【習作】一般人×転生×転生=魔王   作:清流

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大変遅くなりまして、申し訳ありません。
原作と結構乖離してきてるので、回帰する意味と差異を明らかにする為に、原作にあったリリアナの謁見を書いてみました。

※原作コピーではないつもりですが、もしそう感じられたら、躊躇なくご指摘下さい。即座に消しますので。


第三章:暴君襲来
#10.暴君と銀の妖精


【騎士リリアナ・クラニチャール、ブカレストにて『王』との謁見を果たす】

 

 高層ホテルのスイート、豪奢で快適ではあったが、その主に比しては明らかに位負けしていた。

 だが、それも当然である。なにせ、この部屋の主は東欧の魔王サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。

 この世に8人しかいない神殺しの魔王であり、世界中の魔術師達から王として畏怖されるカンピオーネなのだから。

 

 「―――君がクラニチャールの孫娘か。あの狂宴の際にも会っていたはずだが、君の顔には見覚えがないな。……ああ、物覚えが悪い老いぼれだとは思わないでくれ。あの時の私は、あの愚か者と慮外者の横槍で些か以上に激昂していてね。それ以外の些事はどうでも良かったのだよ」

 

 その声は明晰で、知的ですらある。銀色の髪は綺麗に撫で付けられ、髭も丁寧に剃られており、青白い顔色と深く窪んだ眼窩とその痩身から、大学教授のようにすら見える。

 だが、その眼光の鋭さとがそれら全てを台無しにしていた。知的には見えるが、この老人の本質は獰猛な獣である。それも獲物の鮮血を全身に浴びてなお、さらなる闘争を求めて猛り狂う狂獣の類である。

 それをリリアナはよく理解していた。故に、自身の身命がどうでもいい些事であるとはっきり告げられたにもかかわらず激することなく、むしろその程度の扱いである事に胸を撫で下ろしていた。

 

 「御身をはじめとした王達の宴に、私如きにかかずりあうことなどありえぬことでしょう。侯がお気になさる必要はございません」

 

 リリアナは儀礼的に返答しながら、騎士の礼を取った。

 ―――魔術結社《青銅黒十字》に所属し、齢16にして大騎士の称号を持つ魔術師である俊英。銀褐色の長髪をポニーテールにしてまとめ、妖精を思わせる端正な顔立ちに凛々しさと可憐さを同居させたミラノの誇る神童の片割れ。それがリリアナ・クラニチャールという少女だ。

 

 しかし、その彼女であっても、目の前の老人には足元にも及ばない。

 許されるのは、ただ礼を尽くし、通り過ぎるのを待つことだけだ。

 

 「それは結構。さて、早速だが本題に移ろう。君をわざわざミラノから呼び寄せた理由についてだ」

 

 そんなリリアナの心情を知ってか知らずか、緑柱石(エメラルド)の色の瞳を、ヴォバンは僅かに細めた。

 この邪眼こそが『ソドムの瞳』、視線の先に立つ生者を塩の柱へと変える。ケルトの魔神バロールから簒奪したと言われる権能―――他にも『貪る群狼』『疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドランク)』『死せる従僕の檻』など、彼が所有する権能の数々を、欧州の魔術師で知らぬ者はいないだろう。

 

 「あの狂宴の原因となった儀式を忘れてはおるまい?『まつろわぬ神』を招来する大呪の儀―――あれだ。君にも協力してもらったあの秘儀を、今一度試してみようと思っているのだよ」

 

 魔王のなんでもないような言い様に、リリアナはまじまじとその顔を見つめ返した。

 少なからぬ犠牲を出した、あの大魔術。それは結果として二人の魔王を招きよせ、欧州を震撼させた。その爪痕だけで欧州の魔術師達に王の威と力を刻み付けた三人の魔王による狂える破壊と闘争の宴―――『魔王の狂宴』のきっかけとなった忌まわしい儀式。

 最早、欧州の魔術師では、試すことすらしないであろうそれを行うと聞いて、リリアナは戦慄を隠せなかったからだ。それに疑問もある。ヴォバンが行う以上、招来したまつろわぬ神と戦うためだろうが、なぜ今なのか?

