どうぞ~
「初対面の人は初めまして。俺は井口颯太っていいます」
俺は笑いながら周りを見渡す。
お昼過ぎ、集合場所は俺の母校の中学校前。この場には俺や師匠たち、駒形さんに加え、事件関係者である木島亮子さん、建設グループの責任者の女性、それに被疑者(仮)の松本敦さん。
敦さんは一応は捕まっている身なので手錠をしたまま横には警官が一人控えている。
「私は――」
「あ、知ってます。木島亮子さんですよね?」
「え?」
俺の言葉に困惑した表情を浮かべる木島さん。
「俺がこの場にいる人で知らないのは、建設グループの責任者さんとそこの警官の人くらいっすね」
言いながら俺は女性に視線を向ける。責任者の女性はサマースーツに身を包み少し冷たい印象を受ける吊り目の女性だった。髪型は茶髪の首のあたりまでのショートカットである。
「……赤坂めぐみ。今回のこの土地での開発の責任者をしているわ」
「そうですか。よろしくお願いします、赤坂さん」
言いながら俺は敦さんの横に控えている制服の警官に視線を向ける。制服の上からでもわかるがたいのいい男性警官である。
「……………」
「……あの…お名前は?」
「なぜ民間人に名乗らないといかんのだ?」
「名乗ってやれ」
「はっ!了解であります!」
ぎろりと睨む警官、だが、駒形さんの一声にビシッと敬礼して俺の方に向き直る。
「巡査の春日桜太だ」
「よろしくです、春日巡査」
「ふん」
俺のあいさつに鼻を鳴らしてそっぽを向く春日巡査。
「それよりも警部さん、私たちはなぜ集められたのでしょうか?」
と、赤坂さんが駒形さんに聞くが
「すいません。ですが、今回のこの呼び出しは確かに俺がしましたが、発案は俺ではないんですよ」
「え?」
「あ、俺が駒形さんにお願いしました」
「な!?」
「っ!?」
俺の言葉に赤坂さんと木島さんが驚いた表情を浮かべる。
「すいませんねぇ。でも集まってもらうしかなかったんですよ。だって……冤罪作るわけにはいかないでしょう」
「………はぁ?」
俺の言葉に春日さんが驚愕の声をあげ、木島さんと赤坂さんも困惑しているようだ。
「だから、敦さんは無実です。今日皆さんに集まってもらったのはそれを証明するためです。師匠、例の物を!」
「はいは~い!」
俺は言いながら後ろに控えていた師匠を指しながら言う。
「この荷物はあの日の――」
「ちょっと待ちなさい!」
「………はい?」
俺が謎解きを開始しようとしたところで黙っていた木島さんが怒鳴る。
「じゃあ何?あんたはこう言いたいわけ?あの痴漢事件は私がウソついてたって?」
「ええ、端的に言えば」
「なっ!?」
俺の笑顔での答えに木島さんが目を見開く。
「あ、あんたなんなの!?何様のつもりよ!?あんた警察でもなんでもないじゃない!関係ない人間は引っ込んでてよ!」
「いえ、関係ないことはありませんよ」
怒って叫ぶ木島さんに駒形さんが向き直って言う。
「彼には俺が協力を要請しました。つまり、この件の関係者です。何か問題が?」
「………いいえ」
少しまだ納得していない様子ではあるが木島さんは引き下がり、駒形さんが俺に示すように視線を向ける。俺は会釈をしながら口を開く。
「この荷物は事件当時の敦さんが持っていた荷物を再現したものです。朝見たものを再現しただけなんで紙袋の店名とか、リュックも同じくらいの大きさのやつなんでまったく同じってわけではないですけど、そこは勘弁してくださいね」
言いながらアイコンタクトしシャルロットは師匠の左横に、簪はシャルロットの横に木島さんの友人役で立つ。
「事件当時、敦さんがこうして立っている左横にこうして木島さんと友人の方が立っていた。間違いないっすね?」
「………ええ、そうです」
俺の問いに憮然と納得していない様子で頷く木島さん。
「で、敦さんは吊革につかまっていたわけなんで右手に持っていた荷物も左手に持っていたわけだ………アレレ~?オカシイナァ~」
俺はわざとらしく小首を傾げながらいつもよりもトーンの高い声で言う。
「何がおかしいというんだ?どこもおかしくないだろう」
春日巡査が言うが、
「じゃあ春日巡査、あなたは手に物を持った状態で他人のお尻触れますか?木島さん、あなたのお尻触った手が紙袋を下げていたんですか?駒形さんから聞いた調書の内容にはそんなこと一つも書いてませんでしたけどねぇ~?」
まあ実際は潮のお父さんに協力してもらって調書は見たんだが、それを言うと潮のお父さんに迷惑をかけてしまうのでそういうことにしておこう。
「で?どう思いますか、春日巡査?」
「……確かにお前の言う通りのようだな」
