颯太「そうだな。一か月ぶりだな」
ソ、ソウダネ
颯太「何か言うことは?」
本当に申し訳ありませんでした!!
「さて――」
潮の親父さんから捜査資料をこっそり見せてもらった俺たちは警察署近くの喫茶店にて作戦会議を開いていた。
「今回の事件の詳細は資料で見た通り」
八月某日――と言うか昨日、市内を走行する市営バス内で起きた痴漢騒ぎ。
バスに乗っていた敦さんが同乗していた女子高生によって痴漢被害を訴えられた。
「基本的な大筋は昨日聞いていた通りだったな」
「あの…私は詳しく知らないんですが……」
潮がまるで学校での質問の様に恐る恐る挙手しながら訊く。
潮はこの件には直接の関わりはないが最後まで手伝いたいと言ってきかないので協力し貰うことになった。
そんな潮に昨日のことも含め詳しく説明する。
「それで、被害者(仮)の女子高生って」
「資料にあったよ。近くの女子校の二年生だそうだよ」
「名前はわかったけど、残念ながら顔は――」
「その点は安心しろ」
「「「「え?」」」」
残念そうな四人に俺は自身の携帯を見せる。
「一か八か名前で検索かけたら結構簡単に出てきた。SNS社会サマサマだな。まあ少しうすら寒くなるけど」
言いながら俺もスマホの画面に視線を向ける。
木島亮子、それが被害者(仮)の名前だ。髪の色は金髪、と言ってもシャルロットやセシリアのような天然ではなくおそらく染めたものだろう。少し濃いめのメイクに勝気そうな笑みを浮かべ、通っているらしい女子校のブレザーの制服に身を包んでいる。
「とりあえず資料で読んだ限りだと市役所に向かうバスがこの人の学校の前のバス停も経由するらしく乗り合わせていたようね」
「この町の人間はその市営バスをよく利用するからそこそこ混んでいて二人とも立って乗車していて隣に立っていたらしいですね」
師匠の言葉に頷きながら俺が捕捉する。
「で、そのバスの中で突然木島氏が騒ぎ出したと。混んでいたせいで当事者たちしかわからないってことで時代のせいか、被害者ってことで木島氏の主張が通ったってわけか」
俺はため息まじりに呟く。
「警察の資料で俺たちが見れる範囲ではこれ以上のことはわからなかったな。せめて敦さんに会えればいいんだがそれも難しそうだし」
みな俺の言葉に考え込む。
「でも、やっぱりどうも気になるんだよな」
「気になる?」
俺の言葉に簪が訊く。
「敦さんがそんな痴漢とするとは思えない。てことはこの木島って人がウソをついたことになる。じゃあ木島さんがウソをついたなら、そんなウソをついて何の得があるのか」
「確かにね」
シャルロットが賛同する。
「木島さんと松本さんの間に接点があるとも思えないしね。てことは何か意図があったのか……」
師匠が呟くように言う。
「………正直、マンガやラノベの読みすぎって言われるかもしれないんだけど」
俺はふと昨日の夜から考えていたことを口にする。
「何?言ってみて」
「今回敦さんが痴漢騒ぎで捕まって一番得したのって誰だと思う?」
「誰って…それは……」
「土地開発を計画してる会社」
「正解」
簪の言葉に頷く。
「事件があったのは土地開発を計画している会社との討論会の当日。敦さんは反対派の地元住民の責任者。昨日うちの父さんも言っていたけど敦さんが捕まったことで反対派は一気に不利になった。これって偶然?」
「でも、ただの会社がそこまで――」
「昨日父さんたちの話聞いて気になって調べてみたんだ。リゾートホテル建設を計画してる団体、女性権利団体の子会社だった」
「「「「え?」」」」
女性権利団体。
ISの登場以前から組織され、ISの登場とともにその勢力を格段に広げていった団体。女尊男卑の思想に染まりきった人の集まり。さらにはあまりいい噂を聞かない団体。
なお、ウソかホントか現在俺もその団体に目を付けられているとか…いないとか。
「どこぞのマンガで見るような設定だけど、もし仮に木島さんが誰かに指示されて痴漢騒ぎ起こして、そのことで一番得をした会社があまりいい噂を聞かない組織の子会社。土地開発が上手くいけば女性権利団体には膨大な利益になることが見込まれている」