 

 「あの時は、神無とサルバトーレめにしてやられた。神無は私の儀式をすんでのところで邪魔をし、サルバトーレめはその隙に儀式を乗っ取り、まんまと招来された神を横取りした。私の邪魔をする輩も、私の獲物を横取りする痴れ者もいるとは予想していなかった。まさか、正体を隠した王がいようとは思いもしなかったし、あんな若造が世に出ていたと思っていなかったからな!」

 

 憤懣やるかたないと言わんばかりに吐き出すようにヴォバンは言い、邪眼の虹彩を揺らめかせた。

 当時、正体を隠していた六人目の王神無徹の存在を世に知らしめ、七人目の若き魔王サルバトーレ・ドニの名を欧州の魔術界に轟かせた事件―――『魔王の狂宴』。『古き王』に真っ向からたてついた『正体不明の王』と、獲物を奪った『剣の王』、神殺しの顛末。

 儀式の巫女として、その場に居合わせたリリアナは、その一部始終をはっきりと記憶している。未だ拭えぬ恐怖と畏怖と共に……。

 

 「後三月ほどで、かの儀式に適した星辰と地脈の流れが四年ぶりに整うらしい。―――そうなのだろう、カスパール?」

 

 何者かに確認するような問と共に、ヴォバンの愉しげな視線がリリアナの背後に唐突に向けられる。

 ―――ぞくり。

 リリアナは不気味な悪寒と共に、背後に明確な気配を感じ取った。大騎士である己の背後を悟らせることすらなく取るとは、何者なのか!?

 焦燥にかられながらも、距離をとるべく素早く飛び退き、背後を振り向き、息を呑んだ。

 

 背後に佇んでいたのは、黒衣の老人だった。ヴォバンの問にぎこちなく頷いてみせたが、それはどこか機械じみた動きであった。

 黒衣の老人は無表情であり、目には光がない。血色のない蒼白色の顔色に酷く虚ろで、焦点さえも合っていないその様は死相そのものだ。それも当然、老人は動く死体そのものなのだから。

 

 (―――これが『死せる従僕』たち!)

 

 魔王に抗いし勇者達の末路がこれだ。老王は自ら屠った人間を、生ける死者(リビングデッド)と化し、忠実な従僕として絶対服従させる。老王の権能に囚われた彼らは、死して尚救われることはないのだ。

 

 何とむごい。正直、今すぐにでもこの場を立ち去りたいというのが、リリアナの偽らざる本音であった。

 しかし、名門クラニチャールの血統と魔術結社《青銅黒十字》の大騎士という立場が、リリアナの魔王への反抗を許さない。それに自身のライバルである《赤銅黒十時》の大騎士エリカ・ブランデッリが八人目の王草薙護堂に肩入れする余り六人目の王神無徹の怒りを買い、本人の命どころか《赤銅黒十字》の存続すら危ぶまれたという話も聞いている。

 ましてや、その期に乗じて老王との結びつきを強め、仇敵たる《赤銅黒十字》と差を確固たるものにしようとしている祖父に言い含められている己が、ライバルの二の轍を踏むわけにはいかないのだから。

 

 せめてイタリアの盟主たるサルバトーレ・ドニが万全であれば、このような事態は避けられたのだが、彼は草薙護堂との決闘での負傷が癒えたばかりである。流石に老王相手の抗争は無理があるだろう。

 

 (草薙護堂……あの女狐共々ろくなことをしませんね!)

