元帥閣下の女学生生活はじめましたっ!!   作:のこのこ大王

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第7章 幻の戦い

 

 

「おいっ! ちょっと来てくれっ!」

 

「くそっ! これで何人目だっ!?」

 

 その声に周囲の警備兵達が、集まってくる。

 人気の無い路地裏で発見された、何人もの倒れた人々の姿。

 

 年齢も性別もバラバラ。

 共通点があるとすれば、全員生命力が低下しており

 このままでは死んでしまうということ。

 

「早く医者を連れてこいっ!」

 

 慌ただしく走り回る警備兵達。

 

「・・・こりゃまた、何を言われることやら」

 

 隊長らしき人物が、渋い顔をする。

 

 最近解決した『連続失踪事件』と呼ばれるようになった事件の時でも

 散々、街の警備隊は何をしているのかと

 現場を何も知らない貴族連中に詰め寄られるわ

 この街の実質的な長である学園フォースの学園長からも

 報告書を再提出を何度も命じられて、正直ウンザリしていた。

 

 それがやっと終わり、ようやく・・・と思った矢先に

 また連続して事件が起こっているのだ。

 

「・・・また、あの日々が戻ってくるのか」

 

 心の底からの深いため息を吐くと、彼は報告書を書くために

 詰所へと戻るのだった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 そんな街の出来事とは切り離されているかのように

 学園は、いつも通りの授業が行われている。

 

 今日は、下級生達との合同練習とあってか

 下級生が上級生に指導してもらうという形が多い。

 

「セレナお姉さま、これでよろしいですか?」

 

「ちょっと、次は私の番よ」

 

「ああ・・・アリスお姉さま、素敵です」

 

「アリスお姉さま、私にもぜひご指導下さい」

 

「ルナお姉さまにお教え頂けるなんて嬉しいですわ」

 

 ・・・まあ、このように見事に居づらい環境となっている。

 

「あら、こんな所にいらしたのですね?」

 

「あら、エリーゼ様。

 ごきげんよう」

 

「ええ、ごきげんよう。

 どうしてこんな場所に?」

 

「・・・私、人にものを教えることが苦手でして

 つい、今のように逃げてしまうのです」

 

「ふふっ、それは困りました。

 せっかくですからぜひご指導をと思いましたのに」

 

「そういうことでしたら、相手をさせて頂きます。

 エリーゼ様からのお誘いを断る真似は致しません」

 

「・・・何だか申し訳ないですわ」

 

「いえいえ、少し手持ち無沙汰な所もありましたので。

 むしろエリーゼ様のお相手が出来るとは、光栄です」

 

 2人で、こっそりと人気の無い場所へと移動して

 互いに武器を手にする。

 

「『コルブランド』よ、その意味を示せ―――」

 

 エリーゼが、想力武装の名を口にする。

 

「・・・『偽物』ですか」

 

 古代語で『偽り・偽る者・偽物』などという意味を持つ言葉。

 

 昔、聞いたことがある。

 想力武装の名とは、本人の意思の影響を受けていて

 想力が持つ能力も、本人の影響が強いらしいと。

 

 想力が持つ能力は

 『まるで願望を具現化しているようだ』と表現されることもあるからだ。

 

 もしそれが本当ならば、彼女にとって何が『偽物』なのか。

 そして『偽物の意味』とは、何のことなのか。

 

 そんなこと考えをしていると

 エリーゼが、何も持っていないにも関わらず剣を構える。

 

 ちょうど昨日、カレルから聞いた所だった。

 これこそエリーゼの『能力』

 

 彼女の能力は、手にしているものが『見えない』というもの。

 何も持っていないようでも、しっかりと武器を構えているのだ。

 

「―――白銀の守護者よ、我が手に」

 

 武器を構えて様子を見る。

 

 実際に見てみると意外に面倒なものだと感じる。

 

 構え方から、恐らく剣なのだろうが

 相手の長さが解らないので、過剰に警戒するしかない。

 

 もし剣でなかったら?

 槍? 斧? もしかしたら弓かもしれない。

 

 そんな可能性が頭を過ぎる。

 

「(今後のことも考えて、調べておくか)」

 

 相手が仕掛けやすいように、わざと構えを緩くして誘ってみる。

 

「はぁっ!」

 

 すると予想通り、エリーゼが動き出す。

 狙いやすい左側からの一撃を剣を盾のようにして受け止める。

 

 わざと攻めやすいようにしているため

 連続で何度も攻撃をしてくるエリーゼの一撃を受け止め

 彼女の武器を調べる。

 

「(斬撃の重さと距離を考えれば剣だな。

  それに攻撃範囲も大体、これぐらいか)」

 

 受け止めた重さと攻撃の動きで剣であることと

 その刀身の幅をある程度、割り出す。

 

 更に剣の場合、最も有効な一撃を放つ場合は

 刀身の上から約『4分の1』から『3分の1』あたりの、剣の重さが十分に入る場所で

 攻撃することが多くなため、それを考慮すれば大体の剣の長さが解ってくる。

 

 少し周囲を確認するが、誰もがセレナやアリス達を見ていて

 こちらを見ている気配はない。

 

「(・・・なら、少しだけやるか)」

 

