IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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キングクリムゾン!
特訓過程をとばす!


第7話 バトル開始

 時間はあっという間に過ぎ、気付けば試合当日となっていた。

 試合の順番は事前に行ったくじ引きで決まっており、オルコットVS一夏、俺VSオルコット、俺VS一夏の順番となっている。自分以外の試合は公平になるように観覧禁止となっている。

 そして現在オルコットVS一夏の試合が行われている。俺は別室待機中。この場には俺以外に誰もいないので正直暇を持て余している。かといって寝るほど暇でもない。てかそもそも緊張で眠れない。

 俺はふと、右手首に巻かれたブレスレットの黒いリングに目を向ける。これは俺が借りているIS『打鉄』の待機状態だ。

 学園から借りるISを俺は『打鉄』を選択し、メイン武器は近接ブレードにした。聞くところによるとオルコットのISは中距離射撃型らしい。そんな相手に近接武器で、なんて間抜けかもしれないが、これにはそれなりに理由がある。

 そもそも俺はど素人だ。そんな俺が一週間で銃火器の扱いをマスターし、まともに戦えるレベルに持って行けるだろうか?答えは『NO』だ。それだったら近接メインにし、一週間の間に近接格闘の訓練をした方がいいと考えたのだ。そのことを楯無師匠に言うと、師匠も同意してくれていた。

 

「井口君。そろそろです。準備はいいですか?」

 

「はい」

 

 待合室にやって来た山田先生に頷き、第三アリーナのAピットに向かう。

 

「おう」

 

 俺と入れ替わりで一夏がピットから出てくる。

 

「頑張れよ」

 

「おう」

 

 一夏の言葉にピットに入る。そこには織斑先生もいた。

 

「現在、オルコットは織斑とのバトル後の装備の回復などを行っている。あと五分もあれば終わるだろう。今のうちにお前もISを展開して待機しろ」

 

「はい」

 

 織斑先生の言葉に頷き、右手のリングに目を向ける。

 

「こい、打鉄」

 

 つぶやくように打鉄の名を呼ぶと、俺の体は軽い浮遊感とともにISを纏う。

 試しに両手をグッパッと開いたり閉じたり、両方の膝を交互に曲げて伸ばす。うん、問題ない。

 この一週間、ISの操縦面では楯無師匠に、知識面では簪にコーチしてもらった。そういえば二人同時に教えてもらったことなかったな。なんかお互いがお互いを避けるようだった。まあ俺がとやかく言うのも悪い気がしたので何も言わなかったが。

 

「向こうも準備ができたようだ。お前の方はどうだ?」

 

「はい、大丈夫です。問題ないです」

 

 織斑先生の言葉に頷き、ピット・ゲートに進む。

 ゲートに立ったところで俺は特訓最終日、昨日別れ際に言っていた師匠の言葉を思い出す。

 

『この一週間よく頑張ったわね、颯太君。これは最後の私の教え。明日は思いっきり戦いなさい』

 

(ありがとうございました、楯無師匠。俺、どこまで出来るかわかりませんが、頑張ります)

 

 心の中で師匠にお礼を言いつつゲートの向こうに目を向ける。その先にオルコットがいる。

 

「井口颯太、行きます!」

 

 

 ○

 

 

 

「待っていましたわ」

 

 アリーナに出てきた俺を出迎えるオルコット。その姿はまるで中世の王国騎士のようだった。

 鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従えている。さらに目を引くのはオルコットの手にある二メートルを超す長い銃器、六七口径特殊レーザーライフル≪スターライトmkⅢ≫が握られている。

 アリーナ・ステージの直径は二〇〇メートル。オルコットのライフルは発射から目標到達までの予測時間は〇.四秒。すでに試合は始まっているので、いつ撃ってきてもおかしくない。

 

「試合を始める前に、少しよろしいでしょうか?」

 

「………なんだ?」

 

「先日、教室でのこと。日本のこと、あなたの好きなもののことを貶してしまい――」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 俺はオルコットの言葉を遮る。

 

「謝罪をするつもりならやめてくれ。お前が謝ったらこれからの試合の意味がなくなる。そういうのは全部終わってからにしようぜ」

 

「………そうですわね。この試合が終わったら…ですわね?」

 

 この一週間でオルコットにも何か思うところがあったのだろう。自分の発言についてよく考えたのだろう。

 

「もちろんだ」

 

 オルコットの言葉に俺が頷く。

 

「それでは――」

 

「おう――」

 

 オルコットがレーザーライフルを構え、俺も近接ブレードを展開する。

 

「「行くぜ(きますわよ)!」」

 

 二人同時に言ってどちらも行動を開始する。

 打鉄の警告音声に従って、素早く屈んだ状態で地面すれすれを前進する。さっきまで俺がいた空間に耳をつんざくような独特な音とともに閃光が走る。

 まずは相手の出方を確かめるために逃げと防御に徹する。

 オルコットは手に持っているレーザーライフルで、そして展開した四基のビットで俺を狙い撃つ。すごい精度の攻撃だ。避けるのも一苦労だ。かすった時の衝撃もなかなかだ。正直少し怖い。でも――

