【習作】一般人×転生×転生=魔王   作:清流

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アンチのつもりはないのですが、護堂とエリカに対して、非常に厳しいものになっています。1巻の両者の行動は流石にどうあっても、擁護できませんから。あれは護堂のカンピオーネという権威があったから許されたんであって、本来なら許されないでしょう。


第二章:日ノ本の王達(原作開始)
#06.お互いに想定外な六人目と八人目


【グリニッジの賢人議会により作成された、神無徹についての報告書より抜粋】

 すでに述べたとおり、神無徹は六人目のカンピオーネである。彼の王はオーストリアでの大規模破壊事件『魔王の狂宴』(詳細については日本の正史編纂委員会から提出された報告書を参照のこと)において初めて公的に確認された王であり、日本の正史編纂委員会からの報告によれば、その三年ほど前に日本の神殺しの神である迦具土を殺害し、カンピオーネになったものと推測される。

 彼は魔王の狂宴において見せた白銀の巨狼へと変身する権能『神喰らう魔狼』(北欧神話のトリックスターロキの息子である魔狼フェンリルから簒奪されたものと思わわれる)、カンピオーネとなる際に迦具土から簒奪した権能『神滅の焔』等、非常に攻撃的な権能を持つ魔王である。また、その戦歴は定かではないが、彼の魔王としての在位期間を考えれば、他にも複数の権能を所有している可能性もあるので、諸兄らは注意されたい。

 彼の王は護国という明確な方針を打ち出しており、民草の保護に熱心なアメリカのジョン・プルートー・スミスにつながるものを持っている。しかし、誤解してはならない。彼は故国とその民が無事であれば良いのであって、それ以外の国や民についてまで寛容でも慈悲深いわけではない。「俗世の権力争いに興味はないが、日本に呪的干渉をすれば、相応の報復をする」という彼の言葉がその証左である。日本に対して、今後は慎重な対応が求められよう。

 尚、新たに八人目として確認された草薙護堂とは異なり、魔術師からカンピオーネとなった者である。これまでカンピオーネの誕生が確認されたこと無い日本から、ほぼ同時期、同国から複数の魔王が誕生したこともさることながら、その対極とも言えるあり方も興味深い。

 

 

 

 

 「いやー、なんというか時期が悪いね」

 

 四家筆頭沙耶宮家の次期当主にして、正史編纂委員会の次期総帥候補である沙耶宮馨は、予想外の事態に頭を抱えていた。

 

 「全くですね。よりによってこのタイミングでですからね」

 

 その御庭番たる甘粕冬馬も同調しながら、深々と嘆息する。

 

 「なんでよりにもよって、このタイミングでこの国から二人目のカンピオーネが生まれるんだい?疑惑ならよかったけど、情報どおりならほぼ確定みたいだし……。この半年間の苦労が水の泡だよ!」

 

 飄々として人を食ったような性格の曲者で、どんな事態にも臨機応変に対応できる馨といえども、今回ばかりは流石に現実に文句を言いたくなった。なにせ、この半年間『神無徹』という日本初のカンピオーネの誕生という衝撃的なニュースによる混乱を最小限に治めようと、根回しに次ぐ根回しと死力を尽くしてきたのである。その成果もあって、三日後にはグリニッジの賢人議会を通して、謎の6人目が日本初のカンピオーネであるという発表をできるまでになったのだ。

 だというのに、賢人議会は八人目『草薙護堂』についての報告をまとめ、公式に発表してしまった。それも六人目『神無徹』の存在の発表の前にだ。幸い、内向きなこの国の呪術者達で知る者は極少数であるが、知っている者がいるというだけでも十分以上にまずい。これで三日後に六人目『神無徹』の存在が発表されてしまえば、最早日本初のカンピオーネの誕生どころの話ではない。二人の神殺しが日本に存在するという洒落にならないニュースが、日本の呪術界を席巻し、多大な混乱をもたらすであろうことは誰の目にも明らかであった。

 

 自身の半年間の苦労が水泡に帰すとくれば、誰だって愚痴の一つも言いたくなろう。

 

 「しかも、調査員の報告によれば、帰国した草薙護堂は曰くありげな神具まで携帯していたとか……。対抗できそうな肝心要の先輩は発表の為にイギリスに行ってますし、これは参りましたね」

 

 冬馬もあまりのタイミングの悪さに苦笑せざるをえなかった。なにせ、どうにか爆発を避けられそうだと思っていた核爆弾が突如二つに増えたのである。それも一つ目の解体がどうにか終わりそうなタイミングでだ。それも二つ目の爆弾はとんでもないおまけつきで、手元に来たのだから。

 