 エリーゼの攻撃を全て回避した後、着地をわざと失敗して

 体勢を崩してみせる。

 

「あっ・・・」

 

 仮にも騎士学校の生徒だ。

 もちろん、そんな隙を逃すはずがない。

 

「せぃっ!」

 

 エリーゼの踏み込んだ一撃が、無防備なこちらの背中に迫る。

 

 だが―――。

 

 背中よりも手前で、想力同士による衝突が起きて

 独特の音が周囲に響く。

 

「・・・それは」

 

 エリーゼが驚く。

 それもそのはず。

 

「想力の特性が人それぞれなのは、今に始まったことではありませんよ?」

 

 周囲に想力の壁を展開しているリシアの姿。

 

「では、今度はこちらから」

 

 そう言うと走り込んできたリシアが上段から剣を振り下ろしてくる。

 それを上手く横に避けると、そのままリシアの側面に攻撃を仕掛ける。

 

 だが、またも想力の壁に阻まれる。

 

「・・・これは」

 

 後ろに下がったエリーゼが、困った顔をしている。

 

 それもそのはず。

 想力同士のぶつかり合いでは、より強力な想力が勝つ。

 

 しかも相手は、防御の能力。

 押し負けた以上、自分にはあの壁を破る術が無いことを意味する。

 

「(・・・なるほど、一般的な両手剣といったところか)」

 

 対してリシアは、想力の壁にエリーゼが攻撃を仕掛けた瞬間に発生する

 想力の衝突する光で、相手の武器の形状を見抜いていた。

 

「(あとは、正解かどうかを確かめるのみ)」

 

 リシアが、またも距離を詰めてくる。

 

 互いの武器が届く距離に入った瞬間だった。

 エリーゼが先制攻撃を仕掛ける。

 

「(攻撃する瞬間なら、あの壁は出せないはずっ!)」

 

 そう考えたからこそ、攻撃しようとしたリシアの先手を取ったのだ。

 万が一、壁に阻まれた場合でも相手は攻撃出来ないのだから

 決して無謀な一撃ではないはず。

 

 そう思った一撃だった。

 しかし―――

 

「―――!?」

 

 リシアは、まるでコルブランドが見えているかのように

 その一撃を剣先が当たる直前で回避して側面に回り込んでくる。

 

 そしてカウンターとばかりに放たれた胴への横薙ぎが

 エリーゼの腹部分で寸止めされている。

 

「申し訳ありませんが、私の勝ち・・・ですね」

 

「ええ。負けてしまいました」

 

 互いに決着を確認すると、武器を元の宝石に戻す。

 

「最後は、どうしてあんなにも綺麗に回避出来たのかしら?」

 

「ふふっ、それはですね―――」

 

 会話に割り込んでくるように授業終了の鐘が鳴る。

 

「あら、終わりましたね」

 

「あらあら、どうしましょう。

 ・・・そうですわ。

 

 リシアさん、今夜お暇ですか?」

 

「ええ、特に予定はありません」

 

「では、続きは夜にでもいかがでしょう?」

 

「確かに、その方がいいかもしれませんね」

 

 そう言って、夜のお茶会の約束をすることになる。

 

「(そう言えば、エリーゼ姫とゆっくり話す機会がなかったな)」

 

 彼女は、カレルと同じく1年であるため学年が違う。

 他の寮生は、全員クラスが違っても学年が同じなため

 合同授業や選択授業などで会う機会があるが

 彼女達とは、なかなか接点がないからだ。

 

 そして時間が過ぎ、その日の夜となる。

 

 約束通り、エリーゼの部屋に招かれて

 あの時の試合の話をしていた。

 

 どうして見切れたのか。

 そしてコルブランドの長所と短所など

 およそ一国のお姫様とする会話の内容ではないが

 彼女は、感心したように話を聞いてくれていた。

 

「・・・そのようなこと考えもしませんでしたわ」

 

「ですから次に、試してみるといいかもしれませんね」

 

 話が一段落し、少し温くなった紅茶を飲む。

 

 ふと、彼女の机の横に投げ捨てられた手紙を見つける。

 

「・・・失礼ですが、それは?」

 

「ああ、ごめんなさい。

 たいしたものではないの」

 

 そう言ってゴミ箱に入れるエリーゼ。

 

「・・・王家の紋章で封蝋されていたのにですか?」

 

「・・・リシアさんには、敵いませんわね」

 

 苦笑しながらこちらの正面に座り直すエリーゼ。

 

 王家の紋章である以上、間違いなくガーランド王国の国王

 

 グラザ=ハーベセン=ガーランド

 

 つまり彼女の父親からの手紙ということになる。

 それが投げ捨てられていたからだ。

 

「・・・学園を卒業した後にどうするのかという話ですわ。

 

 それで、いくつか相手の候補を選んだから決めろと」

 

「・・・そうでしたか」

 

 つまり、卒業後に政略結婚が待っている。

 結婚相手は決まっている訳ではないから、好みがあるなら先に言えば

 ある程度の参考にしよう・・・という内容だということだ。

 

「私は、あまりお父様とは仲が良くないですからね。

 さっさと姫としての役割を果たせ・・・とでも言いたいのでしょうね」

 

「・・・仲が良くない、のですか?」

 

