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ついにやりました!
3月13日、午後8時、IS学園学生寮。
「ん?どうした、シャルロット?」
寮の部屋で夕食後の予習復習を終えたラウラはふと自分のとなりで壁に掛けられたカレンダーを凝視する友人、シャルロットに訊く。
「カレンダーがどうかしたか?……っと、ん?どうして明日の日付に〇がしてあるんだ?」
見ると翌日の日付――3月14日に赤いペンで〇がされていた。
「ラウラ……この日は…明日はね……」
ラウラの問いにシャルロットは静かに、そして力強い声で答える。
「明日は……決戦の日だよ」
「けっ…決戦だと……!?」
シャルロットの言葉に驚愕の表情で固まるラウラ。
「そ、それは本当なのか、シャルロット!?」
「うん。明日は……負けられない戦いの日!」
「………っ!!!」
驚愕の表情とともにわなわなと震えるラウラ。
「な、なんなんだ!?明日はいったい何の日だというのだ!?」
「明日は……決戦の日。全国の思い人のいる女子にとって大事な一日。通称――『ホワイトデー』!!!」
○
翌日、朝、一年一組の教室にて――
「おはよー」
一夏は教室の先に登校しているクラスメイト達に挨拶をしながら自分の席へと腰掛ける。と――
「一夏」
一夏に声をかけてきた一人の女子生徒、箒に一夏が顔を上げる。
「おう、箒。おはよう」
「う、うむ、おはよう」
あくまでいつも通りな一夏に対して少しどこか照れの見える箒。
「あー……その…なんだ……今日は3月14日だな」
「おう。そうだな。あ、そうそう。忘れてた」
そう言いながらカバンからラッピングされた透明な包みを取り出す。
「ほい、先月のお返し」
「う、うむ。別に催促したわけではないが、くれるというなら…うむ…貰っておこう」
と、言い訳じみたことを言いながらも差し出され包みを受け取る。
「こ、これは……まさか、手作りか!?」
「おう。普段お菓子なんて作れないから上手くできてないかもしれないけどな」
透明な包みの中身、手作りのクッキーに驚愕する箒。
このとき、篠ノ之箒の脳内ではいろいろな考えがめぐり、一つの等式が出来上がった。
《手作り=手間がかかる=自分で作る労力をいとわない=私のため=本命》
数秒でそこまで思考を巡らせた箒はにやけてしまいそうな顔を引き締めつつ口を開く。
「そ、そうか。手作りか……。こ、これはつまりその――」
「あ、セシリア!セシリアにもこれ」
と、箒の言葉を遮って一夏は教室に入って来たセシリアに手招きをする。
「おはようございます、一夏さん。どうかしましたの?」
自分の席に鞄を置き、一夏のもとにやって来たセシリアに一夏はカバンから取り出した透明な包みを渡す。
「ほい。先月のお返し」
「まあ!ありがとうございます!…しかもこれ!手作りでありませんの!?」
「おう、まあな」
と、目の前の光景に不思議な既視感を覚える箒。しかも、セシリアの持つ包みも非常に見覚えのあるものだった。
「セシリア、ちょっといいか?」
「はい?なんですの?」
「いいからちょっと」
その後数秒間の会話の後、ふたりのテンションが少し下がったその頃、同じ教室の中で一人黙って自身の席で深刻そうな顔で座る少女がいた。
「…………」
シャルロットである。
「…………」
真剣な表情でしかしどこかソワソワとした様子で所在なさげに自身の席に腰掛けている。
「おはよ~」
「っ!?」
と、ある人物の入室にピクリと反応を示すシャルロット。
「おう。おはよう、シャルロット」
「お、おはよう、颯太!」
「おお、元気だな」
「あ、ご、ごめん」
シャルロットの脇を通るとき、自分に挨拶してきた颯太に咄嗟についいつもより大きな声になってしまい、照れたように俯くシャルロット。
「なんで謝ってんだ?元気があるのはいいことだ!俺なんて朝は苦手だ。眠くて眠くて」
「え、いや……なんでだろう?」
「はは、変なの」
「へ、変……」
颯太の言葉にショックを受けるシャルロットをよそに颯太は自身の机に鞄を置く。と――
「あ、そうだ」
何かを思い出したようにシャルロットの元に戻ってくる颯太。
「なあ、シャルロット。今日の放課後って時間あるか?」
「え?それは……別に特に用事はないけど………」
「じゃあさ……ちょっと整備室来てくれよ。渡したいものがあるんだ」
○
「颯太君、おはよう!」
「ああ、おはようございます、師匠」
