IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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やりました!


第40話 天災と凡人

 合宿二日目。昨日の自由時間とはうって変わり、今日は丸一日授業。内容はISの各種装備試験運用とそのデータ取りだ。特に専用気持ちは装備もたくさんあり、大変だろうと思われる。俺も普段の装備に加えてついにアレも……

 

「ようやく全員集まったか。――おい、そこの遅刻者」

 

「は、はいっ」

 

 織斑先生に呼ばれて身を竦ませたのは、意外や意外なラウラだった。

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

 

「は、はい。ISのコアはそれぞれが――」

 

 織斑先生の言葉に頷いたラウラはすらすらと解説していく。流石は軍人。正確かつ分かりやすい解説だ。まだまだ知識の拙い俺ではこうはいかないだろう。

 

「さすがに優秀だな。では遅刻の件はこれで許してやろう」

 

 織斑先生の言葉にふうと安堵のため息を漏らすラウラ。ドイツで扱かれていた頃のことでも思い出しているのかな?

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 生徒全員が返事をする。やはり一年生全員が並んでいるとなんとも迫力がある。

現在俺たちはIS試験用のビーチにいる。四方を切り立った崖に囲まれた、ちょっとした秘密のビーチ、まるで赤い飛行機に乗った豚が使っている秘密基地みたいだ。

 ここに搬入されたISと新装備のテストが今回の合宿の目的だ。

 ISの稼働を行うので当然みなISスーツ姿なのだが、海辺なだけに水着に見える。水着姿の女子に囲まれていると思うと……いいね。ISスーツだけど。

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとコッチに来い」

 

「はい」

 

「お前には今日から専用機を――」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!!」

 

 ずどどどど……!と土煙とともに人影が崖を駆け下りて来る。その姿は昨日大きなにんじんから飛び出してきた人物で――

 

 

「……束」

 

 そう。昨日突如として俺と一夏、セシリアの目の前に現れ、よくわからないうちに去って行った篠ノ之束博士その人だった。

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、今すぐにハグハグしよう! そして愛を確かめ――ぶへっ」

 

 とびかかって来た篠ノ之博士の顔面を片手でつかむ織斑先生。しかもその指は顔に思いっきり食い込んでいた。あの様子ではまったく手加減なんてしていない。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」

 

 いつの間にか織斑先生のアイアンクローから脱出した篠ノ之博士。それだけでこの人物のすごさの片鱗を垣間見た気がする。

 アイアンクローから脱出した篠ノ之博士はそのまま篠ノ之の方を向き

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

 よそよそしかった。これが久々に会った姉妹の雰囲気なのだろうか。少なくとも俺が数年ぶりに弟と再会したらもっと感動的な再会となるだろう。

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 

 ゴンッ!

 

「殴りますよ」

 

「殴ってから言ったぁ!しかも日本刀の鞘で叩いた!ひどいよ!箒ちゃんひど~い!」

 

 今のはしょうがないだろ。セクハラはいかんだろセクハラは。

 篠ノ之姉妹、そして織斑先生以外の全員がそんな状況を呆然と見ている。そりゃこんな変な人物が突然乱入してきたら唖然とするよな。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

 

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

 めんどくさそうにテキトーな挨拶で済ます篠ノ之博士。今の自己紹介でポカンとしていた一同もこの人物の正体に気付いたようでこそこそと話し出す。

 

「はぁ……。もう少しまともにできんのか、お前は。そら一年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」

 

「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

 

「うるさい、黙れ」

 

 織斑先生と篠ノ之博士。この二人の仲はなんだかよくわからないものだな。仲がいいんだか悪いんだか。

 

「それで、頼んでおいたものは……?」

 

 ややためらいがちに篠ノ之が尋ねる。

 

「うっふっふっ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

 

 ビシッと空に向かって指差す篠ノ之博士。その指さす方向を篠ノ之を含め俺たち全員が見上げる。

 

 ズズーンッ!!

 

「おわっ!」

 

 突如、上空から銀色のコンテナが降ってきた。すさまじい衝撃とともに砂浜の砂が舞う。

 次の瞬間コンテナの正面が開き、その中身を表す。そこにあったのは――

 

「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよ!」

 

 真紅の装甲のISが篠ノ之博士の言葉に呼応するようにゆっくりと出てくる。

 ………ん?待って。今のセリフおかしくなかった?全スペックが現行ISを上回る?それってもしかして最強なんじゃ……?