「ええ、それはもう・・・」

 

 そう言いながら苦笑するエリーゼ。

 

「本当に政略結婚なら、相手を選ぶ権利なんて普通ありません。

 

 ですからこれは、政略結婚ではなく単なるお相手選びの参考にしたい

 ということではないでしょうか?」

 

「リシアさんは、お父様に会ったことが無いからそう言えるのです。

 いつも厳しく接して、甘えさせてくれたことなんてありませんもの。

 

 昔、お父様に手縫いのぬいぐるみを渡したことがあったのですが

 ・・・ぬいぐるみを手にしても何の言葉も言わずに

 そのまま去ってしまわれました」

 

 少し悲しそうに話す彼女に『それは違う』と言いそうになって

 何とか思いとどまる。

 

 今の私は、リシア=ナリアスだと。

 

「・・・不用意に深入りして良い話ではありませんでした。

 申し訳ありません」

 

「いえ、構いません。

 私から話しをしたのですから」

 

 その後、話すことも無くなり挨拶をしてから部屋に戻る。

 

「・・・ミーア、居るか?」

 

「はい」

 

 部屋に戻ると、ミーアを呼ぶ。

 

 彼女は、何処からともなく部屋の隅に現れる。

 

「至急、調べて欲しいことがある。

 金も人も、好きなものを好きなだけ使え。

 

 その代わり、可能な限り早く情報を持ってこい」

 

 そう言って小さな紙に調べる内容を書いて手渡す。

 

「・・・早馬や協力者を利用しても?」

 

「お前に任せる」

 

「わかりました。

 5日以内には、どんな情報でも調べ上げます」

 

 スッと、ミーアの気配が消える。

 

 再び1人になるとベットに身を投げ出して寝転ぶ。

 

『昔、お父様に手縫いのぬいぐるみを渡したことがあったのですが―――』

 

 その話で、昔を思い出す。

 『あの戦い』というべきもので、正式な名前がついていないもの。

 

 そう・・・それは、とある戦いの記憶。

 私がまだ、将軍だった頃の話だ。

 

 

 

 

 

第7章 幻の戦争

 

 

 

 

 

「・・・ここに居たのね。

 偵察兵からの報告で、ガーランドが動きそうだって」

 

 城壁の上で景色を眺めながら寝転んでいると

 聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「結局、動いたのか」

 

「解ってた癖に。

 だから、準備をしてたのでしょう?」

 

「出来れば、外れて欲しかったのだが・・・」

 

 そう言いながら起き上がると

 目の前の少女が水の入った筒を渡してくる。

 

 テリア=インセント

 

 かなり昔からの付き合いで

 今は、我が部隊の副軍団長の1人として

 我が軍で活躍している。

 

 顔の顎ぐらいの所まであるショートボブの髪。

 女性にしては少し高い身長に大きな胸が印象的である。

 

 受け取った水を飲むと、ボケっとしていた頭が動き出す。

 

 どうしようかと考えていると、小柄な少女が

 一生懸命、城壁の階段を上ってくるのが見える。

 

 何とか上りきった少女は、軽く深呼吸をしてから

 こちらにやってくる。

 

「ここに居たのですね、隊長。

 国王陛下より使者が来てるのです」

 

 リーン=クレメント

 

 非常に小柄で見た目は完全に少女。

 肩にかかる程度の髪に、右側のみにあるリボンが特徴的で

 とても愛らしい容姿と言える。

 

 その見た目通り、騎士ではない。

 もちろん想力なども、一切使えない。

 

 彼女は、騎士以外の才能があったからこそ引き入れた。

 それは、天才的なまでの頭の良さだ。

 

 彼女の智謀は、謀神(ぼうしん)と言えるものであり

 常人には理解出来ない計算によって導き出される。

 

 今では、部隊の副団長の1人としてその才を揮っている。

 

「おっ、珍しいこともあるものだな。

 こちらとほぼ同じ速度と精度か」

 

「残念ですが、それほど優秀ではありません。

 こちらが流した情報に食いつかせるのが

 どれだけ大変だったか・・・。

 

 あまりに馬鹿過ぎて、ため息しか出ないのです」

 

 しかし、その見た目とは違い

 言いたいことはかなりハッキリという性格で

 たまに暴言とも言える言葉を躊躇いもなく口にする。

 

「なんだ、そういうことか。

 しかし、どうしてわざわざ情報を?」

 

「シェンナさんが『タダ働きはゴメンだ』と言っていたのです」

 

 あまりにも彼女らしいセリフに思わず笑ってしまう。

 

「・・・では、その甲斐があったのかどうかを確認しに行くか」

 

 城壁の階段を下りて、使者が居るという部屋へ向かう。

 

 部屋に入ると近衛騎士の鎧を着た男が待っていた。

 

「確か・・・フランクだったか。

 近衛騎士が、わざわざこんな僻地までとは

 すまないことをしたな」

 

「わ、私のことを、ご存じなのですか?」

 

「優秀な人間の顔と名前は、忘れないのが私の主義でな」

 

「レナード・ライドック将軍に覚えて頂けるとは、光栄でありますッ!!」

 

 フランクは、レナードの差し出した手を嬉しそうに握り返す。

 

「それで、陛下は何と?」

 

「はっ!

