戦闘描写の苦手なわたくしめに今しばらく時間を下さい。
ある日の昼時。学園の中庭に設置された木陰のベンチに座り、少女――更識簪は文庫本のページをめくる。
青い空に浮かぶ適度な量の雲が日差しを抑え、また、時折吹く風が読書に興じる少女の環境を心地良いものにする。
「~~~♪~~~♪」
髪を揺らす心地良い風に、鼻歌まじりに顔を上げる簪。見上げると風が揺らす葉の隙間から見える太陽がキラキラと見えた。
「なんか……眠くなってくる……」
簪は一つあくびをした後、手の中の本に視線を戻す。
○
どれほどの時間が経ったのだろうか。
本から顔を上げ、座ったままにその場で大きく伸びをした簪の視界の端に白銀色の何かが横切る。気になってそちらに顔を向ける簪。
そこにいたのは一匹の銀色に近い白色の毛並みをしたウサギだった。
「あ……可愛いうさぎ……」
呟きながらじっとウサギを見つめる簪。ウサギはそんな簪に気付いた様子もなく数歩歩いたところで
「もしもし、クラリッサ。私だ」
どこからか携帯電話を取り出し話し始めた。
「わー……可愛い……。ウサギが携帯で電話し始めて……………っ!?おかしい!……えっ?……電話っ?」
その光景に驚き、急いで腰を上げる簪。しかし、それでもウサギは気にした様子もなく通話を続ける。
「ああ、用事はすべて完了した。これより帰還する」
そう言いながら通話を切り、またもや歩き始める謎のウサギ。
「あっ、待って……!」
その後を急いで追いかけはじめる簪。が、なぜかぴょこぴょことした動きなのにウサギとの距離は一向に減らない。
そのまま追いかけていくと、ウサギは一本の大きな木のもとへ。そのままウサギはその木の根元にあった大きな穴に飛び込みました。
「ああ……逃げられた……。それにしても、こんなところにこんな大きな穴あったんだ………あれ?」
穴を覗き込んだところで、穴の入り口に何かが引っかかっているのを見つける。
「なんだろう……これ……」
首を傾げながら謎の物体に手を伸ばす簪。と――
「あっ!」
掴もうと手を伸ばしたところ、身を乗り出しすぎた簪は穴に頭から落ちてしまいました。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
○
ひょっとしたら地球の裏側まで続くのではないと思えるほどの穴の中をひとしきり転がり落ちたところ、広い場所に出ました。
「こ、ここは……?」
体についたほこりをパンパンと掃いながら立ち上がった簪。ふと手の中を見ると、先ほど落ちる寸前に穴の入り口で拾ったもの――ウサギの持っていた携帯電話が手の中に納まっていました。
「さっきのウサギを追いかけないと……。これをなくして困ってるかも……」
簪は周りを見渡しますが、そこには白銀の毛並みのウサギはおらず
「扉……?」
一つの扉がありました。ただし――
「小さい……」
そう、驚くほど小さいのです。簪の腕や足が通るほどしかありません。
他にここから出る道はないかと見回したところ
「これは……何かの飲み物……?」
そこには机にのった小さな小瓶が一つ。中には謎の液体が。その横には「DRINK ME」の文字が。
「『私を飲んで』?……どういうことだろう?」
首を傾げながらもその小瓶を手に取ってみる。栓をしていたコルクを引き抜き、恐る恐る匂いをかぐ。
「怪しいけど……飲んでみようかな……」
試しにグイッと小瓶をあおると――
「ん?……あれ?……あれっ?」
あれよあれよという間に簪の腰ほどの高さしかなかった机がぐんぐん大きくなり、いつの間にやら見上げるほどの大きさに。
「机が急に大きく……いや、違う。……私が小さくなったんだ」
簪の言葉通り。見ると先ほどまで通ることはかなわないと思われた扉が十分な大きさになっていました。
これ幸いと扉を通って進もうとドアノブに手をかけたところ、どうやら鍵がかかっているらしく扉は開きません。鍵を探してあたりを見渡すと、先ほどの机の端に鍵らしきものが見えました。でも、小さく縮んだ彼女には手が届きません。
「どうしよう………」
さらにじっくりあたりを見回すと、机の下にケーキが一つ。
「これは……」
そこには小さなメモが添えられ、「EAT ME」の文字が。
「『私を食べて』?さっき薬では小さくなったから……もしかして………」
そう呟きながら簪がケーキを食べると――
「あっ!」
予感は大当たり。簪の体は再び元通りのサイズに。机の上の鍵を手に取り、ドアのを空けました。が――
「今度はどうやって小さくなろう……」
先ほど小さくなるのに使った薬はもうなく、ドアは通れない。つまり、現在使えうる出口は使えなくなったということです。
「どうしよう……さっきのもと来た穴を通るのはもう無理だし………もう戻れないのかな…………颯太……」