 

 リリアナは己の現状を招いたライバルと、まだ見ぬ八人目の王を内心で呪った。

 

 「クラニチャールよ。君は、四年前に私が集めた巫女のひとりであった。君も優秀な巫女であったが、あの時最も優れた力をみせた巫女は誰だったか、覚えているかな?」

 

 神を招来するために、王の強権で集められた数十人の巫女達。神無徹が介入したのは、彼の義妹がこの巫女として誘拐されかけたからだという。実際、儀式を終えた後、彼女達の三分の二が正気を失い、心に深い傷を負ったというのだから、かの王の反応も無理もないことであろうが。

 因みにリリアナは幸運にも、無事であった方の三分の一に属していた。

 

 「あの時、量よりも質が重要だと思い知ったのだ。無数の石ではなく、玉、いや選りすぐりの珠玉こそを集めるべきであったのだとな」

 

 エメラルドの邪眼が、面白げにリリアナを射抜く。

 お前如き小娘一人の叛意などお見通しだと言わんばかりに。

 

 「確か東洋人だったか?あの娘の名と素性を、覚えていないかね?」

 

 リリアナは一瞬躊躇った。正直に答えるべきか、否か迷ったのだ。

 それはある意味、当然だ。少女の幸せを考えるならば、この老王に関わるべきではないのだから。

 だが、彼女の明晰な頭脳はここでとぼけても殆ど無意味であり、むしろそれによって自身が外されることによって少女に降りかかる危険が制御できなくなることの方が危険であると判断を下していた。

 それは多分にリリアナ個人の青臭い正義感と騎士としての誇りが含まれた判断ではあったが、それは少なくともこの場では正解であった。

 

 「名はマ…「名は万里谷祐里。日本人で、出身は東京らしいな。武蔵野の媛巫女の一人で霊視術に優れるそうだ」…侯、知っておいでだったのですか?」

 

 リリアナの言葉を遮り、ヴォバンは彼女が知る以上のかの巫女の情報を諳んじて見せたからだ。

 

 「ふふふ、気を悪くしないでくれたまえクラニチャール。別にかの巫女を調べようと思ったわけではないのだ。私の邪魔をしてくれた慮外者について調べさせている時に、偶然手に入った情報に過ぎんのだ。

 だが、安心したぞ。君が浅はかな愚か者ではなくて」

 

 そう言って、ヴォバンは意地悪げに笑う。

 

 「……」

 

 先の問は、自身への試しであり確認であったのだと悟り、リリアナは黙り込む。

 何か口を開けば、全て見透かされてしまいそうに感じられたからだ。

 

 「ああ、ちなみに言えば犬は好かんな。従順で、媚を売るだけの犬など反吐が出る。私は狼が好きなのだよ。時に逆らい牙を剥く狼が好きなのだ。その程度の気概もなくば、そばに置く気にもならん。……そういう意味では、君はなかなか私好みの狼だぞ、クラニチャール」

 「―――光栄と申し上げておきましょう、侯」

 

 愉快気なヴォバンの物言いとは対照的に、堅過ぎる口調で礼を言うリリアナ。

 その様子をニヤリと彼は笑い、とんでもない爆弾発言をした。

 

 「私がこの足で、日本に往こうと思うのだよ。ふむ、考えてみれば久しぶりだな、海を越えるのは」

 

 リリアナはその言葉の意味するところに、一瞬凍りついた。

 

 「お待ちください、侯。かの国への呪術干渉は……!」

 

 容易に想像できてしまう最悪の未来を避けようと諌めるが、当然の如く老王には無意味であった。

 

 「無論、知っているとも。あの慮外者が小癪にも護国を掲げていることも。

 だが、それがなんだというのだ?私に何の関係がある?それともクラニチャール、君は私にあの慮外者に配慮せよと言うのか?」

 

 エメラルドの邪眼がリリアナを射竦める。下手なことを言った瞬間、己が塩の柱にされるであろうことをリリアナは本能的に悟った。

 

 「ッ!そ、そのようなことはけして……。

 ただ、日本には侯の同胞たる御方がもう一人いらっしゃいます。せめて、そちらにだけでも先にお話を通された方がよいのではございませんか?」

 

