやってるアイドルの子でね、今人気沸騰中の流木野サキちゃんって子なんだけど――」
「る、る、流木野サキ!!?」
社長の言葉に俺は社長に詰め寄る。
「マジっすかっ!?マジであの流木野サキですか!?」
「う、うん。マジだけど……」
俺の勢いに社長もタジタジだがそんなもん関係ない。今はそれよりも
「てことはこれから流木野サキがここに来るんですよね!」
「う、うん」
「こうしちゃいられない!ちょっと近くのデパートで色紙買ってきます!」
「ちょ、ちょっと颯太!?」
ダッシュで飛び出していこうとした俺を呼び止めるシャルロット。
「どうしたの急に慌てて」
「慌てずにいられるか!流木野サキだぞ!あの流木野サキだぞ!!このアイドル戦国時代にグループも組まず一人だけで圧倒的な人気!出す新曲はすべてオリコン上位入り!しかもアイドル業以外にも女優としても活躍!出る番組やドラマは軒並み高視聴率のあの流木野サキだぞ!!」
「へ、へ~……」
俺の剣幕にシャルロットもタジタジだ。
「ん~、悪いんだけど颯太君はその打ち合わせに参加できないから、たぶん今日は流木野さんには会えないんじゃないかな」
「えっ!?なんでですか!?」
苦笑いの時縞副社長の言葉に俺は足を止める。
「だって君はその時間は別件があるから」
「別件って何ですか!?すぐに終わらせて戻ってきます!」
「たぶん無理じゃないかな……。だってアキラちゃんが相手の説教タイムだから」
「ヴェッ!!?お説教っすか!?何の!?」
「先月のタッグトーナメントで君が勝手に装備の出力いじったことにお冠らしいよ」
「そ、そんな~……」
貴生川さんの言葉に俺はその場にへたり込む。
「というわけで山田君、颯太君を連行して」
「サンダーだっ!オラ!行くぞ井口!」
「い~や~だ~~~!!!流木野サキに会いたい~~~!!!!お説教は嫌だ~~~~!!!!!」
○
「お疲れ様、シャルロットちゃん」
本格的な契約の後、CMの打ち合わせを終えたシャルロットに隣に座っていた(ちゃんとしたスーツに着替えた)指南翔子がにっこりと微笑みながら言う。
「ごめんね、急にこんなお仕事頼んじゃって」
「いえ、全然問題ないですよ。指南社長や会社にはいろいろお世話になりましたし、企業所属の大事な仕事ですから」
「そう言ってくれると助かるよ」
シャルロットの言葉に時縞春人は申し訳なさそうに笑う。
「しかし、すごかったですね、流木野サキさん」
そう言いながら先ほどまで流木野サキの座っていた向かいの席に目を向けるシャルロット。
「オーラって言うんですかね、人気が出るのも分かる気がします」
「その分多忙だけどね。彼女は翔子以上に忙しいから」
「確かにそれは大変そうですね」
打ち合わせが終わると同時に次の仕事現場へ向かって行った姿を思い出しながら三人で顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。
「さて!それじゃあ颯太君たちのところに行きましょうか。アキラちゃんのお説教も終わってるかしらね」
「そうですね。あっ!」
席を立ったところでシャルロットは声をあげる。
「ん?どうかしたの?」
「いえ、あんなに欲しがっていたんだから流木野さんにサインをお願いすればよかったと思って」
「ああ。でもまあいいんじゃない?うちがスポンサーしてるしそのうち会う機会もあるでしょう」
「……ですね」
翔子の言葉に納得し、頷いたシャルロットは三人で颯太たちのいる部屋へと向かう。聞いている話によると開発部の一室にいるらしい。
「しかし、彼があそこまでサキちゃんのファンだったなんて知らなかったな~」
「ですね。颯太ってアニメや漫画だけじゃなかったんですね。しかもものすごく熱烈な……少し妬けちゃうな……」
「えっ?ごめん、よく聞こえなかった。なんて?」
「い、いえっ!何でもないです!」
自分の呟きがまさか聞かれているとは思わず、つい大きな声になりながら否定する。
「ふ~ん。そういうことか。颯太君も大変だな」