簪は携帯を取り出しました。表示は圏外。しかしそんなことはわかっていた彼女は携帯の画面に目もくれず、そこにぶら下がるキーホルダーを見つめます。ゆらゆらと揺れる紫の猫。これにそっくりな姉を、ひいてはこれをくれた思い人の顔が思い出され、目から涙があふれてきます。
「颯太……お姉ちゃん……」
自分がここにいることを知る人物は誰もいない。もしかすると一生このままかもしれない。数年ぶりに仲直りした大切な姉。その姉との仲を取り持ってくれた最愛の少年。そのどちらとも会えなくなるかもしれないと思うと少女の目からはどんどん涙があふれ出てきます。
するとどうでしょう。少女の流した涙がみるみるたまり、気付けば簪は涙の池の中に浮かんでいました。
簪は岸へと向かって泳ぎ始めました。
「でも……どうしよう。……このまま岸を見つけても服はずぶ濡れだし……」
そう心配しながらも岸にたどり着いた簪。そこで簪を待ち受けていたのは
「虚……さん?」
「いえ、私はドードーです」
と、虚改めドードーはその場でぺこりと頭を下げ、すぐさま簪をお風呂に連れて行きました。それから簪がお風呂に入っている間に簪の着ていた制服を乾かし、お風呂から上がってきた簪に温かい紅茶を出し、乾いた服を着せてやりました。
「ありがとうございます、うつ――ドードーさん。……ところで……この携帯電話の持ち主のウサギさんを知りませんか……?」
「携帯電話?……あっ、それでしたらこの先の侯爵夫人の家に向かった白ウサギさんではないでしょうか?」
簪はドードーにお礼を言い、示された森へと歩き始めました。
○
「ここ……かな?」
少し森を進んだ先に一件の家が現れました。
「ごめんください……こちらに……白ウサギさんはいらっしゃいませんか?」
簪がドアをノックすると、数秒の間をおいてドアが開く。姿を現したのは先ほどの白銀の毛並みのウサギだった。
「なんだ?私に何か用か?」
「あの……これ、あなたの携帯電話ではないですか……?」
「ん?……おお!これは私の携帯!どこかで落としたと思って心配していたんだ。すまないな」
「い、いえ……」
「よかったらあがってくれ。携帯の礼にもてなそう」
「い、いえ、お礼を言われるようなことは……」
「遠慮はいらない」
断ろうとした簪の言葉を遮りウサギは招き入れるので、簪は頷き後を着いて行くことにしました。
「白ウサギさん、お客さんはどなたでしたの?……あら?」
と、家に入ったところで、青いドレスに身を包んだブロンド縦ロールの女性が現れました。
「侯爵夫人、客だ。私の落とした携帯を拾ってわざわざ届けてくれた。そこで、お礼をしようと招き入れたのだ」
「あら、そうですの」
ブロンドの女性は頷き、ニッコリと微笑みながら簪に視線を向ける。
「紹介しよう。こちらはこの家の家主の侯爵夫人」
「か、簪です……。……よろしく、お願いします」
「ええ。よろしくですわ、簪さん」
笑顔で差し出された手を簪はおずおずと握り、握手を交わす。
「友人の白ウサギさんの携帯を拾っていただいたそうで、わたくしからもお礼を申し上げますわ」
「い、いえ、そんな……」
「ご謙遜なさらず。ぜひお礼をさせてください。実はちょうどいまお料理をしていたところですの。ぜひ食べて行ってください」
侯爵夫人が笑顔で勧める。その笑顔は決して悪意はなく、心からの申し出のようでした。が、なぜか簪は背筋が寒くなるのを感じました。
「あの……ちなみに侯爵夫人は、この家におひとりで……?」
「いえ。あ、ただ、いまは家政婦が休んでいますわ。先日わたくしの作った料理を食べた次の日くらいから体調を崩してしまいましたの」
「そ、そうですか……」
自身の顔が引き攣るのを簪は感じました。
(この人、どことなくセシリアに似てる気がするけど……もしかして……)
一瞬で思考をまとめた簪は
「いえ、お言葉に甘えたいところですが、私……そろそろ戻らないといけないので……」
「まあ、そうですの。それは残念ですわ」
残念そうにする侯爵夫人。そんな侯爵夫人に簪は少し申し訳なく思ってしまいました。が――
「………ところで、簪は見ない顔だが、ここら辺のものではないな?帰り方はわかっているのか?」
「…………あっ!」
白ウサギの指摘に自分の置かれている状況を思い出しました。
「あの……さっき白ウサギさんが行っていた場所が私の家の近くなんですが……ここからはどう行けばいいんでしょうか?」
「ふむ……あのあたりだったか。あそこまで行くには少し面倒な道順だから説明はしずらい。案内してやれればいいのだが、これから用があるんだ」
「そう……ですか……」
白ウサギの言葉に落ち込んでしまう簪。
「その代わり――」
白ウサギは言葉を続けたので簪は顔を上げました。
「代わりに案内してくれそうな人物を紹介しよう」