 それでは、陛下のお言葉を伝えます。

 

 『ガーランド王国が不穏な動きを見せているため

  レナード・ライドック将軍は、これを確認し

  もし事実なら可能な限り侵攻を阻止せよ』とのことです。

 

  詳細は、こちらに」

 

 そう言ってフランクは、高級そうな紙の束に

 国王陛下の封蝋が施されたものを手渡してくる。

 

 それを受け取ると、さっそく中身を確認する。

 

「それでは、私はこれで」

 

「ああ、ちょっと待て」

 

 役目を終え、帰ろうとするフランクを呼び止める。

 

「そんなに急いで帰る必要もないだろう。

 少しぐらいゆっくりしていけばいい」

 

「いえ、しかし・・・」

 

「王都までの道中、また長旅となるだろう。

 僻地ゆえ、大したものは用意出来ないが

 風呂でゆっくり疲れを癒し、上手い食事を食べるぐらい構わんだろう?」

 

「よ、よろしいの・・・ですか?」

 

「私から言っているのだ。

 何を遠慮する必要がある」 

 

 ちょうどその時、扉をノックする音がする。

 

「失礼します」

 

 1人の男騎士が入ってくる。

 

「入って頂くお風呂の準備が整いました」

 

「・・・だ、そうだ。

 せっかくだから風呂まで案内を」

 

「はい。

 では、どうぞこちらへ」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 まるで賓客をもてなすかのような待遇に

 すっかり上機嫌で風呂へと向かうフランク。

 

「・・・あそこまで待遇を良くする必要、あるんですか?」

 

 部屋の隅に隠れていた騎士姿の少女は

 出てくると同時に、リボンで結んでいるポニーテールを揺らしながら

 そんな言葉を投げかける。

 

「ただの近衛兵1人を優遇しても、何の意味もないと言いたいのだろう?」

 

「ええ。

 必要以上の経費が、かかってますよ」

 

 シェンナ=テルスタット

 

 副軍団長にして軍団の金庫番となっている少女だ。

 

「な~に、彼には立派に働いてもらうさ」

 

「・・・なるほど、王都での話題作りにということですか」

 

「今は、味方は1人でも欲しいからな。

 それにただの騎士といっても近衛だ。

 王宮内に出入りしているというのは、それだけでも大きい」

 

「解りました。

 この分は、この前の余剰金から清算しておきます。

 

 ・・・あと、全部隊の準備が完了しました」

 

「わかった。

 申し訳ないが、あとは任せる」

 

 そう言って自分の部屋に向かう。

 

 女性や平民が多い部隊で

 重要な役職が、ほとんど女性というのも

 我が軍の特徴でもある。

 

 まあ、他の連中からは『変わり者集団』などと言われるが・・・。

 

 何故なら、前にも言ったが軍とは男が主役だという考えが未だに根深い。

 それは、想力者が出てくる前から戦争を駆け抜けてきたのは

 男であり、戦場は男の舞台だと考えている者が大半だからだ。

 

 そのため、どれだけ優秀であっても

 女性というだけで扱いが悪くなる。

 

 よほどの実力者か、私の部隊のように

 有力者が起用しない限り、基本的には見ることはないと

 言えてしまうのが現状だ。

 

 また身分によっても差が出る。

 より高い身分の者ほど、出世するのが早い。

 逆に身分の低い者は、使い捨てにされることが多い。

 

 特に平民が、一番苦労するだろう。

 貴族になれる機会なんてほとんどない。

 どれだけ活躍しても準男爵止まり。

 

 どの国でも、そんな下らないことが

 平然と行われているのだ。

 

 だが私は違う。

 つまらないプライドで優秀な人材を逃すつもりもなければ

 無駄な犠牲を出すこともしない。

 使い方次第では、1人で大軍を相手にすることも

 どんな難攻不落の城を落とすことも可能となる力を

 無駄になどするものか。

 

 女性であろうが、平民であろうが

 優秀な者が上に立つべきなのだ。

 

 そしてそれが我が軍の強さでもある。

 能力に生まれや血筋なんて関係ない。

 

 短期間で私が将軍になれたのも、彼女らのおかげだ。

 

 自分の部屋に入るとスグに準備をする。

 普段から鎧に兜を装備しているため、準備といっても馬上で使用する装備だけだ。

 騎乗用の装備を持つと、待機場所として利用している場内の広場に出る。

 

 そこには既に準備を終えた部隊が集結していた。

 一面、赤い鎧を着た者達が綺麗に並んでいる。

 

 我が軍では、色によって識別することが多い。

 陛下直属の部隊は、緑色。

 近衛兵は黄色。

 ダムル元帥軍は青色。

 ジェイス元帥軍は白色。

 

 そして我が軍は既に陛下より、赤色を賜っているため赤だ。

 ちなみに黒色は、特に誰がなどという決まりはない。

 

 そもそも黒色と赤色は、特に金がかかるから

 誰も欲しがらないというのもあったりするのだが・・・。

 

 これから戦争が始まるのだと皆、真剣な顔をしている。

 全体を見渡せる城壁の上まで移動すると、全員がこちらを見ているのが解る。 

 

「諸君。

 小国ガーランドが、己が身分をわきまえず

 よりにもよって、我が領地に。

 この城を目指して侵攻を開始したとのことだ。

 

 さて・・・この愚か者どもには、何が必要だと思う?」

 

「罰をっ!

