IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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そう言えば、話数的には44話ですが全体で見ると50話ですね。
お気に入り件数も1450超えましたし。
嬉しい限りです!


第44話 火焔(ほむら)

「颯太っ!」

 

 シャルロットは叫びながら落ちていく颯太に向かって手を伸ばす。が――

 

「危ない!」

 

 背後からラウラがシャルロットの肩を掴み、無理矢理に後退させる。一瞬前にシャルロットのいたあたりを十数発のエネルギー弾が通過する。

 その間に颯太は落下し、海上に浮かぶ小さな島に墜落する。

 

「簪!颯太の様子は!?」

 

 唯一この場におらず、さらに加えて唯一この場の全員の情報をモニターしている簪にシャルロットは通信を繋ぐ。

 

『わからない……。数値は通常より低い……しかもいまだに低下してる……。なんて表現したらいいかわからない。颯太のIS『火焔』は起動したままなのに……颯太自身の意識はない……。こんな状態初めて見た……』

 

 簪は心配げな声で、そして困惑した声で答える。

 

『つまり、颯太は生きてはいるのか?』

 

 通信を通してラウラが訊く。

 

『今のところは……。数値的に見たら……気絶してるだけにも見える……。でも、これからどうなるかわからない……』

 

『そうか……』

 

 簪の返答に間を空けてラウラは口を開く。

 

『今は福音の撃破に集中するしかない。何より下手に颯太の救出に行けばやつのターゲットになりかねん』

 

 ラウラは言いながらその視線は福音へと注がれていた。

 みな一定以上間隔をあけているせいか福音は品定めするように浮かんでいる。

 

『とりあえず、やることは変わらないな。まずはやつを撃破することだ』

 

 ラウラの言葉に全員が頷き、それを合図にしたように福音が獣のような咆哮を上げる。

 

「来るぞ!」

 

 箒の言葉にみな一様に身を強張らせ、福音の攻撃に備えた。

 

 

 ○

 

 

 暗い。黒よりも暗い。まるで闇の中に浮かんでいるように上も下も分からないほどの闇の中、俺は胡坐をかいて座っていた。

 目の前には六枚の、まるで空間を切り取った窓のように浮かぶ空中投影ディスプレイのような何か。それらの画面のそれぞれにはシャルロットが、ラウラが、セシリアが、鈴が、篠ノ之が、簪が映っていた。

 みな一様に緊迫した表情で、簪以外のメンバーの映る画面には時折福音の攻撃と思われるエネルギー弾が映ったり、それらの攻撃を避けるために映像が乱れる。

 

「…………」

 

 俺はそんな謎の状態で、しかし、なぜか落ち着いて現状を受け入れていた。

俺には今置かれている状況が異常であるという気がしなかった。

 

「ねぇ」

 

 突如背後から声が聞こえ、俺は振り返る。

 そこには一人の少女が立っていた。いや、立っているように見えるが、胡坐をかいて座り込んでいる俺よりもその少女は安定していないように見えた。まるで空中にぷかぷかと浮いているように見える。というかむしろ浮いていた。

 その少女の姿ははっきり言って変わっている。まるでビキニのような、もっと言えば最低限の部分しか隠していないような赤銅色の服(服なのか?)。服と同色の太もものあたりまであるブーツ。背中には途中で四つに分かれた赤いマント。ふくらはぎのあたりまである長い金髪を二つにまとめ、なぜか前髪だけは黄緑色。その頭には赤いベレー帽のような帽子。帽子には『火焔』のヘッドギアそっくりの半透明な蛍光グリーンの飾りがついていた。

 そこまで少女の姿を観察したところで、俺は一つの違和感に気付いた。

 少女の姿がはっきりと見えすぎているのだ。

 まるで闇の中にそこだけ切り取ったかのようにはっきりと。

 

「ねぇ……大丈夫だった?」

 

 俺の思考を遮るように少女が再び口を開く。

 

「まあ……一応?」

 

 俺は胡坐をかいたまま周りを見渡し、首を傾げる。

 

「なぁ……一つ聞いてもいい?」

 

「?」

 

 俺の言葉に今度は少女が首を傾げる。

 

「俺って――死んだのか?」

 

 俺の問いに一瞬きょとんとした表情を浮かべた少女はニッコリと微笑む。

 

「生きてるよ、ちゃんと」

 

「あれ?そうなの?あたしゃてっきり――」

 

「なんでそう思ったの?」

 

 俺の言葉を遮って少女が言う。言わせろよ、俺の渾身のモノマネ「トト〇に出てくるおばあちゃん」を!

