IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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VS紅椿です
そしてとうとうあの装備も………


第41話 紅VS五色の火

「まさかまず戦うのがお前になるとは思わなかったぞ、井口」

 

「ソーデスネ」

 

 空中、眼下には海が広がる位置で俺たちは互いにISを展開し、相対していた。

真剣な表情で、しかしどこか余裕を感じさせる声で篠ノ之が言う。それに対して俺は若干うんざりしながら答える。

 篠ノ之博士と賭けをした以上頑張るが、なんだってわざわざ現行IS最強と模擬戦せにゃならんのか………。

 

「ふう」

 

 俺は大きく息を吐き出し、気持ちを切り替える。うだうだ考えても仕方がない。今は俺にできることをするだけだ。

 俺は最終チェックとして各装備を手で触れ、目で見て確かめていく。

 

(《火神鳴》……問題なし。《火打羽》……問題なし。《火ノ輪》……問題なし――)

 

 黄色、青、緑と三色の各装備をチェックし、四色目、紫の装備――右腰に取り付けられたT字のまるで鳥の頭のような形の装備に視線を向ける。

 

(………問題……なし)

 

 ポンと一度手で叩き、最後に五つ目の赤い装備、《火人》を左腰の鞘から抜き取る。

 

「待たせたな。さあ、ちゃっちゃとやって、ちゃっちゃと終わらそう」

 

 《火人》を構え、篠ノ之に視線を向け、ニッと笑う。

 

「ああ」

 

 篠ノも頷き、二本の近接ブレード『雨月』と『空裂』を構える。

 

『それでは、これより篠ノ之箒、井口颯太による模擬戦を始める。5カウントで始める。5・4・3・2・1。試合開始!』

 

 オープンチャネルによる織斑先生の号令で試合が開始される。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「だりゃぁぁぁぁ!!」

 

 同時に叫び、俺の《火人》が《雨月》と、片方の《火打羽》が《空裂》と交差する。

 

 

 ○

 

 

 

「始まったわね……」

 

 上空を見上げ、鈴が呟く。鈴の周りには一夏、セシリア、シャルロット、ラウラ、簪が揃っていた。

 

「颯太……あれを使うつもりなんだ……」

 

「〝あれ〟……って……?」

 

 シャルロットの呟きに簪が訊く。簪以外の皆も何のことかわからず首を傾げている。

 

「『火焔』最後の特殊装備《火遊》。さっき颯太は右腰を見てた。角度的に見えなかったけど、資料通りならあそこに吊ってるはずなんだ」

 

「それって……あの噂のとんでも装備の?」

 

 一夏の問いに頷くシャルロット。

 

「本当なら今日の授業で試運転とデータ採取をするはずだったんだ。だから、颯太自身使うのはもちろん展開したのも今が初めてだと思う」

 

「そんな状態の装備で大丈夫なんですの?」

 

 シャルロットの答えにセシリアが心配げに訊く。

 

「一応僕も颯太もあの装備の詳細データは見て覚えてあるから、今すぐ使ってみろって言われたら、僕でもある程度は使えると思う。でも――」

 

「でも?」

 

 シャルロットの言葉にラウラが訊く。

 シャルロットは一度言葉を区切り、周りを見渡す。皆一様にシャルロットの言葉の続きを待っていた。

 

「あの装備は……初めてとか関係なく、僕らじゃ100%の力は引き出せないと思う」

 

 

 

 ○

 

 

 《火人》と《火打羽》と《火ノ輪》と《火神鳴》、《雨月》と《空裂》がぶつかり合い、甲高い金属音を上げながら火花を散らす。

 その様はまるで一か月前のタッグトーナメントの一幕の再現のようだった。しかし、あの時と確実に違うのは――

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「くっ!」

 

 俺が確実に押されているということだ。

 ていうかなんですかこの機動力の化け物は。加えて全国優勝した剣術の腕。強すぎです。流石は篠ノ之博士お手製のIS、一筋縄ではいかないな。

 

「こんの!!」

 

 俺の火神鳴による打撃、が、二本の刀を交差させ、ガードされる。が、と同時に篠ノ之は俺の打撃によって後方に飛んでいき、俺も後方に飛ぶ。

 

「………流石だな篠ノ之。その機体のとんでも機動力はもちろんそれによってさらに鋭くなった剣の腕。タッグトーナメントみたいにはいきそうにないや」

 

「ふっ。そうだろう。これが私と紅椿の実力だ」

 

 俺の言葉に嬉しげに、自信満々に頷く篠ノ之。ただ――

 

「おかげでこいつを使う決心ができたぜ」

 

 そう言いながら《火人》を左手に持ち替え、右手を右腰に添える。

 

「それは?」

 

「これはな……」

 

 右腰から外した装備、紫色のT字、まるで鳥の頭のような形の装備の末端部分から伸びる持ち手を掴む。

 そのまま上から下へ振ると、カシャンという音とともにロッド部分が伸びる。

 