 罰をっ!!

 罰をっ!!!」

 

 殺気立った声が城中に響く。

 

 地面で足踏みをする振動で

 周囲が揺れているように感じるほど

 皆が地面を強く踏みつける。

 

「では、諸君らに重ねて問おう。

 ・・・どんな罰が必要だ?」

 

「殺せっ!

 殺せっ!!

 殺せっ!!!」

 

 槍の石突を地面に打ち鳴らしながら、彼らは叫ぶ。

 

「そう、その通りだっ!

 

 死という罰を以て、奴らに教えてやろうっ!

 

 自分達の過ちをっ!

 

 一体誰に喧嘩を売ったのかということをっ!!」

 

 手に持っていた槍を掲げると

 一斉に兵士たちが声を上げる。

 

 その声の中を進み、愛馬に跨る。

 

「総員、行軍開始っ!!」

 

 高まる熱意を維持しつつ行軍を開始する。

 

 普段は、さっきのような露骨な口上などしないのだが

 今回は短期決戦となるため少しでも士気を上げる必要があった。

 まあ、予想以上の成果だったので

 その後の行軍も実に余裕を持っての道のりとなった。

 

 たったの1日と少しで、ガーランド軍を捉える。

 本来なら、城で迎え撃つのだが

 今回は、どうしても野戦をする必要があった。

 

 ・・・いや、『逃げる前に追いつく必要があるため』出撃する必要があったというべきか。

 

「全軍、まだ旗は上げるなよ。

 隠密行軍で、可能な限り接近してから仕掛けるぞ」

 

「報告します。

 相手の上がっている旗は

 中央に青にガーランド王家の紋章が入った旗。

 その横に、青に白色の双剣の旗。

 

 右翼には、白に赤色の騎士の旗。

 左翼に、黄に黒色の槍の旗とのことです」

 

 いつの間にか隣にミーアが現れて状況を説明してくる。

 

 青に王家の紋章は、ガーランド王の旗。

 青に白の双剣は、近衛軍の旗。

 白に赤の騎士は、ガーランドの将軍が使う旗。

 黄に黒の槍は、ガーランドの暴れ馬・・・だったか。

 そう呼ばれているらしい子爵のだ。

 

「さて、どうするのです?」

 

 まるでやる気の無い声で話しかけてくるリーン。

 

「随分と、気乗りしない様子だな」

 

「・・・私が指揮するまでも無いのです」

 

「まあ、そんなことを言うな。

 1人でも多くの命を無駄にしないためだと思ってくれ」

 

「では隊長は、どの辺で・・・とお考えなのです?」

 

「相手次第だな」

 

「今回、間違いなくガーランドは・・・罠にかかっただけなのですよ」

 

「・・・当然だな。

 本気で攻めてきたのなら、こんな森の多い平地は通らんさ」

 

 そう、ガーランドは本気で攻めてきた訳ではないのだ。

 ガーランドを含む東側は、小国が多く小競り合いが続いている。

 その中でも一番大きなガーランドを目障りだと考える国も少なくない。

 

 要するにハメられたのだ。

 別の国の連中と戦うつもりが、いつの間にか誘導され

 こちらの領地の中へと知らずに入ってしまった。

 

 森が多い平地は、それだけ視界が狭く

 似たような場所も多くなり、道にも迷いやすくなる。

 

「しかし、あれだけの外交力を見せてきた王が

 こんなありきたりな手に・・・とは思うのですよ」

 

 彼女がそう言いたくなるのも理解出来る。

 

 北のリッツダール帝国と我がランバルト王国に接しているため

 独立性を維持するためには、双方ともに『利用価値がある国』として

 認識をして貰わなければならない。

 

 そうでなければ、どちらかが単独で。

 もしかしたら2つが同時に攻め込んできて

 歴史からガーランドの名が消えている所だ。

 

 利用できるだけの価値があり、そして相手に利用されては困る。

 それでいて攻め込むほどではないという

 非常に微妙な間を、あの王は外交のみで行ってきたのだ。

 

 東は、ガーランドが一番大きいというだけで

 いくつもの小国が、日々少しでも領土を広げようと

 戦っている激戦地帯だ。

 

 特にガーランドの次に大きなコルスン帝国は

 露骨なリッツダール寄りの姿勢となっている。

 

 ミーアの情報では、東を制覇する手助けと

 制覇後は、東全ての領土権を得るということで

 リッツダールと密約を交わしているらしい。

 

 『まあ、体良く利用されているだけでしょう』と

 ミーアからは、酷評されていたが。

 

 コルスンほどではないにしろ、普通は近くの大国に

 半ば属国のような形になってしまうが

 服従して存続を認めてもらう・・・というのが小国だ。

 

 しかしガーランドは、利用されるだけの小国という立場で

 大国2つと外交面だけで、対等に渡り合っている。

 それだけでも十分すぎる結果だろう。

 

 それだけ優秀な王が、こんなわかりやすい罠にかかる訳が無い。

 彼女は、そう言いたいのだ。

 

「恐らく『アレ』のせいだろうな。

 ここで王が死ねば、ガーランドは終わりだ。

 

 王女が1人いるらしいが、歳も若いし

 特に際立った力があるといった話も聞いたこともない。

 

 となれば、王女を祭り上げ、後ろで実権を握ればいい。

 これで傀儡国家の誕生となる。

 

 それを狙っていたとするなら、まさに今が好機。

 積極的に動きたくもなるだろう」

 

「そうなると、王を討つ訳にはいきませんね」

 

「・・・お前ほどの逸材が、何を言ってるんだ?

