IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第43話 福音

「…………………」

 

 海上200メートル。そこにまるで胎児のように膝を抱え、頭部から伸びる翼が『銀の福音』を包んでいる。

 

「――っ!」

 

 まるで眠っているようにただ浮かんでいるだけだった福音が何かに気付いたように顔を上げる。

 それと同時に、飛来した砲弾が頭部に、四本の荷電粒子砲が胴体やスラスター翼に直撃。大爆発を引き起こした。

 

「よっしゃっ!!」

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う!」

 

 五キロ離れた場所に浮かぶIS『シュヴァルツェア・レーゲン』とラウラ、そして『火焔』を纏った俺。俺が歓喜の声をあげ、ラウラは福音が反撃に入る前に次弾を発射。

 俺の視界の端では23/100と表示されている。この戦いは出し惜しみして勝てるものではないと思った俺はまたもや勝手に出力をいじってあった。これはこの戦いが終わったらまたアキラさんに怒られそうだ。

 俺の火焔は変わらず五色の装備に包まれているが、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンはいつもとは違う姿だった。

 八〇口径レールカノン《ブリッツ》を二門左右それぞれの肩に装備し、さらに、遠距離からの砲撃・狙撃に対する備えとして、四枚の物理シールドが左右と正面を守っていた。

 これらが砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』らしい。

 ラウラの砲撃を皮切りに福音の注意がラウラへと向く。

 次弾を放とうとするラウラの予想を超える速度で福音が接近する。

 福音が近づいて来ると同時に福音への砲撃を続けるが福音の翼から放たれるエネルギー弾によって半数以上を撃ち落とされる。

 俺も《火神鳴》の四つの砲門で荷電粒子砲を放つが、そのほとんどをギリギリで回避される。

 

「ちぃっ!」

 

 ラウラの砲撃仕様はその反動相殺のために機動との両立が大変難しい。

対して機動力に特化した福音は三〇〇メートルの地点からさらに急加速し、ラウラへと手を伸ばす。が――

 

「させるか!!」

 

 その伸ばした手を《火神鳴》でつかむ。

 

「はああああ!」

 

 そのままがら空きの胴体に《火遊》を叩きこむ。

 

「――っ!?」

 

 『ハミングバード』のクラッキングによって動きを止める福音。

 

「――セシリア!」

 

 腕を伸ばした状態で硬直する福音の頭上から砲撃が降ってくる。ブルー・ティアーズによる高速軌道からの射撃である。

 ステルスモードのブルー・ティアーズによる強襲。その姿は通常の姿とは異なり、そのすべてがスカート状に腰部に接続されている。しかも砲口はふさがれ、スラスターとして用いられている。

 また、ビットを機動力に回している分の火力を補う全長二メートルを超す大型BTレーザーライフル《スターダスト・シュータ―》を装備している。今の砲撃もこれによるものだ。

 

『敵機Bを確認。排除行動へと移る』

 

「遅いよ」

 

 硬直のとけた福音が追撃として放たれるセシリアの射撃を回避する中、その背後から別の機体からの攻撃が襲う。

 それは先ほどの突撃時、セシリアの背中に乗っていたステルスモードのシャルロットだった。

 二丁のショットガンによる背後からの近接射撃を受け、福音は姿勢を崩す。

 しかしそれも一瞬のこと。すぐに四機目のシャルロットに対して《銀の鐘》による反撃を開始した。

 

「おっと。悪いけど、この『ガーデン・カーテン改』は、その位じゃ落ちないよ」

 

 シャルロットはリヴァイヴ専用防御パッケージの実態シールドとエネルギーシールドの両方を使って福音の弾雨を防ぐ。

 この『ガーデン・カーテン改』、本来はフランス政府の、ひいてはデュノア社製の装備であったが、これをシャルロットの移籍時に機体とともに指南コーポレーションが入手。指南の技術者たちによってさらに手を加えられた。その防御力は《火打羽》ほどではないにしろ、高い防御力を誇っていた。

 そんな『ガーデン・カーテン改』による防御の間もシャルロットは得意の『高速切替』によってアサルトカノンを呼び出し、タイミングを計って反撃を開始する。

 加えて高速機動射撃を行うセシリア、距離を置きながら砲撃を再開するラウラ、さらには《火ノ輪》、《火神鳴》で追撃する俺の攻撃に福音が消耗し始める。

 