「新しい俺の力だ」

 

 そう言いながら紫のロッド状の装備、《火遊(ひあそび)》の、その鳥のくちばしのようになった先端部分を篠ノ之へと向ける。

 

「………なんだかこれまでの装備に比べて小さいな」

 

「大きさは問題じゃない。問題なのは性能だ」

 

 篠ノ之の言葉に俺は不敵に笑みを浮かべながら答える。

 

「さあ、第二ラウンドだ」

 

 左手の《火人》を前に突き出し、右手の《火遊》を引き絞るように後ろへ。両足は開き、腰を落とす。

 俺が戦闘態勢に入ったのと同時に篠ノ之も姿勢を正す。

 

「「…………――っ!」」

 

 一瞬の間の後に同時に互いに向かって突進を開始する。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 篠ノ之の気合いのこもった声とともに両方の刀による斬撃が俺に向かって振られるが、

 

「シッ!」

 

 寸前で上へと飛び、回転しながら

 

「せいっ!」

 

 ガラ空きとなっていた背中を《火遊》で一度叩く。一瞬黄緑色の電流が魔法陣のように広がる。

 

「くっ!はあぁっ!」

 

 俺の攻撃に一瞬面食らったものの《雨月》による斬撃が俺を襲うが《火打羽》でいなす。

 

「このっ!」

 

 悔しげな声とともにさらなる追撃を加えようと身構える篠ノ之。が――

 

「っ!?」

 

 その動きが突如として止まる。

 

「はあぁ!!」

 

 その隙をついて《火神鳴》で殴る。それによって海面すれすれまで落下する篠ノ之。

 

「くっ!」

 

 が、着水する寸前に篠ノ之の動きが回復。それと同時に篠ノ之が体勢を立て直す。

 

「今のは……いったい……?」

 

「まだ終わっちゃいないぞ!」

 

 驚愕の表情を浮かべ、混乱しているらしい篠ノ之にさらなる追撃をかけるべく『瞬時加速』で接近する。

 

「はあぁ!」

 

 左の《火神鳴》で殴る。が、それを刀で逸らす篠ノ之を

 

「そこ!」

 

 右側から《火遊》で狙う。

 

「くっ!」

 

 もう一方の刀で防御しようと動くが一瞬遅く、紅椿の左腕の装甲を《火遊》が叩く。先ほどの背中への一撃同様に一瞬の煌めきとともに魔法陣のような電流が走る。

 

「なっ!?」

 

 そしてまたもや紅椿の動きが緩慢になる。

 

「ファイヤッ!!」

 

 動かない――動けない篠ノ之に四門の《火神鳴》の砲門を向け、一斉射撃。

 

「がっ!」

 

 苦悶の声とともに吹き飛ぶ篠ノ之。

 

「このっ――あ、動く。なんなのださっきから!何かの不具合か何かか!?」

 

「いや、『紅椿』は正常だぜ」

 

 困惑の表情で全身を――紅椿の装甲を見て触って確かめる篠ノ之に俺はゆっくりとした動きで近づきながら答える。

 

「さあ、わからないなら考えろ。この試合が終わるまでに謎が解けるといいな」

 

 俺は不敵な笑みを浮かべながら右手の中の《火遊》をバトン回しの要領でくるくるとまわした。

 

 

 ○

 

 

 その光景は傍から見ている側からすれば異常な光景であった。

 一夏もセシリアも鈴もラウラも簪もその他一般生徒から教師の真耶、そして滅多なことでは驚きそうもない千冬、また、現状の理由を知っているシャルロットでさえ、息を呑む光景であった。

 唯一それほど驚いていなかったのは

 

「………………」

 

 ふたりの試合をじっと見つめる篠ノ之束のみであった。

 その場の全員の視線の先では空中で行われる篠ノ之箒と井口颯太による模擬戦。

 最初のうちは誰もが颯太の劣勢に、最後には箒が勝つと予想していた。が、中盤になって颯太の取り出した新たな装備《火遊》によって、今その予想が覆されようとしていた。

 颯太が《火神鳴》や《火人》、《火ノ輪》で攻撃し、それを防御する篠ノ之に生まれる隙。その一瞬の隙を見極め、おおよそダメージとは思えない《火遊》の一撃。が、見た目の軽さに反して、その直後篠ノ之の纏う紅椿の動きが緩慢になる。その隙を見逃さず攻撃を仕掛ける颯太。

先ほどからこれの繰り返し。一回一回の攻撃による紅椿のダメージは少なくとも、その回数により確実にダメージの差は広がっていく。また、颯太には絶対的な防御力を誇る《火打羽》が装備されている。そのことがふたりの差を広げる要因の一つとなっている。そして、箒を焦らせる原因にも。

 焦る篠ノ之に冷静に受け流す颯太。その様子はまるっきり颯太の掌の上だった。

 