○
と、いう訳で、白ウサギに紹介された人物のもとへ行くべく、簪は侯爵夫人の家の隣の森へと向かいました。
侯爵夫人の家へ出るとき――
『そいつにあったらこれを渡せ。お前のことを書いておいた。これを読めばお前が困っている経緯などが分かるようになっている』
と、白ウサギからは手紙を
『これも持って行ってください。その方はよく友人の方とお茶会をしていますの。きっと今日もお茶会をしていると思いますのでお茶菓子にわたくしの作ったスコーンを渡してください』
と、侯爵夫人からは夫人お手製のスコーンの入ったバスケットを渡されました。
それらを持って、紹介された人物の行っているお茶会へと向かいました。話によれば道なりに進めばすぐに見つかるという話でしたが……
侯爵夫人の家を出て少し歩いて行ったところ、開けた場所に出ました。
そこには大きなテーブルが置かれ、それを囲むように四人の人物がお茶会をしていました。
そのうちの一人、大きな芋虫が怒ったような、悲しそうな声で他の三人にわめいていました。
「でね!あいつったらあたしとの約束覚えてなかっただけでなく、私のことを貧乳ってバカにしたのよ!ひどいと思わない!?」
と、力強く語りながら側頭部に伸びる二本の長い、まるでツインテールのような触角を揺らします。
それに対して他の三人のメンバーは
「そうか。それは確かにひどいな」
「でもまあ、唐変木な彼なら仕方ない気もするね」
「うんうん。芋虫かわいそ……く~」
「こらこら、ヤマネ。話の途中で寝ちゃったら俺たちがまともに聞いてないのがばれるだろ」
「うん、ごめんねー」
「ちょっと!まともに聞いてなかったの!?」
眠たげにだらけているヤマネを諭すように言ったシルクハットにカラフルなスーツ姿の少年に食ってかかる芋虫。
「安心して、芋虫。今のは帽子屋の冗談だから」
「でも、三月ウサギ!」
芋虫に笑いながら言う三月ウサギに帽子屋が頷きながら言います。
「流石は三月ウサギ。俺の冗談を分かってくれるのはお前だけだよ」
「そんな。僕は別に……帽子屋とは長い付き合いだしね」
「私もちゃんと冗談ってわかってるよー」
照れたように頬を赤く染める三月ウサギ、そして、変わらず眠たげに言うヤマネ。
「あの………」
簪はそんな四人、その中で一番近くにいた帽子屋と呼ばれたシルクハットの少年に声をかけました。
「ん?おやおや?見ない顔だね?俺らに何か用かな?あっ、一緒にお茶でもどうだい?知り合いのドードーからもらった茶葉なんだけどこれがとってもおいしいんだ」
帽子屋の差し出したティーカップを受け取り、示された椅子に座りながら簪は白ウサギから預かった手紙をポケットから取り出しました。
「あの……実は私、家への帰り道が分からないんですが……白ウサギさんがあなたなら知ってるんじゃないかって……あなた帽子屋さんですよね?」
「イカにもタコにも、俺が帽子屋ですよ~。……ふむ、なるほどなるほど………」
簪から受け取った手紙を読みながら帽子屋はふむふむと頷きました。
「事情は分かったよ。確かに俺は君を元いた場所に返せると思う」
「じゃあ……!」
「俺でよければ案内させてもらう」
簪に向けて笑顔で頷きながら帽子屋はティーカップに口を付けました。
「ただちょっと待ってね。この紅茶くらいは飲み切ってから行こう」
「はい……。あ、実は……ここに来る前に侯爵夫人にも出会ったんですが……これを皆さんにって……」
そう言いながら簪は預かっていたバスケットを差し出しました。
「あっ、スコーンじゃない。しかもおいしそう」
一番に反応したのは芋虫でした。
「いただきっ!」
「あっ!ダメだよ、せっかく侯爵夫人がくれたんだからみんなで分けないと――」
そんな三月ウサギの言葉を無視して机の上にあったイチゴジャムをスコーンに乗せてかぶりつく芋虫。と――
「げふっ!」
突然顔を青くさせ、芋虫が座ったまま後ろに倒れてしまいました。
「「「芋虫(さん)!?」」」
「どうしたのー?」
簪、帽子屋、三月ウサギが駆け寄り、そして間延びした声で訊くヤマネはのんびりとやってくる。
「………――っ!脈がない!三月ウサギ!すぐにAEDの準備を!」
「う、うん!」
「簪!このスコーン侯爵夫人からって話だけど、他に何か言ってなかったか!?」
「えっ!?………特に何も……強いて言うなら〝私が作った〟ってことくらいしか……」
「なにっ!?」
「それ本当!?」
「う、うん……」
簪の言葉に帽子屋と三月ウサギが大声で訊き返し、簪はたじたじになりながらも頷きました。
「なんてことだ。あの侯爵夫人自ら作ったスコーンだったとは。あのひと自分では自覚してないけど料理が壊滅的なのに」
「聞いた話だと、今休みを取ってる使用人の病状も原因不明の食中毒らしいよ」
「まさかこれほどとは思わなかったがな……」