 そう思いつつも俺は答える。

 

「こんな状況だから。こんな木刀の精霊でも出て来そうな空間、死の間際の意識空間と言われても信じるでしょ。このまま目の前にあるディスプレイに俺のこれまでの人生が映って、『今のが走馬灯です。それじゃああの世に行きましょう』って言われるのかと思ってたから」

 

「木刀の精霊?」

 

「気になったのそこかよ。ほらあの某週刊誌に連載してる銀髪の主人公の木刀の洞爺……まあそれは置いておいて――」

 

 話が脱線しかけたのを自覚し、俺は咳払いをする。

 

「じゃあさ、この状況って何なの?ここが死の間際の世界じゃなく、君が俺をお迎えに来た天使的なものじゃないなら――君はいったい……誰だ?」

 

 俺の問いに首を傾げる少女。

 

「聞き方を変えよう。そうだな……まず、名前は?」

 

「……さぁ?」

 

「………はぁ?」

 

 俺は少女の答えに俺は素っ頓狂な声をあげる。

 

「名前だよ名前。なんで自分の名前知らないの?」

 

「うーん、そう言われてもどれを答えればいいのかなーって……」

 

「どのって、そんな何個もあるのか?」

 

「まあそれなりに……」

 

「じゃあ……今主に使ってる名前は?」

 

 俺はため息をつきながら訊く。しかし、少女の口から出た名前に俺はまたもや驚愕させられた。

 

「今の名前は――『火焔』」

 

「………ほむらぁぁぁぁ!!?」

 

 この空間がどれほどの広さがあるのかは知らないが、俺の絶叫が響き渡る。心なしかこだましている気もする。

 

「は?え?ちょっと待って?火焔?」

 

 俺の問いに少女が頷く。

 

「火焔って……この火焔?」

 

 俺は右手を掲げて装着されている赤いリングを見せようとしたところで――

 

「あれ?」

 

 その右腕に何もないことに気が付く。

 

「あれ?ない!なんで――」

 

 そこで俺はハッと気が付き、俺は少女の顔を見る。

 

「………マジで?」

 

「マジで」

 

 ニッコリと微笑みながら頷く少女に俺はあんぐりと口を開く。

 

「まさか俺の専用機がこんな美少女とか……これなんてラノベ?」

 

「らの……べ?」

 

「いや……気にしないでくれ」

 

 俺は何度目かもわからないため息をつく。とことん何でもありだなISは。

 

「………じゃあ今のこの状態も……」

 

「うん。私の仕業」

 

「だよな……。まあどういう理論でこうなってるのかは聞かない。聞いても分からないだろうし」

 

 俺はそう言いながら今度は視線を少女――『火焔』から背後のディスプレイに目を向ける。

 

「これは何?これってリアルタイムなの?」

 

「そうだよ~」

 

「でも、誰がこの映像撮ってるんだよ」

 

「ISのみんな。ISのコアネットワークで中継繋いでもらってる」

 

「へ~……」

 

 俺は頷きながらディスプレイに視線を走らせる。

 どの画面でもみな緊張した面持ちで映っている。その表情と、画面にときどき映る福音の様子に現場の緊迫具合が伝わってくる。

 

「あ、待って。もう一つ来た」

 

「へ?」

 

 少女の言葉に俺が首を傾げていると、ディスプレイが一つ増える。

 その画面は灰色になっていて、真ん中には「NO IMAGE」と書かれていた。

 

「なんも映ってないけど?」

 

「待って、今音量あげるから」

 

 少女の言葉とともに画面から声が聞こえてきた。それは――

 

『どういうことですか、織斑先生!』

 

「師匠……」

 

 楯無師匠の声。そして

 

『落ち着け、更識』

 

 織斑先生の声だった。

 

「これは?」

 

「更識楯無の専用IS『ミステリアス・レイディ』から送ってもらってる」

 

「なんで音声だけ?」

 

「ミステリアス・レイディが待機状態だから」

 

「あぁ……」

 

 俺は納得しながら頷き、音声に意識を戻す。

 

『颯太君は……みんなは無事なんですか?』

 

『詳しいことはわからんが……全員生きてはいるようだ。ただ……』

 

『ただ?』

 

 その先を言うべきか否か迷うように織斑先生が言葉を濁すが、師匠が言葉を促す。

 

『………井口の反応が著しく下がった。詳しいことはわからんが、もしかしたら危険な状態かもしれん』

 

『そんな……』

 

 織斑先生の言葉に音声のみだが師匠の驚愕が伝わってくる。

 

『詳しいことは!?颯太君は……』

 

『落ち着け!こちらもそれ以上のことは――』

 

『織斑先生!』

 

 織斑先生の言葉を遮るように別の声が聞こえてくる。おそらく声的に……相川さんあたりかな?

