「え~っと……これとこれと…あとこれもかな?」
家に帰り夕食を食べた俺は自室で作業をしていた。
「颯太、何してるの?」
と、後ろで見ていた簪が訊く。ちなみにシャルロットは夕食後の片付けを手伝っているし、師匠は師匠で父さんの晩酌に付き合っている。
「ちょっとな~。簪も師匠とシャルロットみたいに海斗の相手でもしといてくれたらいいけど?」
「そうなんだけどね。今海斗君アニメ見てるから……私まだ途中までしか見てないからネタバレになっちゃう……」
「あ~……なるほどね」
簪の言葉に納得しながら背後に視線を向ける。
俺と海斗の子供部屋の自身の勉強机に共有のノートパソコンを置き、動画サイトで某死に戻りのタイムループアニメを一気見しているらしい。
「海斗~」
「なに~?」
俺の言葉に視線は画面に向けたまま返事をする。
「どう?面白い?」
「………心折れそう。いろんなキャラが死に過ぎて辛い。サブヒロインの方がかわいくて辛い」
「誰のこと?」
「レム。むしろレムがメインヒロインでいいと思うんだけど」
「あぁ~……」
海斗の言葉に納得する。
「海斗……」
「なに?」
「まったくその通りだわ」
海斗の言葉に大仰に頷く。
「安心しな~よ。そのうちにちゃーんと救われるか~らさ」
「でなきゃ困るよ、兄さん。あと、相変わらず特徴的な喋り方のキャラのモノマネうまいね。まあ、それはさておき、終始このまま鬱展開じゃ心折れて見るのやめてしまいそうだわ」
言いながらやれやれと言ったジェスチャーをする海斗。
「まぁ楽しみなさ~いよ」
「はいよ~」
言いながら俺は思う、こいつマジで終始画面からこっちに視線向けんかったな…と。
「……で、颯太はさっきから何してるの?」
海斗と会話しながらも作業する手を止めない俺に首を傾げながら簪が訊く。
「ん~?明日の準備」
「準備?」
紙袋に保管していたプリントやノートの類を詰め込んでいく。
「おう。ちょっと実際に敦さんの持ってた荷物を再現してみようと思ってな」
「でも、それこそ明日やればいいんじゃ……」
「明日は墓参りとか親戚が来たりとかいろいろ予定があるんだ。今のうちにできる準備だけしといて、明日時間のある時にいろいろ検証しようと思ってさ」
「そうなんだ……」
俺の言葉に納得したように頷く簪。
「私できることない?」
「ん~……じゃあこのリュックにここに入ってるプリントとかノート詰めてくれる?」
「は~い」
お願いすると嬉しそうに頷いた簪は段ボール箱に詰められたプリントやノートをリュックに詰めていく。
俺も一つ目の紙袋に詰め終え、二つ目の紙袋に取り掛かる。
「……あれ?」
と、作業していた簪がふと手を止め首を傾げる。
「ん~?どうした~?」
「いや…もしかして颯太って小学校の時転校してこっちに来たの?」
「あれ?言ってなかったっけ?そうだよ~」
簪の方を見ながら頷く。見ると簪の手元には小学校四年生の時の1/2成人式の文集があった。どうやらそこに書かれた学校名と家の近くの小学校と名前が違うことで気付いたようだ。
「俺が五年生になる前にうちのばあちゃんが病気になってさ。心配ってことでちょうどいいタイミングだったし父さんと母さんがこっちの学校に赴任して俺と当時保育所に通ってた海斗もこっちに来たってわけだな」
「へ~…知らなかった……」
「そっか…師匠から聞いてると思ってた」
「え……?お姉ちゃんには言ったの?」
俺の言葉に手を止め呟くように訊く簪。
「いや、俺からは言ってないけど」
「じゃあ……」
「あの人多分俺の経歴は全部調べただろうからね。てかそんな話を前にしてたし」
「あ、あぁ……そういうこと……」
「ん?どうかしたか?」
「え?」
俺の言葉に首を傾げる簪。
「いや…なんか安心してるって言うか嬉しそうだから」
「き、気のせい……」
ぷいっと顔をそむける簪に首を傾げながら作業に戻る。
「ねぇ、颯太。この文集読んでもいい?」
「ん~?まあちょっとハズいけどいいよ~」
「ありがとう」
言いながら文集を開く簪に、俺も久々に昔の文集でも読もうかな、なんて思いながら……あれ?そう言えば文集の題材なんだっけ?
