IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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性能実験の模擬戦の続きです


第79話 八咫烏と女郎蜘蛛

「さあ、待たせたな……お待ちかねの新装備お披露目だ」

 

 颯太は言いながら意識を集中する。

 

「来い!八咫烏!」

 

 

 

 

 

 

 颯太の声を聴きながらシャルロットも口を開く

 

「おいで!《マルチレッグ・スパイン》!」

 

 

 

 

 

 

 ふたりの声に呼応するように颯太の周りで、シャルロットの腰背部で光が集まり形作られる。

 颯太のそれは黒いボディに金色の翼を持った四基の鳥型のものが颯太の周りを飛び回っている。

 シャルロットのそれは腰背部に接続されたもの、一言で言えば黒と緑を基調とした〝六本の脚〟である。

 ふたりは形作られたそれらを見て満足そうに頷くとそれぞれ一夏と箒に視線を向ける。

 

「「さぁ、性能実験の始まりだぜ(よ)」」

 

 

 

 ○

 

 

 言いながらシャルロットは手に構えた二丁の銃を握り直す。

 

「行くよ、箒!」

 

「来い、シャルロット!」

 

 ふたりは叫び、同時に動く。互いが互いに向けて加速する。

 シャルロットは銃を乱射し、箒は二本のブレードを駆使して銃弾を弾きながら進み――

 

「はぁぁぁ!!」

 

 気合いの声とともに箒は右手のブレードを振り下ろし、シャルロットは瞬時に展開したシールドでそれを受け止める。

 ガギンと金属同士のぶつかる音ともに火花が散る。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

「くっ!」

 

 気合いとともにブレードに力を込めた箒によってシャルロットのシールドが弾かれ、そこを狙って箒は左手のブレードで鋭い突きを放つ。その突きは正確にシャルロットをとらえ、不可避と思われた。が――

 

「ふっ」

 

 タンッ

 

 シャルロットの息遣い、そしてまるで地面を蹴るような音とともに箒のブレードは空を斬った。そして――

 

「なっ!?」

 

 驚愕する箒の背後から銃弾の雨が襲う。

 

「くっ!」

 

 困惑しながらも距離をとる箒。

 

「今のはいったい……?」

 

 確実にシャルロットの体をとらえたと思った自身の一撃を交わされただけでなく、ありえない背後からの攻撃に困惑する箒。

 しかし、そんな箒の困惑を知りながら、知っているからこそシャルロットは畳みかける。

 

「考え事してる暇はないよ!」

 

 一気に加速し箒へと距離を詰めるシャルロット。

 

「くっ、この!」

 

 それを迎え撃つべく箒はブレード『空裂』を振るい帯状の赤いレーザーを放つ。

 

「ふっ」

 

 シャルロットが先ほどの息遣いとともに背腰部の六本の脚を展開すると同時に

 

 タンッ

 

 先ほど聞こえた音と共にまるでそこに壁でもあるかのように展開された脚の一本が右側の空を蹴ると同時にシャルロットの体は前へと進む体の向きのままで真横に移動した。

確実に軌道上に捉えていたはずの帯状の赤いレーザーは真横を通過しシャルロットの突進を阻むことはできない。

 

「何っ!?」

 

 今度こそシャルロットの動きを目撃した箒はさらに二発目三発目と『空裂』を振るうが

 

 タンッ  タンッ

 

 先ほどと同じ、何もない空間を蹴る動作とともに右に左にレーザーを避けるシャルロットは確実に箒へと距離を詰める。が、それは同時に箒の二本のブレードの射程範囲内に入るということだ。

 

「はぁぁ!!」

 

 左手のブレードを突きを放つが先ほどまでと同じ背腰部の脚で蹴ると同時に避けるシャルロット。それに合わせるように体を回転させて右手のブレードを横に振る箒。

 

 タンッ

 

 箒のブレードは空を斬る。シャルロットの軌道に箒は視線を上に向けるとそこには六本の脚を大きく展開したシャルロット。その姿はまるで獲物を捕らえた蜘蛛のようだった。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

 気合いの声とともに体を後ろにそらせるシャルロット。同時に展開された六本の脚が箒を襲う。

 

「くっ!」

 

 二本のブレードで捌くも、捌ききれなかった三本の脚が、その鋭い先端が『紅椿』の装甲を突く。

 箒を突いた動作のまま空を蹴ったシャルロットは箒と距離を取りながら空中に制止する。

 

「なんだあの動き…まるで空中を蹴っているように……」

 

「考え事してる暇はないよ」

 

 箒の思考を遮るようにシャルロットが口を開く。

 

