IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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できるだけ投稿すると言っていたのにまた少し間が空いてしまいました。
すみません、体調崩して少し寝込んでました(^^;
今週はもう少し書きます。
せめて二学期が始まるくらいまで!


第85話 プールとフェチと理性崩壊

「……なるほど。桃源郷はここにあった。あぁ………絶景……」

 

「バカなこと言ってないで泳ごうよ、颯太」

 

 シャルロットの言葉に俺は顔を上げる。

 

「ほら、颯太君」

 

「せっかく来たんだから…行こう?」

 

 シャルロットと並んで師匠と簪が水着姿で立っていた。

 

「俺はもうちょっとこの絶景を――げふんっげふんっ!もう少しこうしてくつろいでいたい」

 

 言いながら俺は寝そべっていたベッドチェアに体を預ける。

 

「もう、せっかくプールに来たんだから泳ごうよ」

 

 そう、今日は俺たちは近くにできた大型レジャー施設のプールに来ている。

 明日で夏休みは終わる。

 そのためにちょうど仕事に余裕ができた師匠も一緒に遊びに来たのだ。

 

「ほら、俺ちょっとまだ精神的に不安定じゃん?」

 

「「「……………」」」

 

 俺の言葉に疑わしげなジト目で見てくる三人。

 

「ホントだって!何のために今日はこうして遊びに来たと思ってんですか?」

 

「それは……」

 

「そうだけど……」

 

「でもねぇ……」

 

「ほら、この間一夏でも駄目だったんですよ、俺」

 

「「「あぁ~……」」」

 

 俺の言葉に三人が苦笑いを浮かべる。

 そう、今日ここに来たのは俺のトラウマ解消にも関係がある。

 これは俺が日本に帰ってきたその日の夜にまで遡る。

 

 

 〇

 

 

 

「――というわけなの」

 

「ええ!?それ颯太は大丈夫なんですか!?」

 

「たぶん大丈夫だとは思うけど……」

 

 食堂で事情を聞いた一夏は叫び、楯無はため息まじりに言う。

 食堂では一つの机を囲うように一夏、箒、セシリア、鈴、ラウラ、そして楯無がいる。

 

「ドイツにもそう言ったやつはいたが……颯太の行った環境はあまりにも極端だな」

 

 ラウラもなんとも言えない顔をする。

 

「しっかし、颯太も行く先々で問題に会うわね。どこかの体は子供頭脳は大人な主人公みたいね」

 

「なかなかに災難な方ですわね、颯太さんも」

 

 鈴とセシリアはやれやれといった顔で言う。

 

「それで、颯太のやつは?」

 

「とりあえず落ち着いたから簪ちゃんとシャルロットちゃんが着いててくれてるわ。そろそろ来ると思うんだけど」

 

 箒の問いに楯無が答えるとともにタイミングよく簪とシャルロットに付き添われて颯太が現れる。

 

「颯太!」

 

「あ!待って一夏君!今の颯太君には近づいちゃ――」

 

 楯無が制止する言葉も最後まで聞かず一夏が颯太に向けて駆け寄る。

 

「颯太!」

 

「………っ」

 

 一夏の姿を視界に捉えた颯太は一瞬顔を強張らせ、一夏に駆け寄るように走り出すがなぜか全速力。およそ心配して駆け寄る友人を迎える速度とは思えない。そして――

 

「一歩音越え……二歩無間……三歩絶刀!『無明三段突き』!!」

 

「へ……?――ぐへっ!」

 

 目の前にいた颯太を一瞬見失った一夏はあたりを見回そうと歩を止めたところでお腹に衝撃を感じるとともに吹き飛ばされる。

 

「ぐおぉぉぉぉ……」

 

「フシュー……フシュー……」

 

 お腹を押さえ悶える一夏と謎の呼吸を繰り返す颯太を呆然と箒たちが見つめる中

 

「なんか怪物みたいな呼吸になってるよ」

 

「颯太落ち着いて!」

 

 フォンフォンフォンフォンフォン

 

 心配そうに言うシャルロットと、笛のようなものをそれから伸びるヒモを持って回し「フォンフォン」とまるで某風の谷の姫のように音を鳴らしながらゆっくりと近づく簪。

 

「落ち着いて、颯太君。あなたは人間よ」

 

「……オレ…ニンゲン……」

 

「そうあなた、人間」フォンフォンフォンフォン

 

「そして、彼は一夏。彼は味方、敵じゃない」

 

「イチカ…ミカタ……テキジャナイ……」

 

「「「そう!」」」

 

 芸ができた犬を褒めるようによしよしと颯太を撫でる三人と突進されて吹き飛ばされたまま蹲る一夏を呆然と見ながら箒、セシリア、鈴、ラウラは呟く。

 

「「「「………何これ?」」」」

 

 

 

 〇

 

 

 と、まあそんなこともあり、俺のトラウマ解消のために人の多い場所としてここ、大型レジャー施設のプールにやって来たのだ。

 

「あそこから考えたら回復した方だと思いません?」

 

「確かにそうだけど……」

 

「というか今思い出してもあの突進の技すごいよね」

 

「いつの間にあんな技を…?」

 

 三人が訊くが

 

「昔何かの漫画で読んだ縮地って技を真似してみた」

 