授業前に用を足しに教室を出てすぐ背後から声をかけられ振り返る颯太。そこには扇子を口元にあて、いつもの飄々とした雰囲気で笑みを浮かべた楯無が立っていた。
「どうかしたんですか、こんなところで?」
「ん~……なんとなく?」
「師匠はなんとなくで他学年のフロアに来るんですか?変わった人だぁ~」
「ん~……誰に変わってるって言われてもいいけど、君にだけは言われたくない気がする」
「失礼な。――それで?本当のところどうなんですか?」
「どうって?」
「いや、ホントになんとなくなのかな~って。師匠ってのらりくらりとしてるわりにいつも忙しいじゃないですか。なんとなくで他学年フロアに来るほど暇じゃないんじゃないのかなって」
「そこはかとなくディスってる?」
「いえいえそんなつもりはないっすよ」
楯無の問いに颯太は肩をすくめる。
「………まあ本当に特に用事はないわよ。暇だったし授業までに颯太君や簪ちゃん、シャルロットちゃんと世間話でも…と思ってね」
「ふ~ん。そうですか」
颯太は頷きながら廊下の窓辺に腰掛けるように背中を預ける。
「え?」
「世間話するんでしょ?俺もどうせ暇なんで付き合いますよ」
「……ありがとっ」
颯太の言葉に一瞬の間を空け、顔いっぱいに笑みを浮かべる楯無。
そこから数分ほどふたりは取り留めのない会話を交わしたのち――
「そ、そういえば颯太君。今日って3月14日ね」
「そうですね。あ、マシュマロ食べます?今日ってマシュマロの日って言うらしいですよ。前にたまたま知ってから昨日出掛けた時に買ったんですよ」
「あ……うん。もらうわ」
颯太の差し出した袋から二、三個のマシュマロを取り出し食べる楯無。
颯太も袋から一つ取り出し左掌にのせ、右手でパシッと左手を叩く。叩かれた衝撃で掌から飛んだマシュマロは吸い込まれるように颯太の口の中へ。
「おお!お見事」
「どもども♪」
綺麗に決まったことに拍手の楯無と嬉しそうな颯太。
「って、じゃなくて!」
と、我に返った楯無が言う。
「ほら……他にあるでしょ!」
「アハハハ、もちろんわかってますって」
袋から新たにマシュマロを取り出し、今度は普通に食べる颯太。
「師匠。今日の放課後って時間あります?」
「え?……も、もちろん!」
颯太の言葉に一瞬の間の後に楯無は嬉しそうな満面の笑みで頷く。
「そうっすか。じゃあ今日の放課後、生徒会室で」
○
「おう、簪。おはよう」
「お、おはようっ」
廊下を歩いていた颯太はたまたま会った簪に挨拶する。
簪は簪で少し驚いたようにしかし嬉しそうに挨拶を返す。
「そ、颯太は…どうしてここに……?こっちは…私のクラスの方だよ……?」
「ん?ああ……いや……その…キジを撃ちに行った帰りと言いますか……」
「あ、ああ……」
颯太の答えに簪は少し顔を赤らめながら俯く。
「あとはまあ実は簪にも少し用事があったから」
「え?」
颯太の答えに顔を上げる簪。
頬をポリポリと掻きながら頷く颯太。
「簪って放課後暇か?」
「まあ……特に予定はないけど……」
「じゃあさ……学校終わってから俺の部屋来てくれよ。渡したいものがあるんだ」
○
――そして……放課後
○
「ふん♪ふふん♪ふふ~ん♪」
鼻歌とスキップしながら進む人物がいた。更識楯無である。
「颯太君からの呼び出し~♪これってそういうことかしらね~♪」
上機嫌で進む先に目的地の生徒会室が見えてくる。
「す~……はぁ~………よしっ!」
生徒会室の前で大きく深呼吸した後、気合いを入れた楯無は生徒会室のドアに手をかける。
「おっまたせ~颯太君♪」
「あ、いらっしゃいませ、師匠」
上機嫌に入室した楯無を笑顔で迎える颯太。
「ごめんなさい、待たせたかしら?」
「いえいえ全然」
「そ、それで……颯太君……」
「あ、その前に立ち話もなんですし座りませんか?」
「そ、そうね……」
颯太に示され、はやる気持ちを抑えて楯無は自分のいつも使っている定位置の椅子に腰かける。
「それでですね――」
それと同時に颯太が口を開く。
「実は今日こうして先輩に来ていただいたのは……」
「……っ!」
颯太の言葉に耳を傾け、息を呑む楯無。
「――いまだ確保!」
が、続いた颯太の言葉は全く予想外の物であり、一瞬思考が遅れる。それと同時カシャンという小気味のいい音とともに楯無の腰かけていた椅子から謎の金属製のベルトのようなものが出現し、座っていた楯無のお腹のあたりを覆うように楯無を拘束する。
「なっ!ちょっとこれ何!?」
突然のことに驚きの声をあげる楯無。が、そんなことはどこ吹く風と言わんばかりに颯太は振り返る。
