IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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新章突入だと思った方、ごめんなさい!
番外編です!


お気に入り件数2000&ランキング5位記念番外編 「ナースのお仕事」

 

「――へっくしっ!」

 

 ムズムズっときたと思った直後、大きな声とともにくしゃみが響く。

 

「だ、大丈夫か、颯太!?」

 

 チーンと鼻をかむ俺に一夏が心配そうに訊く。

 ここは俺と一夏の部屋。

 俺と一夏の他には今は誰もおらず俺たちは出されていた課題を片付けていた。

 今はと言ったのはこの後他に課題の手伝いをしてくれる人がいて、その人たちがもうそろそろ来るからだ。

 

 コンコン。

 

 と、考えていたらどうやら来たようだ。

 

「どうぞ~」

 

「お邪魔するわよ」

 

「お邪魔します」

 

「…お邪魔します」

 

 師匠、シャルロット、簪がやって来る。俺の知る限りこれ以上ない先生たちだ。

 

「いらっしゃい。すいませんね、わざわ――へっくしっ!」

 

「うわっ!大きなくしゃみ」

 

 俺のくしゃみにシャルロットが言う。

 

「そうなんだよ。さっきも大きなくしゃみして、声も鼻声だし」

 

 一夏の言葉に三人が心配そうな顔で俺を見る。

 

「え……大丈夫なの、颯太?」

 

「あ~……多分?」

 

「たぶん?」

 

 シャルロットが首を傾げる。

 

「ねぇ…大丈夫?なんだか…顔赤いよ?」

 

「そうね。もしかして風邪気味なんじゃない?」

 

 簪と師匠も訊いてくる。

 

「大丈夫っすよ」

 

「ホントかな~」

 

 疑わしそうにシャルロットがジッと俺を見ながら

 

「何か飲む?取ってあげるよ。あ、颯太はドクターペッパーか」

 

 体調のあまりよくない俺を気遣ってか、一番冷蔵庫に近かったシャルロットが冷蔵庫を開けながら訊く。

 

「ん~……今は炭酸って気分じゃないな。お茶とかにして」

 

『っ!?』

 

 俺の返事に四人が揃って驚愕の表情をする。

 

「え?何?」

 

「颯太が……」

 

「ドクペを断った!?」

 

「え、そんな驚くこと?」

 

 簪と一夏の言葉に突っ込む。

 

「俺だってそういう気分の時くらいあるって」

 

 シャルロットがとってくれたお茶のペットボトルに口を付けながら俺は不満を顔に出す。

 

「まあそりゃそうか」

 

 一応は納得したらしい一夏が頷く。

 

「あ、じゃあ…ちょっと息抜きにアニメ見る……?今人気のアニメ映画のDVD、買ったから……」

 

「アニメか~……今はいいかな~」

 

『っ!!?』

 

 俺の返事にまたもや四人が驚愕の表情を浮かべる。

 

「え?」

 

「颯太が……」

 

「アニメを見ないだって!?」

 

「こんなの絶対おかしいよ!」

 

「え~……そんなに言うほど?――てか最後の師匠のモノマネはあんまり似てませんね。なんとなく師匠はほむらちゃんの方が似てると思いますよ」

 

「そんなことはどうでもいいのよ!」

 

 俺の批評をそんな事と一蹴して師匠が俺に詰め寄る。

 

「ねえホントに大丈夫なの?」

 

「いや、なんか体がだる~い感じはするけど平気っす。平気平気!ただちょ~っと喉が痛くて熱っぽくて頭痛くて鼻水が止まんなくて咳が出てなんか関節とかいたいけど……全然平気っす!」

 

「それ平気じゃないよね?」

 

 ジト目で師匠が言う。

 

「これはもう今日は休んだ方がいいんじゃない?課題もまだ期限があるんでしょ?」

 

「ん~……そうしましょうかね――へっくしょいっ!うー、さむっ!なんか寒気が……」

 

 ここ一番のでかいくしゃみをした後背筋にぶるりと寒気が走る。心なしか頭もぼーっとする気がする。

 

「ほら!もう寝ちゃいなさい。眠れないようなら私が添い寝してあげるから」

 

「あー、じゃあもし眠れそうになかったらお願いします」

 

『っ!!!?』

 

 俺が寝るためにゆっくりと立ち上がった時、またもや四人が驚愕の表情を浮かべる。

 

「颯太君がツッコミを入れない!?」

 

「むしろお願いしてきた!?」

 

「これ本格的にマズくないか?」

 

「ちゃんと…見てもらった方がいいんじゃ……」

 

「そうだな!俺ちょっと千冬姉に相談してくる!」

 