「漫画の技を……?」

 

「真似しただけ……?」

 

「それであの技……?」

 

「まあ真似したって言っても本当にあんなだったわけじゃないよ。それっぽく速く走ってタイミング合わせて姿勢を縮めることで一夏の意識から一瞬逃げて、俺を見失ってる間に全力で近づいて突進かましただけ」

 

「「「…………」」」

 

 俺の言葉に三人が呆然としている。

 それが何か?と思いながら首を傾げるが三人はもはや慣れっこだ、もうあきらめたとでも言いたげな表情でため息をつく。

 

「なんですかその『まったく…これだから颯太君は……』みたいな顔は?」

 

「あ、ごめん。口に出しちゃってた?」

 

「思ってたんかい!」

 

 師匠がしまったとでも言いそうな顔で言う。

 

「だって颯太君のそういうところってもう……ねぇ?」

 

「颯太のそういうところってホント普通じゃないよね」

 

「もう…あきらめた」

 

「えぇ……失礼ですね。てか正直あれは精神的に変だったからできたわけで、冷静な今もう一度やれって言われてもたぶん無理だね」

 

「そう言われてもあれを咄嗟にできるって言う時点でねぇ」

 

「なんだよそれ。まるで人を変な人みたいに」

 

 俺は口をとがらせて体ごとそっぽを向く。

 

「あぁーもう拗ねないで一緒に遊びましょうよ」

 

「………はぁ……わかりましたよ。でもあんまり人がいるところはやめてくださいよ。まだ正直男の人がいるとやられる前にやれって気持ちが出てくるんで。あ、女の人ばっかりならいいですよ。むしろウェルカムです」

 

「「「…………」」」

 

「………なんですかその眼は?」

 

「なんか颯太君……」

 

「アメリカから帰ってから……」

 

「スケベになった…?」

 

「なっ!?」

 

 三人の言葉に俺は絶句する。

 

「失礼な!俺はもともとこんなですよ!」

 

「じゃあもともとスケベ?」

 

「ちっげぇよ!」

 

「じゃあ変態?」

 

「それも違う!」

 

「でもさっきからあそこの50mプールの競泳水着の人凝視してるわよね?」

 

「……………ナンノコトデスカナ?」

 

 師匠の言葉に俺はゆっくりとそっぽを向きながら言う。が、うっかり声が裏返ってしまう。

 

「とぼけたって駄目よ。あなたがあの競泳水着女子を見ていたのはわかってるんだから」

 

「諦めて罪を認めた方がいいよ」

 

「今ならまだ罪は軽い……」

 

「………そうだよ俺が犯人だ!」

 

 俺はまるで二時間サスペンスで崖の上に追い詰められた犯人の様に言う。

 

「まったく。颯太君は何?競泳水着フェチ?」

 

「なんか変なフェチにされてますけど違います。俺はただなんとなく見てただけです」

 

「「「なんとなくぅ?」」」

 

 俺の言葉に疑わし気に見てくる三人にその競泳水着女子を指さす。

 

「見てください。あの人は俺たちと年のころも近い。そしてあの綺麗な泳ぎのフォームからしてきっと水泳部員です」

 

「うん、それが?」

 

 俺の言葉に三人が頷きながら続きを促す。

 

「俺はただ、決して大きいとは言えなくても毎日の部活で鍛えられた胸筋に内側から押し上げられ外側からは抵抗をなくすために開発された競泳水着によって圧迫されている胸!その美しく爆発しそうなほどのエネルギーを蓄えた感じを見ていただけなんだ!」

 

「「「………」」」

 

「なんですかそのゴミを見るような眼は?冗談ですよ?」

 

「「「なんだ冗談か……」」」

 

 俺の言葉に一瞬で元の表情に戻った三人は安堵のため息をつく。

 

「冗談に決まってるじゃないですか。人を何だと思ってんですか?」

 

「いやぁだってガチトーンだったんだもん」

 

「昔見たアニメのセリフ真似しただけです」

 

 師匠の言葉に肩をすくめながら言う。

 

「それをそんな三人ともそろいもそろってゴミでも見るような眼で……」

 

「でもあれはねぇ……」

 

「それっぽかったから」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「まったく……それじゃあ行きますか。せっかく来たわけだしそろそろ遊ばないと損だし」

 

 言いながら俺はベッドチェアから立ち上がる。

 

「で?初めは何から行きますか?」

 

「う~ん……あのウォータースライダーかなぁ。楽しそうだし」

 

「じゃあそれで行きますか」

 

 師匠の提案に俺は頷いて歩きはじめる。

 

「……で、結局颯太はあの競泳水着の人の何見てたの?」

 

「ん?足」

 

「「「え!?」」」

 

「すらりと伸びた鍛えられていながら女性らしい柔らかさを兼ね備えているあの脚を見ていたけど何か?」

 

「………変態」

 

「変態じゃないよ。仮に変態だとしても変態という名の紳士さ」

 

 簪の言葉に俺は笑いながら言うが三人は苦笑いを浮かべるばかりだった。

 




というわけで理性が若干狂っちゃった颯太君です。
徐々に元の颯太君には戻るとは思いますが根本がおかしくなった節があるんでちょくちょく変な颯太君がこれからも登場すると思われます。

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