「布仏先輩、のほほんさん、もう出てきていいですよ」
その言葉とともに先ほどまで隠れていたらしい二人が現れる。
「な、何!?これっていったいどういう状況?」
いまだ状況の飲み込めない楯無に颯太が向き直る。
「師匠。今日師匠に来てもらったのは他でもありません。溜まってる仕事とっとと片付けてください」
颯太がため息まじりにいう。
「そりゃ師匠がいなくてもできる仕事はありますけど師匠がいないと進まない仕事だってあるんですから。期限ぎりぎりにひいひい言いながらやりたくないんです。なので、今日は師匠には溜まってる仕事終わらせるまで帰らせませんからね」
「えっ!?ちょっと!?」
「あ、ついでにこれどうぞ」
そう言って颯太がカバンから少し小さめの箱を取り出す。
「頭使うときは当分補給ってことでホワイトデーのお返しです」
そう言って楯無の目の前に置かれたのは「きのこの山」一箱。
「それじゃ!僕ちょっと用事あるんで、ちょっと行ってきます!すぐ仕事手伝いに戻ってきますんで!」
「あ、ちょっと、待ってよ!」
「あでゅ~」
そう言って華麗に去って行った颯太を見送った楯無の目の前には満面の笑みで大量の書類を抱えた布仏姉妹が立っていた。
○
固く閉じられたとある扉の前で少女、シャルロットは緊張の面持ちで立っていた。
「はぁ~……ふぅ~……」
大きく深呼吸したのち視線を上に向ける。そこには「整備室」の文字が。
「わざわざ呼び出すなんて……しかも今日……つまりそういうことだよね?そういうことでいいんだよね?」
いったい誰に訊いているのかはわからないが何度も口に出しては自己完結する。
「よしっ!」
グッと気合いを入れ、ドアに手をかけるシャルロット。
プシュッ。
空気の抜けるような音とともに目の前の扉が開く。
「こ、こんにちはー……」
恐る恐ると言った感じに入室したシャルロット。部屋の中を見渡すとそこには――
「おう。いらっしゃい」
IS用のハンガーと備え付けのPCの前に座り、何かPCを操作していた少年、颯太が振り返る。
「は、早いね颯太。同じ教室で授業受けてたはずなのにSHR終わって颯太の席見たらもういなくなってたし」
「アハハハ、ちょっと生徒会室寄ってたからな」
笑いながら椅子から腰を上げた颯太。
「わざわざ悪いな来てもらって」
「う、ううん。いいんだよそれくらい。それで?どうかしたの?」
「うん……実はシャルロットに渡したいものがあってさ」
「えっ……?」
トクン、と颯太の言葉にシャルロットの胸が高鳴る。これはもしかするともしかするのかもしれないと緊張で心臓が早鐘を打つ。
「シャルロット……これ……受け取ってくれ……」
そう言って颯太が差し出してきたのは――
「………なにこれ?」
数枚の書類だった。
「昨日出掛けたときに指南の開発部の人に渡すの頼まれてさ。ほら、シャルロットって指南の開発部の人にもバレンタイン渡してただろ?それで開発部の人たちがお返しにって新しい装備作ってくれたんだってさ!」
そう言いながら差し出す書類を見てみると確かにその旨が書かれていた。
「最新式のパイルバンカーだってさ。いいなぁ、かっこいいよな、パイルバンカー。俺も欲しいくらいだ」
満面の笑みでうんうん頷きながら言う颯太に対し、シャルロットは期待していた分の反動が大きくなんとも複雑な気持ちだった。
「あ、そうだ。俺からも先月のお返し」
そう言ってカバンから取り出した箱をシャルロットに渡す颯太。
パッケージには「たけのこの里」と書かれている。
「あ……うん……ありがとう」
「おう。……あ、俺そろそろ生徒会室戻って仕事手伝わないといけないから、それじゃあ!」
そう言って去って行った颯太を見送りながらシャルロットは自分の手の中の数枚の書類と一箱のお菓子を呆然と見ていた。
○
コンコン
「は~い、どうぞ~」
ドアをノックする音に返事をした颯太。
颯太の返事の数秒後にガチャリと扉が開き、簪が入ってくる。
「いらっしゃい」
「お、お邪魔します……」
恐る恐るといった様子で部屋に入ってきた簪にイスに座ったままで迎える颯太。
「それで…その……私に渡したいものって……」
「おう。その…なんだ……喜んでもらえるといいんだけど……」
少し照れたように頬を掻きながら颯太は机の横の棚から紙袋を取り出す。
「これ…よかったら」
「う、うん………あ、開けてもいい?」
「おう」
颯太が頷いたのを確認し簪はドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じながら紙袋を開く。そこには――