 そう言って俺が停める間もなく一夏は走り去って行った。

 

「え?そんな大げさな――」

 

「はーい、颯太は黙って寝る!」

 

「え?ちょっと?」

 

「着替え…はジャージだから必要なさそうね――チッ」

 

「え?師匠いま舌打ちしました?」

 

「ほら…大人しくする……」

 

「え?え?え?」

 

 有無を言わせぬ勢いでベッドに押し込められた俺はただただ大人しくしていることしかできなかった。

 

 

 ○

 

 

 ガチャリと扉が開き、千冬と保健医の西野が颯太と一夏の部屋から出てくる。部屋の前に出されていた一夏、楯無、簪、シャルロットがふたりに近寄る。

 

「千冬姉!西野先生!どうでしたっ?」

 

「織斑先生だ。――思った通りだったよ」

 

「と言うことは…風邪ですか……?」

 

「いや、もっと悪いな」

 

 簪の問いに千冬は首を振りながら答える。

 

「彼、インフルエンザよ」

 

『インフルエンザ!?』

 

 西野の答えに四人は驚愕の声をあげる。

 

「あまり熱も出なかったし油断してたんでしょうね。A型のインフルエンザだわ。検査したらすぐに出たわ。これからどんどん熱もあがって行くでしょうね」

 

「そんなわけで井口はこれから最低でも五日間は出席停止での療養だな」

 

「まあ熱さえ下がれば後はすぐなんだけどね」

 

『…………』

 

 教師二人の言葉を受け、楯無、簪、シャルロットは少し考え込んだ後、代表して楯無が口を開く。

 

「先生。お願いがあるんですが」

 

 

 

 ○

 

 

 

「あぁ~……気持ちワリィ~……」

 

 ベッドに横になりながら颯太はぼんやりとした思考の中、声を漏らす。

 

「あ、すげぇ!天井が回る!アハハハ、目が変!――えっきしっ!」

 

 思考が混濁しているせいかいつもよりテンションがおかしなことになっている颯太。

 

「あーダメだ。なんかいろいろダメだ。……頭いてぇ~、寒い~」

 

 鼻がつまっているせいでいつも違う違和感しかない声でしゃべりながら枕元のペットボトルに手を伸ばす。が、熱で朦朧とする中ではうまくいくはずもなく――

 

「あっ」

 

 ポテンと倒れたペットボトルはそのまま転がり落ちる。フタは閉まったままになっているので床が濡れることはない。

 とるために起きあがろうとベッドに上体を起こした颯太は視界がぐるぐると回る異様な感覚に逆らうことができず、ベッドに逆戻り。

 

「あーダメだ。後でとろう」

 

 ペットボトルをとることを諦め、ベッドに寝直す。

 そのまま一眠りしてしまおうかと目を瞑ったところでガチャリという扉の開く音が聞こえてきた。

 誰か来たのだろうか、と思ったが織斑先生とか西野先生あたりだろうと結論付けさっさと眠ろうと瞼を閉じ直す颯太。

 

『…………』

 

 室内に自分以外の数人の気配を感じる気がする。と――

 

「ん?」

 

 熱でぼんやりする思考の中、おでこにひんやりとした感覚が広がる。

 そっと瞼を開くと

 

「あ…ごめん、起こしちゃった……?」

 

「……簪………?」

 

 颯太の視界に簪が映る。

 

「すこしでも楽になるようにって……冷えピタはったんだけど……」

 

「あ、ああ……ありがとう……」

 

「あ、颯太」

 

 と、今度は別の人物、シャルロットがベッドの脇から姿を現す。

 

「これ落ちてたけど飲もうとして落としたの?」

 

 と、先ほど颯太の落としたペットボトルを見せる。

 

「ああ」

 

「飲む?」

 

「あ、うん」

 

 頷いた颯太は飲むために上体を起こそうとするが、高熱で朦朧とするためかうまく起きあがれない。

 

「大丈夫、颯太君?支えてあげるわ」

 

 と、今度は颯太の背中に手を回し、抱き起してくれた人物がいた。楯無である。

 

「師匠まで」

 

「ん~…やっぱり熱、高いみたいね。体すごく熱いわよ」

 

「はい、颯太」

 

 と、シャルロットの渡してくれたペットボトルを受け取る。気を利かせてキャップは外してあった。

 それをゆっくりと飲む。熱を持っていた喉を通って水分が体内へと流れ込む。心地良い感覚を目を閉じて感じながらゆっくりと息を吐く。

 

「ふぅ……」

 

「大丈夫?何か水分の他に欲しいものある?」

 