 「とにかく、今は草薙護堂の真贋を確かめよう。十中八九本物だろうけど、ご老人方を黙らす為に明確な確証が欲しい。早急に祐理に確認させよう。その際に、神具についての霊視も併せて行う。

 徹さんの発表については、最早どうにもならない。調整に調整を重ねての今の日程だからね。今更こちらの事情だけで中止もできないし、こうなった以上延期するのも無意味だからね」

 

 「分かりました。早急に手配します。先輩の方に連絡はどうしますか?」

 

 「徹さんには悪いけど、発表が終わり次第早急に帰国して欲しいと伝えて欲しい。切り札は多いにこしたことはないからね」

 

 馨は少し迷ったが、万が一の事態を想定し、手札を充実させることを選択した。その顔には深い苦悩が見て取れた。

 

 「了解しました。大丈夫ですよ、まさか猶予期間の半年の間に新しくカンピオーネが生まれるなんて誰にも予想できませんから。先輩だって文句は言わないでしょう。それに先輩のこの国を護るという意思は本物ですから、危機があると知れば否応はありませんよ」

 

 徹達は発表後、しばらくはイギリスに滞在し、骨休めに観光する予定だったのだ。それをこちらの事情で中止さえるのだから、その反発を心配しているのかと思った冬馬は杞憂であると伝えたのだが……。

 

 「いや、そっちはぼくも心配していないよ。むしろ、快く引き受けてもらえるだろうと思っている。問題なのはそっちじゃないんだよ」

 

 「と、言いますと?」

 

 「草薙護堂の持ってきた曰くありげな神具がまつろわぬ神を招来するきっかけになったら?もっと言えば、それを追ってまつろわぬ神が襲来したら?」

 

 若干青い顔で嫌過ぎる未来を話す馨。

 

 「……そのような事態を招いた草薙護堂に対して、先輩は怒り心頭でしょうね。いえ、下手をしなくてもまつろわぬ神、カンピオーネ二人という三つ巴の戦いが東京で起こりかねませんね」

 

 冬馬は徹を良く知っているが故に、明確にその事態を予想できてしまった。口に出しているうちにどんどん血の気が引いていき、顔面蒼白になる。

 

 「『魔王の狂宴』の惨状を考えれば、首都壊滅で済めばいいなあ。いや、下手をすれば、冗談抜きで日本が沈みかねない。怪獣大決戦もかくやだね」

 

 どこか投げやりな様子で馨が言う。その声には最早力がなく疲れきったようであった。

 

 「ちょっ、捨て鉢になってる暇はありませんよ!それに、まだ、そうなるって決まったわけじゃありません。馨さん、しっかりしてください!」

 

 「ふふふっ、そうだね。呪術界の混乱はしょうがないにしても、せめて草薙護堂のもってきた神具が大したものではないことを祈ろう」

 

 二人は、この後草薙護堂の真贋確認と神具の脅威確認、二人のカンピオーネについての情報工作に混乱収拾など八面六臂の働きをすることになるのだが、その努力に対して現実は非情であった。

 

 草薙護堂のもってきた神具は大神アテナのものであり、二人の危惧したとおりものの見事にアテナを呼び込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「わたしの護堂をいじめるのは、そこまでにしてもらえるかしら」

 

 八人目のカンピオーネ『草薙護堂』を叱り付けるという暴挙を行う武蔵野の媛巫女『万里谷祐理』を止める言葉を発しながらも、《赤銅黒十字》の大騎士であるエリカ・ブランデッリはその余裕のある表情とは裏腹に焦っていた。その焦りのせいで、言葉すくなになってしまい、正史編纂委員会に所属する巫女である祐理に対しても、強く出ることができなかったのである。

 

 「……」

 

 護堂はエリカがここにいることが信じられず、驚きのあまり言葉を失っている。

 

 「どうしたの、護堂?ありえないものを見たような顔をしているわよ」

 

 「そりゃ、会うはずのない人間と出くわしたからだ。ミラノにいるはずのお前が、なんで東京で油売って……お前、どうかしたのか?」

 

 護堂はエリカが表面上の態度程、余裕があるわけではないことを感じとった。いつもの彼女なら、言葉に相応の修飾を表現に加えただろうからだ。直截的な言動を好むが、それでいて貴族らしい豪奢さというか、飾る事も忘れない少女なのだ。

 

 つまり、今のエリカはその余裕すらないということにほかならない。

 

 「あなたときたら、こういう時に限って勘がいいんだから。でも、今は説明している時間すら惜しいわ。とにかく一緒に来て頂戴」

 

 エリカは隠していたことを愛しい男にあっさり見抜かれたことを喜ぶべきか、悔やむべきか複雑な気分になりながら、護堂の手を引いた。

 