 

「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

 

「……それでは、頼みます」

 

「もう~また堅いよ~。実の姉妹なんだから、こうもっとキャッチーな呼び方で呼んで――」

 

「早く、はじめましょう」

 

 篠ノ之博士の言葉にとりあわず、促す篠ノ之。

 

「ん~。まあ、それもそうだね。じゃあはじめようか」

 

 ピッとリモコンを押す篠ノ之博士。直後、紅椿の装甲が開き、と同時に操縦者を受け入れるように膝をつく。

 

「箒ちゃんのデータはある程度選考して入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さてと、ぴ、ぽ、ぱ、っと♪」

 

 コンソールを開いた途端に、高速で指を滑らせる篠ノ之博士。さらに空中投影のディスプレイを六枚ほど呼び出し、膨大なデータに目配りをしていく。それと同時進行で、先程と同じく六枚呼び出した空中投影のキーボードを叩いていた。アキラさんもすごいと思ったが、この人の指の動きはもはや人間のなせる動きではない気がする。

 

「近接戦闘を基礎に万能型に調整済みだから、すぐに馴染むと思うよ。あとは自動支援装備も付けといたからね!お姉ちゃんが!」

 

「それは、どうも」

 

 態度はおかしな人だがその技術は本物らしい。篠ノ之博士の技術に圧倒されている俺の横で数人の女子たちがこそこそと話し出す。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……?身内ってだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

「………そうかな」

 

 そんな女子たちの会話に、俺はつい口を開く。

 

「強くなるために自分の使える手を使うってのは別に悪いことじゃないんじゃないかな。こうやって誰かからいろいろ言われるのは本人も分かってたことだろうし。それに――ずるいとか不公平って言えば、女に生まれただけで優遇されるこの世の中も十分不公平だと思うけど?」

 

 俺の言葉にもともと優遇されている側の女子たちは口を閉ざす。

 

「へ~、君面白いね」

 

 そんな中で反応したのは篠ノ之博士だった。

 

「そこの彼の言う通りだね。有史以来、世界が平等であったことなんか一度もないよ」

 

「………そんな平等じゃない今の世界を作る原因になったのはあなたですけどね」

 

 俺は聞こえるか聞こえないかの音量でつぶやく。篠ノ之博士に聞こえたのかは知らないが、博士はすでにどうでもいいことのように作業に戻っている。

 

「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

 

「え、あ。はい」

 

 一夏が返事をし、篠ノ之博士は展開された白式にコードを刺し、調べていく。

 

「本当に篠ノ之博士だったのですね」

 

 横でセシリアが感嘆の声をあげる。目の前であれだけの技術を見せられれば感嘆の一つもあげるだろう。

 

「わたくしのISも見ていただけないでしょうか……」

 

「俺もひとつわかってないことあるし、篠ノ之博士の意見は聞いておきたいな」

 

 俺が訊きたいことは666のことだ。

 

「一息ついたところでお願いしてみるか」

 

「そうですわね」

 

 俺たちがこそこそ相談している間に白式の解析も終わったらしい。俺とセシリアは頷き合い

 

「あの、篠ノ之博士!」

 

「博士のご高名はかねがね承っておりますっ。もしよろしければ私たちのISを見ていただけないでしょうか!?」

 

 ふたりして頭を下げる俺たち。が――

 

「はあ?だれだよ君たち。金髪と凡人は私の知り合いにはいないんだよ。そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再開なんだよ。それをどういう了見で君らはしゃしゃり出てくんの?理解不能だよ。って言うか誰だよ君たちは」

 

 辛辣な言葉が俺たちを襲う。その視線は冷たく鋭かった。

 

「えっ……」

 

「あの……」

 

「うるさいなあ。あっちいきなよ」

 

「う……」

 

「……行こう、セシリア」

 

 俺は呆然としているセシリアを連れてその場を立ち去る。正直想像以上だった。ある程度は変な人だとは思ったが、あの目を見た瞬間俺は悟った。あの目は俺たちを人間だと認識している目ではなかった。

背後ではもうすでに興味をなくしたらしく、一夏は織斑先生と話しながら『紅椿』の作業に入っていた。

 俺はそんな光景を見ながら胸中に広がる一つの感情を感じていた。これはそう――嫌悪感だ。

 

 

 ○

 

 

 それから数分後。俺たちはまたもや唖然としていた。

 セッティングを終えた『紅椿』。その性能は計り知れないものだった。

 近接だけかと思われた二本の刀型の近接ブレード『雨月』と『空裂』。

 振るわれ赤色のレーザーが球体を発現させる『雨月』。同じく振るうことで帯状の赤いレーザーを放つ『空裂』。

 それらを使って姉の呼び出した自身へと向かってくる十六連装のミサイルポッドからの攻撃をいとも簡単に跳ねのける。

 その場の全員がその圧倒的なスペックに驚愕し、言葉を失っていた。

 

「いや~、我ながらいい出来だね~」

 

 ただ一人博士だけは満面の笑みで満足げに笑っている。

 

「じゃあ次行ってみようか~」

 

「何?」

 

 これで終わったと考えていた俺たちは篠ノ之博士の言葉に驚愕し、織斑先生が眉をしかめる。

 

「どういうことだ?」

 

「どういうことも何も、ここまでは軽いデモンストレーションだよ。………へい、そこの凡人~」

 

 …………ん?凡人?誰のことだろう?あの人に比べたらみんな凡人だろうから誰のこと言ってんだろう?

 

「おい、私のこと無視するとはいい度胸じゃないか、凡人のくせに」

 

 ………何だろう、篠ノ之博士俺のこと見てない?

