【習作】一般人×転生×転生=魔王   作:清流

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だから、なぜまた余計なものを書いているんだ!?
次こそは、ヴォバン戦に……いけるといいなあ。


#12.剣王の助言と忠告

 ある夜、八人目のカンピオーネである草薙護堂は、思わぬ人物からの電話を受けていた。

 

 「はい、草薙です」

 『……やあ護堂、ひさしぶりだね。元気にしていたかい、我が友よ?』

 

 聞き覚えがのある、そして、できれば永遠に聞くことがないことを祈っていた声が受話器から無情に響く。

 深みのある、無駄にいい声でやたらに馴れ馴れしい。それに該当する人物に思いあたった瞬間、護堂はすぐさま受話器をおいて、電話を切った。

 

 「……くそっ。あの野郎、ついに復活しやがったか!」

 

 誰かの不幸など基本的に願ったりしない護堂であったが、この相手だけは話が別であった。

 すぐさま、電話線を引っこ抜き、再度の受信を阻止する。

 が、敵もさるもの。護堂の目論見は、私室に戻ったところで、自身の携帯電話が鳴り出したことで瓦解した。

 僅かな希望を抱いて、着信画面を見れば、送信者は「通知不可能」。

 やはり、海外からの電話なのか?無視することも考えたが、ある日突然「電話にでてくれないから直接来ちゃった♪」なんて真似をしかねいので、リスクが大きすぎると判断し、その選択肢を捨てた。

 鳴り続ける携帯電話を一瞥し、護堂は深々と溜息をつくと、諦観と共に覚悟を決め、通話ボタンを押した。

 

 『いきなり電話を切るなんて、ひどいじゃないか!』

 

 「あんた、俺に何をしたのか忘れたのかよ」

 

 電話の相手は、同胞にして天敵たる七人目のカンピオーネ、サルバトーレ・ドニであった。金髪碧眼で、長身のハンサム。イタリアの盟主であり、『剣の王』の異名をとる欧州最強の剣士である男。

 

 護堂がカンピオーネとなってまだ間もない頃、ドニは一緒に茶でも飲まないかレベルの軽さで護堂に決闘を申し込み、それを袖にされるや否やエリカの所属する赤銅赤十字に護堂を襲撃させ、結果として護堂はなし崩し的に決闘する羽目になったのであった。

 今になって思えば、エリカのことがあったとはいえ、のこのことイタリアへ赴きドニの思惑にのってしまったのは、苦い思い出である。

 

 まあ、そんな迷惑極まりない男なので、神殺しとして先達で年長者であるのに敬意も持てず、敬語を使う気にすらなれない。それどころか、心の奥底で微妙な敵愾心が燻る相手なのだ。

 

 『うんうん、あの時の君は本当に素晴らしかった。避けられない死を超えて、燃え上がるような闘志と共に死力を尽くしてきて―――僕も全力でそれに応えた』

 

 「何、いい話みたいに言ってやがる。格下の俺相手に、あんたが大人気なく全力でケンカしてきただけだからな」

 

 『雄羊』の化身のおかげでこうして生きているとはいえ、実際一回死ぬ羽目になったくらいである。しかも、色々な人に迷惑をかけてしまい、エリカにも盛大に怒られた。やったこと自体は後悔していないが、正直浅慮極まりなかったというのは認めざるをえない。

 

 『あの決闘で僕らは感じあったはずだ。互いがいずれ幾度となく死闘を繰り返す、永遠の好敵手である、と。そんな僕達こそ、親友と呼ぶに相応しいだろう?君の国の格言にも、『強敵と書いて友と訓む』とあったはずだし』

 

 「感じてない!俺はそんな気の迷い、一瞬たりとも感じていないぞ!後、漫画の話を現実に持ち込むな!」

 

 『―――というわけで、永遠のライバルたる君よ。僕のことは、親愛と敬意をこめてサルバトーレと呼んでくれ。あれだ、トトと愛称を使ってくれてもかまわないが』

 

 護堂が何を言ったところで、この男には暖簾に腕押し、糠に釘のようであった。

 その後、護堂が愛称で呼ぶことを「死んでもゴメン」とはっきり拒否したにも関わらず、ドニはツンデレなどほざいたので、いい加減やってられなくなって電話を切ろうとしたところで、ドニはようやく本題に入った。

 

 『ま、待ち給え、友よ。今日は君にアドバイスしようと思ってね。……君は『魔王の狂宴』と呼ばれる事件を知っているかい?』

 

 「『魔王の狂宴』?確かあんたと近所に住んでいる偏屈じいさんの大魔王、後当時は正体を隠していた……六人目がオーストリアで起こした大規模破壊事件だろ」

 

 護堂が直接関わったわけではないが、同胞が起こした事件として、エリカから聞かされていた。特に護堂が関わった二人の王、ドニと神無徹を語るには欠かせない有名な事件でもあったからだ。

 

 神無徹のことを迷いながらも六人目と呼称したのは、未だ完全に蟠りを捨て切れないからだ。

 無論、理不尽な怒りなどではない。子供扱いされた挙句、尻拭いまでしてもらったのだから、さしもの護堂も完全敗北を認めるほかないからだ。そのことに対する悔しさというか、むしろ己の情けなさへの怒りが心中に蟠っていたのである。