「……Blu-ray?」
「そう。前から見たいって言ってただろ?俺も見たくて買ったから貸してあげようと思って」
「まあ……うん……見たかったけど……」
予想外のものに微妙な気持ちになる簪。
「今日私を呼んだのって……これのため?」
「ん?ああ、あともう一個。先月のお返し」
そう言って颯太はお菓子の箱を取り出し簪に渡す。お菓子のパッケージには「meijiALMOND」の文字が。
「…………」
「あっ、もしかしてアーモンド嫌いだった?マカダミアナッツの方がよかった?きのこの山たけのこの里もあるけど……」
「あ、ううん……ありがとう」
微妙な雰囲気の少女と楽し気に満面の笑みでニコニコと笑っている少年。なんとも対照的なふたりの人物が同じ空間にいる不思議な状況が出来上がっていた。
○
「ねえ……二人ももらった?」
「もらいました」
「私も……」
三人の少女が食堂の一画に一堂に会していた。
それは楯無、シャルロット、簪の三人であった。
「どうだった……?」
「ザ・義理って感じでした」
「右に同じ……」
三人の少女はお互いに自分たちが貰ったものを見比べ頷き合う。
と、そこに――
「あれ?三人おそろいで何してるんですか?」
件の少年、井口颯太が夕食の乗ったトレーを持って現れる。
「……ど、どうかしました?」
三人の異様な雰囲気に颯太がたじろぐ。
「……ねえ…颯太君」
「は、はい」
三人の中で代表するように楯無が口を開く。
「これってさぁ……」
「俺が三人にあげたお返しっすね……」
「だよねぇ……。なんでこれをチョイスしたのかな?」
「うえっ?」
予想外の問いに颯太が素っ頓狂な声をあげる。
「え~っと……いや、何人かにバレンタイン貰ってたんでお返しはあまりそれぞれに差が出ない方がいいかなって……」
「それだけ?」
「……………」
『そ・れ・だ・け?』
三人が声を揃えての問いに颯太はビクッと体を震わせた後、少し挙動不審気味に口を開く。
「それがウソってわけじゃないんですが……その……実は、コンビニで対象商品買うとラブライブ!のノートがもらえるということで……つい保存用と鑑賞用で全部二つづつ手に入れるためにお菓子を大量買いしまして……一人で食べきれる量じゃなかったんで、バレンタインのお返しこれでいいや…と……」
『……………』
「あ、もしかして師匠はたけのこ派っすか!?シャルロットもきのこ派だった!?安心してください、お菓子はまだまだありますよ。むしろ三人にもう二個ずつの計三個の三倍返しできますよ!」
『…………』
「あ、パイの実!?パイの実とかの方がよかったっすか!?でもすいません。パイの実は対象外でして……。そう言えば地元の友人に俺の家に来るたびにパイの実もって来ては『おっ、パイの実だぁ!』って言う友達がいたんですよね~。アハハハハハ――」
『…………』
「ハハハハ……はは……ははは………」
『…………』
「何か言ってよ!」
終始無言の三人の雰囲気に耐えかねた颯太が叫ぶ。
「……はぁ……もういいわよ」
ため息まじり口を開く楯無。
「ありがとう。おいしくいただきます」
「僕もちゃんといただくよ」
「わ、私も……」
「えっと……なんかすいませんね、もっとこだわった方がよかったすっかね?」
「いいんじゃない?理由も颯太君ぽいし」
「理由聞いたら納得しちゃった」
「颯太っぽい理由だった」
「ん~……とりあえずご理解あるお言葉ありがとうございます?」
若干の諦めの入り混じった三人の言葉に颯太は終始首を傾げていた。
さてさて改めましてお気に入り件数1900件!
そんなわけで時期的にいい機会だったんで題名からも分かる通りこの番外編のメインテーマは『ホワイトデー』です。
颯太「バレンタインのエピソード書いてないけどな」
そこはほれ、あれだよ。
………タイミング?
颯太「タイミングって……」
まあ個人的には1900件行くのはもう少しかかるかと思ってたんですがね。
思ったよりも速くて驚きましたよ。
おかげで特にネタ考えてなかったんで少しグダグダな番外編になってしまったかも……
颯太「次の2000件ではもうちょっと頑張りましょう」
あぁ~まあそこまで行ったらね。
正直1900件すら行くとは思ってなかったから現実味があんまないんだよね。
なんにしてもこれだけ行くとすごくうれしい限りです。
これからさらに頑張っていきますので応援よろしくお願いします!
颯太「よろしくお願いしますm(__)m」