 

「師匠ほどじゃない!」

 

 俺はオルコットの攻撃を避けながらこれまでの師匠との特訓を思い出す。

 

 

 

『それじゃあ、これから特訓を始めましょうか』

 

『はい!楯無先輩!』

 

『ノンノン。どうせなら〝師匠〟って呼んで?』

 

『はあ、じゃあ師匠?』

 

『うんうん。素直な子はお姉さん好きよ』

 

 俺が師匠と呼ぶと楯無先ぱ――師匠が嬉しそうに頷く。

 

『じゃあ、まずはISの防御からの衝撃がどれくらいのものなのか体験してみましょうか。銃器で攻撃される恐怖に慣れることも兼ねて』

 

『はい?』

 

 打鉄を展開した状態の俺をアリーナの壁に固定し、自分はアサルトライフル二丁を俺に向ける笑顔の師匠。

 

『ちょ!まっ――』

 

『ファイヤッ!』

 

 言葉と共に俺に向けて両手のアサルトライフルを発砲。

 

『アハハハハハハハハ!!!』

 

『ギィヤァァ~~~~!!!』

 

 師匠の笑い声と俺の叫び声、そしてアサルトライフルの断続的な発砲音がアリーナに響く。

 全弾発砲後。初めて銃で撃たれたことへの恐怖でぐったりとする俺と、

 

『快っ感っ!♡』

 

 と、めちゃくちゃいい笑顔を浮かべる師匠の姿が数人の生徒に目撃され、「生徒会長が男子の井口颯太にアサルトライフルを使った公開SMプレイを興じていた」という噂が流れた。

 

 

 

 その時のことを思い出し、ブルリッと背筋に寒気を感じながらオルコットの動きに目を向ける。

 さっきからオルコットの攻撃には共通点がある。それは――

 俺の周りで飛んで攻撃をしてくるビットの攻撃が止む、と同時にオルコットのレーザーライフルの攻撃が飛んでくる。

 

「おっと!」

 

 すんでのところで避ける俺。

 やっぱりだ。オルコットはビットで攻撃している間は自分では攻撃してこない。自分で攻撃をしてくる瞬間、オルコットのビットはその動きを止める。つまり、ビットを操作しながらだとオルコットはそちらに集中するために他の攻撃ができないということだ。

 

「そろそろ頃合いか……」

 

 俺は近接ブレードを握り直し、オルコットに向かって行く。

 

「うおおお!」

 

「っ!」

 

 俺の急な方向転換にオルコットが驚きながらもレーザーライフルで対応。俺に向かって飛んでくる閃光を避けながらオルコットとの距離を詰めていく。

 

「くっ!インターセプ――」

 

「せいっ!」

 

 左手を伸ばして何かをしようとしたオルコットの行動よりも早く俺が斬りかかる。咄嗟にオルコットはレーザーライフルで防ぎ、すぐさま俺との距離を離す。

 

「…なかなかいい動きですわね。いいコーチを見つけたんでしょうね」

 

「まあな。この一週間何度痛い目に合ったか……」

 

 打鉄で出せる最大速度でアリーナ内を延々飛び回ったり、師匠の用意した様々な障害物を最大速度のまま素早く認識し避けたり、最後には師匠とISで鬼ごっこしたりした。ロシア国家代表にして学園最強の師匠から逃げるとかマジで無理ゲーだった。一回捕まるごとに生徒会役員三人分のシュークリームを買わされた。おかげで随分と財布が寒くなった。これらの特訓で壁や障害物にぶつかった回数は両手足の指でも足りないくらいだ。

 

「まだまだ行くぜ!」

 

 特訓の記憶を頭の端に押しやり、近接ブレードを構え直し、オルコットへと向かって行く。

 

 

 ○

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

 試合開始から三十分ほどが経った。ここまで俺もオルコットもお互いに相手に決定打を当てることなく、お互い攻撃をかすらせることしかできていない。途中俺の攻撃によってビットは二個になっていた。

 

(そろそろ奥の手を出さないと、いい加減俺の方が追い込まれてるな……)

 

 現在シールドエネルギーで見れば俺もオルコットもそれほど変わらない。しかし、疲労の具合で言えば圧倒的に俺の方が疲れている。息が上がってきている俺に対してオルコットは多少の疲労は見えるもののまだまだケロッとしている。

 

「………っ!」

 

 気合いを入れ直し、今日何度目かもわからない最大速度での突撃をかける。おそらく俺の疲労度、集中力からしてこれが最後のチャンスだ。

 

「くっ!」

 

 オルコットのビットから、レーザーライフルからの攻撃が俺に向かってくる。それを避けながら俺はオルコットに向かって行く。

 しかし、俺の目の前にオルコットのレーザーライフの銃口が見える。背後にはオルコットのビット。囲まれたのだ。このままのスピードで行けば三つの攻撃が俺に当たり、俺は負けるだろう。でも――

 

「うおおおお!」

 