「すごいな……」

 

「完全に颯太のペースね」

 

 一夏と鈴が感嘆の声をもらし

 

「さっきまでの劣勢がウソのようですわ」

 

「逆に言えばその劣勢を覆したあの紫の装備……あれはいったい……?」

 

 セシリアとラウラが驚愕の表情を浮かべ

 

「あれで……性能を100%引き出せてないの……?」

 

 簪が隣のシャルロットに訊く。

 

「うん。あれでも使いこなしてるほうだけど……あれの性能はあんなものじゃない」

 

 シャルロットが頷く。

 

「いったいあれはどういう性能なんだ?」

 

 唯一《火遊》の性能を知っているシャルロットにラウラが訊く。シャルロットは一瞬の逡巡の後、口を開く。

 

「あれは……あのロッド型の装備――《火遊》は近接格闘兵器として使用できるだけじゃなく、その先端から搭載されたナノマシン『ハミング・バード』を相手の機体や装備に打ち込むことで、対象をハッキングし、強制操作する装備なんだ」

 

「ハ、ハッキング!?」

 

 シャルロットの答えに鈴が驚愕の声をあげる。その驚愕にシャルロットが頷く。

 

「それはどの程度操作できるものなんですの?」

 

「一応理論上はある程度は思い通りにできるはずだよ。でも、その分この装備をフルで活用するためには搭乗者にも相応の情報処理能力が要求されるの」

 

「てことは……」

 

「そう。僕や颯太じゃあれを100%使いこなせない理由。それは、僕らにはハッキング知識がないからだよ。だから、今の僕らじゃせいぜい今颯太が使ってる程度。一回『ハミング・バード』を打ち込むたびに平均5秒程度自由を奪うのが限界だね」

 

「いや、それでも十分すごいから」

 

 シャルロットの解説に一夏が呆れたように呟く。

 

「これが井口颯太専用機『火焔』の五つ目の装備、《火遊》だよ」

 

 

 

 ○

 

 

 

「このっ!」

 

 気合いのこもった斬撃が飛ぶが、その一撃には冷静さが無かった。俺はそれを冷静に《火打羽》で防ぐ。

 計画通りだ。機動力や攻撃力で負けていても俺の『火焔』は防御力では負けていない自信があった。あとはその防御力を生かし、防いで防いで防ぎまくる。そして生まれた隙に

 

「そこっ!」

 

 《火遊》を叩きこむ。それによって動きの止まる篠ノ之に追撃する。

 

「くっ!」

 

 悔しげに声を漏らす篠ノ之。試合前に見せていた余裕と自信がなりを潜め、あるのは焦りのみ。

 それはそうだろう。姉からもらった最強ともいえるISと自身の剣術の腕。実際それを用いて一時的には俺を圧倒していたのだから。しかし、俺が新たに出した《火遊》によってその状況を覆された。しかも少量づつとはいえシールドエネルギーの差も開く一方。残り時間もまだ半分はある。その状況がさらに篠ノ之を焦らせ、俺に有利な状況になる。

 しかし、それでも流石は篠ノ之。焦っていても隙を見つけるのが難しい。おかげでなかなか紅椿のシールドエネルギーを削れない。

 

「くそっ!なぜだ!なぜ……!」

 

 思った以上に焦っている篠ノ之に違和感を覚えながら、俺は頭の片隅に少し希望を見出す。

 本当は引き分けに持ち込もうと思っていたのだが――もしかしたら俺でも……第二世代型に第三世代相当の武装を積んだ中途半端な機体の『火焔』でも現最強の機体『紅椿』に勝てるのではないか、と。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「やぁぁぁぁ!!」

 

 互いに向かって何度目かもわからない突撃を仕掛けた俺たち。

 

『そこまで!!!』

 

そんな俺たちを遮るようにオープンチャネルから飛んできた声に

 

「「はっ!?」」

 

 受け身も取れずに互いに正面衝突をしてしまった。

 

「どうしたんですか先生!?まだ制限時間ではないはずじゃ……」

 

「そうです!まだ決着はついていません!」

 

 俺たちは互いに通信の相手、織斑先生に文句を言う。

 

「試合の決着がついていないのは重々承知だ。だが、今日のところは引き分けにさせてもらう。模擬戦よりも優先すべき重要案件が発生した。すぐに降りてこい。井口と篠ノ之は他の専用機持ちとともに我々教員と一緒に来い」

 

「重要案件?」

 

 俺と篠ノ之は首を傾げ、互いに納得していないながらも渋々砂浜へと向かった。




というわけで引き分けです。
ここで勝敗を付けることも考えましたが、結局こうしました。

そして今回からとうとう紫の登場です。
これでとうとう全装備登場ですね。
《火遊》の設定には頭抱えましたがこんな感じで落ち着きました。


-追記-
題名を一部変更しました。(2015/09/09)

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