もうちょっとでお気に入り件数が2000件行きそうなんでこっちを更新です!
あと書きたいところまで速く到達したいってのもあるんで。
「やははは、ごめんごめん」
笑顔で、しかし申し訳なさそうに後頭部のあたりを掻きながら指南翔子は目の前の少年に謝る。
「…………」
これ以上ないほど不満を込めた表情で颯太は無言の応答をする。
「おい、颯太。アゴアゴ。しゃくれてる」
「あんだこのやろう!」
一夏の言葉に特徴的な喋り方で答える颯太。
「しゃぁこら!!元気があれば何でもできる!!」
「なんか颯太が怒りで壊れてる!」
「1!2!3!ダー!!!ありがとー!!!」
シャルロットの言葉にも答えず全力で右手を握りしめて突き上げる颯太。
「戻ってこい颯太!」
「落ち着いてよ!」
「やぁ~みぃ~てぃ~くぅ~りぃ~」
ガクガクと左右から一夏とシャルロットに揺さぶられた颯太は表情を戻してされるがままに不満を口にする。
「まあ、もういいっすよ。――それより流木野サキさんは!?」
「颯太がしゃくれてる間に撮影用の衣装に着替えに行ったよ」
「ガッデム!!」
シャルロットの言葉に頭を抱えて立ち上がる颯太。
「ま、まあまあ。もうすぐ着替えて戻ってくるから」
全力で悔しがる颯太を翔子は苦笑いでなだめる。
「流木野サキさん入られまーす!」
「あ、ほら」
「っ!」
翔子の言葉にスタジオ入り口に視線を向けた颯太の目に映ったのは
「よろしくお願いします」
一人の女性だった。
長い黒髪を腰まで伸ばし、抜群のスタイルをシャルロット同様ジャージで包んでいる。愛想よくスタッフに笑顔を向けるその顔は整っており、見るものを魅了する。
「お久しぶり、デュノアさん」
「お久しぶりです、流木野さん。今日はよろしくお願いします」
「ええ。……あれ?そっちの人たちは?」
「ああ。紹介します。こっちは織斑一夏。僕のクラスメイトで世界にふたりしかいない男性IS操縦者です」
「織斑一夏です。よろしくお願いします」
「ニュースとかで見たことありますね。初めまして、流木野サキです」
笑顔で握手を交わす一夏と流木野サキ。
「で、こっちが同じくクラスメイトで僕と同じ指南コーポレーション所属のIS操縦者の井口颯太。二人目の男性IS操縦者です」
「……どうも初めまして。井口です。いつもテレビで拝見しています。やはり生で見る方がおきれいですね」
「なんか颯太が変」
声のトーンをいつもより低くし(イケボのつもり)、ニヒル(のつもり)に笑みを浮かべる颯太。そんな颯太を見ながらジト目でシャルロットが呟く。
「初めまして、流木野サキです。翔子に聞いていた通りの人みたいね」
颯太と握手を交わしながらサキは笑みを浮かべる。
「聞いていた通り…とは?」
「自称平凡の変わり物でオタク。自己評価の低い根は真面目な優しい子。何か訂正することはある?」
「自称じゃなく本当に平凡ですよ」
「フフ、そう言うって翔子も予想してたわよ」
楽しそうに笑うサキ。
「じゃあこの情報も間違っているのかしら?あなたが私の大ファンだってこと」
サキはまるで悪戯を仕掛けた子供のような無邪気な笑みで首を傾げながら訊く。
その顔に逡巡した後、ニッと笑みを浮かべる颯太。
「あってます。俺はあなたの大ファンですよ。CDも全部特典版を揃えましたから。出演した映画もドラマも番組も全部チェックしてます。来月発売の新曲CDも予約開始と同時にすぐに予約しますよ」
「あら、それは嬉しいわね。じゃあ――」
笑みを浮かべながら隣に立つスーツ姿の男性、マネージャーから何かを受け取る。
「これを準備したのは無駄じゃなかったわけね」
そう言ってマネージャーから受け取ったものを颯太に差し出す。
「……これは?」
「来月発売の私の新曲CD、サイン入り」
「マジっすかっ!!?」
「あ、戻った」
バッと受け取ったCDを食い入るように見る颯太。確かにパッケージにはペンで書かれたらしいサインが書かれていた。
「ホントだ!えっ、これ貰っていいんですか!?」
「ええ。これからも応援よろしくね、井口颯太君」
「…………」
あんぐりと驚いた表情をして手の中のCDと目の前の流木野サキを見比べハッと何かに気付いたように表情を変える。
「そうか…!!こんな幸せあるわけねェ…。俺はきっと…今日死ぬんだ!!!」
