「あ、いたいた。颯太、一夏」
部屋の場所を聞こうと山田先生を探していた俺と一夏の元にシャルロットと簪、のほほんさんがやってきた。
「おう。どうした?」
「颯太たちの部屋が……しおりに書いてない」
「だから二人の部屋がどこか聞いておこうと思ってー」
「ああ、なるほど」
言われて納得する。しおりには全員分の部屋割りが記載されているのだが、なぜか俺と一夏の部屋だけ記載されていない。疑問に思って織斑先生に訊いたところ、とりあえずは当日現地で通達する、と言われていた。
「俺らも知らないから、今それを確かめるために山田先生捜してるところなんだ」
「ふーん、そっか。じゃあわかったら教えてね」
「遊びに行くからー」
「おうよ。トランプとかウノ用意してあるからみんなでやろうぜ」
緑のボストンバッグからトランプとウノを取り出しながら言う。
「とりあえずこれから部屋を聞いて荷物置いて来るから、その後は海にでも行こうかな」
「俺もそうするつもりだ」
「じゃあ、僕らもそうするつもりだし、また後で海で」
「あとでね~」
「それじゃあ……」
三人と別れ、一夏とともに山田先生探しに戻る俺。と、その後まもなく、
「あ、山田先生」
「あ、井口君、それに織斑君も。どうかしましたか?」
「織斑先生が用があるから山田先生に部屋を聞けって」
「ああ、なるほど。そういうことなら、こちらです。着いて来てください」
そのまま山田先生の後を着いて行く。
「ここです」
と、山田先生が示した部屋は――
「ここって……」
「『教員室』って書いてありますけど……?」
ドアに大きく「教員室」という張り紙のされた部屋だった。
「はい、そうですよ。最初は個室という案もあったのですが、それだと就寝時間を無視した子たちが集まるのではないかという意見が出まして、結果それぞれ二人部屋に教員との相部屋で、ということになりました」
苦笑い気味に解説する山田先生に頷きつつ俺は口を開く。
「なるほどなるほど。まあそれが妥当でしょうね。――で?俺と同室になったのは山田先生ですか?織斑先生ですか?」
「あ、井口君は私と一緒にこっちの部屋。織斑君は織斑先生とここの隣の部屋です」
まあ、そうだろうと思った。
「そうですか。じゃあ臨海学校の間よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
○
その後部屋に荷物を置いて海に向かった俺と一夏だったが――
「………………」
「………………」
「………………」
俺と一夏、そして途中でたまたま合流した篠ノ之は呆然と庭の一画を見ていた。
俺たちの目の前には異様なものが生えていた。――ウサミミである。ウサミミと言っても普通のものではなく、なんというかメカメカしいウサミミだった。しかもご丁寧にその横には『引っ張てください』という張り紙まである。
「なあ、これって――」
「知らん。私に訊くな。関係ない」
「???」
首を傾げる俺の横で一夏と篠ノ之はこれについて何か知っているように話している。
「えーと……抜くぞ?」
「好きにしろ。私には関係ない」
そう言ってスタスタと歩き去る篠ノ之。
「なあ、お前らはこれが何か知ってるのか?」
「ん―……まあ、たぶん」
一人この状況に取り残されている俺は一夏に聞くが、一夏はあいまいに頷きながら屈みこみウサミミを掴む。
すぽっ。
「のわっ!?」
勢い余った一夏が後ろにすってんころりんと転ぶ。
「おいおい、大丈夫か?」
「おお。まあ何とか」
「何をしていますの?」
「あぁ、セシリア」
「いや、このウサミミを――あ」
一夏がセシリアへと顔を向けると、寝転がっている状態の一夏からはおそらくセシリアのスカートの中が見えてしまっているのだろう。
「!?い、一夏さんっ!」
一夏の視線の先を理解したらしく、セシリアがスカートを押さえて後ずさる。
「ヘイヘーイ、一夏。とんだラッキースケベだな。さてはわざとだな?」
「ちがっ!ホントに偶然に!」
「でも見たんだろ?」
「うぐっ!」
「しかも見えてるのに気づいてからも見続けてたし」
「一夏さんっ!?」
「わ、悪かった!その、だな。ウサミミが生えていて、それで……」
「は、はい?」
セシリアが首を傾げる。まあ普通そういう反応するよな。俺も実際に見てないと信じられない。
「いや、束さんが――」
キィィィィン……。
「ん?」
上空から謎の音が聞こえて来た。見上げるとそこには――って!?
ドカ―――――ン!
謎の飛行物体が目の前の地面に突き刺さっていた。しかも驚くべきことにその見た目は
「「「に、にんじん……?」」」
俺たち三人は呆然と呟いた。なんというか、漫画なんかで見る感じの簡単なにんじんだった。しかし大きさだけで言えば人一人くらい余裕で入ってそうな大きさだった。
「あっはっはっはっ!引っかかったね、いっくん!」
バカッと開いたにんじんが開き、妙にテンションの高い女性が飛び出してきた。
その女性は青と白のワンピース。パッと見不思議の国のアリスを彷彿とさせる服装だった。そこからさらに一夏の手からウサミミをかっさらい頭に装着する女性。
呆然とする俺とセシリアの前で一夏はその人物と親しげに会話を始める。
「あ、ところでいっくん。箒ちゃんはどこかな?」
「えーと……」
一夏が言いにくそうにしている間にその女性はキョロキョロと周りを見回したところで
「ん?」
一夏の隣に立っていた俺と目が合う。
一瞬鋭い視線を俺に向けた後、女性はまた満面の笑みで一夏に顔を向ける。
「まあ、この私が開発した箒ちゃん探知機ですぐにみつかるよ。じゃあねいっくん。また後でね!」
俺とセシリアが呆然としている間に走り去っていく謎のウサミミアリスだった。
「な、なあ一夏……」
「今の方はいったい……」
「あーその、なんだ。束さん。箒の姉さんだ」
「「え……?ええええっ!?」」
俺とセシリアの驚きの声が旅館に響き渡った。
どもども。
今回の話は短めな上に特に話が動くわけでもないので若干つまらなく感じたかもしれません。
すいません、キリのいいところで話を切ったのでこうなりました。
これまで忙しかった分ちょっと時間が取れたのでこれから更新頻度が上がると思います。
続きはまた近々更新しますのでお楽しみに。