「あら、これ素敵じゃない?」
「こちらにも良いモノがたくさんありますわ」
「どうしましょう、迷ってしまいます」
ある日の夕方、今日も部下達が隠れ蓑にしている商店は大盛況だった。
学生が多いこともあり、少しだけ心配もしていたが
思った以上の反響となっている。
ブラウンとの話し合いの後、店を開けることにした。
その際、様々な身分の人間に購入出来るように
ランク分けをしていたのだが、どうせだということで
店の配置なども分けることになった。
まずは店の前に露店を並べ、そこでは誰でも買える
手頃な装飾品を並べる。
興味を持って店に入れば、そこには少し高めではあるが
それなりに良い品を揃えた場所になっており
落ち着いて一品を選ぶことが出来るようになっている。
そして更に店の奥には、高級感のある調度品などでまとめた
専用の場所が用意してあり、かなり高額な装飾品のみを取り扱っている。
名門貴族のお嬢様であっても購入するのに悩むほどの高額なモノまで用意してあり
まさに『選ばれた者だけが入れる』という場所とした。
これが見事に当たったというべきか。
店の前には、常に人だかりが出来ており
その賑わいに興味を持った人々が店の中に入ってくる。
そしてランク分け通りに、店の前には一般客が多く
店の中には見るからに貴族の娘といった少女達。
店の奥には、名を聞いただけでどこの誰だか解るような
それなりに名のある名門貴族の令嬢が入っていた。
本来、装飾品などは
依頼された商人が持ってきてくれるのだが
持ってくるのは基本的に商人達が『売りたい品物』だ。
その中から自分で気に入ったものを購入するのが貴族達の一般的な購入方法だが
この店は『来店してもらう』という手間を相手にかけさせる。
だがその手間を惜しまなければ『店にある全ての品物』から
自分の気に入ったものを選べる。
圧倒的に選べる種類が多いのだ。
しかも職人達を抱えている関係で、特注の一点モノも注文可能。
つまり自分の理想の装飾品を購入出来るという仕組みとなっている。
こうした今までに無かった方法を採用したことで
一気に注目度が増したという感じだ。
商売が上手くいってくれたのは良かったが
おかげで毎日忙しく、慢性的な人手不足。
店の性質上、女を店員として配置し
男は警備の名目で武装して店の周辺を警備しているのだが
少数精鋭体制が逆に仇となり、圧倒的に人数が足りていない。
今の所は、目立った問題は起きていないが
諜報活動に支障が出ているとミーアから報告が上がっていた。
「・・・本格的にいくつか部隊を呼ぶ必要があるな」
店の賑わいを確認しながら、リシアは次の一手を考えるのだった。
第13章 亡国の幽霊
「以上が、現在までの調査結果となります」
「そうか・・・」
今日も寮の部屋で報告を受けていたリシアは、ため息をつく。
以前に目撃されていた赤い想力を放つ女学生が
最近まったく目撃されなくなったからだ。
街から出たのかとも思ったが
今までの出来事に関連性があるとすれば
まだ街に居るはずなのだが・・・。
「申し訳ありません」
「謝る必要はない。
商売の方で人手が足りていないのも事実だ。
それに重要な情報は既にある以上
見つけるのは時間の問題だ」
申し訳無さそうにしているミーアに言葉をかける。
彼女は文句なく優秀な諜報員だ。
彼女に無理なら他の誰にやらせても無理だろう。
「・・・とりあえず『人気の無い場所に現れやすい』という話なら
私の方でも調べることは可能だからな」
「か・・・お嬢様自ら出ることも―――」
「アナタは、しばらく自分の仕事に専念なさい」
人の気配を感じで、2人とも口調を変える。
するとスグにドアを叩く音。
「リシアお姉さま、ご夕食の準備が出来ました!」
「ありがとうカレル。
では、スグに行くわね」
部屋の扉の向こうから聞こえてくるカレルの声に答えながら
一枚の手紙をミーアに渡す。
「それでは、よろしくお願いするわね」
「わかりました。
では、スグに」
カレルが食堂に向かったことを確認した後
ミーアは寮を出ていく。
夕食だというので食堂に向かうと
アリスが机に突っ伏していた。
「あら、遅かったわね」
「ええ、少しミーアと話し込んでいたものですから」
フランと会話をしながら席に着く。
今日の夕食は、近くの川でとれる魚を中心とした
薄い味付けのものが多い。
「それでは、頂きましょうか」
セレナの言葉で全員が食事を開始する。
そんな中、いつもは愉しそうに食事をするアリスが
珍しくというか、いつも通りというか
ため息を吐いていた。
「アリスさん、どうかしました?
