今日も学園は、いつも通りだ。。
いつも通りの授業に、いつも通りの訓練。
そして今日も行われる、何気ない訓練風景。
しかし、別にただ無意味に過ごしてきた訳でもない。
様々な想力者が居るのだから、色々と参考になることも多い。
例えば、アリスの能力は『精神力付与』とでもいうべきもの。
自身の感情を想力に変換していると思われる一撃を放てるようだ。
今はまだ威力が低いが、扱い方次第では非常に強力なものになるだろう。
そのアリスと今、戦っているセレナはと言えば
「―――伝説の龍よ、その力を我に」
少し刃の大きめな直槍が、彼女の手元に現れる。
あの想力武装は『龍槍ファルフォンス』というらしい。
かつて我らが王国を建国した初代国王は、ファルフォンスという巨大な龍に乗り
空を自在に駆けたとされている。
王家の紋章が龍に乗る騎士であるのも、ずっとその頃の紋章が
使用され続けているからだ。
そして彼女の能力は『灼熱』とでもいうべきか。
炎を自在に操り、時にはその熱で溶かすことも出来る。
世界の元とされるものを元素と呼び、それらの中でも代表的なのが
火・水・土・風の4元素と呼ばれるものだ。
『能力』が、この4元素のうちの1つを操るという想力者は全体の半数近くと
かなり多いのだがその中でもセレナの能力は、最上位に位置すると言えるほど強力なものだ。
私は、戦場で多くの元素使いとでもいうべき者達とも戦ってきた。
当然、炎を使う者とも多く戦ったが
彼女ほど範囲・熱量共に強力なものは見たことが無い。
そして向こうでクラスメイトと談笑しているルナの想力武装は、弓だ。
いつの日だったか、あの馬鹿どもを彼女の言い方で言うなら
『躾』をしているときに使っていたものだ。
想力武装の名は『月光【グランルナ】』という名らしい。
まあ彼女の名前は、古代語で『月』を意味するのだから、そういう名になったことに違和感はない。
能力に関しては、特に何かしている訳ではないため不明だが
あの日の夜に見せた、あの暗がりでの正確な一撃を考えると
命中に関する能力なのかという予想はしているが・・・。
不明と言えば、日陰で休憩しているフランだ。
彼女は、想力者であるはずなのに今まで一切能力を使用している形跡がない。
想力武装さえ見せたことがない。
一度でも見せてしまえば対策を取られてしまうものなのか
それとも『今は出せない』のか。
そしてもう1つ気になっているのが、彼女の素性だ。
確かにディーリット家という子爵の爵位を持つ家は、ほとんど未開拓とも言える南方の山岳地帯にあった。
簡単に調べた際には、ディーリット家にフランという娘は、確かに居るという話だった。
だが、その情報を持って帰ってきたミーア自身が『気になる』と言い出したため
彼女が率いる諜報部隊に全力で調査させてみると
『フランという娘が居る』という情報が『後付けされた』ということが分かった。
提示された資料が膨大だったので、全て読むのに苦労させられたが・・・。
ミーアが気になったと言うものは、1つ1つは非常に小さい誤差や疑問であって
それ自体が、即『フランという娘』を否定するものではない。
だが・・・それら情報が全てまとまり、1人の『フラン』という人物を形成するとなった際
小さいはずだった誤差や疑問が大きくなり、違和感として引っかかったのだ。
その違和感を元にして、違和感そのものを追求していくと
それら全てで『フラン』という少女の存在が否定されてしまう。
つまり私の目の前に居る『フラン=ディーリット』と名乗る少女は
偽名を使い、身分を偽っているということだ。
何故、そうする必要があるのか。
そしてそうしなければならない理由とは、一体何なのか。
そちらに関しては、現在調査中なのだが
『フラン=ディーリット』の正体を調べようとすると
極端にガードが固くなってしまって一向に手がかりすら掴めない。
だからこそ、連続失踪事件以降
彼女の行動には、人一倍警戒していたが
今の所、彼女が関わっている痕跡は無い。
少しの間とはいえ、共同生活をしてきた仲だ。
出来れば彼女の事情は、私と同じように
『人に言えない』というだけのものであって欲しい。
そう思う私は、やはり甘いのだろう。
第8章 異形の武器
色々考え事をしている間に学園の授業が終わり、放課後になる。
私は学園長室にて出された紅茶を飲みながら、ため息を吐く。
「おや、どうされました?」
「これからどうせ面倒な話をするつもりなのだろう?」
そう言うと学園長であるマリエルが愉しそうに笑う。