横にいた春人にはシャルロットの呟きがはっきりと聞こえていたらしく、苦笑いでつぶやくがその呟きは二人には聞こえていないらしい。
そんなことを話しながら移動すると、三人はお目当ての部屋の前にやって来た。
「失礼するわよ~!どう?お説教は……おわっ……た……?」
「「……………」」
三人が扉を開け、翔子は朗らかに訊くがその元気は徐々になくなり、シャルロットと春人は唖然としていた。
三人の目の前には地べたに正座させられ首から「私は悪いことをしました」と書かれたプラカードを下げた颯太と、その目の前で仁王立ちするいかにも怒っていますと言った表情の小柄な赤毛の少女の姿だった。
○
「失礼するわよ~!どう?お説教は……おわっ……た……?」
「「……………」」
指南社長の声と誰かの息を飲む気配(おそらくシャルロットと時縞副社長)がしたが、そちらを見る余裕は俺にはなかった。というか一ミリも動くことができない。なぜなら俺の目の前にものすごい威圧感とともに俺を睨む人物、連坊小路アキラさんがいるからだ。
赤毛の髪を後ろで束ね、ダボダボのパーカーにショートパンツ。整った顔立ちだが目の下のクマのせいか睨みに凄味が出ている。
「で?自分がどれだけのことをしでかしたか、き、君のミジンコのような頭でわかった?」
「はい!勝手に出力をいじって、みなさんが心血を注いで作ってくださった機体に多大な負担をかけてしまい本当に申し訳ありませんでした!!」
今までにここまでのマジの土下座をしたことがあっただろうかというほどの土下座をしながら俺は叫ぶ。
「あ、謝ってすむなら警察はいらない」
俺の土下座でもアキラさんのお怒りは収まらないようで頭の上からアキラさんのお怒りの言葉が降ってくる。
「ま、まあまあ。アキラ君もそれくらいにしてあげたら?颯太君も反省してるようだし」
そばにいた貴生川さんが止めに入ってくれる。
ちなみにこの場には指南社長と時縞副社長シャルロットが来るまで俺とアキラさんの他に犬塚さんと貴生川さん、ミハエルさん、やま…サンダーさんがいた。が、各々説教中は何も言わずそれぞれ雑談に花を咲かせたり、ミハエルさんに至っては何かの書類を読みふけっていた。横でちゃんと話を聞いていたのは貴生川さんくらいだろうか。
「で、でも……」
まだ言い足りないらしいアキラさんがどもる。
「ほ、ほら、み、ミハエルからもなんか言って!」
「ん?」
アキラさんの言葉に書類から顔を上げてミハエルさんがこちらを向く。
「ふむ。まあ井口のやったことはうちの所属IS操縦者としては褒められたことではないな。そのせいで『火焔』にもしものことがあればうちとしても損害は大きい」
「で、でしょ?」
「ただ――」
ミハエルさんの言葉に反応するアキラさんだったが、ミハエルさんは続ける。
「井口の報告書を読んでいると、一つ気になることがある」
『気になること?』
俺を含めたその場にいる人全員が首を傾げる。
「連坊小路、貴生川、お前たちの話では『火焔』の不調は第三世代相当の装備の高出力による機体への異常発熱、要するに熱暴走だったな?」
「う、うん」
「颯太君から回収して解析した結果はそうだったよ」
「その熱量が一定値を超えて機体への負担から機体が強制的に機能の一部が停止した、というのがお前たちの見立てだったわけだ」
ミハエルさんの疑問に二人が頷く。
「その一定値が井口の報告書にある○/100という数字だとするなら、その先、○/666はいったい何を表すというんだ?」
「そ、それは……」
ミハエルさんの言葉にアキラさんは答えられないようで、それ以上言葉は続かない。
「……実はそこは俺たちにもわからないんだ。本当ならISの自己防衛で一定値を超えたら強制的に展開を解除されてもおかしくないはずなんだ」
貴生川さんもそのことが気になっていたらしく、興味深そうにミハエルさんの見る書類(どうやら俺の提出した報告書)を覗き込む。