「納得してもらえてうれしいです。では……これらのことでわかる通り今回の事件では敦さんに犯行は不可能――」
「ちょっと待ちなさい」
俺の言葉を遮って赤坂さんが口を開く。
「………何か?」
「ちょっと、その紙袋を地面に置いてみなさい」
「え?なんでですか?」
「いいから置きなさい」
「……………」
俺は言われて渋々師匠に置くようにアイコンタクトを送る。師匠も頷き地面に紙袋を置く。
「……やっぱりね」
「…………」
その光景を見て赤坂さんはにやりと笑う。
そう、以前の検証通り、紙袋は絶妙なバランスで地面に自立していた。
「同じくらいの紙袋に以前書類をたくさん入れて運んだことがあってね。その時も同じように立ったのよ。だからもしかしてと思ったけど……予想通りだったわ」
「……………」
「颯太……」
敦さんが心配そうにこちらを見ている。
「これで逆にこの松本敦さんに痴漢が可能だったと証明できたわね。何か言うことはあるかしら?」
「…………あります」
意地悪く笑う赤坂さんに俺は無邪気に笑いながら言う。
「確かに、この結果は検証した時に同じようにぶつかった壁です。俺もこれを見た時は敦さんには悪いっすけどこりゃダメだと諦めかけました。でも――」
俺はいったん言葉を区切りニッと笑みを浮かべる。
「俺、あることに気付いたんです」
「あること?」
俺の言葉に敦さんが訊く。
「それを示すためにはもう少し状況を再現する必要がありますね。師匠、例の物2を!」
「はいは~い!」
言って師匠がどこかに電話をすると、中学校の駐車場に止められていた小型のバスがやって来る。師匠に頼んで用意してもらったバスだ。
「それじゃあみなさん、ちょっとドライブに行きませんか?」
○
「さて、あの日はバスの中は混んでいて敦さんと木島さん、木島さんの友人は吊革につかまって立っていました」
走行しているバスの中、今日は俺たちの貸し切りなので席はあり余っているのでみな席に座っている。
ちなみにバスのルートはあの日の事件があった時のバスと同じルートを通っている。
「では、先ほどの話に戻りますが右手で吊革を掴み、左手に紙袋を持った状態では痴漢行為に及べないかと思われました。でも、あの時の荷物、地面に置くと絶妙のバランスで自立してしまいます。ですが――」
言いながら脇に置いていた紙袋を取り出す。
「春日巡査、ちょっとこれ、バスの床に立たせてみてください」
「お前の証明だ、お前が立たせればいいだろう!」
「でも、俺がやったら変なトリックとか何か仕込むかもしれませんよ?」
「何!?かせ!俺がやる」
「アハハ、自分で言っといてなんですけど信用無いですね、俺」
言いながら春日巡査に紙袋を二つとも渡す。
「まったく…これを立たせればいいんだろ?簡単だ」
言いながら隣に座る敦さんを睨みながら地面に紙袋を置く。
「こいつは事件当時もこうして床に紙袋を置いて……これを置いて……これを……これを置い……置いて…………立たない…」
が、春日巡査の言葉通り紙袋を置けども置けども紙袋は安定することはなくいつまでたっても春日巡査は紙袋から手を放すことはできない。
「そう、立たないんですよ。バスの中じゃ。このバスじゃなくても事件当時のバス自体の振動とこのカーブの多いルートのせいで普通に立っているだけでもしっかり踏ん張らないと転びそうになるんです。ましてやたまたまバランスよく立ってた紙袋じゃ安定しない床じゃ自立するわけありません。もし仮にどこかのタイミングでうまく立ったとしても――春日巡査、試しに手を放してみてください」
言われた春日巡査は紙袋から手を放す。すると――
「この様にすぐに無残に倒れて――中身を盛大にばらまいてしまうという結果になってしまいます」
俺の言葉通りバスの床には紙袋の中身がばらまかれとんでもない惨状となっていた。
「さて……これでもまだ松本敦さんが犯人だと?」
俺の言葉にみな沈黙している。
「……さて、そろそろ頃合いですし、降りましょうか」
俺は言いながら視線を進行方向に向ける。進行方向には警察署が見えて来ていた。
ちょっと長くなりそうだったので一旦くぎります。
今日中に続きは上げれるようにしたいと思いますのでお待ちください。
~おまけ~
前回のエンディングから削った描写
「えぇー、どぉもみなさん。えぇ今回の事件は非常に悩まされました、はい。一時は敦さんの無実を証明することは不可能かと思われましたが、なんとか真実にたどり着くことができました。さて、今回の事件を解決する上で重要となってくるうのは二つ。一つ目は絶妙なバランスで自立していた紙袋、もう一つは事件現場がよく揺れるバスの中であったということ。ん~もうお分かりですねぇ?井口颯太でした」