「もうご存知かもしれませんが、街で少しおかしな事件が起こっていましてね」
「どうぞ」
テリーヌが資料らしき紙を手渡してくる。
「ここ最近、人が襲われる事件が起こっています。
被害者に共通点は無く、全員人気の無い路地で倒れている所を
街の住人からの通報もしくは、警備兵が発見。
被害者は全員、かなり衰弱していて
スグに治療しなければ命にかかわるほどだそうです。
幸い、発見が早く死者は出ていませんが
かなりの人数が被害に遭っています」
手元の資料を見ながらテリーヌの話を聞く。
「・・・で?」
「・・・え、っと。
『で』と言われますと?」
「そんな話を聞かせて、私にどうしろと?
まさか『解決しろ』とでもいうつもりじゃないだろうな?」
「え、え~っと・・・。
・・・がくえんちょ~ぅ」
図星を突かれてか、それともリシアの鋭い睨みに怯んだのか
困った顔でマリエルに助けを求めるテリーヌ。
「こちらとしても、この街での出来事は我々で解決すべきだとは思っているのですが
優秀な人手が不足しておりまして、なかなか手が回らないのです」
「・・・だから前から言っていただろう。
それなりの予算も確保してやるべきだと」
実は、1年ほど前から『学園都市治安計画』として
都市独自で駐屯兵団を設立すべきだと言っていたのだ。
この都市は、前にも言ったが特殊だ。
街長も居るのだが、最終的な権限は学園フォースの学園長が持っていたり
学園都市だけは何処の貴族の領地でもない。
税収も全て街で管理して街の維持に使用される。
つまりある意味、独立した国家なのだ。
しかも騎士学校が多く存在し、良家のお嬢様達まで集まってくる。
何より次代を担う若者・想力者などが集うというのもあり
その警備には、厳重過ぎるほどに厳重でなければならない。
だからこそ、普通の街のような警備兵のみというのは
警備として全然足りていない。
付近に山賊などが出現しても自力討伐可能で
万が一他国が侵攻してきたとしても
せめて3日間ぐらいは耐えうる軍備は必要だと言ってきたのだが
予算の都合や、どこぞのお偉い宰相閣下の横やりで
まったくと言っていいほど進んでいない。
「生憎、この街だけの税収では街の維持管理が精一杯な状況でしてね」
「それなら、卒業生を使えばいいだろう」
「・・・卒業生ですか?」
「未だ悲しいことに、軍では女騎士の扱いは悪い。
どこに行っても冷遇されて、最後には故郷の守備隊に入るか
結婚して家に入るかだ。
それは、言わなくても解るだろう?」
「・・・それはもう」
かつて『閃光のマリエル』と呼ばれた学園長だが
有名になればなるほど、扱いが悪くなったり嫌がらせをされるなど
当たり前のようにあっただろう。
その頃を思い出してか、学園長が少し遠い目になっている。
「だからこそ、学園を卒業した生徒の中で優秀な人間を
そのままここの守備隊に加えればいい。
それこそ卒業生達で構成された女騎士部隊を作れば
彼女達もやりやすいし、人数も揃えやすい。
何より想力者が多く入ることで少数精鋭の部隊となるだろう。
現状既にある守備隊との区別をどうするか等はあるが
悪い話ではあるまい?」
「・・・なるほど、確かにそういうことが可能になれば
問題解決は、それなりに早くなるでしょう。
ですが、その分の給金が問題です」
「それこそ無ければ商売でも何でもすればいい。
例えば、安い学生寮の設置だ。
私が使っている所は、まあ色々複雑な人間しか入れてないようだが
それでも貴族令嬢でもなければ厳しい額が必要だ。
その他の貴族の娘などは、周囲にある貴族の持つ屋敷を間借りしている者が
ほとんどだが、隣街から馬車で来る者も多い。
また特別枠で入ってくる一般生徒は、隣どころか2つほど向こうの
街や村などから通っている状態だ。
そういう者達にも気軽に使える低額の学生寮を作れば
長期的に見れば、かなりの収入が見込める。
また学園内に食堂はあるが、それとは別に酒場に近いものを出せばいい。
さすがに酒は置けないが、軽く食べれる携帯食や紅茶を気軽に飲める場所として
利用出来る場所でも作れば、放課後などに利用しやすいし
そこで学園内で使うような消耗品などの販売も出来る。
消耗品と言えば、想力武装も手入れ要らずとはいえ
流石に半年に1回程度は、想力技師に手入れして貰う必要がある。
ジョストをしている連中や、通常の武器などを利用している者達も
学園内に鍛冶屋もしくは、その受付があれば気軽に利用出来るだろう。
それらも決して軽視出来る金額ではないぞ?