「ネガティブーーー!!!どうした颯太!?テンションおかしいぞ!」
「そりゃおかしくもなるわ!直筆サイン入りの発売前のCDだぞ!どれだけ価値があると思ってんだ!」
「そうかもしれないけど!」
「うるせぇ!――流木野さん、ありがとうございます!!」
「いえいえ。そんなに喜んでもらえてありがたいわ」
嬉しそうに満面の笑みでCDを見つめながら満足げに何度も頷く颯太。
「えっと……よかったね」
「おう!えへへへへ~」
シャルロットの言葉に颯太は元気に返事をし、気持ち悪いくらいの笑みを浮かべる。
「そう言えばサキちゃんも来たしそろそろ撮影始まるんじゃないの?なんだか遅くないかしら?」
ふと、思い出したように翔子が呟く。
「そう言えばそうっすね」
一夏も頷き、周りを見渡す。心なしかスタッフが慌てているように見える。
「なあ颯太、どう思う?」
「んなことどうでもいいぜ~♪えへへへへ~」
「だめだこりゃ。――あ、すみません」
たまたま近くを通ったスタッフを一夏が呼び止める。
「あの、撮影っていつ頃始まるんですか?」
「それが……」
「その事については私から説明します」
言いずらそうに口籠るスタッフに代わり、別の中年の男性がやって来る。
「初めまして。今回のCM撮影の監督をするものです」
「ああ、はじめまして」
一夏とシャルロットが頭を下げ、いまだにニヤニヤと笑っている颯太はシャルロットが無理矢理頭を押さえつける。
「それで一体何が……?」
「実は…今回のCMに出る役者が遅れていまして。このままだと間に合いそうになくて。どうにか代役を探しているんですが……」
「もし代役が見つからなかったらどうなるんですか?」
「また別の日に取り直すしか……」
「それはまずいですよ!」
監督の言葉に一番早く反応したのは誰でもない、サキのマネージャーだった。
「前々からどうにか調整しましたが、当分サキのスケジュールに空きがないんです」
「つまり……今日撮影できないと当分ムリってことですね」
「まあ、そうなりますね」
犬塚の言葉にマネージャーが頷く。
「ああ、誰か出演してくれる人は……」
「先輩はダメなんですか?」
翔子は犬塚を指さしながら訊く。
「ん~……ダメではないですが、設定が学校の部活なのでこの方では少し大人すぎると言いますか……」
「ん~……つまり…男の人で、学生に見える見た目で、出演交渉もそれほど必要ない人……ってことですかね?」
シャルロットの言葉にみな一瞬の考え込むが、ふと一夏に視線が集まる。
「………ん?何か?」
「織斑君じゃダメですか?」
「ん~……彼もダメではないんですが…少し画面映えしすぎると思うんです。今回のCMのメインは流木野さんとデュノアさんなので……」
「あ~……」
「彼がもう少し平凡な顔であれば……」
「え?え?なんですか?」
「いや、なんでもないなんでもない」
疑問符の浮かぶ一夏に犬塚が答える。
「えっと……ということは、男で、学生に見える見た目で、出演交渉がそれほど必要ない人で、あまりイケメン過ぎない平凡な顔の人……」
サキの言葉に今度は全員の視線が颯太に向く。
「えへへへへ~」
『いたぁ!!』
「うおっ!なんすか!?」
いまだCDを見つめてにやにやと笑っていた颯太は全員が揃えて叫んだことで現実に引き戻される。
「君だ!君だよ!」
「はい!?」
監督に手を握られブンブンと振り回される颯太。
「君しかいない!今日遅れている役者の代わりにCMに出てくれ!」
「……ええ!!?俺が!?」
手を振り回されながら驚愕の表情を浮かべる颯太。
「そうよ!颯太君しかいない!君の平凡な顔がぴったりなの!」
「颯太の顔だからいいんだよ!」
「お前しかいないんだ!」
「……何だろう…褒められている気がしない」
翔子、シャルロット、犬塚の言葉に首を傾げながら颯太が呟く。
「ねえお願いだよ、颯太」
「でもなぁ……俺にそんな大役が……」
シャルロットが頼むが難色を示す颯太。
そんな中、サキが前に出て、監督と入れ替わるように颯太の手を握る。
「お願い、君しかいないの」
「全力でやらせていただきます!」
はい、というわけでCM出演です。
次回はそれほど期間をあけずに投稿するのでよろしくお願いします。