IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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お陰様でお気に入り件数が2400行ったんで予告通り番外編です。
先に言っておきますがいつもより長いです。


お気に入り件数2400記念番外編 「恐怖の鬼ごっこ」

 コツコツコツコツ

 

 ダダダダダダダッ!

 

 コツコツコツコツ

 

 ダダダダダダダッ!

 

「な、なあ一夏!」

 

「なんだよ!?」

 

「俺たち走ってるよな!?」

 

「ああ、そうだな!」

 

「織斑先生歩いてるよな!?」

 

「ああ!」

 

「じゃあなんでどんなに走っても織斑先生と差が開かないんだよ!」

 

 そう俺たちは今、走っていた。鬼、織斑千冬から逃げるために。しかしどれだけ走っても歩いているはずの織斑先生との差は広がることはない。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

「なんで!?どんなに走っても歩いてる千冬姉との差が開かない!これはもしや蜃気楼ぉ!?」

 

「東京砂漠に魔物が出るぜぇ!!」

 

「「うわぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 俺と一夏は全力で泣き叫びながら逃げる。

 なぜ俺たちが涙ながらに織斑先生から逃げているか、それを説明するために時間を少し前に巻き戻すことにしよう。

 

 

 ○

 

 

 

「ねえ一夏」

 

「なんだよ鈴?」

 

 時は夏休みの登校日。俺たち全校生徒はなぜか学校の体育館に招集。しかも俺たち数名の生徒はその前に一列に並ばされていた。俺や一夏、篠ノ之、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪の一年生組に加え生徒会長である師匠、そして初対面の先輩二人、背が高くスタイルのいい金髪のホーステールの先輩と小柄で猫背の三つ編みの先輩も並んでいた。

 

「なんであたしたちだけこうやって、まるでさらし者みたいに前に立たされてるのよ?」

 

「しらねえよ。俺が訊きたいよ」

 

 一夏の言葉通り俺たちはなぜ体育館に集められたのかもなぜ俺たちだけ前に立たされているのかもわからない。強いて言えば前に並ばされているのは専用機持ちだってことくらいだろう。

 俺たち一年生組や師匠はもちろん、初対面の先輩二人もだ。背の高い金髪の先輩はアメリカ代表候補生のダリル・ケイシー先輩。小柄な三つ編みの先輩はギリシャ代表候補生フォルテ・サファイア先輩。さっき師匠に教えてもらった。

 

「今日って何の集会なの?」

 

「さぁ……」

 

「私も教官が招集したということくらいしか……」

 

 俺の問いにシャルロットとラウラが答える。

 

「まったく我々が何をしたというのか」

 

「いったいどういう要件なんでしょうね」

 

 と、みなグチグチと文句を言っていると

 

「お前たち、待たせたな」

 

 と、ジャージ姿の織斑先生が壇上に現れた。その瞬間体育館内の空気が張り詰めたように感じた。気付かないうちに俺も姿勢を正していた。

 

「さて、さっそくだが本題に入らせてもらう。今回の集会の要件だが――」

 

 織斑先生が一度言葉を区切り、並ばされた俺たちに視線を向ける。

 

「近々専用機持ちたちを対象に特別特訓メニューを組むことになった。ちなみに強制参加だ」

 

『………はぁ!?』

 

 織斑先生の言葉に並ばされていたメンバーが揃って素っ頓狂な声をあげた。

 

「質問よろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

 師匠が挙手をして質問する。

 

「あの…なぜ急にそのようなことになったのでしょうか?私たちがなにかしましたか?」

 

「なんだ…身に覚えがないのか?」

 

 ため息まじりに織斑先生が言う。

 

「最近のお前たちははっきり言ってたるんでいる」

 

「なっ!?なんですかそれ!あたしたちのどこがたるんでるって言うんですか!?」

 

「自覚がないようだな。ではいくつか例を挙げようか?」

 

 言いながら織斑先生は手元の数枚の資料に目を向ける。

 

「え~っと、何々?ISの無許可の使用、部分展開にISの機能を私的利用、公共施設でのISの展開。まだあるぞ?聞きたいか?」

 

「…………」

 

 師匠も鈴も無言で上げていた手を下ろす。どうやら身に覚えがあるようだ。

 というか俺と一夏以外の全員が織斑先生から顔を逸らすのはなんで?何?みんな身に覚えあるの?ダリル先輩やフォルテ先輩も?