そして学園の森は、かなり良い樹が揃っている。
ある程度計画的に使えば、質の高い良質な木材として
高値で取引出来るだろう。
森の景観維持のついでにやる商売としては
それなりの収入は期待出来る。
あとは・・・そうだな。
貴族達を学園に呼べばいい」
「貴族達を・・・ですか?」
「娘がどうしているか心配な親ほど見に来るだろう。
それに今後、娘をここに入れようとしている連中も下見に来る。
何なら、学園に入学を考えている娘達も集めればいい。
学園内を見せて学園の優秀さを見れば安心するものも多くなり
将来的な学生の確保も可能になるだろう。
まあ、花嫁修業程度に娘を入れる下らん連中も多いだろうが
学園の維持するための金を出してくれると思えば問題ないだろう。
そういう連中への『見世物』としてはちょうどいいとも言える。
そして学園内の入口にでも大きく看板を設置して
今までの寄付をした貴族達の名前を張り出してやれ。
そして寄付を呼び掛ける紙と一緒に
『寄付額に関係無く名前を出す』
『寄付額は伏せる』
『あくまで【気持ち】であって強制ではない』
とでも言えばプライドの高い貴族どもは、それなりに金を出すはずだ。
もちろん看板を出すのは、そんな貴族共が来ている時だけだがな」
「・・・そこまでお考えがあるのでしたら
もちろん、手伝って頂けるのですよね?」
「・・・何故、私が他人の街の面倒まで見なければならんのだ」
「この街が色々と特殊だからですよ。
それに以前にも話を致しましたが各ギルドをまとめる商工会も
一筋縄ではいかないものでして」
街には、ギルドと商工会というものがある。
ギルドは、各職業ごとにあり商工会は
それら全てをまとめている所だ。
新しく商売をしたければ、商工会に入ってまず認められ
その商売に合ったギルドに所属するという流れとなる。
言うなれば商売人達の集まりである。
百戦錬磨の商売人が集まっていることもあり
街によっては、かなりの権力を持っていたりすることもあるため厄介だ。
まあ私の街にも存在するが、完全に掌握しているので問題ない。
「はぁ・・・ある程度ぐらいは介入するしかない、か」
「ご協力感謝いたします」
「まったく。
陛下が仰っていた通りだな」
「おや、陛下が何か?」
「『閃光のマリエル』には気を付けろ。
あの婆さんは昔から、他人に物事を押し付けるのが上手い。
気づけば厄介ごとを持ち込んでくるから
関わり合いになるなら、それなりの覚悟をしておけ。
・・・だとさ。
まさにその通りだと思っただけだよ」
「ほっほっほっ。
評価されているのだと受け取っておきます」
愉快そうに笑うマリエルにため息を吐きながら
私は、立ち上がる。
「お帰りですか?」
「・・・誰かさんに厄介事を押し付けられたものでね。
そのあたりも含め、帰ってから検討させてもらうよ」
そう言ってリシアは、さっさと学園長室を出て行った。
「・・・はぁ」
「・・・どうしました、テリーヌ?」
「あの方、一体何者なのですか?」
「おや、気になりますか?」
「だって、事件もあっさり解決されましたし
先ほどの件だって、学園長をはじめとした方々が
何度も検討してきた内容だったのに
こうもあっさり解決案を、次々と出せるなんて・・・」
「あの方は・・・そうですね。
きっと『新しい時代』を築かれるでしょうね」
レナード元帥については、かなり前から気になって調べていた。
今までの概念にとらわれない大胆なことを次々と実行していく
発想力と決断力を兼ね備えた若者。
優秀であれば、性別や身分など問わず取り立てることでも知られ
