IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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今回で颯太実家帰省編も終わりです。
そんなわけでどうぞ


第75話 故郷

 俺は恐怖した。

 

「マジか……」

 

 俺の目の前ある情報を俺は一瞬受け入れることができなかった。

 

「夢ならさめてくれ……」

 

 そう思いながらも、俺はわかっている。

これが夢でないことを。

これがまぎれもなく現実であることを。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、颯太君はなんでカレンダーの前で崩れ落ちてるの?」

 

「あぁ…明日IS学園に帰るっていうことを忘れてたらしいです」

 

「家でやろうと思っていたこと…ほとんどできなかったって……」

 

「あぁ~……」

 

 言いながら楯無は颯太に視線を戻す。

 

「まあ颯太君、元気出して。学園に戻ってもまだ夏休みが終わったわけじゃないし」

 

「………いや……わかってるんですよ?わかってるんですけどね~………思い返すとこの一週間、探偵の真似事ばかりしてたなぁって……」

 

「「「あぁ~……」」」

 

 颯太の言葉に苦笑いを浮かべる三人。

 

「そっか…颯太明日帰るのか……」

 

「一週間って短いわね~」

 

「兄さん、全然ゆっくりできてなかったね」

 

 悟、純子、海斗もしみじみと言う。

 

「颯太、最後だし何か晩御飯に食べたいものは?」

 

「ん~……肉じゃが?」

 

「そんなのでいいのか?」

 

「いや…なんか無性に食べたくなった」

 

「そっか。じゃあ腕によりをかけて作ってあげる」

 

「ん。お願いします」

 

 颯太は言いながら上体を起こす。

 

「さて、明日帰るなら帰る準備しとかないと」

 

「準備?」

 

「持って帰る漫画とか漫画とか漫画とか」

 

 シャルロットの問いに答えながら颯太は立ち上がる。

 

「手伝う?」

 

「いい。そんなにたくさん持って行くつもりはないし他の物も大物はないし」

 

 簪の問いに答え、自身の部屋へと向かう颯太。

 

「えっと……これと…これと…これかな~……あとは……」

 

 数冊の漫画を選び出し、自身の荷物の近くに置きながら部屋の中をうろつく。

 

「こんなものかな………ん?――あ、これ……」

 

 ふと、颯太は自身の机の上に置かれた一冊の冊子を手に取る。

 

「これ…昨日簪が読んでた1/2成人式のときの文集か……そう言えば俺このとき何を書いたんだっけ?」

 

 言いながら颯太は文集をめくり自分の所属していたクラスのページを開く。

 

「あ、そっか…将来の夢だったな。えっと…俺のページは……えっと…相川…赤木…有村…井岡…碇谷…っと、ここだ。ええっと……?『将来の夢 四年一組 井口颯太。僕の将来の夢は――』」

 

 

 

 ○

 

 

 

「颯太君……颯太く~ん……颯太く~ん!?」

 

「……ん?ああ、ごめんなさい!なんですか~?」

 

 階下から自分を呼ぶ声に颯太は顔を上げる。

 

「海斗君が帰る前にゲームしようって」

 

 階段まで行くと階段の下から楯無が顔をのぞかせていた。

 

「は~い。じゃあ帰る前に弟孝行でコテンパンにしてやりますかねぇ~」

 

 言いながら階段を下りる颯太。

 

「他のみんなどうしてます?」

 

「シャルロットちゃんはお母様のお手伝い。簪ちゃんは海斗君とゲームしてるわよ」

 

「颯太君は何してたの?結構時間かかってたけど」

 

「ああ……ちょっと持って帰るのとは別の漫画読んでたら止まらなくなっちゃって」

 

「アハハ、颯太君らしいわね」

 

 颯太の言葉に楯無は納得したように笑う。

 

「颯太君って片付けしてたら気付いたら昔のアルバムとか見ちゃうタイプでしょ?」

 

「あ?わかります?」

 

「やっぱり」

 

 颯太のお道化た様な答えに笑いながら頷く楯無。

 

「あ、お姉ちゃん、颯太……」

 

「やっと来た。兄さん、今回ほとんどゲームの相手してくれなかったんだから帰るまでにとことんやろうぜ」

 

「おう!いいぜ!はたしてお前に兄が越えられるかな?」

 

 言いながら颯太はコントローラーを手に取る。

 

「いいぜ、絶対負けないからな~」

 

 海斗も不敵に笑いコントローラーを握り直す。

 

 

 

 この後夕食まで、そして夕食の後も颯太と海斗のゲームバトルは続いたのだった。

 

 

 

 ○

 

 

 

「それじゃあ、一週間ありがとうね」

 

 俺は振り返り俺たちを見送るように並ぶ家族たちに言う。

俺たちは今家の前にいる。うちの車は全員を乗せることはできないので父さんに駅まで送ってもらうことになる。

 

「もっといられればいいのに」

 

「慌ただしいな」

 

 と、母さんとじいちゃん。

 

「なんだかあっという間ね」

 

「これで兄さんもハーレムに帰還か」

 

 と、ばあちゃんと海斗。それと海斗?それは嫌味か?IS学園がもう一人の方のハーレムで兄がモテないとわかってて言ってる?