あまり元気が無いように見えますが・・・」
「ああ、ごめんね。
たいしたことじゃないのよ」
そういう割には、あまり元気がない。
「先ほどのこと、まだ気にされているのですか?」
「さっきのこと?」
エリーゼの言葉に食いついてみる。
話を聞かなければ原因が解らないからだ。
「先ほど装飾品の話になったのですけど
『自分には似合わない』なんておっしゃられるものですから・・・」
「だってホントのことじゃない」
「私は、そうは思わないけど」
「ええ、私もよ。
アナタは少し自分を低く見過ぎているわ」
「そうですよ!
アリスお姉さまは、十分お綺麗でいらっしゃいます!」
否定的なアリスを励ますように
皆が次々とアリスを褒める。
「・・・そう言われてもなぁ」
それでもアリスは疑心暗鬼という感じだ。
「そもそも、どうしてそんな話題になったのです?」
「ああ、それは私が説明するわ」
そう言ってセレナが説明してくれる。
何となく学園の話をしていたら
最近流行っている装飾品の話になったそうだ。
あまり派手なものは許可されないが
装飾品自体は、別に学園も問題視していない。
年頃の女性、しかも貴族令嬢の多い学園ということもあり
その辺りは非常に緩い。
皆同じ学生服を着ているためか
少しでも着飾って他人との差を出そうと
シンプルなデザインの装飾品を中心に人気が集まっている。
そしてそんなフォースの学生を見た他学園の生徒達も
着飾るようになり、ちょっとした流行となっていた。
そういった話をしていた時に
『誰にはどんなものが似合うのか』という話となったらしいが
そこでアリスが『自分には女性らしいものは似合わない』と
言い出したらしい。
「・・・なるほど、そういうことでしたか」
そう言いながらアリスを見る。
少し背が高めではあるが、長い髪とスラッとした体型で
とても女性らしい姿。
意思の強そうな目も、彼女の魅力だ。
似合わないどころか、ドレスを着せれば
誰も彼女を平民だとは思わないだろう。
「・・・では、皆さんで行ってみませんか?」
ここでアリスを褒めた所で、彼女は納得しないだろう。
だからこそ、手を打つ。
「行くって、何処に?」
皆の疑問を代弁するように答えたセレナ。
「その流行となっている場所に・・・ですよ」
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
次の日の夕方。
寮生全員で店までやってきた。
相変わらず店は女性客でにぎわっている。
「さて、行きましょうか」
さっさと店内に入っていくリシアを見て
慌ててついていく寮生たち。
「これはお嬢様、どうなされました?」
店内に居た部下の1人が声をかけてくる。
普段は裏口から入ってくる私が、正面から入ってきたからだ。
「奥は、空いているかしら?」
「はい。
一番奥が空いております」
「なら彼女達に似合いそうなものをいくつか
そこへ持ってきてくれるかしら?」
「スグに用意いたします」
一礼すると部下は商品の置いてある場所へと歩いていく。
「さあ、こちらですよ」
訳も分からず促されるままに店の奥にある部屋へと通される。
「うわぁ~・・・」
最初に声を上げたのはアリスだった。
王宮にある賓客用の部屋に近い、豪華だが落ち着いた装飾。
調度品は王家御用達の品で統一されており
ここまでの客室は、正直滅多に見ることは出来ない。
あえてこのように豪華にすることで
特別感や優越感といった『自分は選ばれた人間だ』という
見栄を刺激して高額な商品を購入させるためだ。
「何点か持ってこさせますので
椅子にでも座ってお待ちください」
そう声をかけるが、誰も椅子に座らずに
周囲をきょろきょろとしている。
「・・・あの、リシアさん」
「どうしました、ルナさん?」
「リシアさんは、このお店にはよく来られるのですか?」
「あら、どうしてです?」
「とても慣れていらっしゃるようですから・・・」
大侯爵家のセレナですら落ち着きがないのだから
そう言いたくなるのも解る気がする。
「慣れているも何も、私の店・・・ですからね」
苦笑しながらそう答えると
彼女達が一斉にこちらを向く。
そして数秒の沈黙の後
「ええぇぇぇぇぇっ!!?」
声を上げたのは、アリスだ。
「・・・そこまで驚くようなことでしょうか?」
「いや、だって・・・ほら」
まったく説明になっていない言葉を並べて