貴族・血族主義に対して懐疑的でもあるためか
宰相を中心とした貴族主義派から敵視されている。
かつて彼は、宰相に意見し東の地へと左遷された。
元々東側の領地は、宰相に反発してはいるが2人の元帥とも距離があるといった
どの派閥にも属していない独立した貴族達が、宰相によって左遷される土地だった。
どれだけ力があっても左遷の地では、税収が激減する。
何とかしようと努力した貴族達も多くいたが、王都からも遠く
人口も少ない集落ばかりの村がいくつかある程度の何もない土地では
どうしようもなかった。
東の領地では辺境伯ですら、まともに軍を維持出来ないほどの土地ばかり。
何をやっても上手くいく訳が無い。
ただジワジワと財産を削られ、緩やかに没落していくしかなかった。
そうしていつしか、東の領地は『没落した貴族達の墓場』と噂されるようになる。
だが、そこに現れたのが彼だ。
当時は、確かまだ将軍だった。
皆と同じく宰相に嫌われ左遷された哀れな男。
彼もまた没落からは免れずに、将軍とは名ばかりな家となるだろう。
下手をすれば将軍の座から落ちるかもしれない。
誰もがそう思った。
しかし彼は、大きな街道を整備して巨大な街を建設しはじめた。
誰もが夢物語だと笑った。
だが、1年もすれば自体が変わる。
彼は関税を撤廃し、商人達を呼び込み、人々を集めた。
その結果、巨大な都市は完成を待たずして人々で溢れかえり
僻地と呼ばれた面影が無くなっていた。
更にその発展を東側領地全てに広げるために
力を失っていた領主達に、協力を要請した。
『今こそ、我々の力を示す時だ』
誰もが疑心暗鬼だったが、それでもその号令に
誰もが縋る想いで集まる。
その彼らに、発展するための知識や技術を惜しみなく共有し
更に彼らのために多額のお金を出して支援した。
その結果東側は、あり得ないほどの速度で急激な発展を遂げる。
僅か1年で、かつて左遷の地と呼ばれた場所は
王都のある中央と同じぐらいの人で賑わい
領主達もかつての力を取り戻しつつある。
そのため、東側の領主で彼に敵対する者は居ない。
むしろ東側の領主全てが、彼の支援者となっている。
ナリアス家も、そんな家の1つだ。
一番焦っているのは、間違いなく宰相だろう。
東側の領主達は、誰もが宰相を憎んでいるからだ。
これまで
ダムル元帥派
ジェイス元帥派
ロドル宰相派
という3つがあったが、僅か1年で
この3つと張り合えるほどの派閥を彼は作ったのだ。
今や『王国の中心は東側』と噂されるほどである。
戦争でも政治でも、その才能を見せつけ
国王陛下からも信頼されている。
陛下には子供が居ないため
『次期国王』などという話も聞こえてくるほどだ。
彼女は、思った。
時代とは、こうした才能溢れる者によって
動かされてきたのではないか・・・と。
愉しそうに笑うマリエルに、意味が理解出来ず
ただ首をかしげるしかないテリーヌだった。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
その日の夜。
寮をコッソリ抜け出したリシアは、街を歩いていた。
学園長から貰った資料に書いてあった状況などを考えれば
夜に出歩くのが一番『当たり』を引きやすいといえるからだ。
さすがに歩き回って探すのは、効率が悪いため街の広場に行く。
夜ということもあり、人の気配はない。
その中心地で、深呼吸をして精神統一をする。
そして想力を発動―――
「おやぁ、お嬢さん。
こんなところで何をしてるんですか?」
「夜に一人は危ないでしょ?