「僕は颯太みたいに優しくないからね。『わからないなら考えろ』なんて言わない。考える暇なんてあげないよ」

 

 

 

 ○

 

 

 自分の周りを飛ぶ鳥型の装備たちに視線を向けながら俺は《火人》を構える。

 

「行くぞ!」

 

 俺は言いながら一夏へと斬りかかる。

 

「来い!」

 

 言いながら一夏が《雪片弐型》で受ける。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

 気合いとともに一夏へ《火人》を押し込んでいき、

 

「≪ショット≫」

 

 俺が言うと同時に一夏を背後から八咫烏の銃弾が襲う。

 

「くっ!」

 

 衝撃に一夏の力が弱まったところを

 

「シッ!」

 

 《火神鳴》で一夏を殴る。

 《火神鳴》の一撃に後退しながら体勢を立て直す一夏。

 

「なるほど、その鳥型の装備はビット兵器なんだな」

 

 一夏は《雪片弐型》を構えながら言う。

 

「まあな。流石にセシリアのBT兵器ほど操れないから基本はAI操縦だけどな。まだ慣れてないから攻撃もキーワード言わなきゃ動かせないし」

 

 俺は苦笑いをしながら言う。俺の周りでは四基の八咫烏が悠々と飛んでいる。

 

「へ~、てことは支援主体の装備なわけか」

 

「……………」

 

 俺は一夏の言葉に無言でニヤリと笑う。

 

「……何その意味深な笑みは?」

 

「さ~てね、ふっふっふっふっふ~」

 

 俺は棒読みで笑いながら構える。

 

「実態は自分の目で確かめてみな」

 

「おう。そうさせてもらうよ」

 

 一夏もニヤリと笑い《雪片弐型》を構える。

 

「……はぁ!」

 

 俺はボクシングのファイティングポーズをまねてとりながら左手を下から掬い上げるように振る。と、同時に左手の《火ノ輪》が飛ぶ。

 

「シッ!」

 

 一夏が飛んできた《火ノ輪》を弾くがタイミングを遅らせて放った二撃目が一夏を襲う。

 

「くっ!」

 

 辛うじて体を逸らせて直撃を避けるが一夏の右腕を抉るようにかすめる。

 その隙に加速し一夏へと突進し、同時に《火神鳴》を構え、四門の砲門を一夏に向ける。

 

「はぁ!!」

 

 気合いの声とともに四門の砲門から一夏へと荷電粒子砲が襲う。

 

「くっ!」

 

 苦しげな声を漏らしながらうち二本を避け、展開した《雪羅》のシールドで一本を防ぎ、しかし避けきれなかった四本目が一夏の脚を捉えてシールドエネルギーを削る。

 

「そい!」

 

 追撃としてさらにもう一度荷電粒子砲を放ち、同時に二つの《火ノ輪》も放つ。

 

「くっそ!」

 

 『零落白夜』を起動させた《雪片弐型》で切り裂き、《雪羅》のシールドで防ぎながらバックステップで逃げる一夏。

 俺はあえて深追いせず戻って来た《火ノ輪》を両手のパーツに接続する。

 

「やっぱりエネルギー兵器の攻撃は相性悪いな」

 

 俺は言いながら《火神鳴》を撫でる。

 

「ホント颯太の武器の多さは厄介だよな。でもいいのか?」

 

「ん?何が?」

 

 一夏の言葉に首を傾げる。

 

「だって…その装備たちを使えば使うほど熱エネルギーが溜まるのが加速するんだろ?」

 

「ん~…まあな」

 

 一夏の言葉に頷きながら視界の端に表示されている数値に視線を向ける。数値は60を超えたところだった。二連続で荷電粒子砲をぶっ放せばそれも仕方がない。――狙い通りだ。

 

「でも、お前はそれを心配してていいのか?むしろチャンスだろ。100まで行けば俺は動けないんだからさ」

 

「そうだけど……」

 

「そんなことより自分たちの心配をしとけよ?お前が上手く防がないと俺の攻撃はそのまま箒を襲うぜ?」

 

「何っ!?」

 

 一夏の驚きを見ながら俺は再び《火ノ輪》を放つ。

 一夏が『零落白夜』の刃で弾くが《火ノ輪》はエネルギー兵器ではないので弾いただけだ。

 その隙に同時に八咫烏の銃撃を命じながら三度目の荷電粒子砲を放ち、同時に『瞬時加速』で一夏へと突進する。

 一夏を襲う四本の荷電粒子砲が目隠しになっているので俺の存在に一夏の反応が遅れる。

 確実にとらえたと思ったが、流石一夏。逆境に強いというかなんというか、すぐに姿勢を立て直し斬り上げた『零落白夜』を帯びた《雪片弐型》を振り下ろす。

 