 そんな思惑すら利用し、場合によっては

 それごと踏み潰すのが私の戦いだ」

 

「・・・最近隊長は、私に対して何だか冷たい気がします。

 冗談ですら真顔で返されると悲しくなってきます」

 

「お前こそ、冗談か本気か解らん真顔で

 そんなことを言うからだろう」

 

「私の愉しみの1つですから。

 『1つのことで全てが通じる』なんて会話が出来るのは

 隊長以外には、居ないのです」

 

「そんな顔を赤らめて言われると

 色々と冗談では無くなりそうだな」

 

「私は既に身も心も全て、隊長に捧げているのです」

 

 そう言ってくれるのは、ありがたいのだが

 おかげで『ロリコン疑惑』として他の連中から

 散々あれこれ言われるのだから、困ったものだ。

 

「どうするのか決まった?」

 

 最前線に居たテリアが、こちらまでやってくる。

 

「私が左翼、テリアさんが右翼として突撃。

 相手を出来るだけ左右に引っ張るのです。

 

 あとは、隊長の突撃で終了なのです」

 

「要するに、いつも通りってところか。

 

 そっちが左翼ってことは、敵右翼側・・・将軍の方よね?

 私がそっちじゃなくてもいいの?」

 

「撃破が目的ならそうするのですが

 今回は、陽動のみなので問題ないのです」

 

「じゃあ、何だったっけ?

 暴れ・・・馬だっけ?

 ・・・もちろん、潰せるなら潰しても構わないんでしょ?」

 

「まあ、そのあたりはお任せなのですよ」

 

「りょ~かい。

 合図もいつも通りでいいわよね?」

 

「ですです」

 

「それじゃ、行ってくるわ」

 

 そう言って片手で軽く手を振りながら

 テリアは、最前線へと戻っていく。

 

「では私も行くのです。

 隊長も気を付けるのです」

 

「ああ、わかったよ」

 

 その言葉を聞いて、ため息を吐きながら

 リーンは、指揮のために持ち場へと向かった。

 

 そんな姿を見て思わず苦笑する。

 あの顔は『絶対無茶するんだろうな』と思っている顔だ。

 

 まあ、確かに無茶なことをするのだから

 反論しようが無い訳だが。

 

「さて、じゃあ仕事をするわよっ!

 全軍、突撃っ!!」

 

「皆さん、突撃するのですっ!」

 

 両軍の中央に、木々が多い森がある。

 これを避け、その両側の平地に部隊を進めたテリアとリーンが

 旗を上げると左右から攻撃を開始する。

 

 本来ならば、舌戦なりを仕掛けた後に

 正面から堂々と決戦を挑むのが騎士としての礼儀なのかもしれんが

 それをしてしまっては、意味が無い。

 

 ガーランドと互いに勘違いをしたまま交戦となったことにしたいからだ。

 

 突然の奇襲に混乱するガーランド軍だが

 その旗を見て、更に動揺する。

 

 青い空に翻るのは、鮮やかな真紅の旗。

 そこに描かれているのは、1匹の龍の姿。

 

「真紅の旗が来たぞっ!!」

 

「紅い龍旗・・・ランバルトのレナード将軍の旗だぞっ!!」

 

「馬鹿なっ!! 何故ランバルト王国軍がっ!?」

 

 立て直そうとするが、左右から仕掛けてくる部隊が

 部隊を分断してしまうため敵軍は、完全に孤立してしまう。

 

「さて、我らは第2陣。

 部隊の主力にして、正面を駆ける戦の花形っ!

 

 我らの力を、見せつけてやるのだっ!!

 全軍、突撃ッ!!!」

 

 騎馬兵が中心で構成されたレナードの本隊が

 中央の森に向かって突っ込む。

 

 道の無い森を騎馬で突撃するのは無謀だ。

 立っている樹木だけでなく、地面に出ている木々の根や

 起伏の激しい地面など足場の悪さだけでなく

 樹の枝など視界も悪いため、正直自殺行為に近い。

 

 だが、森の反対側に居たガーランド近衛軍は

 驚きと混乱に包まれる。

 

「も、森を抜けて・・・騎馬が突撃してきますっ!!」

 

「馬鹿なっ!? 騎馬が森を抜けてくるだとっ!?」

 

「真紅の旗っ!?

 相手は、ランバルトのレナード軍だぞっ!!」

 

「何故、レナード軍が居るんだっ!?」

 

 左右に居た軍は、敵との交戦により

 いつの間にか、どこかへと行ってしまっていた。

 完全に孤立している所に、来ないと思っていた場所から

 突然敵部隊が現れたのだ。

 

 混乱する部隊の中で、1人の男が声をあげる。

 

「全員、落ち着けっ!!