 

「しかし、我々も鬼ではない。我々の出す条件をクリアすればお前たちの特別特訓参加を免除してやってもいい」

 

「じょ、条件?」

 

 織斑先生の言葉に首を傾げる俺たち。

 

「ああ、お前たちがたるんでいないと、専用機持ちとして恥ずかしくない力量を備えているということを証明できたら免除してやる」

 

「で、でもどうやって証明すれば……」

 

 簪が自信なさそうに口を開く。

 

「だから今日集まってもらった。今回集まってもらったのは他でもない。お前たち専用機持ちにはこれから二時間の間二人の教師から逃げきってもらう。いうなれば鬼ごっこだな」

 

『お、鬼ごっこ!?』

 

 織斑先生の言葉に本日二度目の素っ頓狂な声が響く。

 

「校内に設置された監視カメラの映像をこの体育館のモニターに中継。全校生徒にも中継映像を見ていてもらう。基本ルールとしてはISさえ使用しなければ何をしてもいい。学校内の施設などの使用は一部なら可能だ」

 

 織斑先生は俺たちの驚きを無視し説明を続ける。

 

「お前たちのうち誰か一人でも生き残れば特別特訓は免除。我々が全員を捕まえればお前たちはそろって夏休みの残りを特別特訓に費やしてもらう」

 

「あの、ちなみにその特訓の担当は……?」

 

「ん?私がするが?」

 

「やっぱりか!」

 

 織斑先生の言葉に絶望する俺。つまり負ければ強制的にチフユーズ・ブートキャンプ参加と言うわけだ。

 

「まあ落ち着け。勝った時の報酬の話がまだだ」

 

「えっ!?報酬があるんスか!?」

 

 織斑先生の言葉にフォルテ先輩が訊く。

 

「ああ、と言っても全員にやるほどはないからMVPにだけだがな」

 

「な、内容は?」

 

 ダリル先輩がごくりとつばを飲み込みながら訊く。

 

「MVPにはIS学園の権力を使ってできる範囲で希望をかなえよう」

 

『な、何だって~!?』

 

 織斑先生の言葉に三度目の以下略。

 

「それは本当に何でもですか!?」

 

「ああ、二言はない。お前たちには少しでも本気を出してもらわないといけないからな」

 

「芸能人に会いたいっていう願いも!?」

 

「可能だ」

 

「声優でも?」

 

「構わん」

 

「一人だけ?」

 

「二人だろうと三人だろうと構わん」

 

「ぅおっしゃ!燃えてきた!」

 

 俺のいくつかの質問に答えた織斑先生の言葉に俺は燃え上がる。

 

「颯太君そんなに会いたい芸能人がいるの?」

 

「この間流木野さんに会ったのに」

 

「誰に…会いたいの?」

 

 師匠とシャルロット、簪が訊く。

 

「そうだな~。いっぱい会いたい人はいるけど、やっぱり声優の斎藤千和さん、花澤香菜さん、三森すずこさんだな!戦場ヶ原ひたぎとか立華かなでとか園田海未の声を生で聞きたい!」

 

「……何だろうこの釈然としない感じ」

 

「なんか負けた感じがする」

 

「すごく腑に落ちない」

 

 俺の答えに釈然としない顔で三人が呟く。

 

「さて、話はまとまったようだな。それでは十分後、第一アリーナに集合だ。体操服などの動きやすい服装に着替えてこい」

 

 

 

 

 

 と言うわけで着替えた俺たちは第一アリーナに来たわけだが

 

「それじゃあこれから二時間の鬼ごっこを開始する」

 

