「はぁ…疲れた」
俺は言いながら額を流れる汗を拭う。
「お疲れ、シャルロット。箒と一夏もありがとう。おかげで参考になった」
「お、おう……」
「…………」
ピットの中で同じように汗を拭いていたシャルロットと一夏、水分補給をしていた箒に言う。
模擬戦はあの後、シャルロットの不規則な移動によって翻弄し、ここぞという時に俺が《火神鳴》や八咫烏の攻撃で確実にエネルギーを削っていくことで俺たちの勝利で終わった。
「で?そろそろネタばらしをしてくれないか?」
「ネタばらし?」
「二人の装備の話だよ」
箒の言葉に首を傾げると一夏が言う。
「試合の後にって話になってたね」
「あぁそう言えば」
シャルロットに言われて思い出す。
「俺とシャルロットの装備だけど、あれはそれぞれ――」
俺がふたりに説明しようと口を開いたが、それを遮るように背後からプシュッと空気の抜けるような音が聞こえた。
振り返る試合を観戦していた面々がぞろぞろとやって来ていた。貴生川さんは朝あったときと同じく台車に乗せられた大きな段ボール箱を押している。
「やぁ、四人ともお疲れ様。おかげでいいデータが取れたよ」
貴生川さんがにこやかに笑いながら言い
「あ、そうだアキラくん、預けてたものくれるかい?」
「え?アキラさん?どこに――」
「ん。こ、これ?」
「「「「うわぁぁぁ!!?」」」」
にゅっと段ボール箱から手が伸びて何かを差し出してきた光景に俺とシャルロット、一夏と箒が驚きの声をあげる。
「おぉこれこれ。ありがとう」
俺たちの驚愕はどこ吹く風で差し出された手提げカバンを受け取る貴生川さん。
「な、なな、なんで!?」
「そんなところに人が!?」
驚愕から抜けられていない一夏と箒。しかし俺とシャルロットはアキラさんの人となりを知っているので比較的すぐに衝撃から復活する。
「そんなに人見知り発揮するなら来なきゃいいのに」
「う、うるさい。な、生で見たかったんだ……」
俺の言葉に不機嫌そうに段ボールの穴から睨んでくるアキラさん。
「それで、これなんだけどね」
言いながら先ほどアキラさんが取り出したカバンを掲げて貴生川さんが言う。
「これ、今度うちで出すスポーツドリンク、よかったら。性能実験のお礼ってことで。正式なお礼は改めてさせてもらうけどね」
「それってこの間シャルロットと颯太がCM撮影した、あの?」
「ああ、そうだよ。近々発売でね。CMも明日から放送開始だよ」
にこやかに言う貴生川さんからカバンを受け取り三人に渡す。
ペットボトルの蓋を開け、乾いた喉にスポーツドリンクが流れる感触を楽しむ。
「うん、ぬるいっす」
「こう言うときはぬるい方がいいんだぞ。運動した後に冷たいもの飲むのは体に良くないんだよ」
「へ~……」
一夏の言葉に感心しながら二口目を飲む。
「………ぷはっ。で?皆さんお揃いでどうしました?」
一息ついた俺は勢ぞろいしている面々に視線を向けながら訊く。
「二人の装備についてよ」
「まだ私たちも答え合わせしてないから……」
「ああ、そうなんすね」
俺は師匠と簪の言葉に納得する。
「それで、いったいあれは何ですの?」
「ありえない軌道で移動するシャルロットの脚とか」
「お前の〝鳥〟…と言うか〝手〟の装備もだ。なんだあの桁違いの威力は?」
セシリア、鈴、ラウラがせかすように訊く。
俺は一瞬アキラさんと貴生川さんに視線を向ける。俺の視線ににこやかに頷く貴生川さんと少し箱から顔をのぞかせて頷くアキラさんに頷き返し、俺は口を開く。
「まずはシャルロットの装備についてだけど――」
「あれの名前は《マルチレッグ・スパイン》。指南コーポレーションで作った第三世代相当の装備です」
俺の説明を引き継ぐようにシャルロットが言う。
「本当は颯太の機体、『火焔』でデータ収集を予定してたんだけど、それだと颯太への負担が多いってことで見送られてたんです。でも、僕が指南に入ったことで僕の専用装備としてデータ収集することに決まったんです」
シャルロットの言葉に俺は同意する意味で頷く。
しかし、装備の内容を聞いた時は俺も使ってみたかった。あんな風に縦横無尽に動き回りたいものだ。
「それで詳しい性能の内容ですけど、通常時はフレキシブルに可動する追加推進ユニットで、展開させることで合計6本の新たな「足」となって、先端部は刺突武器として使用できるようになるんです」
シャルロットの説明に先ほどの試合でシャルロットが箒に行っていた〝脚〟での攻撃を思い出す。
「それで、あの機動力についてですが、あれは《マルチレッグ・スパイン》の最大の能力、六本の脚の先端でエネルギーを特殊な方法で硬質化させることで踏み台にして空間を縦横無尽に機動することができるようになるんです」
