「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
一、二時間目と違って織斑先生が教壇に立っている。よっぽど大事なことなのか、山田先生までノートを手に持っていた。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで。誰か立候補はあるか?推薦でも構わんぞ?」
へー。つまり学級委員か。うん、めんどいな。絶対立候補しない。俺を推薦する人もいないだろうから黙って誰かがやるのを持っていよう。まあ、この場合はきっと一夏が推薦されるんだろうな。
「はいっ!私は織斑くんを推薦します!」
ほらな?
「私もそれがいいと思います!」
おおー。どんどん一夏に票が入る。
「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?」
「お、俺?」
「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないなら織斑に決まるが」
「ちょっ、ちょっと待った!だったら俺は颯太を推薦する!」
「おいっ!」
何巻き込んでくれてんだよ!
「他にはいないのか?いないならこの二人の多数決で決めさせてもらうが」
「いや、俺は――」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
「ええ~」
せめて最後まで言わせてよ。
「待ってください!納得がいきませんわ!」
あり?オルコット?もしかして俺らのことを思って?嫌な人かと思ったけどいい人なのか?人は見かけによらないっていうしね。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
……ん?
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
代表候補生が実力あるのは認めるけど……俺ら猿ですか?
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
……ああん?今なんつった?
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
俺がむっとしている間に一夏が言った。
「なっ……!?」
一夏の言葉にオルコットが真っ赤な顔して怒っている。こういうのを怒髪天を衝くって言うのかな?
「あっ、あっ、あなたは!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
いやいや、先に侮辱したのアンタだから。見ろ。教室内の日本人みんな怒ってるよ。織斑先生とか無言だけど、あれ絶対怒ってるよ。
「決闘ですわ!」
バンッと机を叩いて叫ぶオルコット。
「いいぜ。やってやるよ」
オルコットの言葉に一夏が頷く。あーあー、かったるいことをよくやるよ。
「一夏ガンバー」
「何を言ってるんですのっ?あなたもやるんですのよ!」
「は!?」
え?なんで俺まで。
「何自分は関係ないって顔してますの!?あなたも推薦されているんですから決闘に参加するのは当たり前でしょう!」
「ええ~」
なにそれかったりー。でも――
「……まあ確かに。お前が俺らのこと猿呼ばわりしたことには腹が立つし、自分の祖国を貶されたのもいい気がしないしな。戦う理由としては十分だ。決闘を受けてもいい」
「だったら――」
「だが断る」
「な!?」
俺の言葉にオルコットの顔が驚愕で固まる。
「この井口颯太が最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事だ……」
俺の言葉にオルコットはおろか教室内の全員がポカーンとした顔をする。
いやー、一度言ってみたかったんだよ、このセリフ。
「な、な…」
オルコットが肩をわなわなと震わせている。
「あなたは私を馬鹿にしていますの!?」
「いやいや、馬鹿になんてしてないさ。あえて言えば小馬鹿にしてるんだよ」
「一緒じゃないですの!」
バンッとまたもや机を叩くオルコットさん。
「だって俺争い事とか嫌いだし。女の子と戦う趣味もないし。第一かったるい。そんなことするくらいならラノベでも読むほうがよっぽど楽しいし」
「~~!!」
俺の言葉が相当気にくわなかったのかオルコットが顔を真っ赤にしている。あははー、タコみたい。
「ラノベって先ほどあなたが呼んでいた本のことですわよね!?あなたはわたくしとの決闘より、そんなものの方が大事だと言うんですの!?」