 そう宣言する織斑先生。ところで俺はさっきから気になることがある。それは先生の数だ。

 織斑先生は、鬼は二人だと言っていた。

 そしてこの第一アリーナ内には山田先生と織斑先生がいるだけである。

 つまりこれは……そういうことなのだろうか。

 

「さて、お前たち、準備はいいか?全力で逃げろよ。私も――」

 

 そう言いながら首をゴキッと鳴らす織斑先生

 

「全力で狩りつくしてやる」

 

 そういって笑みを浮かべるその姿は……鬼そのものだった。

 

「さあそれでは楽しい楽しい鬼ごっこを始めよう。鬼は私と山田先生。こっちは全員を捕まえ特別特訓に参加させる気で行くから…そのつもりでいろよ?」

 

 え、やだなにこの人超コワい。超本気じゃん。負けたらチフユーズ・ブートキャンプとか嫌だからね。俺は斎藤千和さん花澤香菜さん三森すずこさんに会うんだからね!

 

「それではこれを全員受け取ってください」

 

 言いながら山田先生は人数分のスマホのような機会を取り出す。

 

「今回の鬼ごっこのマップです。この赤い線で囲われた範囲が逃亡可能域なのでここを出ないようにお願いします。出てしまった場合その時点で失格です。誰か捕まるたびにここにメッセージが届くようになっています。逃げる皆さんの間であれば連絡も取り合えるようになっています。紛失しないようお気をつけください」

 

 と、山田先生が説明しながらスマホ(仮)を配る。

 

「あ、ちなみに誰か確保されるたびに校内放送でもお知らせしますので」

 

 と、山田先生が追加の説明をする。

 

「では始めよう。私たちはお前たちのスタート後、20秒後にでる。せいぜいその間に逃げるんだな。私を楽しませてくれよ」

 

 言いながら織斑先生は運動会なんかで使うスターターピストルを空に向ける。

 

「それでは鬼ごっこ…スタートだ」

 

 パンッ!

 

 乾いた音が響き俺たちはそろって走り出す。

 アリーナからすぐさま出て走りながらマップを確認する。

 範囲は思ったよりも広かった。これは織斑先生たちがこの程度の範囲なら時間内に全員捕まえられるという自信の表れなのだろうか。

 と、考えていると持っていた機械が震える。見るとメッセージが届いていた。それと同時に

 

 デデ~ン♪

 

『更識簪、アウト~』

 

 と、某笑ってはいけないな番組のようなアナウンスが流れる。ちなみに放送の声はのほほんさんだった。

 簪ぃぃぃぃ!速いよ!まだ始まったばっかりだぞ!

 と、簪確保の情報に驚愕しながら右折すると、別々に逃げた一夏と合流できた。

 

「お、一夏。さっきの連絡見たか?」

 

「ああ、更識さんがさっそく捕まったな」

 

「とりあえず一緒に行動しよう。目は多い方がいい」

 

「ああ」

 

 一夏と頷き合い、マップを確認しながらどこに逃げるか、どこかに隠れるかなど相談していると

 

 デデ~ン♪

 

『更識楯無、アウト~』

 

「え!?師匠!?」

 

 アナウンスに俺は驚愕の声をあげる。

 

「まさか確保二人目が師匠だなんて」

 

「あの人は最後まで残る最有力候補だろ」

 

 一夏も驚きを隠せないようだった。

 そしてその後十数分の間に

 

 デデ~ン♪

 

『フォルテ・サファイア、アウト~』

 

 デデ~ン♪

 

『ダリル・ケイシー、アウト~』

 

 立て続けに放送がかかる。おそらく先輩二人は一緒に行動していたのだろう。

 

「くそう。先輩たちは全滅か」

 

 一夏が悔しそうな顔をする中

 

「はっ!そうか!わかったぞ!」

 

 俺は一つの答えに行きついた。

 

「織斑先生たち体力が万全のうちに一番障害になりそうな人から消していくつもりだ。その証拠に俺たちなんかより手がかかりそうな先輩たちが真っ先に確保されてる」

 

「なんだって!そんな意図が……!」

 

 俺の答えに驚愕しながらも腑に落ちた表情の一夏が頷く。

 