「でも、それはあくまで先輩の……」
「ああ、潮の言う通りだ。俺もそう思ってた…昨日までは」
「昨日までは?」
俺の言葉に潮が首を傾げる。
「木島さんのSNS、全部見た訳じゃないけど、この人たぶん女尊男卑な思想の人だよ。書き込みとか見てるとわかる。女尊男卑な考えの女子高生が女性権利団体の邪魔になってる人を痴漢として訴えて、結果女性権利団体が得をした。二つ目の偶然」
「………否定しようにも筋が通ってて納得してしまったわ」
師匠が苦笑いを浮かべる。
「颯太君の推理、あながち間違ってなさそうね。その線で調べてみるべきかも」
「マジっすか?」
自信がある推理だったわけじゃないから師匠の言葉に驚く。
「その女子校ってここから近いの?」
「ええ…まあ……」
「……行ってみましょ」
「……へ?」
師匠の言葉に首を傾げる。
「だから、その女子校行ってみましょ。その木島さんについて何かわかるかもしれないし。張り込んでたら本人に会えるかもしれないわよ。尾行すれば女性権利団体の人間と接触するかもしれないし」
「それは……そうかもですけど……」
「よし、決まり!」
俺の言葉に師匠が元気に言う。
「いや、ちょっと待ってください」
師匠の言葉に俺は慌てて止める。
「張り込みとか調査は別にいいんですけど。もし仮に尾行するならこの人数はまずいでしょ。目立ちすぎます」
「……確かに」
俺の言葉に簪が賛同する。
「じゃあ役割分担すればいいんじゃない?学校周りで聞き込みする人と仮に木島さんを見つけた時に尾行する人と」
「それがよさそうだな」
シャルロットの案に頷く。
「聞きこみとかの調査は男の俺より師匠たち女性陣の方がいいと思うんで、俺は尾行班がいいです」
「それは確かにそうね」
「尾行も俺一人よりもう一人くらいほしいんで誰か一緒に来てもらえると嬉しいっすね」
俺の言葉を聞いた瞬間なぜかもれなく全員がピクリと反応したように見えた。
「う~ん…じゃあ僕が立候補しよう…かな?」
「いえ、ここは颯太と同じくマンガやアニメでの尾行の知識のある私が…」
「いやいや、家柄的に私が適任じゃないかしら?」
「私……地元民なんで…この辺の地理には強い…です……」
なぜか全員が立候補しだした。
「シャルロットちゃんは金髪だし田舎のこの辺では目立つんじゃないかしら?」
「観光地だから外国人もたくさんいると思いますよ。簪さんの知識ってマンガとかアニメのなら上手くいくとは限らないんじゃない?」
「マンガやアニメの知識は馬鹿にできない。それにお姉ちゃん、私も更識の家の人間なんだけど?」
「簪ちゃんよりも家のお仕事こなしてる私の方が適任じゃないかしら?潮ちゃんも地元民は颯太君とあなたしかいないから二人とも尾行班になっちゃうと聞き込み班のメンバーが困っちゃうわね」
「私…今日制服なんで…一番違和感がない……と、思います……」
「「「「……………」」」」
…………え?なにこの膠着状態。謎の牽制のしあいしてるし、どういう状況?
「………えっと…俺ちょっとトイレに……」
なんとなく重苦しい空気に耐え切れず俺は席を立つ。
「すぐ戻りますんで」
そう言いながら俺はそそくさと立ち去る。
○
颯太がトイレに立ち……
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人は無言のまま視線を交わし……
「ここは恨みっこなしで」
楯無の言葉に三人が頷く。
「せーの!」
『最初はグー!ジャンケン――!』
○
「お待たせしました~……ってどうかしましたか?」
席に戻った俺は席を立つ前に比べて雰囲気の変わった四人訊く。
「ううん。なんでも」
満面の笑みを浮かべ答えるシャルロットと不満の色が見える表情の師匠、簪、潮の姿に俺は首を傾げるばかりだった。
改めましてお久しぶりです。
長々と更新できず本当に申し訳ございません。
やっと課題だのテストも終わり夏休みに入った大同爽です。
この夏休みにはまた時間も取れると思うんで今まで更新できなかった分してい…けるといいな(-_-;)