『みんな、タイミング5秒で行くぞ。5,4,3,2,1――』

 

 俺のカウントと同時に全員の砲撃が止み、防御の姿勢を取っていた福音に一瞬の隙が生まれる。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 その隙を突き、福音の背中に《火遊》を叩きこむ。

 

「っ!?」

 

 福音が動きを止めた隙に両腕と《火神鳴》で福音の両足をホールドし、ジャイアントスイングの要領でぶん回す。

 

「飛んで…いけ!!」

 

 そのまま海面へ向けて放り投げる。

 

「行ったぞ、篠ノ之!鈴!」

 

 俺は福音を投げた方向に向かって叫ぶ。しかし、そこには何もなくただ海面が揺れているだけだった。

 

『おう!』

 

『任せて!』

 

 通信が耳に届くと同時に海面が膨れ上がり、二つの影が飛び出す。

 その影――紅椿を纏った篠ノ之とその背に乗った甲龍を纏った鈴は俺の投げ飛ばした福音へと接近する。

 紅椿が福音に突撃する中、その背中から飛び降りた鈴は、機能増幅パッケージである『崩山』を戦闘状態に移行させる。

 そのパッケージにはセシリア達と同様、今までの装備とは違い、両肩にある衝撃砲の砲口が二つ増設されて計四門ある。その四門の衝撃砲が一斉に火を噴いた。

 福音に激突する寸前に篠ノ之が離脱。その後ろから衝撃砲による弾丸のシャワーが一斉に降り注いだ。しかもソレはいつもの不可視の衝撃砲ではなく、赤い炎を纏っていた。

 

「やったか!?」

 

「――まだよ!」

 

 拡散衝撃砲の直撃を受けても福音は機能を停止させてはいなかった。

 

『《銀の鐘》最大稼働――開始』

 

 両腕を左右いっぱいに広げ、さらに翼も自身から見て外側へと向ける。その瞬間、眩いほどの光が爆ぜ、エネルギー弾の一斉射撃が始まった。

 

「みんな防御態勢!シャルロットは篠ノ之を!」

 

「任せて!箒!僕の後ろに!」

 

 俺の言葉にシャルロットが篠ノ之をそのシールドで庇う。

 前回の失敗を踏まえて篠ノ之の紅椿はエネルギーの消費を抑えるべく機能限定状態にある。そのため、現在は防御時にも自発作動しないように設定されている。

 それも防御をシャルロットに、場合によっては俺が任せられるからこそである。が――

 

 

「………これはちょっと、きついね」

 

 福音の攻撃が予想以上に激しく、その異常な連射を立て続けに受けることは危うかった。

 そうこうしている間に物理シールドが一枚、完全に破壊される。

 

「ラウラ!セシリア!」

 

「言われずとも!」

 

「お任せになって!」

 

 俺が動くと同時に叫ぶと、ふたりも返事をしながら動き出す。

 後退するシャルロットと入れ替わりにラウラとセシリアが左右から射撃を始め、俺も反対側から《火神鳴》と《火ノ輪》を放つ。視界の端で○○/100が増加していくが気にしない。

 

「足が止まった!」

 

「ならこっちのもんよ!」

 

 直下からの鈴の突撃。双天牙月による斬撃。さらに鈴の攻撃を受け流し防御するために意識のそちらに向いた福音に俺が突進する。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 一瞬の隙を突き、がら空きだった脇腹に《火遊》を叩きこむ。

 意識外からの一撃に反応が遅れ、まんまと俺のクラッキングを食らって動きを止める。

 

「もらったああああ!!」

 

 頭部に接続されたマルチスラスター《銀の鐘》を《火神鳴》で掴み、そのがら空きのボディに接続させたまま回転する《火ノ輪》を拳ごと連打する。

 

「はあぁぁぁ!!!」

 

 そのまま《銀の鐘》の接続部左右それぞれを《火ノ輪》で叩き、接続部を狙って《火神鳴》の肩の砲門で狙い撃つ。

 

「うおりゃぁぁぁぁ!!!」

 