「とりあえず逃げながら可能なら他のメンバーとも合流しよう。一人では無理でもみんなで知恵を寄せ合えばなんとかなるかも」

 

「ああ、そうだな」

 

 と、スマホ(仮)を取り出し、誰かに連絡を、と考えていたところで、俺たちは出会ってしまった――鬼、織斑先生に。

 

 

 

 そして話は冒頭に戻る。

 

 

 

 

「「うわぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 俺と一夏は泣き叫びながら走る。

 

「や、やべぇ!どうしよう!」

 

「に、逃げ切れねぇ!」

 

 と、泣き叫びながら逃げていると。

 

「あら?一夏さんに颯太さん」

 

「なに?あんたたち一緒に逃げてたの?」

 

「というか、どうしてそんなに泣き叫んでいるんだ?」

 

「ん?あれって……」

 

「きょ、教官だぁ!!」

 

 どうやら一緒に行動していたらしい五人に合流するが俺たちの後ろから追いかけてくる鬼の姿にすべてを理解し、同じように逃げ始める。

 

「あ、あんたたちなんてことしてくれてんのよ!」

 

「わたくしたちまでピンチじゃないですか!」

 

「知らねぇよ!俺たちだって困ってたんだから!」

 

 人数は増え、当初の予定通り知恵を合わせることができる状態にはなった。しかし、鬼の織斑先生、略して鬼斑先生から逃げているこの状況では作戦会議を開くこともできない。どうにかして鬼斑先生を足止めしなくては。

 

「くっ!こうなったらこの手は使いたくなかったが……!」

 

「何か方法があるのか!?」

 

 俺の言葉にラウラが訊く。

 

「誰かが織斑先生を足止めするしかない!」

 

「確かにそうすれば他の人間は助かるかもしれないが……」

 

「いったい誰が足止めしますの!?」

 

 俺の言葉に篠ノ之とセシリアが疑問の声をあげる。

 

「ラウラ!君に決めた!」

 

「わ、私か!?」

 

 俺の言葉にラウラが驚愕の声をあげる。

 

「いいかラウラ!この中で唯一の軍人で体力・戦闘スキルなどの面で一番ポテンシャルが高いのはお前だ!しかもお前は織斑先生に教えられていた経験もある!織斑先生の行動を読むのに適しているのはお前だ!」

 

「しかし……!」

 

「千冬姉のことなら俺だって!家族だぞ!」

 

「弱すぎて話にならない」

 

「ひでぇ!」

 

 一夏がショックを受けているが無視して続ける。

 

「やってくれるか、ラウラ!?」

 

「しかし、今の私の力では……」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

 俺にフルネームで呼ばれ、ラウラが体をびくりと震わせる。

 

「お前は教官を!織斑千冬を超えたくないのか!」

 

「し、しかし…今の私では!」

 

「ならいつのお前なら織斑先生を超えられる!?明日か!?明後日か!?いつかのお前か!?」

 

「それは……」

 

「いいかラウラ!いつかってのはな……いつかってのは今なんだよ!今挑戦しなくてどうする!」

 

「っ!」

 

 俺の言葉にラウラが驚愕の表情を浮かべる。

 

「井口颯太…お前の言葉に目が覚めた!いつかは今なんだな!」

 

「ああ!」

 

 俺は力強く頷く。

 

「悔いがあるとすれば、MVPをとれなかったことか……」

 

 言いながら一夏をちらりと見るラウラ。一夏は先ほどの俺の弱いという言葉にいまだにショックを受けている。

 

「……ラウラ、お前の働きでチフユーズ・ブートキャンプを回避で来たら…一夏とのデートをセッティングしてやる」

 

「なっ!?それは本当か!?」

 

 俺の言葉に驚くラウラ。

 

「ああ、男に二言はない」

 

「………お前たち!」

 

 ラウラは叫びながらくるりと俺たちに背負向け立ち止まる。

 

「教官は私が食い止める!お前たちは逃げろ!」

 

「なっ、ラウラ!?ダメだよ!」

 