「っ!」

 

 俺は一瞬思考を巡らせ、左手で握った《火人》で斬り上げ、それと同時に《火ノ輪》の展開を解除。俺の周りを飛ぶ八咫烏の一基に思考を向けながら俺は呟く。

 

「≪ジョイント≫」

 

 言葉と同時に意識を向けた八咫烏が俺の右手へと飛ぶ。《火ノ輪》のない右手に停まると同時にその形を変える。

ガギンと激しい音ともに斬り上げた《火人》が一夏の握る《雪片弐型》が一瞬勢いを緩め、一夏のボディが一瞬ガラ空きになる。

その隙を逃すものかと俺は右手を叩きこむ。

 八咫烏が接続され〝《火神鳴》サイズになった〟拳を抉りこむように放つ。

 

 ドンッ!

 

 衝撃とともに一夏が吹き飛びもんどりうって地面を転がる。

 右手を上げると拳型に変形した八咫烏から伸びる、もとは鳥の尾の位置、そこに並ぶくの字型のパーツの一つが赤く染まりながらバキンと飛ぶ。残りは二枚。

 

「ゴホッ!なんだよ今のは!?」

 

 咳き込みながら一夏が立ち上がり叫ぶ。

 

「なんだと思う?」

 

 俺はにやりと笑いながら問いかける。

 

「………全然予想もつかない」

 

 一瞬考えた一夏の言葉に俺はニッと笑う。

 

「試合が終わったら教えてやるよ」

 

 

 

 ○

 

 

 モニターを見ながらセシリア、鈴、ラウラ、簪、楯無は驚愕の表情を浮かべる。

 

「あ、あれが颯太さんの新しい力……」

 

「何なのよ、あの威力」

 

「とんでもないぞ、あれは」

 

 模擬戦の審判兼監視員としてついていた真耶も驚きの表情を浮かべ、あらかじめ詳細を聞いていた千冬は冷静にモニターを見ていた。

 

「あの天才さんはやっぱりすごいですね」

 

 苦笑いを浮かべながらも言う貴生川に真耶が視線を向ける。

 

「あの威力…いったいどんな秘密が?デュノアさんのあの装備のありえない軌道での動きとかも」

 

「それは…また後にしましょう。試合後に試合をしている人も含めてちゃんと説明をしないと。シャルロット君の装備も含めて」

 

 貴生川がにっこりと笑いながら言う。

 

「しかし、一つ気になることがある」

 

 ふと、呟くようにラウラが言う。

 

「先ほどの颯太の動き。やつは一夏の《雪片弐型》を《火人》で防いだ。片手で振るうブレードより絶対的な防御力を誇る《火打羽》で防いだ方が確実だしスムーズだったのではないのか?」

 

「それは……」

 

「言われてみれば……」

 

 ラウラの言葉に頷くセシリアと鈴。三人は答えを求めて貴生川に視線を向ける。

 

「えっと……それは…………」

 

「それはおそらく――」

 

「そ、それは、わ、私が説明する」

 

 苦笑いを浮かべながら言い淀む貴生川、代わりに説明しようとした千冬の言葉を遮って貴生川の横で突然ずっと台車に鎮座していた〝段ボール箱〟が立ち上がる。

 

『!?!?』

 

 突然のことに貴生川以外のその場の全員が、珍しく千冬も驚愕している。

 

「アキラ君大丈夫かい?」

 

「な、なんとか……」

 

 貴生川の言葉に段ボールが少し持ち上がり赤毛の目元にクマのある少女、連坊小路アキラが顔をのぞかせる。

 

「は、はじめまして…さ、指南コーポレーションのプログラマーの…れ、連坊小路アキラ…デス……」

 

「あ、アキラさん!?」

 

 この中で唯一アキラにあったことのある簪はその人となりを知っているために驚く。

 

「連坊小路アキラって…あっ!タッグマッチの時に社長と一緒に来てたあの?」

 

 一度見かけたことのある楯無は簪に聞きながら段ボールに視線を向ける。

 

「人が入ってたんですのね」

 

「てっきり何か機材かと思ってた」

 

「まったく気配を感じなかったぞ……」

 

 いまだ驚愕の表情のセシリアと鈴、そして軽くショックを受けているラウラ。

 

「会社からは二人いらっしゃるって来ていましたけど来たのは台車を押す貴生川さんだけだったので、てっきり予定が変わったのかと思ってました」

 

「……………」

 

 苦笑いの真耶、そして無言ではあるがラウラ同様まったく気配を感じなかったことに驚いている千冬。

 