俺達が送ってあげますよ」
一番悪いタイミングで声をかけられ不機嫌になるも
何とか表情に出さずに振り返る。
すると見るからに面倒そうな5人の男達が居た。
「いや~、可愛いねぇ」
「今は物騒だからねぇ。
ちゃ~んと俺達が傍に居てあげるからねぇ~」
何とも気味が悪い視線と共に近寄ってくる。
「お・・・いえ、大丈夫ですから。
それに、近くに人を待たせておりますので」
『お前らが一番物騒なんだよ』と言いかけて何とか踏みとどまる。
「まあまあ、そんなに急がなくても」
「そうだぜ。
俺達が、ちゃ~んとついててあげるから」
無視して通り過ぎようとしたが、その行く手を阻むように
馬鹿どもが立ちふさがる。
「(もう面倒になってきたな)」
そう思って、周囲を確認する。
そして丁度、人気の無い場所を見つけてそちらに移動する。
てっきり広場の出口に向かうと思っていた少女が
急に人気の無い広場の森側に向かったため男達は少し戸惑うが
スグに目つきを変えて追いかける。
「どこに行くんだ~?」
「そっちは危ないぞ~?」
まるっきり心配していないどころか
むしろそっちに行ってくれと言わんがばかりの間抜けな声を無視して
森になっている奥へと進むと、丁度良い広さの開けた場所を見つけ
そこで立ち止まる。
「こんな人気の無い場所まで、わざわざ来るなんてなぁ」
「いや、本当だぜ」
気持ちの悪い笑い声をあげる男達に
リシアは、満面の笑みを浮かべながら振り返ると
「―――さあ、始めましょうか」
怖いほど冷静な声で、そう言った。
だが男達には、そんな雰囲気の変化など関係ない。
『何だ、彼女も【その気】だったんじゃないか』と勘違いして
一斉にリシアに詰め寄った。
「―――『害虫駆除』を、な」
リシアの言葉を最後に
人気の無い森には、男達の悲鳴だけが何度も響き渡った。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
「・・・まったく、時間の無駄だったな」
結局何の手がかりも掴めず、寮へと帰ることになるリシア。
「それにしても、ここの男どもは馬鹿か?
男と気づかず口説いてくるとか、女を見る目が無さすぎる」
ついそんな愚痴が出る。
今回だけではなく、リシアは街に出るたびに
声をかけられるという状況が続いているため、ウンザリしていた。
しかし彼は気づいていないのだ。
自分が演じている『リシア』という少女が、どれほどの美少女なのかを。
もう何度目になるか解らないため息を吐いた時だった。
目の前の路地から1人の少女が出てくる。
その少女の服装を見て、スグに足が動いた。
「(何故、フォースの制服を着た少女がこんな時間に)」
声をかけようと近づいた瞬間だった。
彼女が出てきた路地から異様な気配を感じ取り
咄嗟にそちらを向く。
「―――なっ!?」
するとそこには3人の男達が倒れていた。
近寄って確認すると生きてはいるものの、かなり衰弱していた。
スグにハッとして路地から出るが
先ほどの少女の姿が無かった。
「・・・まだ近くに居るはず」
探そうと足を一歩踏み出すと―――
「そこに居るのは誰だっ!?」
突然、光を向けられて思わず顔を背ける。
それは、ランプをこちらに向けてくる2人の警備兵だった。
「こんな時間に何をしているんだ?」
「君のような子が、出歩く時間じゃないぞ」
「(・・・ちっ、面倒な)」
下手に振り切るのもまずい。
そう思ったが、咄嗟に良い案を思いつく。
「・・・た、助けてくださいっ!!
