IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第65話 事件

 

「おい、父さん!どういうことだよ!敦さんに何かあったの!?」

 

 要領を得ない海斗の説明を早々に見切り、一階にいる父さんに叫びながら駆け寄る。

 

「おお、颯太。まずいことになったぞ。敦君が…警察に捕まった……」

 

「……はぁ!?な、なんで!?いったい何があったって言うんだよ!?」

 

「ちょっと颯太」

 

「落ち着いて……」

 

「そうよ、まだ何が起きたかわかってるわけじゃ……」

 

「いや、わかってるよ」

 

「「「「わかってるんかい!」」」」

 

 父さんの言葉に四人で声を揃えて突っ込む。

 

「えっと……一体何が……」

 

「うん……それが………」

 

 シャルロットの問いに言いずらそうに口籠る父さん。

 

「教えてくれよ父さん!敦さんは何の罪状で捕まったって言うんだよ!?」

 

「…………ち…ん」

 

「「「「え?」」」」

 

「えっと…だから……痴漢……」

 

「………はぁ!?」

 

 父さんの口から飛び出した言葉に一瞬思考が止まりながらもその意味を理解し、思わず声が漏れる。

 

「だから…痴漢。バスの中で女子高生のお尻触って捕まったんだと」

 

「おし…り……?」

 

「「「最低……」」」

 

 女性陣三人がまるでゴミを見るような目で言う。

 

「……違う」

 

『え?』

 

「これ……おかしいよ。敦さんがそんな事するわけないよ。ありえない!」

 

 その場の全員が俺の言葉に何と言っていいかわからないという顔で俯く中、父さんがため息まじりに口を開く。

 

「問題は痴漢の部分じゃない。……いや、痴漢も十分大問題なんだが……一番問題なのは捕まったのが敦君だということだ」

 

『………ん?』

 

 父さんの言葉に俺たちはそろって首を傾げる。

 

「今この町で土地開発の話が持ち上がってるの、聞いてるか?」

 

「今朝敦さんから聞いたけど……」

 

「その事で地元民の俺たちと建設元の会社で揉めてるんだが、その反対運動の責任者が敦君なんだよ」

 

「え……それって……」

 

「じゃあ…今回の事って……」

 

「相当まずいんじゃ……」

 

「ああ。かな~りまずい」

 

 父さんが頷きながらため息をつく。

 

「責任者がこんなスキャンダルなんて……」

 

 師匠が難しい顔をして呟く。

 

「……え?じゃあこのままだともしかして……」

 

「土地開発が決行されるかも…ってこと?」

 

「下手すると…な……」

 

 父さんが頷く。

 

「これ…タイミング良すぎない?」

 

 海斗がふとつぶやくように言う。

 

「ああ。タイミングが良すぎる。会議のその日に責任者が不祥事なんて、絶対おかしい」

 

「おいおい、どうすんだよ!」

 

「これ相当まずいじゃん!」

 

「だから言ってるだろ!まずいって!」

 

 井口家の面々が慌てている中……

 

「なんだ…何の騒ぎだ?」

 

 のっそりとリビングに一人の老人が現れた。

 

「え?えっと……あなたは……?」

 

 突然の人物の登場に師匠たちが首を傾げる。

 

「ん?ワシか?ワシは――」

 

「じ、じいちゃん!」

 

「「「じいちゃん!?」」」

 

 俺の言葉に驚愕の顔をする三人。

 のっそりと現れたその老人、井口敏郎こと俺の祖父。生え際の後退した頭に小柄ながらも年齢を感じさせないしゃきっとした背中と力強い声と眼光。しかしながら笑みを浮かべたその顔はとても優し気な柔和な顔をしている。

 

「颯太の祖父の敏郎です。君らは……」

 

「「「嫁です」」」

 

「違います」

 

 三人の言葉にため息まじりに言う。

 

「先輩の楯無さん、楯無さんの妹で友達の簪、同僚のシャルロットだよ」

 

「そうか」

 

 俺の言葉に頷くじいちゃん。

 

「てか、じいちゃんどうして……」

 

「私が迎えに行ってきた」

 

「おかえり、颯太」

 

 そう言いながら現れたのは母さんと白髪の老人、井口花代こと俺の祖母であった。

 

「えっと……ただいま、と、おかえり」

 

 じいちゃんばあちゃんに言いながら俺は視線をじいちゃんに戻す。

 

「それよりじいちゃん、大変なことになってるんだよ。実は――」

 

 俺たちは今帰って来たばかりの三人に事情を説明する。

 

「ど、どうしよう、じいちゃん!?」

 