帽子屋と三月ウサギの言葉に唖然とする簪。
「なんか……私の知り合いの料理みたい……」
○
「いや~、危なかった危なかった」
森の中の道を歩きながら帽子屋がにこやかに言いました。
あれから帽子屋や三月ウサギ(ヤマネは横でボケーっとしていた)の処置のおかげか、息を吹き返した芋虫。意識の戻った芋虫をヤマネに任せ、帽子屋と三月ウサギは簪の道案内をすることにしました。
「まさか侯爵夫人の料理があそこまでのレベルだったなんて……予想外だったね」
三月ウサギも苦笑いである。
「他の皆にも侯爵夫人の料理には注意しろって伝えておかないとな」
「手分けして知り合いに伝えておかないとね」
ふたりが相談しているのを横で訊きながら簪はふと疑問を口にしました。
「あの……ところで……私のいたところへの行き方を知ってる人って……あまりいないんですか?」
「ん~……たぶんね」
簪の問いに三月ウサギが頷きました。
「よっぽどあっちに行く用事でもないと知ってる人は少ないだろうな。俺の場合はあっちにある物の方が面白いからよく行くし」
「あっちにある物……?」
「そっ。あっちの者は物珍しくて面白いからな。特に俗に言うオタク文化は大変面白い!」
「えっ……オタク文化……?」
「そう!こちらにはないものだからな!どれもこれも真新しい!」
「………ちなみに……好きなアニメは?」
「『天元突破グレンラガン』!あれは漢らしくて好きだ!」
「――っ!」
帽子屋の言葉に簪は息を呑みました。そのタイトルがとても印象深いものだったからです。
「ん?どうかしたか?」
簪にじっと見つめられ、帽子屋が足を止めました。
「……無茶で無謀と笑われようと意地が支えの喧嘩道」
簪の呟くように紡がれた言葉に三月ウサギは首を傾げ、帽子屋は何かを悟ったように口を開きました。
「壁があったら殴って壊す…道が無ければ、この手で作る!」
「「心のマグマが炎と燃える!超絶合体!グレンラガン!!」」
「俺を!」
「俺たちを!」
「「誰だと思っていやがる!」」
「………………」
ふたりの様子にポカーンと口を半開きにして見つめる三月ウサギ。
「一度言ってみたかったんだよこのセリフ!こっちでは話分かるやつは少ないからな~!」
楽しげに笑う帽子屋。が、簪はそんな帽子屋を見つめて驚愕の表情を浮かべていました。
「………颯……太……」
「ん?〝ソウタ〟?俺帽子屋だけど?」
「――っ!な、何でもない……。ただ……知り合いもグレンラガン好きだから……」
慌てて顔を赤く染めながら簪は否定しました。
「ふ~ん。そいつとはうまい酒――お茶が飲めそうだ」
興味深そうに頷く帽子屋。
「と、ところで!」
簪は勢い良く、話題を変えるために口を開きました。
「そんなにいろんなアニメとか見ようと思ったら……その……お金がいっぱいかかるでしょ?……帽子屋ってお金持ちなの……?」
「まあね~。これでも売れっ子帽子屋だからな!むしろオタク文化を知ったおかげで新たなインスピレーションが湧いて出たぜ!」
「帽子屋の帽子は人気もあるけどよくわからないもの多いよね」
「なんだとー?」
三月ウサギの言葉に帽子屋が不満げな表情を浮かべました。
「だって……特に最近作ったのって変わり物ばっかりだったじゃない」
「いや~、読んだ漫画に影響うけてさ」
「どんな帽子作ったの……?」
「そうだな、最近作ったので言えば……かぶってボールを投げるといろんな効果を発揮する帽子とか、かぶると爪を回転させて弾丸みたいに打ち出せる帽子とか、かぶると他人からいろいろ奪えるシャボン玉が出せるようになる帽子とか」
「うん……何に影響受けたかわかった……」
「あとは、それをかぶってゴーグルかけると集中力のあがる帽子とか、かぶると体がゴムみたいに伸び縮みする帽子とか」
「……そんな帽子を作れるところが逆にすごいよね。変な機能付きの帽子はあまり売れないけど」
呆れながらも笑みを浮かべ、三月ウサギが言いました。
「とか言いながら、前にあげたキャスケットは気に入ってよくかぶってるじゃないか。あれだって機能付きだぜ?」
「えっ!?ただの可愛いキャスケットじゃないの!?」
「おう。通称『蛇に巻き憑かれる帽子』。あれを被ると蛇に好かれるようになる」
「道理で最近白蛇に言い寄られたわけだ!」
「ああ、あの『ああん』が口癖のアイツね。嫌なら返品してもらってもかまわんぞ」
「………別に…嫌ってわけじゃ……。せっかく帽子屋が僕のために作ってくれた訳だし……」
「そうか?別にいつでも作ってやるけど?」
「あら?じゃあ今度私にも作ってもらおっかな~」
と、突如どこからともなく声がかかりました。
「この声は……チェシャ猫だな?」
「あったり~」
その言葉とともにニヤニヤとした笑みを浮かべ上から逆さまの顔が降ってきました。