そこにたくさんの人が倒れてて、私も襲われそうになってっ!!」
「な、何っ!?」
「そこの路地かっ!!」
見事に騙された警備兵が路地に入ると
倒れている男達を見つけて驚きの声をあげる。
「と、とりあえず人を呼んでくるっ!!」
そう言って一人が、路地から出てくる。
「えっと、君は・・・って、あれ?」
外に出た警備兵は、周囲を見渡すが
先ほどの少女の姿がない。
「・・・おいっ! 早くしろっ!」
「あ、ああ。
行ってくるっ!」
路地で手当をしている仲間に急かされて
納得いかないという顔のまま、彼は人を呼びに行った。
その頃、街の別の場所では1人の少女が歩いていた。
まるで墓場からよみがえった死者のような不安定な足取り。
少女は、まるで吸い寄せられるように
人気の無い場所へと歩いていく。
ふと狭い路地の奥に何かを見つけ、入っていく。
後姿からして、それは年頃の少女だろうか。
どうしてこんな時間にこんな場所にいるのだろうか?
疑問に思ったが、そんなことはどうでもよかった。
―――彼女の『命』さえ、手に入れば。
少女は、こちらに気づかないのか振り向く気配がない。
逃げられないように、慎重に距離を詰める。
そしてその肩に手を伸ばした瞬間―――
「―――ッ!?」
嫌な気配を感じて後ろに飛び退くと
頭上から3本の剣らしきものが降ってきた。
飛び退かなければ、その剣に串刺しにされていただろう。
今まで後ろを向いていた少女が、ゆっくりと振り返る。
「―――ごきげんよう」
彼女の笑みは、感情がまるで無い非常に冷たいもの。
だが、それと同時に狂おしいまでに綺麗だった。
同性である自分が、心を奪われてしまうほどに。
そして、それが何より『許せなかった』
「・・・リシア=ナリアス」
最近転校してきた何かと有名な2年生。
大侯爵などお偉い連中の娘達と同じ寮生で
勉強・剣術だけでなく家事なども完璧な才女。
噂では、ジョストも強いとか。
伯爵家の令嬢で、学園では彼女に憧れる者も多い。
「こんな夜に、こんな所で出会うなんて奇遇ですね。
―――タナ=オルタムさん」
友好的にも聞こえる台詞だが
表情からは、何を考えているのか解らない。
彼女は、こちらのことを知っている。
何より、いつの間にか消えているが
先ほどの剣のようなものは、間違いなく彼女の攻撃だ。
恍けるにもほどがある。
「・・・に入らない」
―――腕が疼く。
「・・・え?」
「・・・気に入らない」
―――腕が、たまらなく疼く
「気に入らない?」
「・・・気に入らないわ」
―――彼女の顔を見るたびに、声を聞くたびに疼く
「・・・何が気に入らないのかしら?」
―――そう、わかったわ
「気に入らないって言ってるのよぉっ!!!」
―――彼女から『全て』を奪い尽くせばいいのね?
私は、『女神様』から貰った力を解放した。
腕の疼きが無くなって、力が溢れてくる。
全てを彼女から奪うために、彼女に飛びかかる。
だが、想力の壁によって弾かれる。
「何よっ! そんなものぉぉぉっ!!」
力いっぱい、その壁に向かって手にした武器を振り下ろす。
すごく綺麗な光が周囲を覆ったあと、壁が崩れた。
何だ、いけるじゃない。
そう思った瞬間だった。
正面から2本の槍のような何かが飛んでくる。
それを咄嗟に避けると、次は剣のようなものが3本飛んでくる。
それも避けようとしたが、横に跳躍しようとすると何かに当たってしまう。
『想力の壁』だ。
横へ避けることを防がれ、とっさに手にした武器を振い
飛んでくる剣を弾く。
だが、対処しきれなかった1本が足に刺さってしまう。
恐らくこれは、想力で出来たものだろう。
血が出てきて、足が思うように動かなくなる。
―――でも痛くない。
痛みを感じない。
だって私には『女神様』がくれた力があるもの。
構わず再び彼女に向かって飛びかかる。
今度は、大きな槍のようなものを作ってこちらに投げてきた。
手にしている武器をぶつけて、その槍を壊そうとする。
想力同士のぶつかり合いの後、相手の槍を砕いたが
同時に私の持っている武器も砕けてしまい
私自身は、大きく後ろに飛ばされてしまう。
何で? どうして?