 シャルロットが止めようとするがそんなシャルロットを手で制しながら

 

「安心しろ、シャルロット。足止めするのは構わんが、別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「ちょ!それ死亡フラ――」

 

「行くぞ、教官!私はここであなたを超える!」

 

『ラウラ~!』

 

 叫びながら立ち向かうラウラにみな叫ぶ。

 

「ラァウラァァ!うぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁさぁ逃げましょうか」

 

「軽い!」

 

「もうちょっと何かないの!?」

 

「ばっきゃろう!ここで逃げて生き延びなきゃラウラが犬死だろうが!」

 

 俺の言葉に納得したようにみな走り出す。

 それから数分後

 

 デデ~ン♪

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ、アウト~』

 

「さて、ラウラのおかげで逃げ切れたけど、このままだとじり貧だな」

 

「どうしましょう?」

 

 みな頭を抱える。残り時間は約一時間。やっと半分だがその何倍も逃げていた気がする。まだ同じくらいの時間を逃げなくてはいけないと思うと……ため息が出てくる。

 

「よし、こうなったら俺に考えがある!」

 

「考え?」

 

「とりあえずみんなはこのまま逃げてくれ。俺だけ別行動をとる。うまくいけばある場所に山田先生を、もしかしたら織斑先生もくぎ付けにできるかもしれない」

 

「マジか?じゃあ俺も手伝うぞ!」

 

「いや、ダメだ」

 

「なんで!?」

 

 俺の言葉に一夏が食い下がる。

 

「言っただろ?上手く言ったらって…。失敗すれば俺が捕まる。リスクは最小限にしたい」

 

「でも……!」

 

「俺だって捕まる気はない。でも、万が一がある。だから…もしもの時はお前らが生き残るんだ!チフユーズ・ブートキャンプを回避するために!」

 

『颯太(さん)……』

 

「井口……任せたぞ!」

 

「ああ!」

 

 篠ノ之の言葉に俺は大きく頷く。

 

「お前ら…頼んだぜ!」

 

 言いながら俺は走り出す。

 俺は走る。マップで確認した場所へ、目的の一室へと俺は走る。

 

 

 ○

 

 

 

「颯太は無事だろうか……」

 

「いったいなにをするつもりなのか……」

 

 みな周りに意識を向けながらさっき意気揚々と別行動をとった颯太のことが心配のようだ。

 

「きっと…きっと颯太なら大丈夫だよ」

 

 シャルロットはそんな中笑顔で言う。

 

「今までだって危ない状況でも何度も切り抜けて来た颯太だよ。きっとうまくやるよ」

 

「……ああ、そうだな!」

 

「颯太さんならきっと大丈夫ですわ!」

 

「アイツなら何とかしてくれるって気がするわね!」

 

「俺も颯太のことを信じて――」

 

(ジジジ)『あー、テステス。本日は晴天なり~』

 

『!?』

 

 突如先ほどまで確保の放送の流れていたスピーカーから颯太の声が流れてくる。

 

「まさか颯太!自分が放送室にいることを知らせ、先生たちをひきつける気なんじゃ!」

 

「なに!?ダメだ颯太!そんなの誰もよろこば――」

 

 ピン♪ポン♪パン♪ポン♪

 

『お知らせします。山田真耶先生、至急連絡があります。山田先生、織斑一夏君が体育倉庫で待っています。織斑君が生徒と教師の垣根を超えた男と女の大事な話があるそうです。至急体育倉庫までお越しください』

 

「「「「「…………」」」」」

 

 みな呆然とする中からブツッという放送特有の切れる音がし、スピーカーは沈黙した。

 一夏は自身の頬に汗が伝うのを感じる。そんな中視線を周りに向けると、まるでブリキ仕掛けの様にスピーカを見上げていた姿勢のまま顔だけを自身に向ける箒、セシリア、鈴の姿が。

 

「一夏……?」

 

「これは一体どういうことですの?」

 

「こととしだいによっては……」

 

「ま、待て……落ち着けみんな。これは何かの間違いで……」

 