それは一本の大きな木の枝にしっぽ一本でぶら下がった一匹の猫でした。
「チェシャ猫、そんなところで何してるんだ?」
「何って、あなたのせいでここにいるんじゃない」
「へ?俺?」
ジト目で睨むチェシャ猫に帽子屋は首を傾げました。
「今日はお茶会だって言うからいつもの場所に行ったのに、いたのはヤマネと芋虫だけ。話を聞いて急いで追ってきたのよ」
「それは……そう言えばチェシャ猫も来る予定になってたな。忘れてた」
「ひっど~い!」
くるりとその場で一回転してチェシャ猫が地面に降り立ちました。
「へ~、君が簪ちゃんか~」
と、降り立った目の前にいた簪にチェシャ猫は興味を持ったようでした。
「は、はい……。初めまして……」
「……可愛い」
「へっ?」
「かーわーいーい~!何この子超可愛い!」
突如として簪に抱き着くチェシャ猫。突然のことに目を白黒させる簪。
「えっ?あの?ちょっと……」
「ねえ帽子屋!この子私の妹にしてもいい!?」
「いいわけないでしょ。ほら、簪に迷惑でしょ」
「あん♡」
簪に抱き着くチェシャ猫を無理矢理引きはがす帽子屋。
「なになに?嫉妬?だったら帽子屋にも抱き着いちゃう。ギュッ♡」
「チェ、チェシャ猫!」
その光景を見て三月ウサギが怒ったように声をあげました。
「そ、それは今度は帽子屋が迷惑するんじゃないかな!?」
「そんなことないわよ。ね、帽子屋?」
「………なあ、チェシャ猫」
「ん~?何、帽子屋?」
「毛がモフモフして熱い」
「ガーン!チェシャ猫ちゃんショック!」
その場に崩れ去るチェシャ猫。
「………プッ」
そんな光景を見て簪は思わず吹き出しました。
「どうかしたの?」
「い、いえ……その……なんだか、よく見る光景に似ていたので……」
三月ウサギの問いに簪はおずおずと答えました。
「皆さんがそれぞれ私の知り合いに似てて……つい……」
「ふ~ん。それってさっき言ってたソウタってやつのことか?」
「はい」
「僕に似た人もいるの?」
「私にも?」
「はい。……三月ウサギさんは友達に……チェシャ猫さんは私の姉に……。もっと言えば……こっちに来てから出会った人たちもみんな……なんだか知り合いに似てて……」
「あら。じゃあそのまま私のこともお姉ちゃんって呼んでくれていいのよ?そのまま姉妹二人で仲良くこっちで暮らしましょうよ」
「いえ……やっぱり私の居場所は……あっちなので……」
「………………」
簪のしっかりと紡がれた言葉に帽子屋は簪の顔をしっかりと見据えて口を開きました。
「……じゃあ、その大事な姉や知り合いのところに早く帰らないとな」
そう言って優しく笑った帽子屋の笑顔に、簪は一人の少年の笑顔が重なって見えた気がしました。
○
あれからチェシャ猫も仲間に入れ、森の中の道を進んでいく簪一行。そんな中でチェシャ猫が口を開きました。
「ねえ帽子屋。この子を連れて行くのはわかったけど、だったらどっちの道で行くの?いつも使っている方だと時間かかるでしょう?かといってあっちを使うのは……」
「………そうなんだよな~。でも、やっぱり早く帰してあげたいし……あっちを使うかな……」
チェシャ猫の言葉にとてもとてもいやそうに帽子屋が頷きました。
「でも、あの人がタダで通してくれるとも限らないし……手を打っておいた方がいいかな……」
何事かをぶつぶつと呟きながら帽子屋は三月ウサギに顔を向けました。
「三月ウサギ。ちょっと頼まれてくれないか?」
「うんいいよ。何をすればいい?」
「ちょっと会いに行ってほしい人がいるんだ。会って事情を話せばたぶん協力してくれるはずだ」
そんな帽子屋の説明を聞き
「あっ、なるほど。あの人ね」
「確かにそうかもね。わかった、さっそく行ってくるよ。みんなは先に進んでて」
「おう、頼んだ」
帽子屋の言葉に頷いた三月ウサギは一人別方向へと歩いて行きました。
「あの……私は別に遠回りでも……」
「いやいや、遠回りすると君が思ってるよりも時間かかるからこれでいいんだよ」
「そうよ。さっ、行きましょうか」
「は、はあ……」
ふたりの言葉に曖昧に頷く簪。二人の言葉に納得したのはそれから数分後でした。
三人の前には大きな大きなとてつもなく大きくて長い塀が続いていました。
「ね?これを避けていくと時間かかるのよ。一番いいのはここの家主が通してくれることなんだけど、ここの家主がね~……」
「はっきり言って変人だ。変人の俺が言うんだから間違いない」
「あ、帽子屋って自分が変人な自覚あったんだ」
帽子屋の言葉にチェシャ猫が驚いたように呟きましたが帽子屋には聞こえていないようでした。
「とりあえず、ダメもとでお願いしてみるか。――すいませーん!!赤の女王様ー!!」
そう叫びながら見上げるほどの扉を帽子屋がノックしたところ……
