【習作】一般人×転生×転生=魔王   作:清流

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#20.王の殺意

 「では、第三ラウンドと行こうではないか?」

 

 そう言って、現存する最古の魔王サーシャ・デヤンスタール・ヴォバンは不敵に笑う。

 護堂が言霊の『剣』で権能とその身を切り裂き、そしてダメ押しに『山羊』の権能で、特大の稲妻を叩き込んで殺したというのに尚、その総身には力と有り余る戦意が満ち溢れていた。

 

 「そっちが望むなら、いくらでも付き合ってやるよ!……復活したとは言え、一度死んだのに元気すぎだろ」

 

 流石の護堂もこれには呆れた。

 自分達神殺しが、常軌を逸しているのはいつものことだが、復活して呪力も明らかに目減りして息を荒らげているにも拘わらず、これである。

 むしろ、戦意においては、死ぬ前よりも向上しているような気すらするのだから、然もあらん。

 

 しかも、それは虚仮威しなどでは断じてない。明らかに護堂が総身に感じる圧が増しているのだから。手負いの獣は恐ろしいというが、ヴォバンはまさにそれであった。

 

 「なに、折角歯ごたえのある戦いになったのだ。望外の結果とは言え、愉しまなければ勿体なかろう?

 さあ、今一度稲妻比べと行こうではないか!」

 

 ヴォバンの上にある雷雲が再び厚みを増す。

 

 「上等だ!……!?」

 

 受けて立とうとした護堂は、自分に向けて高速で何かが突っ込んでくることに気づいて、驚愕した。

 

 「ご無礼をお許しください!王よ!」

 

 そこに敵意や害意が混じっていれば別だったろうが、必死さしか感じられないその動きに護堂は動けなかった。正確には迎撃する意欲が削がれたと言うべきだろう。

 

 「クラニチャールだと!?なんのつもりだ!」 

 

 魔女の秘奥である飛翔術によって、護堂とエリカを浚って高速で離脱したのは、ヴォバンに従っているはずのリリアナであった。

 

 

 無論、それを黙って見過ごすほど、ヴォバンは甘くない。即座に落雷の洗礼を浴びせようとしたが、それはかなわなかった。

 なぜなら、間髪入れずに業火の柱に包まれていたのだから。

 

 

 

 

 

 「流石にここまでやれば成功するか……。」

 

 当然ながら、今ヴォバンを焼き払おうという業火の柱は、私が仕掛けたものである。

 巫女300人をトランス共鳴させた不動明王の火界呪を、束ねて私自身の火界呪に上乗せして放ったのだ。

 いかに通常の呪術を無効化するカンピオーネといえ、同等の呪力どころか凌駕する呪力を込められた術を無効化出来るほど万能ではないのは、自身で確認済みだ。まして手負いで呪力を大幅に減じた今のヴォバンならば、命にも届きうるだろう。

 

 予め決闘場を用意し、草薙君に散々塩を送ったのも、全てはこのためなのだ。

 

 流石に散々騙して利用した挙げ句、巻き込んで殺すのは気が咎めたので、草薙君とその愛人の離脱のためにイタリアの銀の妖精にはかなりの負担をかけたが、人の義妹に刃を向けたのだ。それぐらいの働きはして貰わないと、無罪放免とはいかない。

 正直、あの神殺しの決闘場に隠れ潜むのは生きた心地がしなかったろうし、ましてあの決闘に飛び込むのは決死の覚悟が必要だったろうが、未来ある若人の命のためならば仕方のないことである。

 

 「ヴォバン、貴方は強い。だから、私は欠片も油断しないし、手を抜かない。

 草薙君が望外に復活権能まで使わせた以上、貴方を殺す好機は今この時以外にありえないのだから」

 

 とはいえ、これであっさり死んでくれるとは、私自身微塵も思ってもいない。

 というか、この程度で死ぬなら、ヴォバンは疾うの昔に死んでいるだろう。

 

 ヴォバンが世界最古の魔王なのは、伊達や酔狂ではない。尋常ならざる生き汚さを誇るからだ。

 故に、当然準備は万端である。

 

 「さあ、二ノ矢だ!

 汝は神々の災厄たる巨狼。神を喰らう大神よ、今一度汝が残滓に宿り、その爪牙を持って敵を滅ぼせ!」

 

 私は、自身のフェンリルの権能をその『竜骨』たる『神薙貪狼』に与えて、渾身の力で投擲したのだった。

 

 

 

 

 

 

 「小癪な!これはこの国の術士の仕業か?」

 

 突如、不動明王の業火に巻かれて尚、ヴォバンは健在であった。

 彼は瞬時に炎に強い耐性を持つアポロンの権能をもって狼と化し、嵐の権能をもって雨を強め火勢を弱め、それでも足りぬとくれば『死せる従僕』を周囲に召喚して肉盾として死を逃れていたのだ。不意を打たれて尚、瞬時に複数の権能を使いこなし、最善の手段を即座に打てる判断力は、ヴォバンが古豪たる証左でもあった。

