IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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お久しぶりです!
いつの間にか前回の更新から三週間以上たってますね。
こんなに休むつもりはなかったんですけどね(;^ω^)


第36話 荷物

「海っ!見えたぁっ!」

 

 トンネルを抜けたバスの中でクラスメイトたちが声を上げる。

 だが、俺はそんな歓声の中――

 

「ねえ、大丈夫?」

 

「大丈夫じゃない。無理。気持ち悪い。吐きそう」

 

 心配げに俺の顔を覗き込むシャルロットにぐったりとしたまま答える。

 

「もう。だからバスの中で本読んじゃダメって言ったじゃない」

 

「だって読みたかったから……普段乗り物で酔うこともなかったし、大丈夫だろうと思ったんだけど……」

 

「ほら、外の景色でも見たら?遠くの景色見たら治まるって言うよ。それに、すっごくいい景色だよ」

 

「酔い覚ましにいいけど、実家のすぐそばも海だったし、学園も海に囲まれていたから、歓声を上げるほどでもないだろ――」

 

 そんな俺の言葉は窓の外の景色に視線を向けたところで途切れた。

 

「これは……すごいな……」

 

 無意識のうちに口をついて出た俺の言葉に横でシャルロットが笑った気配がした。

 

「ね?すっごくきれい」

 

「なんか実家の海思い出したよ」

 

「へぇ、颯太の実家にもこんな綺麗な海が見えるの?」

 

「おう。結構変わった地形らしくて日本三景なんて言われてるよ」

 

 シャルロットの質問に頷きながら答える。

 

「そっか。それならぜひ見てみたいな」

 

「そうだな。機会があったらな」

 

 頷きながらふと目線を前に向けると一夏の後頭部が見えた。どうやら隣の席のセシリアや通路を挟んでとなりのラウラと話しているようだ。なんだかラウラが照れたように一夏の顔を押しやっている。………何やってんだろ?

 

「――ん?どうかしたか、颯太?」

 

 俺の視線に気づいたのか一夏が振り返る。

 

「って、どうしたっ?ものすごく顔色悪いぞっ?」

 

「……大丈夫だ。問題ない。気にするな」

 

「聞いてよ一夏。颯太ったらバスの中で本読んで車酔いしちゃったんだよ」

 

「何やってんだよ、颯太……」

 

 シャルロットの言葉に一夏が呆れ顔で俺を見る。

 

「しょうがないだろ。途中のパーキングエリアでお気に入りのラノベの最新刊見つけちゃったんだから。強いて言うならこの本を売っていたあの店が悪い」

 

「どんな屁理屈だよ」

 

 答えつつ視線を窓の外に向ける。

 

「あぁ~、ちょっと治まってきた」

 

 俺は大きくため息をつく。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

 ちょうどそのタイミングで織斑先生の声がバスに響く。直後、先ほどまで騒いでいた女子たちがいっきに静かになる。流石織斑先生、抜群の指導能力ですね。

 織斑先生の言葉通りほどなくして目的地の旅館へと到着した。四台あるバスからわらわらと出てきて整列する。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 

 織斑先生の言葉に一同姿勢を正して挨拶をする。

 俺たちの挨拶した先でこの旅館の着物姿の女将さんが綺麗にお辞儀をしている。

 

「今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 見た目の年齢で言えば三十代(だが、ぶっちゃけ俺は女性の年齢を見抜くのは下手なので自信がない)の大人の雰囲気のある、優しそうな女将さんだ。

 

「あら、こちらが噂の……?」

 

 と、俺と横に並んで立っていた一夏に視線を向けた女将さんが織斑先生に尋ねる。

 

「ええ、まあ。今年は男子がふたりいるせいで浴場分けが難しくなって申し訳ございません」

 

「いえいえ、そんな。それに、ふたりともいい男の子じゃないですか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

「感じがするだけですよ。挨拶をしろ、馬鹿者」

 

 ぐいっと両手にそれぞれ俺と一夏の頭を掴んで押さえる。

 

「い、井口颯太です」

 

「お、織斑一夏です「よろしくお願いします」」

 

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

 そう言って女将さんはまた丁寧にお辞儀をする。

 

「不出来な弟と生徒がご迷惑をかけます」

 

「あらあら。織斑先生ったら、ふたりにはずいぶん厳しいんですね」

 