「「「問答無用!」」」

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

 叫びながら逃げる一夏とそれを追う箒、セシリア、鈴の三人。それを呆然と見送るシャルロット。

 

「颯太……これが目的だったんだ……」

 

 

 

 

 ○

 

 

 放送をかけてから十数分後

 

 デデ~ン♪

 

『篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰 鈴音、アウト~』

 

 スピーカーから声が聞こえてくる。

 先ほどスマホを確認した時に気付いたがこの確保連絡のメール、実は捕まった場所の詳細も書かれているらしい。

 メールを確認すると三人の確保位置は「体育倉庫前」。

 

「…………」

 

 俺はにやりと笑みを浮かべて、思う。

 

「計画通り(ニヤリ)」

 

 きっと今の俺は相当に悪い顔をしていることだろう。

 残り時間は数十分。計画通り最低一人は体育倉庫に先生はいることだろう。ここから体育倉庫までは少し距離がある。つまりここから倉庫とは逆方向に逃げれば逃げきる可能性が上がる。

 

「さて……逃げるか」

 

 一息つき俺は逃げるために周りに意識を向けながら歩き出す。

 

 

 ○

 

 

 

「見つけたぞ颯太!」

 

「あ、やべ」

 

 周りに注意しながら歩いていると、進行方向から一夏とシャルロットがやって来る。

 

「おい、颯太どういうことだよ!?」

 

「いや、山田先生の性格上ああいう場面では絶対来るだろうなって思って。織斑先生もうまくいけば来てくれるかもしれないし」

 

「自分の名前でやればいいだろ!」

 

「いや、俺じゃ織斑先生までは来ないだろうから」

 

「……颯太。颯太の目的はそれだけじゃなかったでしょ」

 

 シャルロットがジト目で言うのを俺はぎくりとしながら視線を向ける。

 

「颯太、MVPをとるためにわざとやったでしょ」

 

「え?」

 

「MVPは生き残った人の中から選ばれる。と言うことはどうすればいいか、生き残る人が少なければ選ばれる確率が上がる。だから颯太はラウラに織斑先生の足止めをさせ、三人を鬼の二人がいる体育倉庫に行くように仕向けた」

 

「…………」

 

「どう?間違ってる?」

 

「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 言ってからニヤリと笑う。

 

「流石はシャルロット。そうだ、その通りだ。まあ篠ノ之たちのは想定以上の結果だったけどな。せいぜい一人くらいは捕まるかな、くらいのつもりだったが、きっと怒りで一夏を追いかけはじめたが途中で見失い、試しにそのまま体育倉庫まで行ったら捕まったとかそういうことだろう」

 

 俺は笑いながら言う。

 

「まあ文句は後から聞く。今はとりあえず逃げきることを考えようや」

 

「……まあそうだな」

 

「…………」

 

 ジト目で睨むシャルロットの視線を交わして俺たちは歩き出す。が……

 

「あ、見つけましたよ、井口君、デュノアさん、そして織斑君!」

 

「おっと~……コイツは予想外。後ろからは想定してたけど、まさか進行方向から来るとは」

 

 山田先生の登場に俺は苦笑いを浮かべる。

 

「織斑君、私ずっと待ってたんですよ?そりゃ私とあなたは教師と生徒です。でも織斑くんと結婚すれば織斑先生がお姉さんになるわけで……。でもやっぱりダメです!ああでも……!」

 

「「「…………」」」

 

 う~む、これはまた………よし、とりあえず逃げるか。

 

「よし、一夏!後は任せた!」

 

「え!?俺っ!?」

 

「山田先生!さっきは一夏は恥ずかしくなってしまったようです!篠ノ之たちの余計な邪魔も入ったようで!と言うわけで改めてお話がしたいそうです!」

 

「おい!」

 

「さあシャルロット!邪魔しちゃ悪い!行こう!」

 

「え?あ、うん……」

 

「シャルロット、お前もか!」

 

 叫ぶ一夏を無視して俺とシャルロットは走り出した。

 

 

 ○

 

 

 

 デデ~ン♪

 