 

 「流石に少々甘く見過ぎたか。この国の術士共にも多少なりとも骨があったというわけか……ククッ」

 

 窮地にあっても、ヴォバンは愉しげに笑う。むしろ、これからを思い、笑みを深めてすらいる。

 この横暴たる王にとって、窮地であってもそれは闘争を愉しむためのエッセンスに過ぎない。たとえ罠に嵌められようと、それを内側より食い破ることを喜悦とする魔王なのだから。

 

 「だが、この程度で私は殺せん。何より私の闘争に横槍を入れたことは万死に値する。

 死を以て償うがいい」

 

 ついに、ヴォバンは巫女300人がかりの渾身の火界呪を耐えきってみせた。

 護堂によって権能の軛にヒビを入れられたこともあり、不動明王の火界呪の効果をもって少なくない数の『死せる従僕』が解放されたことに気づいたが、補充は彼が生きている限り容易であるし、なんだったら楯突いたこの国の術士共で数だけなら補充してもいい。東欧の暴君は何の痛痒も感じていなかった。

 

 が、さしもの暴君も、確かに己が目で死んだことを確認した者がのうのうと生きていようなどとは思っても見なかった。

 業火の柱を消し去った次の瞬間、ヴォバンを白銀の巨狼が強襲した。

 

 「なに!?……これは神無めか!」

 

 二ノ矢である白銀の巨狼を、驚くべき勘の良さと反応速度で、『疾風怒濤』でどうにか迎撃して見せたヴォバンは、即座にそれが誰の手によるものか理解した。

 

 「うん?奴自身ではない?」

 

 そして、違和感にもすぐに気づいた。

 あの慮外者にしては弱い。そもそも、慮外者自身であれば、先の奇襲を迎撃することはかなわなかったであろうことをヴォバンは理解していたからだ。

 

 「安全策をとった?いや、あれはそういう男はない。

 殺すべく時は全力で殺しに来るはず―――ならば!」

 

 ヴォバンはこれで終わりではないことを瞬時に理解していた。

 次に来るのが、正真正銘の必殺だと彼は悟った。

 

 そして、それは正しかった。

 迦具土の炎を宿した剣が、ヴォバンへと高速で迫っていたのだから。

 

 「神の炎を宿した神剣の投擲が、貴様の奥の手か!

 これまでよくぞ隠していたものだが、存外につまらぬ奥の手よな!」

 

 一ノ矢は牽制であり狙いつけ、二ノ矢である白銀の巨狼は足止め役で、本命はあくまでも神剣の投擲だとヴォバンは即座に看破した。

 

 いくら高速で投擲された飛翔物と言っても、ヴォバンにとって避けるのは造作もない。

 剣に必中の呪いや追尾の効果があるものではないし、避けてしまえばそれで終わりなのだから。

 確かに、白銀の巨狼は少なからず邪魔で、容易でもない相手だが、やはり本来より弱いとあれば、やりようはあるし、避けるだけの余裕を作ることは十分に可能なのだ。

 

 実際、ヴォバンは白銀の巨狼をあしらいながらも、投擲された剣を見事に避けてみせた。

 

 「な、に!?」

 

 しかし、結果はヴォバンの思い描いたものではなかった。

 確かに躱したはずの剣が、使い手もいないはずなのに彼を背後から切り裂いていたのである。

 

 「自ら動く剣だと……馬鹿な」

 

 それ以上、言葉は続かなかった。

 切り裂いた傷口から、迦具土の炎が侵入し、内側からヴォバンを焼き尽くしたからだ。

 ここに最古の魔王たる東欧の暴君は死んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「分かってはいたが、あの爺は本気で化け物だな。

 明日香じゃなかったら、逃げられていただろうな」

 

 ヴォバンの死を見届けて、徹は一人ごちる。

 

 東欧の暴君は、間違いなく最強の敵だった。

 王の権威を最大活用し、自分の死を偽装した上で、同胞たる護堂を利用して連戦による消耗を強いる。

 

 運も味方した。

 自身の権能たるフェンリルの『竜骨』があったことに加え、護堂が想像以上に粘り復活の権能を使わせたこと、二人の王から、まんまと神炎を盗み出すことに成功していたことなど。

 

 そして、何より自慢の娘、迦具土の権能を宿すことが可能な生きた意思ある剣である明日香という最大のイレギュラーが、ヴォバンの命運を断ち切ったのだ。

 徹には確信がある。何一つ欠けていても、殺せなかったであろうという確信が。

 

 「借りは返した。いずれ地獄で会おう」

 

 地獄での再会の約束、それだけが彼の王への手向けであった。




凄い遅くなりましたが投稿。
久々なので、違和感とかあったら遠慮なくお願いします。
護堂のヴォバン戦は、大筋は原作と一緒なので省きました。

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