IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第60話 宿

『ごちそうさまでした』

 

 七人が声を揃えて言い、夕食後のお茶をすする。

 

「……で?」

 

「で?とは?」

 

 ふぅと息を吐き出して訊いた俺の言葉に師匠が首を傾げる。

 

「だから、もう夕食も食べ終わって、いい時間じゃないですか。そろそろ今日の宿にチェックインしないとまずいんじゃないですか?」

 

 師匠も簪もシャルロットも我が家に来てから一歩も外に出ていない。このままだと野宿になってしまうのではないだろうか。そう心配する俺をよそに、三人はきょとんとした顔をする。

 

「え?僕たち、今日はここに泊まるんだよ?」

 

「…………はい?」

 

 シャルロットの言葉に俺は一瞬意味が分からず首を傾げる。

 

「いやいやいや!ちょっと待って!は?うち?俺初耳なんだけど!?ねえ?母さんたちも初耳だよね?」

 

「私たちは前もって聞いてたわよ。ね?」

 

「「うん」」

 

「俺だけかちきしょう!」

 

 またたちの悪いドッキリか。

 

「で、でも!三人の部屋は?客間はあっても三人寝るにはちょっと狭くない?」

 

 俺はなんとか三人がうちに泊まることを避けるべく何とか問題点を上げていく作戦に出た。

 

「それは確かにね」

 

「でしょ?」

 

「しかし!その辺は織り込み済み。ちゃんと考えてあるぞ」

 

 俺の言葉に父さんが口を開く。

 

「お前と海斗の部屋がうちで一番広いだろ?机を少し横に避ければ五人分くらい余裕で布団しけるだろ」

 

「でも、俺らの部屋ってぶっちゃけ足の踏み場もない感じに汚いじゃん?あれじゃ寝れないでしょ」

 

「安心して、兄さん」

 

 今度は海斗が口を開く。

 

「兄さんがIS学園に行ってから僕が片付けたから。部屋の片付かない主な原因は兄さんだったのかもね」

 

「いや、部屋の片付かなかった主な理由はお前の友達が来ておもちゃをちゃんと片付けなかったせいだろ!?」

 

「まあ今は片付いているんだからいいじゃん」

 

「くっ!ドンドン外堀が埋められていく!」

 

 俺は頭を抱える。

 

「…………ん!?ちょっと待って!」

 

 俺はふと先ほどの父さんの言葉に引っ掛かりを感じる。

 

「父さんさっき五人とおっしゃいました?」

 

「うん、五人だろ?」

 

「……えっと、一応確認するよ。1…2…3――」

 

 俺がカウントとともに指さすと師匠、簪、シャルロットが軽く手を上げながら頷き

 

「――4…5」

 

 俺のカウントを引き継ぐように海斗が自分と俺を指さす。

 

「ほら、ちゃんと五人」

 

「やっぱり俺らはいってんのね」

 

 海斗の返答に俺は愕然とする。

 

「なあ父さん、母さん。高校生の男女が同じ部屋で寝るっておかしいとは思わないの?」

 

「でも…颯太は私ともシャルロットとも同室だったよね……?」

 

「ですよね~!」

 

「じゃあ問題ないな」

 

 簪の言葉に父さんがうんうん頷く。

 

「えっと…えっと…」

 

 まだ何か打開策があるんじゃないかと頭を抱える俺。

 

「……ねえ、やっぱり迷惑だったかな」

 

 俺が考え込んでいるのを見てシャルロットが悲しそうな表情になる。

 

「そうだよね……いきなり押しかけて…泊まろうだなんて迷惑だよね……」

 

 その顔はいうなれば泣きそうだけど決して涙は見せず気丈にも笑みを浮かべている、とでも表現すればお分かりいただけるだろうか。

 

「でも、もうこんな時間だから…今から今日の宿を探そうにも……もういっぱいかも……下手すると…野宿……」

 

「仕方ないわよ。このまま宿が見つからなくて野宿して、たちの悪い変質者に私たちがレイプされても……全部颯太君のせいよ」

 

「その言い方どうなんですかね!?」

 

「「「はぁぁぁ……」」」

 

 ため息とともに三人が身を寄せ合うように集まる。

 

「悪質だなぁ!!」

 

 俺の言葉にも三人は反応せず、むしろさらに身を寄せ合う。

 師匠は泣いているのを隠すように俯く二人の頭を撫で、シャルロットは手で顔を覆いながら肩を震わせ、簪はシャルロットの服の裾を掴んだ手を小刻みに震わせる。

 

「あぁ、細かい芝居が腹立つ」

 

 数秒間ほどその光景を眺めた後、俺は盛大にため息をつき口を開く。

 

「わかったよ……うちに泊まっていいですよ」

 

「「「っ!」」」

 

「『えっ!?』って顔やめてよ」

 

「ありがとう、颯太君!」

 

「颯太ならそう言ってくれるって信じてたよ!」

 

「颯太は優しい…」

 

 三人の反応にため息をつきながら俺はふと父さんたちがさっきから話に関わって来ないと思い、そちらに視線を向けると

 

「………ん?あ、終わった?」

 

「他人事か!?」

 

 マンガを読んでいた海斗が顔を上げる。

 母さんは夕食の食器を洗っているし、父さんに至ってはリビングから姿を消していた。

 

「あれ?父さんは?」

 

「ああ、布団用意するって二階に行ったよ」

 

「……どの辺から?」

 

「ん~、兄さんが簪姉ちゃんとシャルロット姉ちゃんと同室だったって話のあたり?」

 

「…………」

 

 結論が出る前からとは。

 てかもうこれって俺がどれだけ主張してもダメだったんじゃん。

 




さてとうとう本編だけで言えば60話まで来ましたね。
とりあえずこっちばかり更新してもいられないので無い物とかの方も次回は更新ですかね。

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