「なあ簪…その文集の題材って――」
「颯太ー、簪さーん、何してるのー?」
と、簪に訊こうとしたところで手伝いを終えたらしいシャルロットがやって来た。
「おう…かくかくしかじかだ~よ」
「いや、わかんないから」
苦笑いのシャルロットにも説明する。
「なるほどね。で、今は……」
「準備の途中で何やかんやと思い出に浸ってるところ」
手に取った文集を見せながら言う俺。
「さっきからいろいろ懐かしいものが出てきてさ。なかなか進まないんだわ」
アハハハ~と笑う。
「へ~…僕も見せてもらってもいい?」
「おう。いいぞ」
「やった。じゃあ僕は……ん?これは……」
と、段ボール箱の中からシャルロットは一冊のノートを取り出す。それは真っ黒に塗りつぶされたノートで表には白いペンで
「えっと何々?『ファティマ――』」
「っ!」
シャルロットがノートのタイトルを読み終えるよりも先に素早くそのノートを抜き取る。
「颯太――」
「なんでもないんだよ、なんでも!!」
「でも今の――」
「まったくもってなんでもない!気にするな!このノートは本当になんでもないんだよ!」
「そこまで否定すると…逆に怪しい……」
ジト目で見てくるシャルロットに賛同するように簪が言う。
「い、いや、ホントに!ホントになんでもないから!」
言いながらノートを背中に回し部屋の出口へと後退りする。
「なんでもないなら見せてよ」
シャルロットの言葉に簪も頷きながらふたりともゆっくりと俺の方に歩み寄る。
「いやいやいや!ホントに!見てもつまんないから!ね!?ね!?ね!?」
「ん?何これ?」
と、急に背後から声が聞こえ後ろ手に持っていたノートが奪われる。
振り返るとそこにはドアを開けた態勢で右手に俺から取った黒いノートを持った師匠が立っていた。
「えっと…『ファティマの予言』……何これ?」
「あぁぁぁぁぁ!!」
すぐさま取り返そうとするがさすがは師匠と言うべきか、俺の動きを読んでいるのか全く捕まえることができない。
「ファティマの予言ってあれよね、1942年にバチカンから発表された第一次世界大戦と第二次世界大戦を細部まで予言してたって、で、確か1960年に第三の予言が発表されるはずだったけど当時の法王があまりの内容に発表せずに封印したって言うあれよね?」
言いながらシャルロットと簪の元にスルスルと逃げる師匠。
「あれ?これ第三章が書かれてますよ」
「あ、ホントだ」
師匠から受け取ったノートをペラペラとめくっていたシャルロットと簪が言い、師匠もノートを覗き込む。
「前にこの予言をもとにしたドラマがあったしその事なんじゃ……」
「でも、そのドラマで出てきた予言と内容が違うよ?」
「あらら?」
某ドラマを知っているらしい師匠と簪は首を傾げる。
「ああ、それ」
と、さっきまでパソコンの画面に視線を向けていた海斗がこちらを向く。
「それ、兄さんが書いたやつじゃん。なんだっけ?黒龍王がどうのとかって――」
「ヴァァァァァァァ!」
海斗の口にした単語に俺は見悶え、もんどりうって地面を転げまわる。
「そういやなんだっけ?そのノート作った頃の兄さんってちょっと変わってたよね。黒龍王がどうの、怪異だ妖だなんだって言ってたよね」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「あと、何かにつけて『はっは~、元気がいいね。何かいいことでもあったのかい?』ってしきりに繰り返すし。くわえ煙草みたいにココアシガレット始終咥えてさ」
「や、やめてくれぇぇぇぇぇ!!」
「あれ、今思えば中二病だったよね~。中二乙」
「…………」
もはやズタボロである。
「へぇ~……」
「颯太って……」
「ねぇ~……」
「生暖かい目で見るなぁ!」
俺の叫びが井口家に響き渡ったのだった。
思わぬblackhistoryを暴かれ心の傷に粗塩をぬりこまれた気分だった。