「いや、今はいいよ。ありがとう」

 

 シャルロットの問いに答える。

 

「で――」

 

 そこで颯太は一区切り置き、先ほどから疑問に思っていたことを口にする。

 

「なんで三人がここに?」

 

「そんなの決まってるじゃない」

 

「颯太の看病だよ」

 

「俺の…看病……?」

 

「そう。インフルエンザのせいで…いろいろ不便かと思って……」

 

「でも、そんなことしたら三人にインフルがうつっちゃうんじゃ……」

 

「大丈夫。三人とも予防接種は受けてるから」

 

 心配そうに訊く颯太の問いに楯無が答える。

 

「でも、やっぱり迷惑かけてるんじゃ……」

 

「そんなこと…ないよ……」

 

「そうそう。困ったときはお互い様だよ」

 

 簪とシャルロットも笑顔で答える。

 

「………なんかすいません。それとありがとうございます」

 

「うんうん。私たちに任せなさい」

 

 颯太のお礼に三人は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 

「あ、じゃあもう一個聞いていいっすか?」

 

「ん?何かしら?」

 

「なんで三人ともナース服なんですか?」

 

 と、目の前の三人に訊く颯太。

 三人の服装は真っ白なナース服に頭にもしっかりと帽子がかぶられている。しかもそのスカートは短めで膝頭よりも上だ。三人ともその短いスカートから細く美しい足がすらりと伸びている。

 

「何言ってるの?颯太君を看病するんだからこの格好が正解でしょ?」

 

「……そう…なんですかね?」

 

「そうよ。ねぇ?」

 

「うん。そうだよ」

 

「これで…あってる」

 

 同意を求めるように楯無が訊くとシャルロットと簪も首を縦に振りながら答える。

 

「じゃあ……そう…なんですかね?」

 

 なんだか腑に落ちないものの頭がぼんやりしてうまく思考がまとまらない颯太。

 

「そうなのよ。……あ、そうだ。体起こしてるついでに汗かいた服を着替えて汗も拭いてしまいましょ」

 

「あ、はい」

 

「あ、颯太はそのままでいいよ。僕たちが拭いてあげるよ」

 

「え?いいのか……?」

 

「任せて…」

 

 颯太の問いに簪が答え、楯無とシャルロットも頷く。

 

「ほら、タオルもお湯も準備できてるから」

 

「それじゃあ服脱がせちゃうわね」

 

「私は…着替えを用意しておくから……」

 

 と、てきぱきと進めていく三人に颯太も断るのも悪い気がして、さらに体がだるいこともありすべてされるがままに任せることにする。

 

「は~い、ばんざーい」

 

 楯無に言われるままに両手を上にあげスポンと服を引き抜かれる。

 

「そう言えば前から思ってたけど颯太って思ったよりもしっかり筋肉ついてるよね」

 

「まあ師匠にISだけじゃなくて基礎体力でも鍛えてもらってるからな」

 

「うんうん。それぞれ動くために必要なところに必要なだけついてる。ちゃんと言ったメニューはこなしてるみたいね」

 

 と、満足げに颯太の体をペチペチと撫でる楯無。その手つきが徐々に撫でまわすようなものに変わる。

 

「ん~………堅いねぇ♡」

 

「すごい、やっぱり男の子だよね」

 

「かっこいい……」

 

 シャルロットと簪も楽しそうに撫でる。

 

「あの…体拭いてくれるんじゃなかったんすか?」

 

『え!?』

 

 颯太の問いに三人はハッと我に返ったように反応する。

 

「これは……あれよ。触診よ!」

 

「そうそう、触診触診!」

 

「必要なこと……!」

 

「触診………じゃあ…必要っすかね……?」

 

『そうそう』

 

 ぼんやりと呟く颯太に三人が頷く。

 

「それじゃあそろそろ汗ふいちゃいましょうか。いつまでも上半身裸はあんまりよくないでしょうし」

 

 楯無の言葉に三人は分担し颯太の体を拭く。楯無は背中を、シャルロットはお腹や胸を、簪は腕や顔を。

 拭き終わった後、新しいシャツに着替える颯太。

 

「そうだ。枕も変えてあげるね」

 

 と、シャルロットが言う。

 

「ああ…うん。任せる」

 

「うん。じゃあゆっくり体寝かせるね」

 

 と、シャルロットの言葉とともに颯太の体は支えられながらゆっくりとベッドに寝かせられる。と――

 

「ん?」

 

 てっきり氷嚢か何かに変えてもらえるのかと思っていた颯太は予想とは違う感触に疑問符が浮かぶ。

 氷嚢のような冷たさはなく、むしろ心地良い不思議なぬくもりがあり、心地良い柔らかさとすべすべとした感触だった。

 