 

「楯無さんも簪さんもシャルロットさんもありがとう。楽しかったわ」

 

「いえいえ、こちらこそ急に押しかけてしまってすみません、お義母様」

 

「料理一緒にできて楽しかったです、お義母さん」

 

「お世話になりました、お義母さん」

 

 楽しそうに笑う母さんに三人も笑いながら言う。ところでなんか母さんの呼び方に違和感があるのは俺だけ?ねぇこれって気のせい?

 

「次っていつ帰って来るんだっけ?」

 

「ん~…まあ年越しかな」

 

 海斗の問いに少し考えながら答える。

 

「なぁ兄さん俺今PS4がほしいんだけど次帰ってくるときにお土産として」

 

「買ってこないからな?」

 

「チッ」

 

「おい舌打ちしてんじゃねぇよ」

 

 それくらい企業所属なんだから給料で買ってくれよ、とでも言いたげな顔の弟を一睨みして視線を母さんに向ける。

 

「だからまあ詳しくわかったらまた連絡するよ」

 

「はいはい。次に帰ってくるときはまたみんなも一緒に来るのかしら?」

 

「いや、流石にそれは――」

 

「「「はい、是非!!」」」

 

「ぅおい!!」

 

 俺の言葉にかぶせて大きく頷く三人に俺は叫ぶ。

 

「いやいやいや!シャルロットはともかく師匠たちは実家帰りましょうよ!年越しとか帰らなくていいんですか!?」

 

「あら?シャルロットちゃんはよくて私たちはダメなの?」

 

「差別、よくない」

 

「シャルロットもいいとは言ってない!できれば遠慮していただきたい!」

 

「そうだよね……僕と一緒だと迷惑――」

 

「その泣き落としをやめろよ!!」

 

 よよよっと泣き崩れるように言うシャルロットに頭を抱える。

 

「颯太君サイテー」

 

「サイテー」

 

「女の子泣かして兄さんマジ女の敵~」

 

「そんな息子に育てた覚えはない!」

 

「俺が悪いの!?」

 

 なぜか四面楚歌な状態に唖然とする俺。

 

「………はぁ、わかったよ。もう別に来たければ来ればいいですよ!そのかわり師匠たちはおうちからなんか言われても知りませんよ!シャルロットも迷惑とかじゃないから好きにしなよ!」

 

 俺の言葉にみんなニッコリと笑う。まるで、言質撮りましたよ?とでも言いたげだな。

なんだろう外堀埋められてない?

 

「………兄さん…」

 

「海斗………」

 

 俺の肩にポンと手を置く海斗。

 

「ドンマイwww」

 

「その煽り腹立つ!誰に似たんだよ!?どの漫画の影響だ!?お兄ちゃんそんなふうに育てた覚えはないよ!?」

 

「「「いや、明らかに颯太(君)の影響だよ……」」」

 

 三人が苦笑いで言う。失礼な。俺はこんな風に人を煽ったりしないぞ!

 

「おい、颯太。そろそろ時間じゃないか?」

 

「あ、うん。ごめんごめん」

 

 ここから海斗に小一時間ほど説教くれてやろうかと思ったが時間切れだ。

 

「それじゃあみんな、また冬休みには帰って来るから」

 

「うん、元気でね」

 

「たまには連絡してこい」

 

「風邪ひかないようにね」

 

「PS4……」

 

「買わない――それじゃあ、みんなも元気でね~」

 

「「「お世話になりました」」」

 

 一度お辞儀をし、五人で車に乗り込む。

 車が走り出す瞬間家の前に並ぶ家族に手を振る俺。振り返るとみんな見えなくなるまで手を振ってくれていた。

 




さて、思ったよりも長くなってしまった颯太実家帰省編、またの名を黒龍王の事件簿、終了です。
次回からはIS学園に戻ります。
久しく出番のなかったあの人とかあの人とかあの人、さらにはあの人も!

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