・作品内の地の文は主人公の一人称視点です
・作者は遅筆なので投下期間が開く場合があります。
四月、気分的にも季節的にも春だと実感する今日この頃、俺はと言うとチャイムをBGMに東京のあるいっかくを走っていた。
と言っても理由もなく走っているわけではなく、強いて言うならば自由奔放な迷子を探している。行き先もだいたいの検討はついている。
ボタンを留めていない学ランが風になびき音を立てる。桜散る街道を駆け抜け、最寄りのコンビニまで行けば…
「はぁ、やっぱここか」
コンビニの前でモグモグとお菓子を食べる赤毛の女の子を発見する。
「おいコラ。入学式の最中になに新作お菓子を食べてんだ」
「うっ、痛い」
呆れながらも近づきその頭に軽くチョップを入れれば、頭を手で押さえながらこちらを振り向く。なお口を休めることはしない。
「あ、夕…」
「あ、夕…じゃねぇよ。お前は今どういう状況か分かってんのか?」
「分かってる。だからアイアンクローはやめて…」
それほど力を入れずともやろうとすれば痛いアイアンクローを離す。
赤毛の少女は少し涙目になりながらこちらを睨んでくるがどこ吹く風。
正義はこちらにある。
「それで?如何してこんなところに?」
「だって、今日は入学式で私達三年は暇だから」
「暇って、お前スピーチしなきゃいけないの忘れて無いか?」
「…………忘れて無い」
「完全に忘れてただろ。それに今日は新入部員相手に打たなきゃいけないのも忘れてるだろ」
「そこは忘れて無い。だから今の内に新作のお菓子を買いに来た」
「今お前、スピーチは忘れてたって認めたからな?」
「………誘導尋問酷い」
「酷くない」
「………私は悪くない」
「入学式サボってコンビニ来てるやつは相当な悪人だろうが」
「見た目ヤンキーの夕に言われたくない」
「余計なお世話だっつーの。はぁ、とりあえず戻るぞ。スピーチの方は菫に任せてあるから」
そう言って彼女の手を引いて歩き出す。ったく、どうしてこいつはいつもこうなんだ…
昔からなんと言うかポンコツなんだよな。あんだけ報道陣にはしっかりと見られてるくせにカメラが抜ければ迷子になるし…だいたいこいつは───
「あ、待って」
「あ?まだお菓子が欲し「はい」ん、」
「おいし?」
「………うまい」
そう言うと彼女はまるで花が咲いたように笑う。
彼女の、宮永照のとびっきりの笑顔を見ることができるのは、東京広しといえども俺一人だ。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
白糸台高校、西東京に位置するこの学校は高校麻雀界において、男女共々二連覇を達成している現最強の高校だ。
今の世の中、麻雀が強い=名門校であり学校によっては中学のインターミドルでの成績からスカウトを持ちかける学校も存在する。
そしてうちの学校も例を漏れず二連覇を達成している現在においてもスカウトの手を緩めることはない。
更には『最強』の称号に憧れて遥々遠くからこの学校に進学してくる者もいる。
よって毎年麻雀部には大量の生徒が新入部員として見学に来るのだ。
そして俺はそんな麻雀部に所属している。
「うーす、今戻ったぞ」
「…ただいま」
「あぁおかえり。なんとか間に合ったか」
部室のドアを開ければ、長髪、長身、ロングスカート、キリッとした表情、とクール要素の塊の様な女子が出迎えてくれる。
「悪りぃな菫。スピーチ任せちまって。ほら、照もお礼と謝罪しろ」
「ごめん菫。あとありがとう」
「夕時が謝ることじゃない。悪いのは照だからな。まぁ大した問題は無かったからいい。今度は気をつけてくれ」
菫はため息を吐きながらも照を注意する。照と関係の深い菫のことだから注意しても無駄だと分かってるだろうな。
「うん。任せて」
反面、こいつの自信はどこから来るんだろうか。ムフーとありもしなゲフンゲフン 未だ成長途中のおもちを張るもう照。もう一発チョップ入れた方が良いか?