 隊形を維持して突撃を受け止めるっ!!

 

 陛下の元へは、敵兵を1人たりとも行かせるなっ!!」

 

 その言葉で、不思議と落ち着き始める近衛軍。

 

 何故ならそれは、近衛軍を指揮する隊長の言葉だったからだ。

 

 落ち着きを取り戻し、隊列を整えた彼らに

 騎馬兵が迫ってくる。

 

 よく見ると、騎馬兵達より少し離れた先頭に

 単騎で駆ける緋色の鎧に身を包んだ騎士が居た。

 

 赤い集団の中でも、ひと際鮮やかな緋色。

 しかも立派な装飾の鎧に大き目の突撃槍を持っているため

 かなり目立っている。

 

 戦場では、手柄欲しさに若い騎士が

 暴走することは、よくあることだ。

 

 彼らはそう思っていたのだが、その予想は

 最悪の形で裏切られることになる。

 

「邪魔だ、雑魚どもっ!!」

 

 そう叫びながら単騎駆けをしてきた騎士に

 近衛兵たちが襲い掛かる。

 

「たった1人で良い度胸だっ!!」

 

 応戦するように戦闘の近衛達が前に出る。

 

 ―――しかし。

 

 大きく展開された想力の壁によって

 彼らは大きく吹き飛ばされる。

 

「そ、想力者だぞっ!!」

 

 単騎駆けの赤騎士に触れることも出来ず

 近づくだけで想力の壁によって跳ね飛ばされる。

 

 誰がそんな騎馬の突撃を止められるのか。

 その騎士が走り抜けて空いた穴に

 後続の騎馬たちが次々と走り抜けていく。

 

 それにより、中央を強引に突破される近衛軍。

 

「想力者がお前だけだと思うなよっ!!

 我が想力の一撃を受けよっ!!」

 

 大きな槍斧を振り回して前に飛び出してきた騎士が

 レナードに向かって想力を大量に込めた槍斧を突き出す。

 

「はぁっ!!」

 

 レナードは、相手の一撃に合わせて

 馬上から突撃の勢いを乗せた槍の一撃を繰り出す。

 

 金属同士が、ぶつかり合う音が戦場に響く。

 

 敵騎士の槍斧を弾き、それでも勢いが止まらないレナードの槍は

 相手の胸を貫きながら、その相手を思いっきり遠くへと吹き飛ばす。

 

 それらは、まさに一瞬の交差で起こり

 その圧倒的なまでの一撃に、周囲の兵士達は戦意を失い

 道を自ら開けてしまう。

 

「あ、あいつまで一撃でっ!?」

 

「ば・・・化け物だっ!!

 アイツは、化け物だっ!!」

 

 周囲の兵士達の悲鳴にも似た言葉。

 それは、せっかく落ち着いた者達にも伝染してしまい

 また恐怖という名の大混乱となっていく。

 

 その頃、相手がランバルト軍だと解ったガーランドのグラザ国王は

 撤退指示を出していた。

 

「何としても撤退せよっ!!

 ここでランバルトと・・・レナード軍を敵に回す訳にはいかんっ!!」

 

 『罠にかかった』と気づいた時には、遅かった。

 ここでもし本格的な戦争となれば、ガーランドは終わってしまう。

 

 だからこそ、僅かな望みであっても

 退却する必要があるのだ。

 

 この場をどう切り抜けるべきかを悩んでいると

 周囲が騒がしくなってくる。

 

 すると1人の騎士が、こちらに走ってくる。

 

「陛下っ!!

 おさがりくださいっ!!

 

 敵が迫っておりますっ!!」

 

「何っ!?

 もうここまで来たと言うのかっ!?」

 

 ダメだ。

 早すぎる。

 

 そう思っていると

 騎士が慌てて言葉を付け足す。

 

「いえっ!

 単騎でこちらに突っ込んでくる騎士がおりますっ!!

 

 それがかなり強い騎士で、止めようがないとのことっ!!

 ですから、万が一のためにも―――」

 

 目の前の騎士が話している最中だった。

 

 突然、何かが目の前に飛び出してきて

 報告していた騎士が跳ね飛ばされる。

 

 一瞬何が起こったのかと思ったが

 それが騎士だと気づくのに、さして時間はかからなかった。

 

 その騎士が血まみれの槍をこちらに向かって突き出してくる。

 咄嗟に手にしていた槍で受け止めようとするも

 簡単に弾き飛ばされ、自身の槍が宙を舞う。

 

 そしてそのまま相手の槍が自分の首元を狙って突き出される。

 

「(ああ、全てが終わってしまった)」

 

 目を閉じて迫る槍の一撃に恐怖する。

 

 正直、悔しかった。

 ほんの僅かな失敗で、全てを失ってしまうのかと。

 

 だが、奇跡が起こった。

 

「・・・この人形は、何だ?」

 

 突然、そんな言葉が聞こえてくる。

 迫っていたはずの槍の一撃の感覚も無い。

 

 ゆっくりと目をあけると

 相手の騎士の槍が、首元で止まっていた。

 

「・・・これは何だと聞いている」

 

 そう言って槍を少し引いて、槍先を目の前に出してくる。

 そこでようやく気づく。

 