「つまりあのまるで壁や地面を蹴っているような動きは……」
「実際に蹴って移動しているからあの移動の仕方でしたのね」
「そうそう」
鈴とセシリアの言葉に俺は頷く。
「実際俺も初めて見た時は驚いたよ。体の向きはこっち向いてるのにそのまま右に左にピョンピョン飛び回るんだもん」
シャルロットが本社で初めて起動したときの様子を思い出しながら言う。
「なるほど、あの機動力の謎は解けたな」
織斑先生も納得したように頷いている。
「それで、デュノアさんの装備についてはわかりましたけど、井口君の装備はどういったものなんですか?」
山田先生の問いに頷きながら口を開く。
「俺の装備は《インパクト・ブースター》。駄うさg――じゃなかった、篠ノ之博士が作ってくれた装備です」
「いま、駄兎って言いかけなかった?」
「気のせいだろ」
鈴の問いにそっぽを向きながらすっとぼける。
「あれ?《インパクト・ブースター》?お前『八咫烏』って呼んでなかったか?」
「ああ、あれは俺が勝手に呼んでるだけ。俺の装備って日本風の名前ばっかりだから、その中で横文字だとなんか嫌だったから」
俺の言葉に少し納得したようにみな頷く。
「で、性能ですが、基本はAI操作での支援を行うことできます。セシリアのBT兵器みたいだけど、俺は装備多いですし俺の技術力では操りきれないんでAIに頼るしかないんですけどね」
俺は肩をすくめながら言う。
「それで、みなさん気になっているであろうあの威力ですけど、あれは《インパクト・ブースター》の真の力です。その能力は『火焔』の四肢に変形・合体することによって排熱効果を有した強力な一撃――エキゾースト・ヒートを放つことが出来るんです」
「排熱効果?」
俺の説明のその部分が引っかかったらしくラウラが訊く。
「そう、そこが《インパクト・ブースター》が『火焔』のための装備って言う所以だよ。あれがたった一発殴るだけであの破壊力を有するのは、あの一発につき『火焔』に溜まった熱エネルギーを消費して放つからなんです。一発につきだいたい平均20くらいですかね」
「それじゃあもしかして……」
「『火焔』の弱点がなくなる…?」
師匠と簪の言葉に頷く。
「でもそれをしたら颯太の単一仕様能力、『ハラキリ・ブレード』が使えなくなるんじゃ……」
「あれは詳細が分からないし威力もとんでもないから公式戦で使う気はないんだ」
「そうなの?」
俺の言葉に鈴が驚いたように訊く。
「だから、今後は『ハラキリ』について調べつつ八咫烏を活用ってことになったんです。――あ、それでですね、貴生川さん」
俺はふと思い出す。
「さっきの模擬戦でもやってましたけど、やっぱり八咫烏使ってると《火ノ輪》使えなくなりますね」
「やっぱりか」
「なので予定していた通りに……」
「そうだね、その方がよさそうだ」
「そ、颯太が全部の装備のデータ収集しなきゃいけないわけじゃないし…ふ、負担も減るだろうから…わ、私も賛成……」
貴生川さんが頷き、アキラさんも同意する。
「じゃあ予定してた通り――シャルロット君」
「はい?」
貴生川さんに呼ばれシャルロットが首を傾げる。
「颯太君が《インパクト・ブースター》を使おうと思うと、やっぱり《火ノ輪》は使う機会が減るようなんだ。うちとしてはデータの収集も目的としてるわけだし、使わないでおいておくのはもったいないんだ。だから――」
「シャルロットに《火ノ輪》引き継いでもらってもいいか?」
「え!?いいの?」
「ああ、俺以外に会社の操縦者ってシャルロットしかいないし。俺もずっと使ってて《火ノ輪》には愛着がある。どうせ任せるならシャルロットにお願いしたいんだ」
「そっか……うん!そういうことなら、《火ノ輪》は僕が引き継ぐよ」
「ありがとう」
シャルロットの言葉にお礼を言いながら俺は右手のリングを撫でる。
「……さて、新しい装備も入ったし、これからは《火ノ輪》には頼れないから、また頑張って特訓しないとな」
「僕も手伝うから、何でも言ってね」
「おう、よろしく頼むぜ」
シャルロットに頷きながら俺は新たな力に覚悟を固めたのだった。
さて、颯太&シャルロットの新装備の設定でした。
この二つって、特に《マルチレッグ・スパイン》はISのなかで出そうと思ったら設定を描きずらかったんですよね。
どうにか独自設定で出しました。
さてここでお知らせです。
先日予告した通り番外編の内容についてのアンケートを活動報告にて行っています。
どうぞ皆様ご協力お願いします。