そう思い手を挙げたところで部室のドアが開かれる。
「おっと、宮永先輩も阿櫻先輩もちょうどよかったです。そろそろ新入部員の方に出てもらっても良いですか?抑えきれなくなってて」
苦笑いを浮かべているのは後輩の亦野。確かに先程からガヤガヤと外が騒がしい。やれやれと肩を回しながら歩き出す。
「それじゃ行きますか」
先程も言ったように白糸台は強豪校だ。そして新入部員も沢山来る。俺が入部した時はそこまでは無かったがそれでも他の学校より多いだろうというほどはあった。
それが二連覇という快挙を成し遂げた為拍車がかかり入団テストじみたことをしなければいけない事になったのだ。
というわけでホールへと向かう。先程までいた部室は主に照達一軍、『チーム虎姫』に与えられたものだ。
強豪白糸台の一軍と言うことで部室は別に用意されていている。
その中にも雀卓はあるが今日のように人数が多いときはホールを使うことになっている。
「そういえば、阿櫻先輩は今日なにしてたんですか?体育館では見ませんでしたけど」
「ん?今日は主に裏方やってたな。生徒会だけじゃ人手が足りないらしくてな俺も手伝ってたんだ」
「相変わらずお前はお人好しだな。そんな事ならお前にスピーチして貰えば良かった」
「柄じゃねぇよそんなの。それにいざって時に照を連れ戻す役目があるしな」
「…夕、失礼」
「悪かった。連れ戻すだけじゃ無かったな。ポンコツ姫」
「…私はポンコツじゃ無い」
「そう言うなら今度からは離れないでくれ」
「…それは側に居ろという意味?」
「突拍子も無い解釈をするな」
「いひゃいいひゃいよゆう」
半ばコント染みた事をやっているうちにホールに着く。と同時に割れんばかりの歓声がホール内に響いた。
まぁ、前年度の大将と副将がやって来た訳だしな。憧れの存在が来たらそりゃ歓声も上がるわな。
「いや、なに自分を抜かしてんですか。阿櫻先輩への声もあるでしょう」
「いやねぇだろ。自分で言うのもなんだが相当ロクな奴じゃ無いぞ?」
「ロクな奴じゃ無くても個人戦で二連覇を果たした白糸台最強の片割れに対して歓声が無いのはおかしいですよ」
そう、女子団体最強であるチーム虎姫。そして男子個人最強が俺事、
だがここにきてるのは殆どが女子だし虎姫に憧れた奴が多いだろ。
「つかお前、今ロクな奴じゃ無い事肯定しなかったか?」
「えー?なんのことかわかりませんねぇ?」
「そうか、それならお前の釣竿に話を聞くか。じっくりとポッキリと」
「すいません!マジ勘弁してください‼︎」
「わかればよろしい」
そんな話をしながら歓声の中を割って入る。大会のお陰かこういった視線や声の中でも恐くする事なく進むことが出来ている。
そうして進む中、一定間隔で置かれた卓の一つに見知った奴がお茶を飲んでいた。
「よお渋谷。お疲れ」
「先輩、お疲れ様です」
行儀よくペコリと挨拶する渋谷。照に菫に亦野に渋谷。これで現チーム虎姫が出揃った。ホールは更に歓声を増す。
そこで部長である菫がマイクを持ち壇上に立った。
「新入生の皆、よく来てくれた。今日はみんなの知っての通り入団テストをしてもらう。と言っても私達をトバせとは言わない。私達が君たちの力を見定めるだけだ。君たちも持てる全てを私達に見せて欲しい」
菫の言葉に反論する奴はいない。全員が静まり聞き入っている。
「……それでは、次に我らのエース、宮永照からの言葉をもらおう」
そう言い壇上には照が登りマイクを渡される。普段の照なら明らかにやらかすのだがこういう時の照といえば…
「皆さんこんにちは!ご紹介に預かりました宮永照です。今日は入団テストという面を抜きにしても皆さんと正々堂々、楽しく麻雀を楽しみたいと思います」
これである。照は報道陣やこういった相手をする時素晴らしいまでの演技力で驚きの社交力を発揮するのだ。
「ふぅ、やはりあの照のキャラの変わりようは慣れないな」
「そうか?俺は慣れたけどな。まぁ毎回笑いそうになるが」
「麻雀部に入って最初の関門はあの宮永先輩と普段の宮永先輩のギャップになれることですからね」
「私も最初は驚きました」
あれはあれで猫かぶりとかでは無く相手に対しての照なりの感謝の気持ちなのだ。それでもあの営業スマイルは普段の彼女を知っている者ほど可笑しく映ってしまうが。
そうこうしているうちに照の言葉も終わり入団テストが始まる。
チーム虎姫+俺はそれぞれ別々に卓に着く。他の部員は外から新入部員を見ている。外と中、あらゆる方向から見て相手を見極めるためだ。
そうして座り終えると新入部員もそれに合わせ並び始める。と言っても誰と対局するかは自由なので質全的に俺と照の列は少なくなる。
別に勝つことがテストの条件じゃないがそれでも勝てる可能性の高い方へ行くのは人の道理だろう。まぁ、あいつらが弱いなんてことは全く無いんだがな。