「いつも手を焼かされていますので――ほら、お前たちも荷物を取ってこい」

 

 織斑先生の指示に従い、俺と一夏はバスへと向かう。手元にあったのは最低限の荷物だけだったので大きな荷物はバスの荷物入れに預けてあったのだ。他のクラスメイト達はもう回収済み、もしくは回収中なのでその列の最後尾に並ぶ。

 

「えっと、俺らの荷物は……あった」

 

 俺と一夏が最後だったらしく他にめぼしい荷物は――

 

「あれ?颯太、これお前の名前が書いてあるぞ」

 

「はい?」

 

 自分の荷物を手に取ったところで、一夏が一つの段ボールを指さす。

 

「おかしいな。俺の荷物はこれだけなのに……」

 

 そう言いながら俺は肩にかけた緑色のボストンバッグから一夏の指す段ボールに視線を移す。

 それは大きな箱で、人一人なら優には入れるだろう。

 

「とりあえず出すか?」

 

「そうだな」

 

 一夏と示し合わせ、箱を荷物入れから引っ張り出す。

 

「よっ!……思ったより重いな」

 

 ゆっくりとその場に下ろし、箱の周りを調べるが、めぼしいものは特にない。強いて言うなら側面に『井口颯太の荷物』と書かれているくらいだ。

 

「………どうする?」

 

「………どうするって……とりあえず開けるか。なんかすごく嫌な予感しかしないけど」

 

 厳重に封をされているガムテープをベリベリとはが――

 

「ジャジャ~ンッ!中身は楯無さんでした~っ!」

 

「「おわっ!?」」

 

 勢いよく開いた段ボールの蓋に度肝を抜かれる俺と一夏。

 

「って、師匠っ!?」

 

「楯無さんっ!?」

 

「びっくりした?ねぇねぇ、びっくりした?」

 

 楽しげに、まるで悪戯の成功した子供のように笑う師匠。

 

「何やってるですか、こんなところで?楯無さんは二年生でしょう?」

 

「だって~、来たかったんだもんっ」

 

 一夏の言葉に師匠が答える。

 

「それに、颯太君には言ったはずよ?」

 

「え?」

 

「は?」

 

 師匠の言葉に一夏も俺も唖然とする。

 

「………俺聞いてませんよ?」

 

「言ったわよ~。思い出してみて、ほら昨日」

 

「昨日……?」

 

 えっと、昨日は確か――

 

 

 ○

 

 

 

「ねーえー、颯太くーん。私も臨海学校行きたいー!」

 

 明日の準備として愛用の緑のボストンバッグに着替えや必要品を詰め込んでいる俺の背後で、まるで駄々っ子のように俺のベッドで飛び跳ねる師匠が言った。

 

「無茶言わんでください。師匠は二年生でしょう」

 

「だって~、ずるいじゃない。颯太君や簪ちゃん、シャルロットちゃん、本音ちゃんは海で楽しんで。その間私は虚ちゃんと生徒会のお仕事よ!私だって海で遊びたいわよ!」

 

「ずるいって……師匠だって一年前に行ったでしょうに……」

 

 俺は呆れながら作業する手を止める。

 

「大体生徒会の仕事あるんだったら、それほっぽって遊びに行ったら布仏先輩の雷が落ちるんじゃないっすか?」

 

「うっ!………それは……」

 

「あとうちのクラスの担任は織斑先生ですよ?」

 

「…………………」

 

 俺の言葉に師匠の顔が青白くなる。

 

「それでも行きたいんですか?」

 

「……ふ、ふんだっ!いいもんいいもん!颯太君にはもう頼まないわよ!自力で何とかして着いて行ってやるんだから!」

 

「あっ!ちょっと師匠っ!?」

 

 捨て台詞とともに走り去っていく師匠を見送りながら

 

「なんとかって……どうするつもりなんだろう……?………まあさすがの師匠も織斑先生いるのに堂々と着いてきたりはしないだろ……」

 

 

 

 ○

 

 

 ――答え:気にせず着いてきた

 

「そういえば言ってた!!」

 

「言ってたのかよ!」

 

「だって勢いとか冗談だと思って……ぶっちゃけ忘れてた」

 

 まさかマジで着いて来るとは思わんだろ。

 