完全に冷静さを無くしているアリス。
「あら、お店なんてやってたの?」
「最近始めた・・・という所でしょうか」
ある程度こちらの正体を知っているフランは
それを聞いて納得したのか、ようやく席に座る。
「あら・・・これ座り心地が良いわね」
「わざわざ王都から取り寄せたものですが
気に入って頂けたようですね」
「へぇ~・・・実家の椅子より良いかも」
フランが座ったのを見て
セレナも椅子に座って感想を述べる。
それを見て、残りのメンバーも椅子に座る。
すると控えめなノックが数回。
「失礼致します」
部下が何人か来て、目の前の机に装飾品を並べていく。
どれもかなりの値段がするものばかりだ。
それを見た彼女達は、一斉にため息のような声をあげ
目の前の装飾品に見惚れる。
「・・・見ているだけでなく
ぜひ、一度身に着けてみてはいかがでしょう?」
見ているだけで一切動かない彼女達を
このままにしておくのもどうかと思い、声をかける。
「あら、いいの?」
「え? いいんですか!?」
「いいの?」
「よろしいのですか?」
「いいのでしょうか?」
「・・・いいの?」
ほぼ同時に全員から返事が返ってきて
つい苦笑してしまう。
「ええ、構いませんよ。
せっかくの機会ですからね」
その言葉を待っていたというように
装飾品を選び出すセレナ達。
セレナとエリーゼは、アリスにはどれが似合うかと話し合っており
フランは『よくわからない』と言っていたカレルに
色々と装飾品をつけて選ぶのを手伝っている。
ルナだけは、部下の1人を捕まえて
鏡でつけてみた姿を確認したり、感想を聞いたりするなど
真剣に選んでいるようだ。
彼女達が真剣に選び始めて数時間。
そろそろかなというタイミングで
全員が、それぞれお気に入りの一品を見つけることが出来た。
「では、記念に皆さんに差し上げます」
そういうとアリスとカレルが驚くように反対の声をあげる。
「いやいやっ! こんなの貰えないよっ!」
「そうですよ! とても高価そうですし・・・遠慮しちゃいます!」
まあ実際かなりの高額なものではある。
例えばアリスがセレナ達に選んで貰ったネックレスは
それ1つで小さな家が1件買えるほどの値段だ。
「そう気になさらないで下さい。
着飾るのは女性の特権です。
それに装飾品とは、身に着けなければ意味がありませんからね」
「なら、遠慮なく頂くわね」
そう言ったのはフランだ。
「ええ、では私も。
大事にさせて頂きます」
それに続くようにエリーゼも感謝を述べてくる。
するとセレナとルナも続けとばかりに感謝の言葉を述べてきた。
その様子に迷いだした2人を見て
『ねっ』っという笑顔と仕草で後押しする。
「・・・じゃあ、遠慮なく」
すると遠慮がちにそんな言葉が返ってきてた。
その言葉に自然と皆が笑い出す。
「話もまとまった所で、もう遅いことですし食事にしましょうか?」
合図をすると、次々と料理が運ばれてくる。
適当に用意してくれと部下に伝えたのだが、気を利かせてか
かなり豪華な料理が運ばれてくる。
「何だか申し訳ないわね」
「いえ、今から寮に戻ってとなると
かなりの時間になってしまいますからね。
ここで準備させて貰った方が、食事班としても都合が良いのです」
「では、せっかくだし頂きましょうか」
「そうですね」
特に遠慮する素振りも無く、そのまま食事となった。
自然と皆が笑顔で食事を愉しみ、すっかり夜となった頃
一人の部下が部屋に入ってくる。
「馬車が到着致しました」
「馬車までなんて、何だか申し訳ないわ」
ルナが皆の言葉を代弁するように話す。
「こんな時間に皆さんを歩かせる訳にはいきませんから」
そこまで治安の悪い街ではないが
流石にお嬢様を夜に歩かせる訳にはいかない。
理由が解ったのか、それとも慣れているのか。
それ以上特に反論もなく、外に停めてある馬車に皆が乗り込んでいく。
「あれ? リシアさんは乗らないの?」
「これから少し、店でやることがあるのです。
それが終わったら寮に戻りますので
先に帰って頂いて大丈夫ですよ」
「ちょっとしたことなら皆待ってると思うよ?」
「店の人間との打ち合わせなどもあって
少し時間が掛かってしまうのです。
お気持ちは嬉しいですが、先にお帰り頂いて大丈夫ですよ」
「そうなんだ。
じゃあ先に帰ってるね」
その言葉と共に、馬車が動き出す。
「そうだ!