 《火神鳴》を駆動させ、その場で一回転して福音の頭部に踵落としを叩きこむ。もちろん《火神鳴》で《銀の鐘》を掴んだままである。

 《火ノ輪》の攻撃に加え、肩の物だけではあるが《火神鳴》の砲撃を食らっていた接続部は悲鳴を上げながら砕け散り、眼下の海面へと落下する福音。

 

「はぁ!はぁ!はぁ……!」

 

「大丈夫、颯太!?」

 

 肩で息をしていた俺の横に慌てた様子でシャルロットがやってくる。

 一度シャルロットに視線を向け、他のメンバーにも視線を向ける。みな俺の方を向いていた。俺は呼吸を整えて口を開く。

 

「俺は大丈夫だ。……それより、福音は――」

 

 「私たちの勝ちだ」と、誰かが言ってくれることを期待して言った俺の言葉を遮るように、海面が強烈な光の玉によって爆ぜた。

 

『!?』

 

 全員の驚きの視線の先には、まるでそこだけ時間が止まったかのように球状に蒸発した海の中心に青い雷を纏った『銀の福音』その身を抱いて蹲っていた。

 

「これは……一体……?」

 

「!?まずい!これは――『二次形態移行』だ!」

 

 ラウラが叫んだ瞬間、まるでその声に反応したかのように福音が顔を向ける。

 無機質なバイザーに覆われた顔からは何も読み取ることはできない。しかし何かを感じ取ったらしい火焔が警鐘を鳴らす。他のみんなのISも同様らしい。

 しかし、その警告は遅かったらしい。

 

『キアアアアアアア……!!』

 

 まるで獣のような咆哮とともに、福音はラウラへと飛びかかった。

 

「なにっ!?」

 

 あまりに速いその動きに反応できず、ラウラは足を掴まれる。

 そして、切断された頭部からゆっくりとエネルギーの翼が新たに生えた。

 

「ラウラを!」

 

「離せぇっ!」

 

 左右から俺とシャルロットが攻撃を仕掛ける。

 しかし、シャルロットの攻撃は空いていた腕で止められ、俺の方には手で掴んだラウラを向け、俺への牽制をする。

 

「くっ!?」

 

 一瞬ラウラに当たりそうになった攻撃の手を止め、ラウラを掴むその腕に展開した《火人》で斬りかかる。

 しかし、その斬撃も新たに生成されたエネルギーの翼に防がれ、《火人》の斬撃が本体に届くことはなかった。

 それでも俺はさらに《火遊》へ手を伸ばし、下から斬り上げるように福音の腕を叩く。

 

「――っ!」

 

 一瞬動きを止めた福音。

 

「今だふたりとも!速く!」

 

俺の言葉に返事もほどほどにラウラとシャルロットが離脱する。

 俺も一旦距離を置こうと身構えた時、俺の耳に届いたのは最悪の音――以前一度聞いた警告音だった。

 見ると視界の端に浮かぶ数値が100を超え○○/666に入っていた。

 

「チィッ!」

 

 俺がその数字を確認すると同時に火焔の動きが重くなる。

 そして、そんな絶好の隙を福音が見逃してくれることもなく、俺の首を福音の手が掴む。

 

「カハッ!?」

 

 何とか抜け出そうともがくが、緩慢な動きしか示さない火焔ではまともに動けない。

 

「颯太っ!」

 

「来るな!!」

 

 シャルロットやみんなが俺を助けようと動くがおそらく間に合わない。なぜなら俺の視界の端から広がるエネルギーの翼が俺を包み込み始めたからだ。

 完全に俺の身をエネルギーの翼が包んだ瞬間、体中に衝撃が襲う。それは重く鈍く、意識の遠くなる攻撃の嵐だった。

 永遠に続くと思われたゼロ距離攻撃の嵐は唐突に終わりを告げる。

 乱暴に俺の首を掴んでいた手が離されるが、俺は踏ん張ることも何もできず、落下していく。

 最後の瞬間、落ちていく眼下を見ると、徐々に大きくなっていく小島のような地面を視界にとらえながら、俺の意識は深い闇の中に落ちて行った。

 




お久しぶりです。
リアルの方が忙しくなかなか続きを更新できずすみません。
頭の中で話はできているのですが字にするのはなかなかに難しいですね。
特に戦闘シーンが。
まだ福音戦は終わっていないのでまだまだ難産が続きそうです。
温かく見守っていてください。

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