「やっぱり普通に来た方がよかったんだよ。それが無理なら録画の映像で我慢するべきだったね」

 

「ま、前は個室だったし、しょ、翔子ちゃんたちもいたけど、い、一度来てるし大丈夫かと……あ、あと、録画じゃなくてちゃんと見たかったんで……そ、それより!」

 

 オドオドといまだ蝸牛の様に頭だけを段ボールから出しながらアキラが口を開く。

 

「さっ、さっきのは《火打羽》で受けなかったんじゃない。う、受けられなかった」

 

「受けられなかった?」

 

 アキラの言葉にラウラが首を傾げ

 

「《火打羽》の性質上『零落白夜』を受けきれないから……ですよね?」

 

「せ、正解」

 

 楯無の言葉にアキラが肯定する。

 

「ど、どういうことですの?」

 

「受けきれない?」

 

 セシリアと鈴は首を傾げラウラもいまいちピンと来ていないようだった。

 

「『零落白夜』の性質は?」

 

「えっと……対象のエネルギー全てを消滅させること、です………あっ!」

 

 千冬の問いに答えたラウラは答えに行きつくがいまだセシリアと鈴は首を傾げている。

 

「れ、『零落白夜』は対象のエネルギー全てを消滅させることができる。そ、それに対して《火打羽》はその表面にシールドエネルギーを変換し生成した特殊エネルギー皮膜を定着させることであらゆる攻撃に対応して防ぐことができる。つ、つまり…《火打羽》の性質上『零落白夜』を受けたらエネルギー皮膜を切り裂かれてどこまで防げるか……」

 

「な、なるほど……」

 

「そんな秘密があったわけね」

 

 納得したように頷くセシリアと鈴、簪。

 

「じゃあ…あの防御力に対抗できる数少ない能力…ってこと……?」

 

「そうなるわね」

 

 簪の言葉に楯無が頷く。

 

「まさかあの盾にそんな秘密があったとは……」

 

 ラウラの言葉にみな頷きながらモニターに視線を向ける。

 モニターでは対応しようとなんとか防いでいる箒とアリーナの中を縦横無尽に飛び回るシャルロット、そして、『零落白夜』のエネルギーの刃となった《雪片弐型》を振るう一夏と切り結ぶ四基の鳥型装備を従えた颯太の姿だった。 

 

 

 ○

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

 大振りに振り下ろされた一夏の《雪片弐型》を避け左手に八咫烏を纏う。

 

「そこだ!」

 

 大振りで一夏に拳を叩きこみ衝撃とともに一夏が吹き飛びくの字型のパーツも飛ぶ。そして――

 

「ふんっ!」

 

 飛んでいく一夏を逃がすものかと《火神鳴》に右のアームで足を掴む。

 

「そ~~いっ!!」

 

 そのままジャイアントウイングもどきでぐるぐると回転し投げ飛ばす。

 

「いったぞ!」

 

「オッケー!」

 

「なっ!?」

 

 俺の声に返事をするシャルロット、そして驚きの声をあげる箒。

 俺の投げ飛ばした一夏は綺麗にまるで磁石の様にシャルロットの誘導によって移動させられていた箒にぶつかる。

 

「ファイヤッ!」

 

 俺は《火神鳴》の砲門を向け荷電粒子砲を放つ。

 

「っ!」

 

「あぶねぇ!」

 

 ぶつかったことで体勢を崩しながら箒と一夏はまごつきながらもなんとか避けるが

 

「いらっしゃい!」

 

 その軌道を読んでいたシャルロットが《マルチレッグ・スパイン》での不思議移動を見せながらふたりの懐に飛び込み――

 

「おいで――《火ノ輪》!」

 

 拳を振りぬく。その拳には《火ノ輪》が装着されていた。

 

「な、なんでシャルロットが颯太の装備を……!?」

 

 受け身を取りながら身を起こした二人は驚きながら言う。

 

「前にシャルロットに教えてもらっただろ?使用許諾さえあれば他の人の装備でも使うことができるって」

 

「じゃあまさか……」

 

「事前に使用許諾はしてあるからね」

 

「この八咫烏を使おうと思ったら手をフリーにしておかないといけないからさ、《火ノ輪》は使えないんだよ。で、どうせならせっかくの装備を遊ばせておくのはもったいないからな」

 

 俺とシャルロットは笑みを浮かべながら一夏と箒を見る。

 

「「さ、まだまだ性能実験はこれからだぜ(よ)?」」

 




さて二人の新装備が出てきました。
バトル描写は苦手ですのでわかりづらかったら申し訳ありません。
装備の詳細は次回の話で書きたいと思います。

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