『織斑一夏、アウト~』

 

「一夏が捕まったな」

 

「颯太のせいでね」

 

「まあそれはもういいじゃないか」

 

 さらにジト目で見てくるシャルロットの視線を右から左へ受け流す。

俺たちは今教室のある建物にいる。廊下を歩きながら周りに注意を向ける。

 

「さて、一夏が引きつけてくれたおかげである程度は逃げることに成功した。後は織斑先生がどこにいるかなんだが」

 

「あ、その事については安心して。さっきはあっちにいたよ」

 

 シャルロットが窓の外を指さす。シャルロットの指さす先には第二アリーナが見える。

 

「さっき一夏と逃げてる時だから移動してはいるだろうけど、あそこからこの建物に来ようと思ったら途中で僕たちの通った道を通るはずだから」

 

「そうか、じゃあこの建物には……」

 

「うん。多分外にいるんじゃないかな?」

 

 俺の言葉にシャルロットが頷く。

 

「それじゃあそろそろ僕は行くよ」

 

「え?」

 

 シャルロットの言葉に俺は驚愕する。

 

「だって、颯太はMVP取りたいんでしょ?MVPを確実に取りたかったら最後の一人になるのが一番確実だよ」

 

「でも…いいのか?お前だって叶えたいお願いがあるんじゃ?」

 

「そりゃ何でもしてもらえるっていうのは魅力的だけど、それ以上に颯太にはいろいろ助けてもらってるから。これで少しでもお返しになれば僕も嬉しいよ」

 

「シャルロット……」

 

「大丈夫。誰か一人でも生き残ったら織斑先生の特別特訓、颯太流の言い方だったらチフユーズ・ブートキャンプだっけ?それは回避できるんだからさ。颯太は頑張って最後まで生き残ってね」

 

 シャルロットが笑顔でサムズアップ。

 

「僕は外に出てできるだけこの建物から織斑先生を引き離すから、颯太はここに隠れてて。それじゃあ!」

 

「……シャルロット!」

 

 走り去ろうとするシャルロットを呼び止める。

 

「ありがとう、シャルロット!」

 

「……大好きな声優さんによろしくね!」

 

 そう笑顔で言い、外へと向かって行った。

 

「ありがとう、シャルロット。本当に………本当に……「ありがとう」…。それしか言う言葉が見つからない…」

 

 シャルロットの去って行った方に敬礼し、くるりと反対を向く。

 

「やあ、井口。さっきぶりだな」

 

「おっと~?」

 

 廊下の先に笑みを浮かべた織斑先生がいた。

 

「えっと、なんでいるんですか?さっきシャルロットが外にいるって――」

 

 言いながら窓から外に視線を向けると見覚えのある金髪が見える。

 シャルロットが笑みを浮かべてペロリと舌を出して手を合わせていた。

 よ~く見ると口パクで何か言っているようだ。えっと……

 

『ご・め・ん・ね・そ・う・た』

 

「…………やられたぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 俺の叫びが響いた数分後、二時間の鬼ごっこが終了した。

 勝ったのは俺たち学生組。恐怖のチフユーズ・ブートキャンプは免除となった。

MVPは一人生き残ったシャルロットだった。

 ちなみにシャルロットがIS学園の権力でしたことだが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「颯太ー、肩揉んでー」

 

「はいはい、シャルロット」

 

「ん~?〝シャルロット〟?」

 

「………承知しました、〝シャルロットお嬢様〟」

 

「ん、よろしい」

 

 俺の言葉に笑顔で頷くシャルロットの後ろに周る。

 

「あひょぉぉぉ!」

 

「なんちゅう声出してんだよ」

 

「いや、颯太のマッサージ上手いから」

 

「一夏には劣るけどな。ほら、もうちょっと声押さえてねぇ」

 

 言いながら肩もみを続行する。

 

「んっ…あっ……そこ…んぁ…」

 

「………あの、エロい声出すのやめてくれませんかね?」

 

「ごめん、我慢しようとしたらつい出ちゃって」

 

「まったく……」

 