「さーて、せっかく来たわけだし遊びまくっちゃうわよ!とりあえず当面は教職員、特に織斑先生にだけは見つからないように――」

 

「あっ、織斑先生」

 

「「えっ!!?」」

 

 俺の目線の先を追うように一夏と師匠の視線が向く。

 

「うっそ~!」

 

 その隙に師匠を箱の中に押し込む。

 

「一夏!そこのガムテープ取って!」

 

「お、おう!」

 

 一夏が投げてよこしたガムテープを受け取り、すぐさま段ボールを完全に完璧に念入りに封をする。

 

「これでよしっ!」

 

「いや、いいのかっ!?」

 

 俺と一夏の目の前には厳重に封をされ、内側からは開けることもできずにその場で飛び跳ねている段ボール箱があるだけだった。

 ちゃんと呼吸はできるように四隅には小さな穴をあけてある。

 

「さて……ここからどうするか……」

 

 俺が飛び跳ねる段ボール箱を前にして腕を組んで考え込んでいたところに

 

「なんだお前ら、まだここにいたのか」

 

「あ、ちふ――織斑先生」

 

「あ、ちょうどよかった。織斑先生、手違いで持ってこられていたこの荷物をIS学園に送り返したいんですけど」

 

「荷物………って、何だこの飛び跳ねる段ボール箱は。中身は何だ?」

 

「ん~……強いて言うなら〝生モノ〟です」

 

「〝生モノ〟?」

 

「えっと………楯無さんです……」

 

「……………なるほど。事情はなんとなく察した。で?宛先は誰にしておけばいい?」

 

「三年の布仏虚先輩で。連絡しておくんで」

 

「うむ、手配しておこう」

 

「じゃあ、お願いします」

 

「ああ。お前たちは部屋へ向かえ。詳しい場所は山田先生に訊け」

 

「「はい」」

 

 俺と一夏が頷いたのを確認し、織斑先生は去って行った。――段ボール箱を片方の肩に担いで。あの段ボール箱、師匠だけじゃなくて師匠の荷物も入ってたのに……。

 

「おっと。今のうちに布仏先輩に連絡いれておかないと」

 

 俺はポケットから携帯を取り出し、登録してあった『布仏虚』を選ぶ。

 数秒のコールの後――

 

『もしもし、布仏虚です。どうしましたか、井口君?今は臨海学校のはずでは?』

 

「もしもし。すいません急に。今大丈夫でしたか?」

 

『ええ。まだ始業時間前なので。ただ、あまり時間はないので手短にお願いします』

 

「はい。実は色々手違いがあってそちらに荷物を送ったんです。で、その受取人の名前を先輩にしたので受け取りをお願いしたいんです」

 

『はぁ……。……それは構いませんが、その荷物というのは?』

 

「楯無師匠です」

 

『……………すみません、聞き間違いですかね?もう一度お願いします』

 

 数秒の間を空け、布仏先輩が言う。

 

「楯無師匠です。無理矢理着いて来てたんで段ボール箱に放り込んで厳重に封をして織斑先生に預けたんです」

 

『…………朝から見かけないと思ったら、お嬢様……』

 

 電話口から呆れたような大きなため息が聞こえてくる。

 

『わかりました。詳しい話はお嬢様から聞きますので、荷物の受け取りについては了解しました。ご迷惑をおかけしてすみません』

 

「いえいえ。それではお願いします」

 

 布仏先輩との電話を切り、携帯をポケットにしまう。

 

「さて、それじゃあ行くか、一夏」

 

「お、おう。………本当によかったのか?」

 

「……何が?」

 

 一夏の言葉に俺は首を傾げる。

 

「いや、だから…………あー、いや、うん。なんでもない」

 

「???」

 

 何か言いかけた一夏だったか口を閉じる。変な奴だな。

 




改めましてお久しぶりです。
更新しようと思っていたのですが色々と忙しく、気が付けば三週間もたってました。
いや~、時間の流れるのは速いですな。

知らぬ間にお気に入り件数も1200いってました。
投稿しようと思っていた番外編ですが、書いてる途中で一つ問題を発見しました。
まだ本編で出てないキャラが出てんですよね。
てなわけでそのキャラが出るまで番外編は延期します。

あとあれですね。
久しぶりって言うのもあるのか、なかなか思うように書けないってのもありますね。
カンを取り戻さねば……。

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