 「おい、待てよ。何をそんなに焦っているんだよ。今は万里谷と話していたんだぜ。用があるにしても、後にしてくれよ」

 

 問答無用で手を引かれ、流石の護堂も困惑する。強引でこちらの事情を斟酌しないことはままあるが、礼儀を弁えない少女ではない。少なくとも他者との話に割り込み、強引に打ち切らせようとするようなことは、普段ならば絶対にしないだろう。

 

 エリカが冷静でないと感じ取った護堂は手を振りほどいて、少々強引にエリカを制止する。足を止め、苛立たしげにこちらを振り返るエリカ。常の笑みを消した無表情であるが、目の奥には深い苦悩の光が見て取れた。

 

 「悪いけど本当に今は一分一秒も惜しいの。あなたを連れて早くこの国から離れないと、赤銅黒十字が―――――いえ、イタリアの有力魔術結社が軒並み潰されることになりかねないの」

 

 説明するまでてこでも動かないといった護堂に観念したのか、どこか諦観をにじませてエリカは口を開いた。

 

 

 「はっ?おい、それはどういうことだよ?」

 

 「今までその正体が分からなかった六人目のカンピオーネが姿を現したの」

 

 「ああ、そういや俺は八人目でドニの奴は七人目。六人目は正体不明だったか?」

 

 「ええ、つい先日まではね。グリニッジの賢人議会を通して、六人目の正体が公表されたのよ」

 

 「へえ、そうだったのか。でも、それで何でお前らが危なくなるんだよ?」

 

 「六人目のカンピオーネはあなたと同郷の王だったのよ。そうでしょ、万里谷祐理」

 

 それまで、一顧だにしなかった祐理に言葉を向ける。

 

 「はい、草薙さんの同朋にして先達たる六人目の神殺し『神無徹』様は日本人でいらっしゃいます」

 

 未だ日本の呪術界では周知されているとは言い難いが、祐理は霊視をした関係で予め事情を聞かされていた数少ない一人であった。

 

 「マジかよ?!俺と同じ日本人に先輩がいたのか」

 

 護堂も予期していなかった衝撃的なニュースに驚愕で目を丸くする。次いで同郷に同じ悩みを持つ人間がいると知って喜色を浮かべる。

 

 「喜んでいるところ悪いんだけど、あなたにとって状況は最悪よ。わたしにとってもだけどね」

 

 「なんでだよ?日本にもう一人カンピオーネがいちゃ、まずいことでもあるのか?」

 

 「大有りよ!いい、よく聞きなさい。彼の王は正体を現すのと同時にこう言ったわ。『俗世の権力争いに興味はないが、日本に呪的干渉をすれば、相応の報復をする』とね」 

 

 「うん?やったらやり返すってだけだろ。ちょっと物騒だけど当たり前のことじゃないか。何か問題があるのか?」

 

 「まだ分からないの!イタリアの魔術結社の私達があなたに神具を託したことも、この国に呪的干渉したことになるのよ」

 

 「え、おい、ちょっと待て。それじゃあ……」

 

 「ええ、一刻も早く神具を回収してこの国を離れないと、どうなるか分かったものじゃないわ。ねえ、念のために聞いておくけど、まだローマであった女神様とは再会していないわよね?」

 

 「再会?まさか、もう来てるのか?!」

 

 「そのまさかよ。実は、わたしよりも先に来ているのを追いかけて、日本まで飛んできたのよ」

 

 護堂の脳裏に月光の如き銀髪と夜の瞳に彩られたすばらしく美しい少女の姿が現れ、不敵な笑みを零した。背筋にひやりと冷たいものが流れるのを感じた。

 

 「おいおいおい、冗談じゃないぞ!じゃあ、その6人目にとって、俺やお前は神を連れ込んだ大罪人ってことかよ!」

 

 「ええ、そうよ。だから、もう一刻の猶予もないの。だから、早くこの国から離れないと。移動中の襲撃が怖いけど、あなたも一緒ならどんな状況でもどうにかできるでしょうから」 

 

 エリカは話は終わりだといわんばかりに言葉を切り、強引にてを引っ張る。今度は振りほどかれないように魔術での強化つきでだ。

 

 「おい、ちょっと待てって」

 

 「なによ、護堂のことだから、神具は持ち歩いているんでしょう?この国で護堂があの神具を追ってきたまつろわぬ神と戦った時点でアウトなの。余程のことじゃない限り、後にして」

 

 有無を言わさぬとばかりにピシャリと言うエリカ。なにせ、今の彼女には自身の所属する《赤銅黒十字》の命運がかかっているのだ。いや、イタリアの有力魔術結社の存亡がといっても過言ではないのだから、無理もないことであった。

 