 

「あの……もしかして俺のことですか?」

 

「そうだよ。君以外に誰がいるって言うんだよ、凡人」

 

「おい、束。井口に何をさせる気だ?」

 

「まあまあ、いいじゃんいいじゃん」

 

 厳しい顔で博士を睨む織斑先生だが、暖簾に腕押しな雰囲気でへらへらと答える篠ノ之博士。

 

「………えっと…何ですか?」

 

「うん。やってもらうことはすっごく簡単なんだよ」

 

恐る恐る訊く俺に満面とは言わないまでも笑みを浮かべながらやってくる篠ノ之博士。

 

「ねえ、君も専用機持ってるよね?」

 

「ありますけど……」

 

 俺は頷きながら右腕を上げる。

 

「うんうん。機体データは見たことあるから大体の性能は知ってるよ」

 

「えっ?それどこで見たん――」

 

「そこで!」

 

 俺の言葉を遮るように篠ノ之博士が声のトーンを上げる。

 

「君には箒ちゃんの『紅椿』と模擬戦をしてほしいんだよ!」

 

「……………はぁ!?」

 

 ついつい素っ頓狂な声が出る。

 

「俺がっ?篠ノ之の乗る『紅椿』と試合っ?」

 

「そそっ。サクッとやっちゃおう!」

 

「お断りします」

 

「よし!じゃあさっそく準備して――ってっ、ええっ!?断るのっ!?」

 

 俺の返答に篠ノ之博士が見事なノリツッコミを披露する。

 

「そりゃ断りますよ。だって俺にメリット無いじゃないですか」

 

「え~~……」

 

 不満げに俺を睨む博士。

 

「じゃあこうしよう。試合してくれたら君のこと解剖しないから」

 

「それ逆に言えばやらなきゃ解剖するって脅しじゃないですか。絶対やですよ」

 

「じゃあなんだったらやってくれるのさ!」

 

「え~………」

 

 俺は一瞬考え込み

 

「じゃあ試合して、俺が勝ったら俺の言うことなんでも聞いてください」

 

「へ~……なんでもか……。でもそれだと今度は君の方が条件良すぎない?」

 

「もし俺が負けたら俺があなたの言うことをなんでも聞いてあげます」

 

「それは本当に何でもなのかな?たとえば――君の体を隅々まで調べ尽くすってのでも?」

 

 その言葉に一番に反応したのは織斑先生だった。

 

「おい!そんなこと認められると思っているのか!?」

 

「俺は構いませんよ?」

 

「おい、井口!」

 

「その代わり、他の条件ももっと詳しく俺が決めさせてもらいます」

 

「ふーん。例えば?」

 

 俺の言葉に篠ノ之博士が訊く。

 

「そうですね、例えば制限時間を決める。長々とやるのもかったるいんで」

 

「ふむふむ。他には」

 

「あとは、制限時間を設けたんで、その制限時間以内に相手のシールドエネルギーを削りきったら勝ち。制限時間以内にお互いがお互いのシールドエネルギーを削りきれなかったら引き分けとかでどうですか?そして引き分けた場合、俺は篠ノ之博士の、博士は俺の、些細な願いを叶える」

 

「ほほう?些細な?」

 

「そうです。お互い勝ったわけでも負けたわけでもない。だから何でも言うことを聞くわけにはいかない。だから〝些細な〟お願いです。ぶっちゃけ俺の専用機はまだまだ解明されてないところがあるんで」

 

「私にそれを解析しろってことかな?」

 

 俺はその篠ノ之博士の問いににっこりほほ笑む。

 

「そっかそっか。じゃあもし引き分けた場合、私は君から君の体の一部をもらおうかな。髪数本と献血で抜かれるくらいの量の血でいいよ」

 

「わかりました。それでいいです」

 

 そこで、俺と博士は織斑先生の顔を見る。

 

「…………はぁ。もういい、勝手にしろ」

 

「やったね!」

 

「ありがとうございます」

 

 織斑先生にお礼を言ってから俺は篠ノ之博士に向き直る。

 

「じゃあ最終確認です。制限時間あり。それ以内に相手のシールドエネルギーを削りきった方が勝ち。勝った方は何でも言うことを聞かせられる。この場合は俺が勝ったら博士が、篠ノ之が勝ったら博士の言うことを俺が何でも聞く。もし制限時間以内に決着がつかなかった場合お互いが〝些細な〟お願いを聞く。これで間違いないですね?」

 

「うん、問題ないよ。まあなんでもって言ってもちーちゃんが怖いから下手なことはできなさそうだけどね」

 

 笑って頷く篠ノ之博士は背後で睨んでいる織斑先生をちらりと見る。

 

「………井口。学園に帰った反省文の提出だ」

 

「は、はい」

 

 どすの聞いた声で言われ俺は身を震わせながら頷いたのだった。

 




ちょっと無理矢理でしたが次回は『紅椿』VS『火焔』です。
さてさてどんな結果になるか。
次回も楽しみに。

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