「なあシャルロット、この枕――」

 

「ん?どうかしたの、颯太?」

 

 いったいどんな枕に変えてくれたのかとシャルロットに訊こうと瞼を開くとそこにはなぜか逆さまのシャルロットの顔があった。

 

「………あ、膝枕か…」

 

「うん。あ、寝ずらいかな?」

 

「いや……ちょうどいい高さだし……なんか落ち着く……」

 

 そう言いながら颯太は寝返りを打つ。

 

「うん。そのまま寝ちゃってもいいからね」

 

「ああ………」

 

 そのまま瞼を閉じた颯太の頭を優しく撫でるシャルロット。

 

「ちょっとシャルロットちゃん、一人だけズルいんじゃない!?」

 

 と、その光景に楯無が文句を言う。

 

「ズルいって何ですか?僕は颯太が少しでも寝やすいようにと思って……」

 

「え~…?ホントに~?実は自分がただしたかっただけなんじゃないの~?」

 

「ギクッ」

 

 疑わしげな楯無といたいところを突かれたといった表情のシャルロットを尻目にこっそりと動く簪。

 

「こう言うときはやっぱり膝枕するより氷嚢とかを用意してあげる方がいいでしょ。そして、簪ちゃんはそーっと添い寝の体勢に入るのをやめなさい!」

 

「あ!簪、それこそ抜け駆けだよ!」

 

「いえ、私はけしてそのようなつもりではなくこれは寒気がする颯太を私が添い寝をすることでひと肌で温めるという医療行為であり私自身の下心が介入していることはなくあくまで颯太の回復に少しでも助けになればという思いからの行動でありそこには道徳的な見地と責任感としての私の思考がもたらした結果でありつまり――」

 

「長い!簪ちゃん長い上に理屈っぽいわ!」

 

 簪の言葉を遮り楯無が突っ込む。

 

「いいわ!だったら私だって颯太君に添い寝しちゃうんだから!」

 

 そう言いながら楯無も簪とは反対側から颯太の眠る布団にもぐりこむ。

 

「わ、私も…!」

 

「あ、ふたりともズルいよ!僕だって!」

 

「シャルロットちゃんはダメよ。シャルロットちゃんが動いたら颯太君の枕がなくなっちゃうわよ」

 

「シャルロットはそのままで」

 

「しまった!」

 

「そもそも颯太君の両脇は私たちが押さえてるからあなたの入る余地はないわ!」

 

「シャルロットはそのまま一人蚊帳の外で……」

 

「くぅ~……こうなったら僕は颯太の寝顔を写メに撮っちゃいます!」

 

「あ、ずるいわよ!私たちにも送りなさい!」

 

「財産の共有を要求!」

 

「ダメです~!これは僕のためだけにベストショットして僕だけで楽しんじゃいます~!」

 

「くっ、なんて卑劣な」

 

「悪逆非道!」

 

 と、三人で騒いでいると

 

「ほほう?なんだか楽しそうだな」

 

 ゾクリ、と三人の背筋に悪寒が走る。

 声の方に恐る恐る視線を向けると

 

「お前たち……いったい何をしている?」

 

 胸の前で腕を組み、仁王立ちする千冬の姿がそこにはあった。

 

「い、いや……」

 

「これはその……」

 

「なんと言いますか……」

 

「井口の看病をする許可は出したが、病人の周りで騒がしくする許可は出していなかったはずだが?」

 

「「「ひぃぃぃぃ!!」」」

 

 千冬の絶対零度の睨みに三人は悲鳴を上げる。

 

「とりあえずお前ら、わかっているだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、織斑千冬の教育(と言う名の拷問)の後詳しい検査の結果、楯無、シャルロット、簪の三名もインフルエンザを発症していたことが分かった。しかもこれは颯太のかかっていたA型ではなく、B型のインフルエンザであった。

 結果颯太の看病をすることができず、むしろ自分が看病されることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに余談だが、三人からの看病が受けられなくなった颯太を最後まで看病したのは一夏であった。

 回復後、一夏の看病スキルやおかゆの味をべた褒めする颯太の言葉を聞いた楯無、簪、シャルロットの三名は、一番のライバルは織斑一夏なのでは?という考え至ったのだが――それはまた別のお話。

 




と言うわけで改めましてお気に入り件数2000(もはや2100)件&ランキング5位&一周年だぜ!!

ここまでやって来たのもひとえに読んでくれている方のおかげです。
これまで応援ありがとうございました。
そしてこれからも応援よろしくお願いします!

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