 

『今は作戦中だ。入室の許可はない。すぐに出て行け』

 

『でも、織斑君が……』

 

『何!?』

 

 厳しい言葉を言う織斑先生。しかし続いた言葉に織斑先生が驚きの声をあげる。

 

『どうしたんですか、織斑先生!?』

 

『すまない、更識!通信を切る!』

 

『えっ!?ちょっと織斑先生!?』

 

 師匠の驚愕を無視し、どうやら織斑先生は通信を切ったようだ。

 

『…………』

 

 画面の向こうからは数秒間無言が続く。

 

『何よ……颯太君。あなた言ったじゃない。お土産買って帰るって……夏休みにはみんなで遊びに行くんじゃないの……?生乾きの乾燥ヒトデでもなんでもいいから、お土産もって帰って来なさいよ、バカ……』

 

 師匠の悲痛を含んだ声。

 

「…………」

 

「愛されてるね」

 

 無言でいた俺の横にやって来て、火焔が微笑む。

 

「愛されてるって……」

 

「違う?」

 

「どうなんだろうな」

 

 俺は肩をすくめながら答える。

 

「………逆にあなたは好きな人いないの?」

 

「いきなりだな」

 

 火焔の問いに俺はため息をつく。

 

「人間の恋愛には興味あるの。だから一番身近なあなたがどう思ってるのかも知りたい」

 

「さいで」

 

「で?どうなの?好きな人とかいないの?」

 

「………まあ、いないこともない……かな?」

 

 俺の答えに火焔が興味深そうに目を光らせる。

 

「え?誰、誰?その人のことどう好きなの!?その人とどうなりたい!?」

 

「ちょ、待て!いっぺんに訊くな!」

 

「あ、どうなりたいっていうのはわかりきってるね!もちろん生殖行為だよね!」

 

「言い方が生々しいな!」

 

「えっ?あ、じゃあ、セッ○ス?合体?キャアキャアキャア!」

 

 頬に手を当て、照れたように、しかし心底楽しげに俺の周りをプカプカクルクルと飛び回る火焔。

 

「『キャアキャアキャア』じゃねえよ!恋愛=そういう行為って考えんじゃねえよ!俺はもっとプラトニックな恋愛がしたい!」

 

「でも最終的にはやることやるんじゃないの?」

 

「んぐっ!」

 

 論破された。こんなアホの子みたいな少女に言い返せない。

 

「………あ!なんかもう一つディスプレイが出て来たけど!?」

 

 俺はどうにか話題を変えようと模索していたところに、画面が現れる。俺はこれ幸いにとそのことを指摘する。

 

「えっと、これは……あ、白ちゃんのだ」

 

「白ちゃん?」

 

 首を傾げながら画面を注目するとその意味が分かった気がした。そこに映っていたのは――

 

「一夏……」

 

 一夏だった。しかし、その姿はいつもの見慣れたものではなかった。

 

「なあこれ何?一夏に何が起きたんだ?なんか一夏のISいつもと違くない?てか、一夏って意識不明の重傷だったはずなんだけど?目が覚めてもすぐに動けるような怪我じゃなかった気がするんだけど?」

 

「ちょっとちょっと、いっぺんに訊かないで」

 

 先ほどと立場を逆転させた俺たち。今度は俺の方が火焔を質問攻めにする番だった。

 

「………これは多分白ちゃん……白式の『二次形態移行』が原因だね。多分彼の怪我が治ったのも白ちゃんの力だよ」

 

「えっ、ISって人間の治癒もできるの!?じゃあお前も俺が死にかけるほどの大怪我しても治せるの!?」

 

「できるわけないじゃん」

 

「あり?」

 

 ジト目で答える火焔の言葉に俺は肩透かしにあう。

 

「だって今、一夏の怪我を治したのは白式だって……」

 

「うん、言ったね。でも、そんなことできるのは現行ISでは白ちゃんくらいのものだよ」

 

「あぁ……そういうことね」

 

 俺は合点がいったと頷く。

 

「前々から一夏は主人公タイプだと思ってたけど、このタイミングでのパワーアップといい、特殊なISといい、とことんだな……」

 

 苦笑いを浮かべながら画面に視線を向ける。画面からはその向こうで戦う皆の声が漏れ聞こえてくる。

 

『みんな!無事か!?』

 

 一夏の心配げな表情とともに一夏の声が聞こえてくる。

 

『一夏!?』

 

『そ、その姿はいったい……』

 

『今はそれを説明している暇はない!それより……颯太はどうした?』

 