「ただの欠陥…といえばそれまでだが、ISはいまだにまだ完成しているとは言えないという話だったな。また、以前読んだ篠ノ之束のインタビュー記事に書かれていた言葉も気になる。曰く『私は完璧なものしか作らない。不必要と思えることも、それは無くてはならない重要な事』だそうだ。つまり主に作ったのは俺たち指南コーポレーションとはいえ、間接的には『火焔』というISは篠ノ之束の発明である以上この数字にも何か意味があるのではないかと考えられる」
『……………』
その場の誰もミハエルさんの言葉に反論できるものはいない。
「実に興味深い。いつか時間を取って詳しく調べたいところだな」
「そうだね。IS学園が夏休みに入ったら詳しく解析してみよう」
ミハエルさんの言葉に貴生川さんも賛同し、アキラさんも頷く。
「とりあえず、この件はこの辺にしておこう」
貴生川さんの言葉でとりあえずは俺の勝手に装備の出力をいじった件はお咎めなしで落ち着いたようだ。俺とシャルロットは近くにあった二人掛けソファを示され、シャルロットともに座る。
「さて、次はお待ちかねの新装備の話だ」
そう言いながら貴生川さんは資料の束を取り出す。
「これが新装備の詳細データ。今回のこれはアキラ君が主体で開発したものなんだ」
「へ~、アキラさんが……」
そう呟きながら資料に目を通しつつアキラさんを見る。
アキラさんは椅子に座りながら俺の方を見て
「正直この新装備も第三世代相当だから、機体への負担を考えると、君に渡すべきではないのかもしれない。というか無茶な使い方するなら私としては反対」
「うっ!」
「それに、この装備はあまり君向けじゃない」
「えっ?そうなんですか?」
俺の問いにアキラさんが頷く。
「確かにこの装備の詳細データを見てると颯太君向きではないかもね」
貴生川さんも頷く。
「まあ、以前ならまだしも今は井口以外にもデュノアがいる。もし井口に合わんようなら、デュノアがデータ取りをすればいい」
「うん、そうだね。というわけでいったんは颯太君にこの装備は渡すけど、もし合わないようだったらシャルロット君にお願いするかもね」
「だったらはじめからシャルロットに渡せばいいんじゃないですか?」
「そうもいかないんだよ。火焔用の装備として作っちゃってるからね。もしシャルロット君が使うならラファール用にシステムを書き換えないと」
「なんかいろいろと面倒なんですね」
「そぅ。だから……次からもうちょっと考えて使って」
「うっ………はい」
アキラさんのジト目での言葉に俺は素直に頷くしかなかった。
「一応完成はしてるんだけど、最終調整がまだだから。近々現物は渡せると思うよ。確か君たちの学校もうすぐ臨海学校だったね?確か内容は各種装備の試験運用とデータ取りだったね」
「はい」
「そう聞いてます」
「じゃあそれに合わせて完成させるよ」
俺たちの返事に貴生川さんが頷き、手帳に何かを書き込む。
「こちらとしてはそれくらいかな。あとは――」
「俺から井口に一つ伝えておかなければいけないことがある」
そう言いながら体を預けていた壁から体を起こすミハエルさん。
「実は最近不穏な噂を聞いた」
「噂……ですか?」
「ああ。実は先月の一件以来女性権利団体が動いているらしい」
「女性権利団体……」
「知っているか?」
「まあ……それなりには」
「女性権利団体。団体自体はIS登場以前からあったが、ISの開発、女尊男卑な制度が各国で広まると同時にその権力を大きくしていった団体。その構成メンバーは軒並み女尊男卑思想の塊みたいな奴らばかりだろうな」
ミハエルさんの説明、しかし、この場の全員はだいたい知っていることらしく誰もそれ以上何も言わない。
「この間のタッグトーナメントで井口、お前はどうやら目立ちすぎたらしい」
「目立ちすぎって……」
「事実だ。映像を見たが、優勝候補とまで言われていたドイツの代表候補生にして現役軍人を圧倒した事実は各国に影響を与えた、というわけだ。いい意味でも悪い意味でもな」
「圧倒って……俺の場合は機体の性能のおかげ、皆さんのおかげなんですけど……」