神様のくれた力が負けたの?
そう思って武器を見ると、まるで時間が巻き戻るように
スグに元の姿に戻っていた。
「そう、そうよっ!!
だってこれは『女神様』がくれた力だものっ!!」
思わずそう叫ぶ。
―――腕がまた疼きだす。
―――彼女から奪えと疼きだす。
―――そう『全て』を奪えとっ!!!
私は、勢い良く彼女に向かって走り出す。
力が湧いてくる。
この前よりも、さっきよりも、今までよりもっ!!!
すると彼女は、男性のような言葉でこう言った。
「―――悪いが、お遊びはこれまでだ」
私が目にしたのは、想力で出来た無数の剣の数々。
それらが全て私に剣先を向けたまま、彼女の周りを浮いている。
その全てが一斉に私に向かって飛んできた。
それはまるで『雨』のように隙間なく、絶え間なく降ってくる。
そこで私の意識は、ぷっつりと途切れた。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
「ん・・・ここ、は?」
私は、目を覚ます。
見知らぬ天井が見える。
「ああ、気が付いた?」
傍で聞こえる声。
その声がした方を向くと、そこには1人の少女。
「・・・リシア・・・ナリアス」
「私の声が聞こえる?」
「は・・・はい・・・」
「そう、よかったわ」
周囲を見渡すとベットがいくつも並んでいる。
それを見て、ここが病院だと気づいた。
「あ、あの。
私は・・・どうして?」
「アナタ、街で倒れていたのよ?
・・・覚えてないかしら?」
「・・・街で?
・・・いえ、よく・・・覚えて、いませ・・・ん」
何だか記憶が酷く曖昧な感じがする。
何かあった気がするのに、何も覚えていない。
「そう。
本当に、何も覚えていないのね?」
「は、はい・・・そう、みたいです」
思い出そうとしても、やはり何も思い出せない。
本当に自分は、どうしたのだろうか。
「・・・とりあえずアナタが目を覚ましたと先生に伝えてくるわね」
そう言ってリシアが部屋を出て行った。
「・・・本当に、何があったんだろう?」
街で倒れたと言われても記憶が無い。
しかも、どうしてよりにもよって彼女が居るのか。
近い距離で見たせいか、一層美しさが際立っていた。
私は、彼女に憧れと同時に強い嫉妬をしている。
どうして『女神様』は、私にあの美しさをくれなかったのか。
「―――めがみ、さま?」
その言葉で何かが頭の中で一気に―――
「うっ・・・くぅぅ・・・」
頭が痛い。
割れるように痛い。
「オルタムさん、大丈夫ですかっ!?」
リシアに呼ばれて現れた医者が、慌てて駆け寄る。
その姿を遠くから見ていたリシアは、ため息をついて
その場から離れる。
「(あれは、一体何だったんだ?)」
彼女との戦いを思い出す。
想力武装とは、とても呼べないほど禍々しい武器だった。
剣のようだったが、その柄から樹の根のようなものが出ていて
彼女の手にいくつも刺さっていた。
あれは彼女と同化でもしていたのだろうか。
想力武装にそんな物騒な機能は存在しないので
別の武器かとも思ったが、実物が消滅してしまったので調べようがない。
本人が覚えていればとも思ったが、何も覚えていないようだ。
だが、あの想力の急激な上がり方に生命力を奪うという点。
そして・・・彼女は確かに言った。
『そう、そうよっ!!
