「お……ぐち……おき……いぐ……」
まどろみの中から誰かの声がする。途切れ途切れで何を言ってるのかは聞こえない。正直気にしてない。なんだかぼんやりとしていて何も考えたくない。
「起きろと言っているんだ、井口!!」
パアッン!
「いったー!!!」
頭に走った衝撃で机に突っ伏していた俺は勢いよく跳ね起きる。
「やっと起きたか」
見ると俺の横に出席簿を構えた織斑先生が立っていた。
「もう休み時間は終わっている。まだ目が覚めんようならもう一発いっとくか?」
「い、いえ。お気持ちだけで結構です。ちゃんと目が覚めたんで」
「今回は初回だったからこれで終わらすが、次はないぞ」
「イ、イエス・マム」
冷汗が止まらん。あの織斑先生の顔見てたら眠気もとんだ。まさか昨日の夜更かしがここで響いて来るとは。まあ楽しかったから悔いはないけど。
「で、だ。織斑、井口。お前たちのISだが準備まで時間が掛かる」
「へ?」
「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
せ、専用機……だと…?俺に?まじで?
「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」
「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」
クラスメイトが羨ましそうにしている理由が一夏はまだわからないようだ。見かねたのか、織斑先生がため息をつく。
「教科書六ページを音読しろ」
「え、えーと『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』……」
「つまりはそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」
「な、なんとなく……」
一夏がうなずく。
「ただし、井口。お前の専用機だが、来週の試合には間に合いそうにない。そこで、学園側にある訓練機を期間限定で貸し出すことになった」
ええ~、ぬか喜びさせやがって!
「とりあえず訓練機の資料を後で渡す。『打鉄』『ラファール』どちらがいいか今日中に選んでおけ」
「は、はい」
専用機持ち相手に訓練機での戦いを挑む。わかってはいたが、改めて考えるとものすごい難易度だな。
「あの、先生。思ったんですけど、篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」
クラスメイトの一人がおずおずと手を上げて訊く。
でも、そんな個人情報話すわけが……
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
って、ちょい!!
「ええええーっ! す、すごい! このクラス有名人の身内が二人もいる!」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよ!」
授業中にもかかわらず篠ノ之の元に女子が集まる。
「あの人は関係ない!」
突然の大声に、さっきまで空気が一変した。
「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
う~む。なんか事情がありそうだな。
「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」
「は、はいっ!」
織斑先生の言葉に返事をし、山田先生が授業を始める。
○
「おい、颯太」
昼休みになり、一夏が俺に声をかけてくる。
「颯太は試合までどうするんだ?俺と同じで素人だろ?」
「おう、まあな」
一夏の問いに頷く俺。
「もしよかったらなんだが、俺も知り合いにISのコーチを頼もうと思うんだ。颯太もどうだ?」
思わぬ提案だった。数秒間俺は考える。
「…………いや、遠慮しとくよ。俺らも戦うことになるんだ。そこは正々堂々、敵に塩を送ることなくいこうぜ」
「………そうか。まあ、そうだな。うん、わかった」
俺の言葉に一夏が納得したように頷く。
「じゃあ。お互いに頑張ろうぜ」
「おうよ」
一夏とお互いに鼓舞し合い、一夏は篠ノ之と共に教室から出ていった。あてって篠ノ之ことか。
「さて、俺はどうしようか……」
「ねえねえ、ぐっちー」
俺が今後日て考えていたところで背後から誰かの声がする。
「ん?」
後ろを振り返るとだぼだぼの制服を着た女子が立っていた。数秒間その少女と見つめ合った後、俺は周りをきょろきょろと見る。ぐっちーって誰ぞ?
「ぐっちー?」
だぼだぼの制服の少女が首を傾げながら俺を見ている。って――
「ぐっちーって俺か!?」
「うん。井口だからぐっちー」
なるほど、俺のあだ名らしい。
「ぐっちーの正体はわかったが、えっと……」
「私は布仏本音だよー」
と、にぱーっと微笑む布仏。なんかこの子の顔見てると癒される。
「えっと、布仏さん。なにかな?」
「うん。えっとね、ぐっちーってかんちゃんと同室なんだよね?」
「かんちゃん……ってもしかして簪か?」
「うん。かんちゃん」
なるほど。確かにかんちゃんか。
「そうだよ」
俺の返事にうんうんと頷く布仏。
「これからかんちゃんとお昼なんだけど、一緒にどー?」
「え、何?布仏さんって簪と知り合いなの?」
「うん。私、かんちゃんの専属の使用人だからねー」
「使用人!?」
マジか。簪って実はいいとこのお嬢様?