「はーい!私に何か用かなー?」
と、一人の女性が現れました、足元から。
「「「わっ!?」」」
よく見るとマンホールのようなふたを開け、赤いきらびやかなドレスを身に纏い、頭には黄金の冠を乗せた一人の女性が飛び出してきました。
「やあやあやあ。私が赤の女王だよ?それで私に何か用かな?面白いことかな?面白いことじゃないと……首、ちょん切っちゃうよ~」
「あの……実は――」
冗談めかして言う赤の女王の目は全くふざけた様子はありませんでした。赤の女王の言葉に背筋を震わせながらも帽子屋は事情を説明しました。
「――という訳なんです。なので女王様のお城を横切らせてもらってもいいですか?」
「ふむふむ、事情は分かったよ」
「じゃあ――」
「お断りだね!」
「「「ええ~……」」」
満面の笑みで答えた赤の女王の返事に三人は不満そうに言いました。
「あの……理由を聞いても?」
「だって全然面白くないんだもん」
チェシャ猫の問いに不満げに赤の女王は答えました。
「わざわざ私を呼び出すなんて、よっぽど愉快な話かと思ったけど、つまんないや。首、ちょん切っちゃおっかな~」
「「「ええっ!?」」」
赤の女王の言葉にさらに驚愕の声をあげたところ――
「待ってください姉さん!」
突然声がして、重く低い音とともに扉が開き、中から一人の人物が現れました。
それは真っ赤な紅に輝く鎧を身に纏った黒髪ポニーテールの少女でした。
「まったく、姉さんは。話を聞いていればなんですか。それくらい協力してあげればいいではないですか」
「あー、赤の騎士ちゃん。だってー、つまんないんだもん。どうせなら面白おかしい張りのある人生がいいじゃない?赤の騎士ちゃんのおっぱいくらいの張りが!」
ガンッ!
「殴りますよ?」
「殴ってから言ったぁ!しかも剣の鞘で叩いた!ひどいよ!赤の騎士ちゃんひど~い!」
ふたりのコントを呆然と見つめながら帽子屋が口を開きました。
「あの……結局通してもらえるんですか?」
「ん~……やっぱりダメだね!いくら赤の騎士ちゃんのお願いでもね~」
「「ええ~」」
「そんな、姉さん」
簪とチェシャ猫は不満げに声を漏らし、赤の騎士も不満げに赤の女王を睨みました。帽子屋だけは
「やっぱりこうなったか………。あとは三月ウサギがあの人を連れてきてくれれば……」
と、背後を振り返った時――
「お待たせ、帽子屋!連れて来たよ!」
三月ウサギが一台の大きな馬車から顔を出してやってきました。
目の前に止まった馬車の扉を開けて飛び出した三月ウサギを迎えた帽子屋は
「ナイスタイミングだ三月ウサギ。それで?あの人たちは?」
「うん、ここに」
そう言いながら振り返った三月ウサギの視線の先の馬車からふたりの人物が下りて来ました。
一人は真っ白なドレスに黄金の冠を頭にかぶった女性。すらりとした長身に、長い黒髪。狼を思わせる鋭い釣り目のキリリとした、まるで某女性劇団の男形のような女性。
もう一人は真っ白な純白の鎧に身を包んだ爽やかイケメンの少年でした。
「事情は聞いたぞ赤の女王。彼らがまだここにいるということは概ね予想通りのようだな」
鈴とした声で紡がれた言葉に赤の女王は
「白のじょーお~~~~~!!」
ハイテンションに飛びかかっていました。
「やあやあ!会いたかったよ、白の女王!さあ、今すぐにハグハグしよう!そして愛を確かめ――ぶへっ」
そんな赤の女王を白の女王は見事なまでのアイアンクローで受け止めました。
「うるさいぞ、赤の女王」
「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」
するりと白の女王のアイアンクローから抜け出た赤の女王は満面の笑みでした。
「やあ、白の騎士も元気そうだね」
「こんにちは、赤の女王。赤の騎士も久しぶり」
「う、うむ。久しむりだな白の騎士」
爽やかな笑みを浮かべる白の騎士の言葉に赤の騎士が照れたように、しかしそれを隠すように若干の仏頂面で答えました。
「どうした、赤の騎士?そんな仏頂面浮かべて」
「べ、別に仏頂面なんかしていない。この顔は生まれつきだ」
「そうかな?昔はもっとぷりちーに笑ってたよ。いつも白の騎士白の騎士って――」
ガンッ!
「そんなこと言ってなかったはずです!ウソを言わないでください、姉さん!」
「いった~い!また叩いた~!ねえねえ、どうしよう白の女王?妹がドメスティックでヴァイオレンスなんだよ。そっちの白の騎士を婿にしたらもうちょっと丸くなるかな~?」
「知るか。ほしければこんな愚弟、いつでもくれてやる」
ふざけた様に泣く赤の女王をめんどくさそうに白の女王が睨みます。
「おいおい、白姉。そんなこと言って俺がいないと部屋の掃除もできないじゃないか。いっつもゴチャゴチャの部屋を掃除をしてるのは誰だと――」
ガツンッ!