 リリアナは老王の射殺さんばかりの視線に耐えながらも、あえぐようにどうにか言葉を発する。

 最早、六人目のカンピオーネ神無徹との抗争は避けられないのは明らかだが、この上さらに八人目のカンピオーネ草薙護堂まで加わったら、どんな地獄絵図になるか分かったものではない。それだけは防ぎたかったのだ。

 そんな一縷の望みをかけての進言であったが、ヴォバンの返答はにべもなかった。

 

 「その必要はなかろう。ぽっと出の新参になど用はない。それでも話をしたいのであれば、そやつの方から参ればよいだけだ。

 それに日本はあの慮外者の版図であろう。我が所領において、正体を隠し狼藉の限りを尽くしたのは奴の方が先よ。なればこそ、私があの国で暴れたところで文句を言われる筋合いなどない」

 

 新参の魔王を歯牙にもかけず、最古参の魔王は鼻で笑い、リリアナの進言を退ける。

 

 (そういうことか!)

 

 リリアナはようやく合点がいった。

 なぜ、このタイミングでと疑問だったが、正体不明の六人目の王がその正体を現したからこそ、老王は今動くことにしたのだ。無論、『まつろわぬ神』を招来する大呪の儀に適した星辰や地脈が整うというのも嘘ではないだろうし、巫女の確保も目的であるのは間違いない。

 

 だが、それは結局のところかの王の庇護下にある日本で暴れる為の名目に過ぎないのだろう。

 なぜなら、リリアナが知る以上にかの巫女を調べあげているのならば、直接赴く必要など皆無である。ただ、ヴォバンが一言命じるだけで済んでしまうのだから。

 

 ―――『まつろわぬ神』を招来する大呪の儀も、その為の巫女の確保も全てはついでに過ぎない。

 ―――神無徹との抗争こそが日本に渡る真の目的であると、ヴォバンは言外に告げていたのだ。

 

 「クラニチャール、君には供を命じる。まさか、嫌とは言うまいな?」

 

 否と言えれば、どれ程よかったであろうか。若しくは、わざと遅れておいていかれるのが許されるのであれば、どんなに良かったであろうか。魔王同士の抗争に巻き込まれるなど、一度でも十分過ぎる。二度目など絶対に御免であるのだから。

 

 しかし、現実は非情であり、《青銅黒十字》のおかれた現況とその身に流れる血がそれを許さない。

 いや、最初から分かっていたことではないか。いかに若年で大騎士の位階に昇った俊英であっても、王の前では無意味であると。結局、己もまた王の足元にも及ばず、その暴虐の前にはひれ伏すことしかできないのであるから。

 

 「……承知いたしました。準備にしばしの時間を頂けるでしょうか?」

 

 深い諦念と共に受諾するリリアナを、ヴォバンは満足そうに眺めつつ言った。

 

 「では、一時間で準備を済ませたまえ。ああ、一秒たりとも待たぬので、そのつもりでいてくれ」

 「御意」

 

 そう言って、足早に退室していく銀の妖精を愉しげに笑みすら浮かべて見つめていたヴォバンだったが、その姿が見えなくなり、一人になると表情を消した。

 そうして、一瞬後には、その顔は押さえきれぬ憤怒に染まっていた。

 

 「若造、いや、神無徹よ。あの日の屈辱を私は忘れたことなどないぞ」

 

 ヴォバンは四年前の屈辱を片時も忘れたことはなかった。

 正体を隠しながら、己に真っ向から刃向かい邪魔をした慮外者たる同胞のことを。

 

 「あの時は貴様に邪魔され、獲物を痴れ者に掠め取られたが、此度はそうはいかぬ。貴様の大事な母国で、貴様の庇護する民を使い、まつろわぬ神を招来してくれよう。それが私なりの貴様への報復だ!」

 

 その忌まわしき同胞が正体を現し、報復の時は来た。

 現存する最古の神殺したる老王は、その暴虐の爪牙をもって、かの王の全てを蹂躙することを誓っていた。


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