なんてよそ見をしていると俺以外の対局者が席に着いた。こっちも集中しないとな。
卓に着いたのは上家と下家は男。そして対面は、金髪のロングの女の子だった。俺の列には男が多くいるというのに、名奴だ。
「よろしく」
「おぉ。こちらこそよろしく」
改めて対局者を見る。男子の方は、大したことは無いな。言って悪いがそこまでの強さは無い。精々個人戦で予選落ちのレベルだ。
問題は目の前の金髪娘だ。不敵に笑みを浮かべているが、相当な実力の持ち主だ。多分オカルトも持ってるだろうな、それもデカイのを幾つか。
「それじゃ始めようか」
賽を回す。起親は上家。全卓ががしゃがしゃと音を立てそして牌が積み上がる。その瞬間嫌な予感がする。配牌を見れば
(こりゃひでぇな)
驚く程牌が悪い。見れば上家と下家も同じような状況だ。成る程、これがコイツのオカルトか。相手に対して悪い牌をつかませる、まさにチートだな。
さて、相手の能力が分かればあとは楽なもんだ。確かに強力なオカルトだが、それ以上の支配で崩してしまえば何の問題も無い。
悪いが俺も白糸台のプライドってもんがあるんでな。好き勝手させるわけにもいかないんだよ。
「それじゃ、楽しく麻雀しようぜ」
そう言って山に手を伸ばす。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「ふぅお疲れさん」
全ての対局が終わり俺は照にジュースを渡す。
「お菓子は?」
「ここにございますよお姫様」
知り合いの真似事をしながらお菓子を渡さばその顔はキラキラと輝く。
実際には微々たる変化だが長い付き合いとしてそこらへんの変化はよくわかる。
「菫達もお疲れ。ほら、ジュース。渋谷にはお茶な」
「ありがとう。夕時もお疲れ様」
「サンキューっす…はぁ〜疲れたァ。流石に今日はもう打ちたくない…」
「うん。確かに疲れたね。あ、ありがとうございます先輩。」
菫や照は去年もやったが亦野と渋谷は今年が初めてだしな。疲れもたまっているんだろう。
結果でいうなら俺たちをトバす、または2着にさせるものはいなかった。
だが何度も言うように今回は順位や点数が問題ではなくその者の力を見定めることだ。無論強いに越したことは無いが強くなることは今からでも出来る。
「お前の方はどうだ?天下の男子最強のお眼鏡に叶うような奴はいたのか?」
「その言い方やめてくれ。恥ずい。…でもまぁ面白い奴はいたよ。虎姫に入れてもいいくらいの奴がな」
「……それてって夕が最初に打った相手?」
「お、よく分かったな」
「当たり前、私が夕の事で分からないことはない」
さらりと恥ずかしい事を言ってくれんな。
見れば菫と亦野はニヤニヤしている。渋谷は若干頬を緩ませてる。よくある光景だ。
「んん!とりあえず、明日はそいつを皆んなに紹介しようと思う」
「ほぉ、最強の男のご紹介なら私たちも気を引き締めなければな」
「…夕、浮気?」
「もうやめろお前ら。なんなの?今日は俺を虐める日かなんかか?」
全国最強の高校と言えど日常はこんな感じなのである。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
翌日、今日も授業は午前で終わるため俺はそのまま照を引っ張り部室へとやって来た。コイツは目を離せば何処かに行くからな。
そうしてそのまま引っ張っていくこと数分、部室前に見覚えのある金髪が映った。
「ん?大星じゃないか。こんな所で何やってんだ?」
「ひゃい!?ってユージーじゃん脅かさないでよ」
金髪娘、もとい大星淡いは胸を撫で下ろす。照よりあるそのおもちは撫で下ろす行動において自然と形をハッキリさせ男の視線を誘導させ右関節が逆に回りバキバキと音を立て照さんむちゃくちゃ痛い!!
「…夕は見ちゃダメ」
「出来ればそう言うのは声で言ってくれ。その内お茶の間にお見せできなくなる」
少々のメタネタを挟みつつも置いてけぼりを食らっている大星の元を向き直す。
「それで?如何してここに?」
「ここに来ればユージーがいるんじゃないかと思って」
「でもここは虎姫の部屋だぞ?」
「ユージーは虎姫の部屋に出入りして女を貪る鬼畜趣味だって聞いたから」
「後半は全くもって違うが、まぁ大抵この部屋にいるしな」
俺って個人戦だったから専用の部室とか無いし。
まぁ、そういう事なら入って話した方が良いだろ。幸い今日は皆んなに大星を紹介しようとしていたわけだし呼びに行く手間が省けた。
「んじゃ最強へようこそ、お姫様」
そう言ってドアを開ける。さてさて、これからどうなるのか楽しみだな。
「夕のお姫様は私」
「はいはい」
初めての方はこんにちは。グリムと申します。
今回は以前から書きたいと思っていた咲のssです。
投稿は遅くなるかもしれませんが完結まで書きたいと思いますのでどうぞ、よろしくお願いします