「で、どうするー?」
俺が驚いているところに布仏が訊く。
「えっと、じゃあせっかくだし一緒に行こうかな」
「よーし、そうと決まったら、さっそくレッツゴー」
そう言って俺の手を取って進み出す布仏さん。俺は布仏さんに引っ張られるままに移動し始めた。
○
「お待たせーかんちゃん。ついでにぐっちーも連れて来たよー」
「ども」
学食に着いて入口のところで簪と合流。その後券売機で食券を買って三人でそれぞれ自分の昼食を購入し、空いた席に座る。
「そういえば、ぐっちーは試合どうするの?」
日替わり定食をぱくつきながら布仏が訊く。
「…………どうしよっか?」
俺は豚骨ラーメンを食べる手を止めて考える。
「試合って…あのイギリス代表候補生の人と戦うっていう…あれ?」
かき揚げの乗ったうどんを啜る手を止めて簪が訊く。
「おう。来週の月曜に試合するんだけど、俺素人だし。誰かにコーチしてもらわないと多分一方的に負けるだろうな」
言いながら俺は豚骨ラーメンを啜る。うん。うまし。
「あっ。じゃあさー。かんちゃんにコーチしてもらえば?」
「簪に?でも、簪って俺と同じ一年生だろ?」
「大丈夫だよ。かんちゃんって、何を隠そう日本の代表候補生だからねー」
「えっ!?そうなの!?」
俺は驚き、簪の顔を見る。
「う、うん。……まあ」
急に俺にガン見されて、簪が少し照れた表情を浮かべる。
「え?じゃあお願い出来る?」
「うーん。……ちょっと難しいかも」
俺の言葉に数秒考えた後簪が答える。
「実は私……代表候補生だけど専用機がまだ出来てないの…」
「あらら。そうなの?」
「うん……だからちゃんと教えてあげられるか……」
「そっかー」
簪の言葉に俺は落胆しつつもしょうがないと諦める。
「じゃあ…お嬢様に頼むのは?」
そこに布仏が口を開く。え?お嬢様?
「え?お姉ちゃんに?」
「うん。今私たちが紹介できる最高のコーチだと思うよー?」
「それは……」
布仏の言葉に簪は頷きつつも、納得していない表情を浮かべている。
「あの、その人がどんな人か知らないけど、気が進まないならいいぜ?俺も自分でどうにかするしさ」
「………ううん。大丈夫。やっぱり…お姉ちゃんにお願いしよう」
俺の言葉に簪が言った。
「あとでメール送っておくから……放課後にでも会って。居場所は本音に聞けばわかるから……」
「まっかせーなさーい」
なんかどんどん話が決まった。でも――
「いいのか?言ったら悪いが、俺と簪って昨日知り合ったばかりだろ?なんでそこまでしてくれるんだ?」
俺は気になったことを訊く。
「別に…いい…。できれば私は…お姉ちゃんにあまり頼りたくないけど…。でもあなたが困ってるし…昨日一日であなたがいい人だってわかったから……」
「簪……」
俺は今猛烈に感動しています。めっちゃいい奴だな簪は。
「それに――」
さらに簪は続ける。
「グレンラガン好きに悪人はいない」
簪の言葉に俺も大きく頷く、固い握手を結ぶ俺と簪。それを見てにぱーっと笑う布仏。
「あ、ところでさ――」
それから昼食に戻った俺はふと気になったことを口にする。
「そのお嬢様とかお姉ちゃんって言われてる人って、いったい何者?」
「それは――」
簪が口に入れたうどんをしっかりと噛んで飲み込む。
「その人は私のお姉ちゃんで、この学園の生徒会長」
はい、というわけで颯太君のコーチはあの人になりそうです。
なんか書いてて思ったけど、簪の喋り方って難しい。
次回!あの人が遂に登場!……すると思う、たぶん。