 

 『うん、あれは楽しかったなあ。今の体質になって以来、初めて死を覚悟したくらいだからね。是非、またやってみたいよ。あ、今度はメンバーを入れ替えるのもありかな?護堂もどうだい?』

 

 「絶対に御免だね。そんなことになったら、真っ先に逃げてやる」

 

 『またまた~、君はなんだかんだ言っても、結局逃げずに戦うと思うけどね。

 まあ、本当に嫌なら今すぐ逃げることだね』

 

 「ハアッ、なんでだよ?」

 

 『だって、このままだと確実にそうなるだろうかね』

 

 「俺は六人目とケンカする予定なんてないぞ!」

 

 『チッチッチッ、いやいや君は勘違いしている。今回に限って言えば、君はおまけさ。主役はヴォバンのじいさまと六人目神無徹さ。二人とも、狼の権能もってたし狼王決戦だね』

 

 ドヤ顔で指を振るドニを幻視し、護堂はイラッとした。

 

 「なんで、その二人が日本で対決するんだよ!?六人目はともかく、その爺さんは東欧の魔王なんだろ?」

 

 『いやー、実はね、ヴォバンのじいさま、いま東京にいるはずなんだよ。でもって、あの二人は、儀式を邪魔した側とされた側だからね。因縁があるんだよ。もっとも、肝心の神様は僕が美味しく頂いたんだけど。

 君も気が向いたら、ちょっとケンカでも売りに行くといいよ。現存する最古のカンピオーネというだけあって、権能も多彩で些か以上に歯ごたえのあるじいさまだからね』

 

 「アホか、誰がそんな真似するか!」

 

 大体にして、徹から次の行動は心してしろと言われているのだ。自分からケンカを売りに行くなんて軽率な真似をしたら、あの護国の鬼にどんな目に合わされるか分かったものではない。―――いや、確実に殺される。

 

 『あっ、分かった。護堂も僕みたいに二人が殴り合っているところに、乱入する気だね。それはいいね、盛大なお祭りになりそうだ。……今からでも僕もそっちに向かうべきかも』

 

 「やめろ馬鹿!絶対に来るなよ!来たら、金輪際お前とは戦わないからな!」

 

 最古の魔王に徹だけでもいっぱいいっぱいだというのに、その上ドニなどどうなるものか分かったものではない。下手をしなくても、東京が更地になりかねない。絶対に阻止しなければならない。

 故にこそ、ドニに一番効くであろう脅しを護堂は躊躇いなく持ち出したのだった。もっとも、元より二度とやり合いたくない相手だし、その予定もないので、護堂に損はないのだが。

 

 『あー、それは困る。君がウルスラグナの化身を全て掌握したら、リベンジマッチの予定だしね。まあ、あの二人との巴戦は一回やったし、不完全な君に邪魔されるのも微妙だから、今回は諦めるよ、うん。それに彼とは、1対1でやりたいからね』

 

 「そうか……。それにしても、六人目とサシで?あの人がそんなのに応じるとは思えないけど」

 

 『彼と因縁があるのは、ヴォバンのじいさまだけじゃないのさ。きっと招待状を送り届けたら、これ幸いと僕を始末しに来るだろうね』

 

 「おまえ、あの人にも何かやらかしたのかよ……」

 

 護堂が呆れた様に言うが、それにこたえるドニの口調はどこまでも悪びれず楽しげですらあった。

 

 『彼個人に何かしたわけじゃないんだけどね。僕がやったことは彼にとって許せない―――おっと、これは内緒の話だった。とにかくやり合うだけの理由はあるんだよ』

 

 「本当に何をしたんだよ」

 

 護堂は、ドニが余程のことをやらかしたのだとあたりをつける。あの徹が他国の王であるドニを躊躇いなく殺害するというのだから、相応の理由があるのだろうと。

 

 『ハハハッ、本当に偶然だったんだけどなー。

 あっ、それはそれとして、一つ忠告だ』

 

 ドニは一頻り笑った後、ガラリと雰囲気を変えた。

 

 「忠告?何だよ?」

 

 『ヴォバンのじいさまにケンカを売るのはいいけど、彼とはやらない方がいい。今の君だと、容赦なく殺されるよ』

  

 「なっ!?」

 

 『彼には、僕やじいさまのような遊びは存在しない。はっきり言って、君との相性は最悪だ。だから、彼にはなるべくケンカを売らないでくれよ。少なくとも日本国内では絶対に駄目だ。僕とのリベンジマッチの前に死んでもらっては困るからね』

 

 ドニの忠告は、どこまでも自分本位で一方的なものであったが、その声色は今までとは全く違う真剣なものであった。

 

 「おい、待て。相性が悪いって、それに国内じゃ駄目って、どういう意味だ?」

 

 『……それじゃあ護堂、すまないがこの辺で失礼するよ。強くなった君との再会を楽しみにしている、友よ』

 

 護堂は思わず聞き返すが、ドニは答えず、電話は切られた。

 

 「俺にどうしろっていうんだよ……」

 

 何も返さなくなった携帯電話を握りながら、護堂は一人苦悩するのだった。

 


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