 篠ノ之とラウラの驚愕に答えず、一夏が訊く。一夏の問いにみんなが息を呑んだのが分かる。

 

『颯太は……』

 

『その……』

 

 鈴とセシリアが言いよどむ。

 

『そんな……まさか――!』

 

『『そんなはずない!』』

 

 一夏の言葉を遮るように二人分の声が遮る。

 

『颯太が……こんな簡単に死んだりしない!絶対に!』

 

 シャルロットが叫ぶ。

 

『確かに数値的に見たら生体反応は低いけど……さっきまで安定してなかったものが……安定してきてる……!きっと……大丈夫!』

 

簪が叫ぶ。

 

「……………」

 

 俺はその言葉に黙って耳を傾ける。

 

『………だよな。あの颯太だもんな!自分のことを凡人だっていう非凡なあいつだもんな!』

 

『……そうですわ!素人なのにたった一週間足らずの訓練と訓練機を使っての模擬戦でわたくしと引き分けたんですもの!』

 

『ああ!軍人で代表候補生たる私を追い詰めるやつが平凡であったり、こんなところで死ぬはずがない!』

 

『まったくよ。あいつが平凡ならこの世に非凡な奴なんていないわ!』

 

 一夏の言葉にセシリアが、ラウラが、鈴が同意する。

 

『俺たちは信じて戦うんだ!俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!』

 

 一夏が叫び、それを合図としたように福音が咆哮を響かせ、激戦が再開される。

 

「…………」

 

 俺はその光景をただただ見つめていた。

 

「………どうするの?」

 

 俺の真横にふわりと降り立った火焔は俺の顔を覗き込むように顔を近づける。

 

「………たく、誰が非凡だよ。俺以上に平凡な奴なんていねえよ」

 

 俺は口元に笑みを浮かべ呟く。

 

「……なあ、火焔」

 

「何?」

 

「お前のエネルギーは残ってるんだよな?」

 

「うん。でも、熱暴走で動けないよ?」

 

「だから何だ?『無理を通して、道理を蹴っ飛ば』してやるよ」

 

 俺の答えに楽しそうに微笑む火焔。

 

「やっぱりあなたは面白いね。ISの私にもわかる。あなたは平凡じゃない」

 

「そんな訳ないだろ」

 

 火焔の言葉に肩をすくめる俺。

 

「いいこと教えてあげる」

 

「いいこと?」

 

 俺は首を傾げる。その問いに答えず、少女が右腕を振ると目の前にいくつかの数字が表れる。

 

「これが何かわかる?」

 

「何ってのは詳しく知らないけど……見覚えはある」

 

 それは544/666。ここまでの数字になったものは初めて見たが、熱暴走時に見るものだった。

 

「一つアドバイス。目が覚めたら何が何でもこの数字が666に到達するのを待って」

 

「待てばどうなる?」

 

 俺の問いに少女はイタズラっ子のような笑みを浮かべる。

 

「さぁ……それはなってみてからのお楽しみ」

 

「………じゃあ、あとどれくらいでこれは666まで溜まる?」

 

「ん~、このペースならあと一分半くらいかな~。運がいいね。海に落ちてたら機体が冷やされて全部おじゃんだったよ」

 

「あ、俺って海に落ちたんじゃなかったんだ」

 

「そうだよ?言ってなかった?」

 

「初めて聞いた」

 

 そこでふと、意識を失う寸前に徐々に大きくなっていく地面を思い出す。………あれ?

 

「……てか、海に落ちて機体が冷やされたら、666を待たずに戦えたんじゃないか?」

 

「……………」

 

「め・を・そ・ら・す・な!!」

 

 凍り付いた笑顔のまま顔を背ける火焔に向かって叫ぶ。

 

「ま、まあそれは置いておいて!」

 

 火焔が話題を変えるように体の前でパンと一度手を叩く。

 

「一緒に頑張ろ!もうひと頑張り!」

 

 ニッコリと笑いながら右手を差し出す火焔の顔と手を交互に見る。

 

「………ああ。よろしく頼むよ、相棒!」

 

 火焔の手を取り、俺は立ち上がった。

 




どうも、前よりは早めに更新できました。
このままあまり期間を開けずに更新したいですね。

さて、今回の話では火焔が擬人化したわけですが――わかってもらえたかな…と心配になっている次第です。
なにせ若干書いてて雰囲気が変わってしまったもので……(-_-;)
まあVVVを知らない人は、〝ああ火焔が擬人化したな〟くらいで思っていてもらえればいいです。

さて、次回はとうとう……
お楽しみに~( ^ω^)

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