「うん」
だからそう言ってんじゃん。
「ラノベとか漫画とかゲームはいいよ~。あれは日本が世界に誇る文化だね。今やクールジャパンっていう一つの文化として世界からも注目されてるし」
今やオタク文化は最高のジャパニーズカルチャーだな。うん。
「あんなもののどこがいいんですの!?あんなもの将来の何に役に立つっていうんですの?先ほどあなたの本の表紙見ましたけど、あれが本と言えるんですの?いやらしいイラストが描かれて、まったくいかがわしい。気持ち悪いですわ」
「…………」
「以前テレビで見ましたわ。あなたのようにそういった趣味を持った方が現実と創作の世界の境が分からなくなって犯罪を犯すんですのよ!」
「………」
「大体そういうものを仕事にしてる方はいったいどういうお考えなんでしょうね。自分の作ったものが犯罪者を作っているということについて」
俺が黙っていることで、オルコットは気分よさそうな顔をしている。
「今後、あのような下劣なものを持ち込んでほしくないですわね」
ふふんと勝ち誇った顔で腰に手を当てるオルコット。
「………言いたいことはそれだけか?」
「え?」
俺が笑顔で訊くと、オルコットが困惑顔になる。
「じゃあ俺からも言わせてもらおう――」
そこで言葉を区切った俺は大きく息を吸い込む。
「われ、誰にものぬかしとんじゃ!!!」
俺が口を開いた瞬間教室内の女子が全員びくっと震える。
だが、そんなことを気にしている暇はない。ゆっくりと立ち上がる。
「おい、チョココロネ」
「ちょ、チョコ!?」
「さっきから黙って聞いてりゃあ言いたい放題言いやがって。まあ俺のことを馬鹿にするなら黙って聞き流そうと思ったが。おめぇ、言っちゃいけないこと言いやがったな」
「ひっ」
俺が睨むとオルコットが引き攣った顔で一歩後ずさる。
「てめぇオタク文化馬鹿にするだけじゃなくて、全人類のオタクとそれに類する仕事にかかわってる人間全部を侮辱しやがったな」
言ってたらますます怒りが増幅してきた。
「おい、チョココロネ。お前、一度でも自分の目で耳でアニメや漫画やラノベ見たことあんのか?」
「そ、そんなものあるわけありませんわ!あんな下劣なもの」
「つまりてめぇは自分の目で見て感じたことじゃなく、ネットやらテレビで聞きかじった程度の知識で俺の好きなものを貶したってわけだ」
さらなる怒りポイントだな。
「俺のことをいくらバカにしてもらっても構わない。でもなあ、さっきから聞いてりゃ、お前日本のことを〝文化としても後進的な国〟って言いやがったな?」
「そ、それが何だっていうんですの?」
このアホ、自分の発言の意味も分かってない。
「おい、お前の頭の中にはチョコレートかカスタードクリームでも詰まってんのか?」
「なっ!?何が言いたいんですの!?」
「自分の立場を理解しての発言なんだろうなって言ってんだよ」
「た、立場!?」
「〝イギリス〟の代表候補生が他国の〝日本〟を貶して、外交問題に発展するかもしれないってことを理解してんのかって言ってんだよ」
「っ!」
そこでオルコットは遅まきながら自分の発言の意味を理解したようだ。
「イギリスの代表としてここにいるアンタはさっきの言葉に責任持てんのか?日本を極東の島国と言い、文化的に劣っていると貶し、自分で見てもいないものを他人の意見に左右されて馬鹿にしたことに、責任持てんのか?」
「………」
オルコットは何も言えずに黙って俯いている。
「………やってやるよ」
「え?」
「決闘、やってやるって言ってんだよ!争い事は嫌いで、理由のない戦いも嫌いだが、これ以上ないって理由が出来たんだ。相手してやるよ。ハンデもいらない」
俺の言葉に周囲が少しざわつく。そりゃそうだ。今はISの存在のせいで、男が女より強かった時代ではない。しかも相手は代表候補生だ。素人の俺が太刀打ちできるとは思えない。でも、だからこそハンデなんてもらっても意味はない。
「ハンデもらって戦って勝っても納得いかないからな。全力のお前と真正面からぶつかってやるよ!」
俺はオルコットをびしっと指さして宣戦布告する。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑と井口、オルコットはそれぞれ用意をしておくように」
そう言って、織斑先生が一連の出来事にとりあえずの収拾を付けた。
はい、というわけで颯太君のぶちぎれした話でした。
実際今の世でオタクん文化が結構普及していますし、外国からも注目されていますけど、オタク文化ここまで貶す人っているんですかね?
まあいたら僕も颯太君くらいぶちぎれるかもしれないですね。