 「いや、肝心の神具をもっているのが、万里谷なんだよ」

 

 「なんですって?!」

 

 「委員会から神具の調査も命じられていますから、私からお願いしました」

 

 そう言う祐理の掌には確かにゴルゴネイオンがあった。すでに現地の呪術組織に証拠物件がわたっていることにエリカは戦慄した。これでは最早、言い逃れは不可能だからだ。

 

 「祐理さん!」

 

 そんな時だった。慌てた様子でくたびれた背広をだらしなく着崩した、二十代後半の地味な青年が人払いされた境内に飛び込んできたのは。

 

 「甘粕さん、そんなに慌ててどうなされたのですか?草薙さん、こちら正史編纂委員会の方で甘粕さんです」

 

 「どうも、草薙護堂です」

 

 突然の乱入者に呆気にとられながら、一応の自己紹介をする。エリカは気まずそうに顔をそむけるだけだった。

 

 「これはこれは。お初にお目にかかります、王よ。正史編纂委員会に所属しますエージェントで甘粕冬馬と申します。以後、お見知りおきを。

 ……とっ、今はそれどころではありませんでした。千葉の沿岸部でまつろわぬ神とおぼしき存在が確認されました。王も一緒であるならば話は早い。王よ、御身が招いたまつろわぬ神を滅ぼして頂きたい」

 

 要請の形をとってはいたが、それは実質的には責任をとれと言う有無を言わせぬ要求であった。 

 

 「我ら魔術師の王たるカンピオーネに対し、そのような要求許されるとでも?」

 

 流石にこれは見過ごせるものではなかったらしくエリカが口を挟むが、冬馬から返ってきたのは、絶対零度の視線と冷笑であった。

 

 「お言葉ですが、エリカさん。まつろわぬ神襲来というこの状況を招いた貴女達に発言権があるとでも。それとも、これより我が国にもたらされる未曾有の大災害の責任をとっていただけるのですか?」

 

 「……」

 

 エリカは何も言えなかった。エリカが他国にまつろわぬ神をおびき寄せて、あわよくば護堂の新たなる権能の糧とするなどということを企めたのは、護堂の愛人としてカンピオーネという絶対的な権威を頼みにできたからだ。本来なら、到底許されることではない。この国唯一のカンピオーネならばそれは通ったろうが、神無徹という六人目のカンピオーネの存在がそれを覆してしまった。今や、彼女はこの国では大罪人扱いされても仕方がない立場にいるのだ。

 

 しかも、六人目の王はこの国の呪術組織である正史編纂委員会とすでに繋がりを持っている。これから構築しようとする護堂とでは権威の差は明らかである。エリカが護堂という権威を持ちだしたところで、相手は神無徹という権威を持ちだして対抗してくるだろう。そして、その差は明らかとなれば……。

 

 「そんな言い方は……」

 

 「王よ、これは政治の話なのです。申し訳有りませんが、口出しはご遠慮願います。それに我々も御身に好意的な感情を抱いているとは思わないで頂きたい」

 

 護堂は相棒の危機に思わず助け舟を出そうとしたが、これも冬馬に封殺されてしまう。そして、言外に彼は言っていた。お前も同罪だろうと。

 

 「甘粕さん、草薙さんも悪気あったわけでは……」

 

 「悪気があってたまるものですか!ええ、草薙さん個人はそうでしょう。ですが、まつろわぬ神の脅威は誰よりもよく理解しているはずです。それを理解していながら、どうしてこんな軽挙ができたのか……。ましてや、エリカさんなどはこの事態を容易に予想できはずですし、見越していたはず。違いますか?」

 

 祐理がフォローを入れようとするが、冬馬は容赦しなかった。

 

 「「……」」

 

 護堂もエリカも言葉がなかった。冬馬の言葉の通りであったからだ。護堂はどこかで自分なら対処できるからと、どこか軽く考えていたことは否めないし、企んだとおりになったエリカなどは反論のしようもない。

 

 

 「不躾で非礼であることは百も承知です。ですが、この地に生きる者としてあえて言わせて頂きます。

 王よ、責任をとって頂きたい」

 

 護堂はそれに黙って頷くほかなかった。

 

 この後、草薙護堂は襲来したまつろわぬアテナに一度敗北を喫し、ゴルゴネイオンを取り戻され、アテナが完全になるのを許してしまう。だが、権能により復活し、優れた霊視能力者である万里谷祐理の協力もあって、再戦して見事これを倒すことに成功する。彼は、アテナの命を奪わず見逃した為、結果的に周囲に多大な被害をもたらしながら撃退という形にとどまった。

 その翌日、六人目のカンピオーネ『神無徹』が帰国し、極東の双王が邂逅する。  


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