だってこれは『女神様』がくれた力だものっ!!』
『女神様』なんて言葉を聞いてしまうと
どうも『連続失踪事件』を思い出してしまう。
「(・・・これは、やはり予想以上に大きな問題になりそうだな)」
そう考えながら、寮へと戻る。
すっかり空には、太陽が昇っていた。
一応、学園を休む連絡はしているものの
まさか朝帰りになるとは思っていなかった。
寮の中に入ると、全員学園に行っているためか
寮内には、誰も居ない。
そのまま自分の部屋に入ると―――
「お待ちしておりました」
ミーアの姿があった。
「・・・ああ、そっちの問題もあったな」
「どうかされましたか?」
ため息を吐く姿に、ミーアが首をかしげる。
「い~や、何でもない」
そう言いながらベットに身を投げ出す。
「・・・お疲れでしたら、報告は後にしますが」
「そういう訳にもいかんさ」
ゆっくりと起き上がると、大きく伸びをする。
「・・・よし、1つ1つ片づけるとするか。
報告をはじめてくれ」
「・・・では、報告を致します。
まず一番初めに―――」
こうしてまた、1日が始まる。
思いのほか、色々と持ち込まれる問題に苦慮しつつも
手元の資料に目を通しながら、入れられた紅茶を飲む。
彼の苦労は、まだまだ始まったばかりであった。
第8章 異形の武器 ~完~
まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。
相変わらず誤字脱字が多くて、日々修正に追われています。
世界観の説明コーナーが無いとの声を頂きましたので
もう一度入れてみたいと思います。
今回は、領地についてです。
どうも文字だけのため、国などの分布が解りにくいですよね。
そのため、ザックリと説明しようかなと思います。
主人公たちの国、ランバルトの話とすれば
まず中央と呼ばれる国の真ん中ぐらいのエリアは
国王直轄地などがあり古くからの領主も多い、良くも悪くも貴族の文化が
非常に根強い土地となっています。
ダムル元帥は、元々中央に土地を持っており、未だに全てを移転していないため
セレナの実家は、未だ中央にあります。
実は、クラスメイトのサーヤは中央出身という設定なので
彼女の実家もここにあります。
次に北側。
リッツダール帝国がある方面ですが
こちらは現在、ダムル元帥が北東側。
ジェイス元帥が北西を担当しています。
ルナ・シルビアは、こちらに実家があります。
作中に出た元帥が帝国から奪い返した土地というのは、この北東側領地です。
そのためメンツを潰された形となった元帥達からあまり良く思われていないのです。
しかも北東側の防衛という名目で、中央から追い出されるような形となった
ダムル元帥からすれば、面白くないということもあります。
ちなみに追い出したのは元帥の力を削ごうとしている宰相の仕業です。
話にあまり登場していない西側は
ロドル宰相を中心とした宰相派が多く領地を持っています。
ただ騎士国家セントクレスとの戦いで、領地をそれなりに奪われているため
現在の休戦に納得していません。
休戦するなら領地を返せ!と叫んでいる訳ですね。
生徒会長のメビアと副会長のコネルの実家があります。
南側は、東と同じく僻地です。
こちらも宰相の気分次第で左遷された場所の1つ。
南の山岳を超えると『魔族』と呼ばれる人とは異なる種族が
治めている国があるとされており、数百年前に結ばれた不戦以降から
何の動きも見せていないため、半ば忘れ去られた存在となっています。
フランはこちらの出身ということになっています。
そして東側は我らが元帥の領地が中心です。
元々は、左遷の土地だったものを急激な発展で変化させ
一大勢力を築き上げました。
カレルや、ジョストで知り合ったリリスはこちらに実家があります。
ちなみにリリスの家であるラングベルズ家は
元帥のおかげで力を取り戻した家の1つで、熱心なレナード信者となっています。
・・・どうでしたでしょうか?
物語を補完する説明になったでしょうか?
もし今後も需要があるようでしたら、書こうと思います。
レナードが女学生になるまでの話も書いて欲しいという声もあるみたいですが
・・・ぶっちゃけ需要ありますかね?
『もちろんあるよ! ぜひ書いて!』という声が他にもあれば
番外編的な感じでは、考えていますが・・・必要ですかね?
また感想もお待ちしてますので、様々な声を聞かせて頂ければ幸いです。