 槍の先に刺さっている手縫いの人形に。

 

 それは昔、娘が作ってくれたもの。

 ネックレスのように首から下げるための紐がついた

 不格好だが、愛情が込められた人形だ。

 

 いつも戦場に出る際には

 必ずこれを身に着けている。

 

 今はもう紐が切れ、槍が突き刺さり

 見るからにボロボロとなってしまったが。

 

「・・・これは、我が娘エリーゼがくれたもの」

 

 そう答えると、騎士はため息を吐きながら

 槍先から人形を抜いて、こちらに投げてくる。

 

「父親想いの娘に感謝するのだな。

 それが無ければ先ほどの一撃で、お前は死んでいた」

 

「・・・だろうな」

 

「これも何かの運命・・・としておくか。

 

 今すぐ全軍撤退すれば、見逃してやる。

 領地に入り込んだことも

 『盗賊を追っていたら間違ってぶつかってしまった』

 ということにしておこう」

 

「・・・そうか、そなたがあの―――」

 

「今は、そんなことはどうでもいい。

 で、この話。

 

 受けるのか?受けないのか?」

 

「・・・正直ありがたい話だ。

 野盗を追っていたことにして貰えると助かる」

 

 何故、相手がそんなことを言い出してきたのか疑問ではあったが

 こんな好条件を出してくれている以上、何の文句もない。

 

「なら、さっさと撤退するんだな。

 でなければ、こちらの部下がやる気を出して

 そちらの将を何人も討ち取ってしまうかもしれんぞ」

 

 そう言ってくるりと反転する緋色の騎士。

 

「ああ、そうそう。

 これをくれてやる。

 

 身近な人間は、もう少し信頼出来る者にするべきだ」

 

 騎士は、懐から紙を出すと

 こちらに投げてくる。

 

「それは、貸しにしておこう」

 

 そう言うと、騎士はまた単騎で戦場を駆け

 自陣へと戻っていった。

 

 まるで嵐が過ぎ去ったかのような感じで

 少し呆然としていたが、手に持っている人形を見て

 娘であるエリーゼの顔が思い浮かぶ。

 

「そうか・・・お前が守ってくれたのか」

 

 人形を頬に擦り付けるようにしながら

 グラザ王は、生きていることに感謝するのだった。

 

 その頃、単騎で駆けていたレナードは

 遅れてやってきた騎馬兵たちに声をあげる。

 

「これより反転っ!!

 敵左翼側後方より突撃し、一度後退するっ!!」

 

 その言葉に今まで直進してきた彼らが

 まるで1つの生き物のように、見事な統率力で

 一斉に反転して後退する。

 

 そしてこちらの右翼であるテリアと挟撃しつつ合流。

 

 そのまま完全に撤退した。

 リーン側もこちらの動きが見えていないにも関わらず

 完璧なタイミングで後退してくる。

 

 こうしてガーランドとの戦いは、一瞬で終わってしまった。

 

 後日、正式にガーランドから

 事故とはいえ領地に進入してしまったことに対する謝罪と

 領地進入は『国内を騒がす盗賊を追っていたため』とする内容の手紙を

 こちらに持ってきた。

 

 それらを元に『ガーランドに敵意無し』と陛下への報告に書いた。

 すると『もっと詳しく聞かせろ』と王都に召還されることになり

 偶然の戦闘とはいえ、圧倒的な勝利でガーランドに威を示したと

 上機嫌で笑う陛下と、こちらの活躍に不機嫌な宰相の顔を見ることになった。

 

 余談だが、私が王都に行っている頃。

 ガーランドでは、あの時戦場に居た将軍が処刑されていた。

 

 内容は『国家反逆罪』

 敵国と内通して国王暗殺と国家滅亡を企てた大謀反人だとしてだ。

 

 王に渡した手紙は、将軍がリッツダール帝国と密約をしていた密書。

 そこには、国王を上手く殺害した場合は将軍が国王として

 即位することを帝国が支援するという内容だった。

 

 罠にかかってしまったのも

 まさか将軍が裏切るとは思わなかった・・・ということだろう。

 

 意外だったのは、その場に居たダムル元帥が

 何も言ってこなかったことだ。

 

 いつもなら嫌味の1つでもあるのだが・・・。

 

 それが、昔にあった話。

 後に戦いがあったことすら政治的に無かったことにされ

 記録からも抹消された、まさに幻となった戦い。

 

 エリーゼの話を聞いて、思い出した過去の記憶。

 そして、エリーゼの言葉に関して引っかかっている部分だ。

 

 あの時、王は確かに人形を持っていた。

 それは恐らくエリーゼが言っていたものだろう。

 

 あんなものを戦場に持ち込んだ王を見たからこそ

 私の槍が止まったのだ。

 

 今までの生涯で、1~2を争うぐらいに甘い一撃だったと自覚している。

 

 なので、あの人形を持っていた以上

 王がエリーゼを嫌っているとは思えないのだが・・・。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 気づけば朝になっていた。

 

 どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

 

 服を着替えて身支度を整える。

 

「さて、今日も1日頑張るか」

 

 そう自分に言い、今日も『女学生』を演じるために

 気合を入れてから、寮の食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

第7章 幻の戦い ~完~

 

 

 

 

 

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