 そこでおれは俺は奥の手、師匠に教えてもらった技を発動させる。その技の特性上、通用するのは一度だけ。一回きりのチャンスだ。

 背中のスラスター翼からエネルギーを放出。それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する。押し上げるような力を感じながら俺は加速する。

 

「なっ!」

 

 俺の急な加速にオルコットが驚愕する。すぐさま攻撃をするが、オルコットの攻撃は俺にかすりもせず何もない空間を素通りする。

 これが俺の奥の手――『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』だ。

 

「だあああああっ!!」

 

 叫びながら近接ブレードを大きく振りかぶる。オルコットの斜め上で止まる。

 

「せいっ!」

 

 振りかぶった近接ブレードをオルコットに振り下ろす。

 

「きゃあっ!!」

 

 俺の一撃を受け、オルコットが地面に向けて落下していく。が――

 

「まだだ!」

 

 まだ終われない。オルコットのシールドエネルギーを削りきるにはまだ足りない。

 そこから俺は落下するオルコットに体を向け、背中のスラスター翼からエネルギーを放出。それを内部に一度取り込み、圧縮して放出。二度目の『瞬時加速』だ。

 

「うおおおおおお!!」

 

 落下するオルコットを途中で追い抜き先に地面に着地。上空のオルコットに向けて近接ブレードを構え直す。

 

「はああああああ!!」

 

 落ちてくるオルコットにタイミングを合わせてブレードを斬り上げる。

 

「このっ!!」

 

 しかしオルコットも奥の手があったようだ。オルコットの腰部から広がるスカート状のアーマー。その突起が外れ、動いた。さっきまでのレーザー射撃のビットじゃない。これは『弾道型』だ。

 

「うおおおおお!!」

 

「はあああああ!!」

 

 最後の瞬間に俺が感じたのは俺の体にぶつかり、盛大に爆発した二基のビットの衝撃と右手に伝わる確かな近接ブレードが何かを斬ったの感触だった。

 爆発の煙が晴れたとき、俺の間横には地面に降り立ったオルコットの姿があった。

 

『両者シールドエネルギー0。勝者無し!引き分け!』

 

 アリーナに響く放送。俺の横で屈んでいたオルコットが立ち上がる。

 

「おつかれ」

 

 オルコットに声をかけつつ打鉄の展開を解く。

 

「あなたも」

 

 オルコットもブルー・ティアーズの展開を解く。ISの装甲が光の粒となりパッと弾ける。

 

「……ありがとうございました。いい試合でしたわ」

 

「おう。やっぱ代表候補生は強いな」

 

 俺の言葉にオルコットが首を振る。

 

「そんなことありませんわ。今のはわたくしの負けですわ」

 

「そんなこと――」

 

「いいえ。実際あなたの最後の加速、あれは予想外でしたわ。もしもあなたと私の条件がもっと対等だったなら、きっとこの試合はもっと違った結果になっていましたわ」

 

「そこまで評価してもらえてありがたいね」

 

 オルコットの言葉に俺は少し照れる。

 

「……井口さん。今度こそ言わせてください。先日の教室でのこと。日本のこと、あなたの好きなものを貶してしまい、申し訳ありませんでした」

 

 そう言ってオルコットが頭を下げる。

 

「あなたの言うとおりでしたわ。わたくしは自分の目で見たものではなく、人の意見に影響されていましたわ。本当に申し訳ありませんでした」

 

 オルコットは頭を下げたまま続ける。

 

「……じゃあさ、自分の目で確かめてみようぜ?」

 

「え?」

 

 俺の言葉にオルコットが顔を上げる。

 

「自分で見て、面白くなければそれでいいさ。だから今度、俺のおすすめを見てみないか?」

 

「……ええ、お願いしますわ」

 

 俺の言葉にオルコットが笑顔を見せる。

 

「これからは仲良くしようぜ、オルコット。大抵の漫画やアニメではこんだけ戦った相手とは友情が芽生えるもんだ」

 

 言いながら俺の差し出した右手をオルコットが握る。

 

「ええ、もちろんですわ。それとセシリアでいいですわ」

 

「そうか。俺のことも颯太でいいぜ」

 

 そしてお互い笑顔になる。

 

「そうだ。一夏ともちゃんと話せよ?」

 

「えっ?一夏さんですかっ?…そ、そうですわね。一夏さんにもちゃんと謝罪しなければいけませんわね…」

 

「セシリア……お前……」

 

 セシリアが真っ赤にしてきょどる様に俺は驚愕する。もしかして、こいつ一夏に…?

 

「い、いや、その……」

 

 顔を真っ赤にしたまま慌てた様子で言い訳を言うセシリアだったが、それらはどれも要領の得ない薄っぺらーいわかりやすいものだった。

 戦った相手を惚れさせるとか、どこまでラノベの主人公なんだよ一夏は。




戦闘描写がへたくそな僕の文章にお付き合いいただきありがとうございました。
やっぱりあれですね戦闘シーンの描写は難しいですね。
次回は一夏との戦闘ですね。頑張ります。

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