「ほらほら手が止まってるよー」

 

「はいはい、仰せのままに」

 

 ため息をつきながら肩もみを再開する俺。

 さて、ここまでで察していただいたかと思うが、シャルロットのMVP商品、それは一週間の俺こと井口颯太への(不純異性交遊&公序良俗に反しない範囲での)絶対命令権である。

 もしこれに反した場合予定されていたチフユーズ・ブートキャンプを俺一人でフルコース参加である。おかげで一週間シャルロットへの絶対服従が決まった。

 そんなわけで今は一日目のお昼過ぎである。

 ちなみに場所は食堂で、鬼ごっこお疲れ様会として参加者全員が集まってお菓子やジュースで宴会中である。

 ちなみになぜか師匠の提案に目を輝かせながら乗っかったシャルロットのおかげで俺の服装は執事服で呼び方まで強制されてしまった。

 

「あ、颯太。ちょっとジュースの追加貰ってきてよ。あたしオレンジジュース」

 

「あ、わたくしも同じものでいいのでお願いしますわ」

 

「私は緑茶がほしいな」

 

「おい、ちょっと待て。俺の絶対服従はシャルロットに対してだろ?鈴やセシリアと篠ノ之は違うだろ!」

 

「颯太~、お願いね~」

 

「へい!ただいま!」

 

 三人への抗議も虚しくシャルロットの一言で泣く泣くジュースの補充をもらいに行く俺だった。

 その後も

 

「颯太く~ん、私も肩凝っちゃったから揉んで~」

 

「だから、俺の絶対命令権は師匠にはないんですってば」

 

「颯太、してあげて」

 

「イエス、マイ・ロード!」

 

「颯太…この漫画の続き読みたいから部屋から持ってきて……」

 

「あのな、簪。俺に命令できるのはシャルロットだけなんだって」

 

「颯太、取って来てあげて」

 

「イエス、ユア・ハイネス!」

 

「あ、悪いんスけどお菓子の追加持ってきてもらえないっスかね?」

 

「いや、フォルテ先輩もさらっと言ってますけど――」

 

「颯太、お願いね」

 

「イエス、ユア・マジェスティ!」

 

 とかなんとか。結局絶対服従はシャルロットに対してでもみんなの言った命令をシャルロットが言って俺がそれに従っていたら結局は俺はみんなに対して絶対服従なわけで……。

 

「あっはっはっ。大変だな、お前も」

 

 そんな中心底楽しそうに笑うダリル先輩。

 

「なんですか?少しは労ってくれるんですか?」

 

「いんや、オレも命令したい」

 

 ニヤニヤと意地悪く笑うダリル先輩に俺はため息をつく。

 

「命令されても俺は聞きませんよ。まあどうせシャルロット経由で命令されるんでしょうけど……まあ俺に直で言われてもぜっっっったいに聞きませんからね!!」

 

「そいつは残念。胸が凝ったからオレのおっぱい揉んでもらおうかと思ったんだが」

 

「喜んでやらせていただきます!」

 

「嘘だよ、バ~カ!このエロガキが、にひひっ」

 

 ダリル先輩の心底楽しそうな笑みとシャルロットと師匠と簪の絶対零度の視線にさらされる俺だった。

 

「はぁ……これがあと一週間も続くわけか……長いなぁ」

 

「どうするシャルロットちゃん、命令で一生絶対服従にしちゃうとか」

 

「いいですね」

 

「どうせなら私たちの命令にも従わせて……」

 

「勘弁してください!!!」

 




さて、改めまして祝!お気に入り件数2400件突破おめでとう!
ここまでよく来たものだと感無量でうっかり長くなってしまいました。
こうして続けてこれたのも読んでいただいてる方のおかげです。
ちょくちょく更新が届滞る中いつも読んで感想を書いていただきありがとうございます。
これからもよろしく応援お願いします!


~追伸~
今回の番外編は書いてから気付きましたけど平凡なの本編に出ていないダリル先輩とフォルテ先輩が登場しちゃいましたね。
……まあしょうがないっすね!( ´艸`)
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