「火焔はあくまでISだよ。その性能を引き出し、それだけの結果を出したのは君の力だと僕は思うけど」
「買い被りすぎですよ。俺は一般人上がりの平々凡々な人間ですよ」
時縞副社長の言葉に否定するが、俺の言葉にその場の全員が白けた目で俺を見つめていた。
「な、なんですか……?」
「だって……ねぇ」
「君みたいな人のことは平凡とは言わない」
「ええ~」
アキラさんの言葉に俺は不満の声を漏らす。
「まあ井口が平凡か非凡かは置いておくとしてだ。――お前は今女性権利団体に目を付けられている。ISを持っているし、基本的には学園にいるだろうから心配はしてないが、やつらはあまりいい噂は聞かない。今日のように外出するときは十分気を付けろと言う話だ」
「はい、十分気を付けます」
ミハエルさんの言葉に頷き、気を引き締める俺。
「こちらからは以上だ。お前たちからは何かあるか?」
「あっ!一つお願いがあるんです」
俺はふと、思い出し、教室で発言するように手を上げる。
「実はアキラさんに相談があったんです」
「ん?何?」
「実は――」
俺は専用機の完成していない簪の話をした。
「――というわけなんで、できれば暇な時でいいんで相談にのってやってほしいんです」
「よし、わかった!全面的に協力する!」
俺の問いに答えたのはアキラさんではなく指南社長だった。
「むしろその専用機うちで完成させちゃいましょ!」
「いや、それじゃあ倉持といろいろと問題が起きるから!」
指南社長の提案を止めたのは時縞副社長だった。全員同意見なのか頷いている。
「えっと……社長はああ言ってますけど、アキラさんはどうなんでしょうか?」
「……わ、私も協力してもいい」
「本当ですか!?ありがとうございます」
「べ、別にいい。開発に携わる研究者としては倉持の行いは納得できないし」
俺がお礼を言うと照れたように顔を背けながらアキラさんが呟く。
「じゃあよろしくお願いします。これ、簪の連絡先なんで、時間があるときに連絡してやってください」
「ん」
俺の差し出したメモをアキラさんは軽く頷きながら受け取る。
「何か困ったことがあったら私にも相談してね、アキラちゃん!会社の持てる力全面的に使って協力するから!」
「あ、ありがとう……」
「社長もありがとうございます!」
変わった人ではあるが、社長はこれ以上ないほど頼もしい人だと再確認した瞬間だった。
○
「ふぅ」
一階の玄関前まで降りて来た俺は肺から息を吐く。
「すごくいい人たちばっかりだったね」
一緒に降りて来たシャルロットが隣で笑いながら言う。
「社長も電話で話してた通りのいい人だったし。ここに移籍できてよかった」
「そうか?それは何よりだ」
シャルロットの言葉に俺も笑顔で頷く。
「さて、これからどうする?もういい時間だし、どっかで飯でも食って、ついでに買い物でもしていかないか?臨海学校の準備物も買っておきたいし」
「うん!そうしよう!」
俺の提案にシャルロットが元気に頷く。
「お!やけに乗り気だな。なんか欲しいものでもあったのか?」
「う、うん。僕もちょうど水着とか買わないといけなかったし」
「そうか。じゃあ近くに大型ショッピングセンターがあるし、そこ行けば何でもあるだろう。さっそく行くか」
「うん!」
頷いたシャルロットとともに俺たちは出口に向かって歩き出したのだが
「ん?」
「どうしたの?」
俺はふと足を止め、周りを見渡す。俺の様子にシャルロットも足を止める。
「いや……今見覚えのある後姿があったような気がしたんだけど……気のせいだな。よし、行こうか」
颯太とシャルロットがビルから出て行ってすぐに
「よし、私たちも行くわよ!」
「おお!」
ソファに座り、新聞や雑誌を読むふりをして顔を隠していたふたりの人物が立ち上がり、颯太とシャルロットの後を着いて行ったが、ふたりはそのことを知らない。
というわけで、これで完全にシャルロットは颯太と同じ指南所属ですね。
はたして颯太は流木野サキに会える日が来るのか!
こうご期待!