「黙れ、白の騎士」
「いっつ~……すみません、白姉」
殴られた頭を抑え、涙目になりながら白の騎士が謝りましたが、白の女王は憮然とした表情で赤の女王を見つめながら言いました。
「で?どうすればこいつらが城の敷地を通ることを許すんだ?」
「う~ん……そうだな~………」
白の女王の言葉に赤の女王は数秒考え込み
「そうだ!クロッケーだよ!」
『クロッケー?』
赤の女王の言葉にその場の全員が首を傾げました。
「そう!最近クロッケーロボってのを作ったんだけど、使うタイミングが無くてね~。てなわけで赤チームに勝ったら通してあげるよ!カモン、クロッケーロボ!」
赤の女王の叫びとともに大きく開いた扉の向こうからズシンズシンと地響きとともに真っ赤な装甲の大きなロボが姿を現しました。
その姿にクロッケーの要素はなく、太い手足に丸っこい頭。右腕には申し訳程度に普通サイズのマレット(木槌)が握られていました。
「こ、これと勝負……ですか……」
「これは流石に……」
「ムリゲーでは……?」
「というか……どの辺がクロッケー……?」
帽子屋一同が苦笑いを浮かべ呟きました。が――
「いいだろう。受けて立つ」
白の女王だけは自信満々に頷きました。
「ただ、クロッケーをここでやるわけではないだろう?早く案内しろ」
「おっけ~。みんな着いて来てね~」
そのままクロッケーロボに飛び乗り、意気揚々と進んでいく赤の女王。それを見送りながら白の女王は振り返り
「ほら、お前たちは行け」
『えっ?』
白の女王の言葉に帽子屋一同が首を傾げました。
「あいつの相手は我々がする。お前たちは先に進め……いや、全員いなくなればいくらあいつでも気付くか。三月ウサギとチェシャ猫、お前たちだけ我々と一緒に来い」
「「は、はい。わかりました」」
白の女王の言葉に呼ばれた二人は頷きました。
「あの……いいんですか?」
簪が心配げに訊きます。
「構わん。あいつはいつもいい加減で身勝手だ。ちょっと相手してやればそれで気が済むだろう」
「ありがとうございます、白の女王。あなたを呼んで正解でした」
「構わん。あいつとは長い付き合いだ。面倒だがあいつの相手は私の役目だ。不本意だがな」
頭が痛そうに抑える白の女王。
「ほら、帽子屋。お前はさっさとその子を送ってやれ。白の騎士、赤の騎士、お前たちはこの城の出口まで着いて行ってやれ」
「はい」
「わかったよ、白姉」
「では、行くぞ」
「あの!」
三月ウサギとチェシャ猫を連れて赤の女王の後を追おうとしたところ、簪が声をかけました。
「その……ありがとうござしました、白の女王様。三月ウサギさんもチェシャ猫さんも、ここまで送ってくれて……ありがとうございました」
「………気を付けて帰れ」
「また機会があれば遊びに来てね」
「私に似たお姉さんによろしくね」
白の女王は憮然と、しかし優しい目で答え、三月ウサギとチェシャ猫は笑顔で手を振りながら去って行きました。
「さて、俺らも行くか」
そんな白の騎士の言葉が出るまで、簪はぼんやりとそれを見送っていました。
○
「ここだ」
城の反対側の城壁の出口で簪と帽子屋は白の騎士と赤の騎士に見送られていた。
「助かったよ、赤の騎士、白の騎士。今度お礼に帽子を作ってプレゼントするよ」
「お、マジで?やったね」
「私は別に……」
嬉しそうにニッと笑う白の騎士とは対照的に赤の騎士は仏頂面でそっぽを向く。
「そうか?まあいらないならいいけど。せっかく似合いそうな帽子の案いろいろ考えたのに。なあ、白の騎士、お前も見たいよな?」
「おう。どんな帽子も似合いそうだけど、見てみたいな」
「そ、そうか………まあお前がどうしても見たいというなら考えてやってもいいぞ」
「そっかそっか。じゃあ作って今度持ってくるよ。じゃあな」
照れたように髪を触る赤の騎士をニヤニヤと見つめながら帽子屋はふたりに手を振る。
「あの、お世話になりました」
「おう」
「……気を付けて帰れ」
頭を下げて礼を言う簪に笑顔で答える白の騎士と仏頂面ながらも優しい声で答える赤の騎士にもう一度礼をして簪と帽子屋は広い野原の中に続く一本道を歩き出した。
「どうだった?こっちの世界は楽しかったか?」
少し進んだところで帽子屋が訊きました。
「………楽しかった。……知り合いに似た人もたくさんいて……とっても居心地よかった……」
「………でも、やっぱり戻るんだな」
「……うん。……やっぱり、私の居場所は向こうだから……」
「…………そっか……」
簪の答えに帽子屋は頷くと、その場で立ち止まりました。
「ここから先、道なりにまっすぐ行けば見慣れた場所に行きつくはずだ。ここからは一人で行けるはずだ」
野原のような道に一本だけ続く道の先を指さし、帽子屋は笑いました。
「気を付けて帰れよ」
「うん……ありがとう……」
簪は頷き、歩き始めましたが、何かを思い出したように足を止めました。
「ねえ……」
「ん?」