「まあ落ち着け」

 

 混乱する俺たちにじいちゃんが優しく諭す。

 

「今の現状はまずいが、ワシも前から敦君のことはよく知っている。やはり今回のことは腑に落ちない。きっと何かあるはずだ」

 

 冷静にじいちゃんが諭すように言う。

 

「まずは事実確認だ。なんとかして事情を把握しないと」

 

「かと言って事情を知ろうにも今敦さんは警察にいるし、無関係な俺らが行っても会わせてもらえるとは思えないし……」

 

「うちの力を使えば……」

 

「いや、それはまずいかも」

 

 簪の言葉に俺は首を振る。

 

「何が起きてるかわからない今、下手に動くとどうなるか。仮にこれが誰かの陰謀で敦さんが嵌められたんだとしたら……」

 

「それは確かに言えてるわね」

 

 俺の言葉に師匠も同意するように頷く。

 

「事情が分からない以上更識の力を使うのは得策とは言えないわ」

 

「同じ理由で指南にも今は頼るべきじゃないな」

 

「じゃあどうすれば……」

 

「せめて何か警察へのコネがあれば……」

 

「そんな都合よく――ん?警察?」

 

 海斗の言葉に俺はふと一人の人物の顔が脳裏によぎる。

 

「………いる。一人知り合いにツテが」

 

「え?兄さんいるの?警察の知り合いが?」

 

「警察のって言うか、俺の友達の父親が警官だったはずだ」

 

「じゃあその人に頼めば……」

 

「もしかしたらいけるかも」

 

 頷く俺にみな希望を見出したように笑っている。

 

「とりあえず今から連絡してみる。できるだけ急いでアポ取らないと」

 

 俺は携帯を取り出し登録された番号を選ぶ。

 

「――あ、もしもし。久しぶり。今いいか、潮?」

 

 

 

 ○

 

 

 翌日。中学校近くの図書館、そのロビーに俺は師匠、簪、シャルロットとともに来ていた。

 

「ここで待ち合わせ?」

 

「はい。なんか直前まで学校に用があるらしくて、待ってる間暑いんでここなら冷房効いてますし」

 

「なるほどね」

 

 俺の言葉に三人が納得したように頷く。

 

「まあ潮は受験生ですし、ここはよく利用してるみたいですし。それもあるんでしょうね」

 

「しかし、まさか昨日卓也君たちの話題に出た潮君がカギになるとはね」

 

「ホントは邪魔しないようにメールだけにとどめるつもりだったんだけど、事情が事情なんでね」

 

「それは……しょうがないよ。潮君も分かってくれてるよ……」

 

「そうかな……」

 

「潮君も慕ってた先輩の頼みなんだから喜んで手伝ってくれるよ」

 

「うん……。――ところで、さっきから気になってたんですけど……」

 

「「「うん?」」」

 

 俺の言葉に三人が首を傾げる。

 

「………〝君〟って?」

 

「「「…………ん?」」」

 

 俺の言葉に三人がさらによくわからないといった顔で首を傾げる。

 

「いや、だから…さっきから三人とも〝潮君〟って……」

 

「うん、言ってるけど……」

 

「男の子なんだから〝君〟でしょ?」

 

「何か変?」

 

 俺の言っている意味が分からないという表情で三人が首を傾げる中、俺もよくわからないまま首を傾げる。

 

「何言ってんですか?潮は――」

 

「すみません!遅くなりました!」

 

 俺の言葉を遮って現れたのは

 

「おう。久しぶり、潮。悪いな、わざわざ来てもらって」

 

「いえ、お世話になった先輩の頼みですから……むしろ頼っていただけて嬉しいです……」

 

「そう言ってもらえるとありがたいよ。あ、そうだ、潮。紹介するよ。こちら俺の先輩の更識楯無さんとその妹でオタ友の簪、クラスメイトで同僚のシャルロット・デュノア。で、先輩、簪、シャルロット。こいつが俺の後輩の――」

 

「う、潮陽菜です……よろしくお願いします……」

 

 少しオドオドしながらお辞儀し、顔を上げる。

走ってきたせいで乱れたらしい背中にかかるほどの長い黒髪とセーラー服を整えながら、人見知りのせいかぎこちない笑みを浮かべる少女、潮陽菜。

 そんな潮に三人は――

 

「「「お、女の子!?」」」

 

 驚愕とともに声を揃えて叫んだのだった。

 いや、ロビーとはいえ図書館では静かにしようよ、みんな。

 




はい、と言うわけで噂の潮が登場したわけですが……
次回の颯太、大丈夫かな……(;^ω^)
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