これ、ありがとう!」
動き出した馬車の窓から、ネックレスの入った箱を見せてくる。
「気に入って頂けて良かったです!」
離れていく彼女に聞こえるよう少し大きめの声で返事を返す。
やがて馬車は、視えなくなる。
店内は既に営業時間を終えており、店の後始末をしている最中だ。
手を叩いて部下を集めると、定例の報告会を開く。
やはり問題は、人手不足だ。
まあこれに関しては既に手を打ったので
あとはその結果待ちとなっている。
それと予想外に早かったという意味では
既に数人の商人が、装飾品の仕入れに関してや
取引を持ち掛けてきたということか。
これについては、ブラウンに説明したように
特別な手順が必要な取引であるということと、これに絡みたいのなら
東商工団に属する必要があることなどを伝えた。
そう・・・こちらの利点は、まさにこれだ。
この大きな商売に乗って一攫千金を狙う商売人は大量に出る。
それらを東商工団に取り込めば、国の商売そのものを
こちらで管理・制御することが出来る。
つまり国の経済を押さえることが出来るのだ。
そうなれば、宰相の権力すら押さえつけることも可能となってくる。
本来なら、そこまでする必要はないのだが
ここ数年の宰相の動きを見ていると、対抗策を持たなくては
何をしてくるか解らないという不安があるからだ。
まあ全てが上手くいけばの話だが・・・。
店の方針や、その他の問題などに指示を出し
報告会が終了したのは、酒場ですら店を閉めるほど
夜も深まった頃だった。
馬車を用意しようとする部下に
『経費の無駄だ』と伝えて、人気の無い街を歩く。
そしてまったく人気が無い学園近くまで帰ってきた時だった。
言いようがない不気味な雰囲気を察して
周囲を注意深く観察する。
すると今まで誰も居なかった道の真ん中に
人影が1つ現れる。
その時、偶然なのか・・・それとも必然だったのか
雲に隠れていた月が顔を出し、街を照らす。
月明りに照らされたのは、ドレスを着た少女。
シンプルな装飾ながらもかなり高価なものだと
見ただけで解る豪華なドレス。
どこかで見た覚えのある紋章がドレスに描かれており
それを身に着けている少女は、とても美しかった。
どう見ても目の前の少女は『どこかの王族』だと思える
雰囲気をまとっていた。
虚ろな瞳で呆然と立っている、その少女には
こちらに気づくとゆっくり向き直る。
手には赤い想力をまとった剣。
「・・・ようやく会えた、という所でしょうか」
声を掛けると、少女は突然こちらを睨みつけてくる。
「蛮族よ、去れっ!
我が国に土足で踏み込むこと、我は許した覚えはないぞっ!」
手にした剣の切っ先をこちらに向け
そう言い放つ少女。
「・・・いつからここは、貴女の国になったのです?」
「ふざけたことをっ!
ここは王都マーフィルセルッ!
我が父が治める楽園たる国の中心ぞっ!
お前達のような蛮族が足を踏み入れてよい場所ではないっ!!」
「王都マーフィルセル・・・だと?」
「我が父、ライン=ゼンタール=ケルフィードの不在を狙ったのだろうが
そう簡単に、この王都が落ちると思わぬことだっ!」
その言葉で、彼女が誰なのか見当がつく。
しかしそれはあり得ない話だ。
かといってわざわざ演じる意味合いもない。
どういうことなのか・・・。
考え事をしていると、彼女の周囲から
黒い人影が大量に現れる。
どれも黒い霧のような塊が人の形をしているだけにも見える。
だが―――
「・・・ああ、暗い・・・痛い・・・」
「ここは、どこだ・・・私は・・・何を・・・」
「・・・た、たすけて・・・くれぇ・・・」
人間の声であって、そうでないような
何とも言えない不気味な声で人影達が声をあげている。
「聞こえる・・・民達の歓声が・・・。
国を、父を、そして聖戦を称える声を上げているっ!」
嬉しそうに両手を天に向かって掲げて
恍惚な表情を浮かべる少女。
「・・・どちらにしろ、まともではないな。
―――白銀の守護者よ、我が手に」
剣を手にすると、少女に向かって歩く。
「どうして今になって迷い出たのかは知らんが
ここはもうお前の居場所ではない。
あるべき場所へと帰って貰おうか」
「勇敢なる兵士たちよっ!
これは聖戦ぞっ!
蛮族を生かして返すなっ!!」
その言葉と共に、人影達が一斉にリシアに襲い掛かった。
第13章 亡国の幽霊 ~完~
まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。
えっと、更新が遅くなり大変申し訳ありません。
大体の事情は活動報告に書かせていただいた通りです。
なるべく更新ペースは守りたいのですが
どうしても諸事情により遅れることもありますので
気長にお待ち頂けると助かります。
また初心者の書いた駄文であっても
読んで頂けるだけでなく、愉しみにして頂けていることに
感謝しております。