後ろを振り返り、帽子屋に顔を向けました。帽子屋は笑顔で首を傾げました。
「………あばよダチ公!」
「……………」
簪の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべて帽子屋はすぐにニッと笑い
「〝あばよ〟じゃねえよ。一緒だろ?」
そう言って帽子屋が指さした先は簪の制服のポケットでした。中を見てみると、そこには一冊の文庫本が入っていました。タイトルは――「不思議の国のアリス」。
○
「――ん……」
まどろみの中から意識の覚醒した簪はまわりに視線を向けました。世界が横向きに見えるのは自分が寝転んでいるせいだよ気付き、同時に自分の頭の下に何かがあることに気付いた。
「………――っ!?」
視線を上に向けた先にあったのは真下から見上げた一人の少年、井口颯太の顔だった。
「おう、おはよう」
颯太はニッと笑いながら読んでいた文庫本から視線を外し、本を閉じた。
「なんで、颯太が……?ここは……?帽子屋は……?」
「帽子屋?」
寝ぼけたようにぼんやりと呟く簪の言葉に一瞬首を傾げながらも、自分の手の中の文庫本の表紙を見て笑った颯太は答える。
「ここはIS学園の中庭だよ。たまたまここに来たら気持ちよさそうに座って寝てる簪を見かけてな。起きるまで待ってようと思って隣に座ったらそのままずり落ちてきて……この状態だ」
照れたように笑いながら言う颯太の言葉に今更ながらに今の自分の状況が俗に言う「膝枕」状態なことに気付き、慌てて頭を上げる。
「ほい、眼鏡」
颯太の胸ポケットにひっかけられていた眼鏡を渡され、自分が眼鏡をしていなかったことに今更ながら気が付く。
「寝ずらいかと思って外したぞ。あとこれも。手から落ちそうになってたから。あ、栞は挟んであるぞ」
と、読んでいた文庫本も添えて渡す颯太。
「『不思議の国のアリス』、なかなか面白いよな。いろんなアニメとかでも題材にされることあるから興味持って中学の時に読んだよ」
本と眼鏡を受け取りながら、ニッコリと笑う颯太の表情に先ほどまで一緒にいた人物の顔を思い出す。
「………どうかしたか?」
「う、ううん。何でもない………」
やっと目が覚めてきた簪は今までの自分の冒険が夢だったことを悟る。
「そっか……夢か……」
「夢?どんな夢だったんだ?」
興味深そうに訊く颯太に顔を向ける簪。
「うん……実は――」
「颯太君、み~つけた!」
突如背後から聞こえた声とともに颯太に後ろから抱き着く人物がいた。簪の姉、楯無だった。
そして――
「あ、楯無さん見つけましたよ……って、なんで颯太に抱き着いてるんですか!?」
楯無を探していたらしいシャルロットも現れた。
「ちょっと楯無さん!その……颯太が迷惑してると思うんで……離れた方が……!」
「そんなことないわよ。ね、颯太君?」
「………あの……師匠」
「ん~?何、颯太君?」
「熱いんで離れてくれません?」
「ガーン!たっちゃんショック!」
そう言いながら崩れ去る楯無。
「あとはまあ……背中にぶつかる感触がやばかったんで……」
「颯太のエッチ」
「今のは俺のせいじゃないと思うんですけど?」
「ふんっ」
怒ったようにそっぽを向くシャルロット、それを見て頬を掻きながら苦笑いを浮かべる颯太、そして、まんざらでもなさそうな楯無。そんな三人を見つめ、先ほどの夢の中の人物たちを思い出した簪は
「………プッ」
吹き出してしまう。
「あ、簪。笑うことないだろ」
「ご、ごめん……。その……さっき見た夢に似てたから……」
『夢?』
簪の言葉に三人が首を傾げる。
「夢って……そう言えばさっき帽子屋がどうとか言ってたな。どんな夢だったんだ?」
颯太が簪に訊く。
「そうね、私も気になるし、生徒会室で虚ちゃんの紅茶でも飲みながらみんなで訊きましょう」
「僕も賛成です」
楯無の提案にシャルロットが言い、颯太と簪も頷く。
「それじゃあ行きましょう!」
そう言って楯無は進み始め、シャルロットと颯太も後を着いて行くが、簪だけは足を止め、先ほど夢の中で白ウサギの歩いて行った方に視線を向ける。夢の通り、その先には大きな木が立っていたが、ここからは角度的に穴があるかどうかはわからない。
「ん?どうした簪?行こうぜ」
ついてこない簪に気付き、颯太が声をかける。楯無とシャルロットも足を止める。
「………うん!」
颯太の言葉に頷き、簪は笑顔で歩き出した。
はい、というわけで番外編です。
今回も今回でカオスなものを書いたという自覚はあります。
思いついたのは某ロボットアニメのOVAを見た時
「あ、これをISでやったら面白いかも」
と思ってしまったのが始まりでした。
一番大変だったのは絵がないので描写だけでどれだけどのキャラがどの役になっているのかを分からせるかということ。
僕の気分的にこいつはこれとできれば明言したくなかったのでこんな感じになりました。
本編の方も現在難産ではありますが頑張っておりますので今しばらくお待ちください。