「うぁぁぁぁぁぁっーーーー!!!」
俺は、心の底から声をあげて戦場を走る。
前方では、次々と味方が死んでいく。
俺は、どうしてこんなところに居るのだろう。
元々、貧しい農家の三男として生まれた俺は
子供の頃から畑仕事を手伝うことで生きてきた。
だが、家も土地も長男である一番上の兄のものになる。
一生、兄の元で嫁も貰えず
畑の手伝いをし続ける夢も希望のない生活が嫌で
俺は、家を飛び出した。
幸いなことに才能があったのか
傭兵となった俺は、その実力で金を稼ぐようになる。
そして有名になった俺は、帝国軍から声をかけられ
正式な兵士として採用されることになり
俺は、貧乏農家の三男から
帝国軍人という職業兵士にまで出世することが出来たのだ。
まさに大逆転。
しかもその逆転劇を後押しするかのように
今回の遠征軍に選ばれた。
聞けば、大きな街を1つ襲うということで
第一皇子自らが指揮を執るらしい。
ここで手柄を上げれば騎士勲章も夢じゃない。
近衛兵になることだってあり得る。
―――だが、俺のツキはここまでだった。
大した抵抗もない街だと聞いていたのに
あり得ないほどの激しい抵抗が繰り返し行われており
弱兵だと聞いていた敵は、死を恐れない強兵ばかり。
それでもと戦い続けるが
正攻法の力押しも失敗し、夜襲という搦め手も失敗した。
だから次は、出来損ないの攻城兵器を餌に
相手を街から引きずり出して野戦に持ち込むという作戦を
成功させなければ絶望的だった。
みんなが必死になった結果
作戦は成功したのだが―――
「くっそぉぉぉぉぉーーーー!!!」
思わず叫ぶ。
どんどんと近づくたびに、金属のぶつかる音と
鈍い音が響き、人の断末魔が鮮明になってくる。
ハッキリとその姿が見えると
より恐怖で立ち止まりそうになる。
それでも突撃命令が出ている以上、止まることは許されない。
前に居た数多くの味方が、もうほとんど残っていない。
数多くの返り血を浴びてもなお、輝きが衰えない白銀が
襲い掛かる帝国兵達を、次々と倒していく。
死んでいった兵士達の剣を、槍を、斧を、弓を。
拾った武器を駆使し、まるで踊っているような優雅さと
圧倒的な強さで、戦場を支配しているかのように
その白銀の女騎士は、戦い続けていた。
もう部隊は、目の前を走っている2人と俺だけだ。
前の2人も、顔を引きつらせながら走っている。
決して俺は、諦めている訳じゃない。
ここ数日間、あの女騎士の戦いを見続けてきたからこそ
分の悪い賭けではあるが作戦を用意していた。
俺は、一連の流れを思い出しながら
腰に差した剣を確認し
背中に背負った大剣の重さに全てを賭け
短めの槍を握りしめたまま突撃する。
正面の女騎士は、奪い取った帝国兵が使う一般的な剣を持っていた。
ここまでは、想定の通りだ。
「ぎゃぁぁっーーー!!!」
「この・・・化け物、めっ・・・!!!」
そしてついに、少し前を走っていた2人が斬られ
部隊は、俺だけになる。
2人を斬って多少だが体勢が崩れている今しかないと踏んで
俺は、槍を突き出すのではなく
ただの棒のように相手の剣を抑え込むようにぶつけて
そのまま体当たりをするかのように鍔迫り合いに持ち込む。
力勝負なら押し勝てるだろうと思っていたが
女とは思えない力で、こちらを逆に抑え込もうとしてくる。
だから俺は、あえて槍を捨てるつもりで
思いっきり前へと突き飛ばすように力を籠めた。
すると槍を前に投げ出す形となったが
女騎士も剣を後ろに下げられる。
だが、こちらが槍を手放したこと理解すると
自分も剣を捨て、俺の腰にある剣へと手を伸ばす。
俺もスグに背中に背負った大剣へと手を伸ばす。
腰と背中。
抜刀の速度もそうだが、動作が遅れたのは俺の方だ。
このまま俺は、自分の武器で倒されるはずだった。
しかし腰の剣を引き抜いた女騎士の顔が驚きに変わる。
俺は、思わず心の中で叫ぶ。
「(お前の戦い方は、散って逝った奴らから学ばせて貰ったッ!!)」
―――そう、俺は
『お前が、腰の剣を引き抜くように仕向けたんだよ』
根元近くから折れた剣を引き抜いた女騎士が
驚きの顔をしている間に、俺は背中の大剣を抜き
そのまま振り下ろす。
捕虜にしろと言われていたが、もうそんなものは関係ない。
ただ生き残ることだけを考え
そして全ての賭けに・・・そう、勝ったのだ。
「―――殺ったッ!!!」
大剣が、女騎士へと吸い込まれるように
振り下ろした瞬間、ふと声が聞こえた。
「―――白銀の守護者よ、我が手に」
第25章 総力戦
一瞬、戦場の時間が止まったようだった。
大剣を振り下ろそうとしていた帝国兵が
その大剣ごと真っ二つに斬られたのだ。
人間を武器や鎧ごと両断するなどということは
よほどの人間でないと不可能である。
それをやってのけた女騎士は
白銀の鎧に似合う、白銀の剣を手にしていた。
「・・・想力武装」
ふと誰かが言った言葉が、戦場に吹く風のように
一瞬で全体に広がる。
想力武装とは、非常に高価な武器である。
対想力者用の武器としてなくてはならない反面
戦場に居るかどうか解らない数少ない想力者のためだけに
そんな高価な武器を兵士全員に用意するほど
金を持っている国はない。
結果として一部の金を持っている貴族が
自らの力を誇示する1つとして持っていることがほとんどだ。
もしくは、よほど戦場に出る機会のある人間が
お守り代わりに持つぐらいである。
ざわつく周囲を気にすることなく
リシアは、先ほど真っ二つにした兵士を見下ろすと
「誇れ、名も知らぬ兵士よ。
お前は、私にこれを抜かせたのだから」
想力武装も、僅かであるが想力を使用する。
想力者でない者なら、これに全ての想力を使えばいいが
想力者は、そういう訳にもいかない。
特に強力ではあるが燃費が非常に悪いリシアからすれば
想力武装すら、あまり抜きたくはないのだ。
だからこそ、通常は普通の武器を使用している。
結果的に負けたとはいえ
想力武装を抜かせた兵士の戦いを
リシアは、褒め称えた。
「・・・それにしても、これは厳しいな」
周囲の状況を見渡しながら、リシアは考える。
相手は、出来損ないの投石器を
周囲の森から木を切り倒して作ってきた。
1つ2つぐらいなら問題無かったのだが
全部で5つというのが問題だった。
命中精度が悪く、あまり脅威とは言えない物も
数を作ってひたすら使われると
そのうち当たるようになってくる。
せっかくの矢避けの炭壁の一部を潰され
街にもいくつか巨大な岩が落下したことで
元々兵士ではない街の人間の士気が大きく下がってしまい
そのため仕方なく野戦を挑むことになってしまった。
たった200名の突撃ではあったが
全ての投石器を破壊することに成功するも
街に逃げ帰れたのは、その半分以下だろう。
咄嗟に殿を引き受け、敵の追撃隊を先ほど全て
返り討ちにしたが、現状が悪すぎる。
相手はまだ1500近くの兵が居る。
せめてもう一度、籠城しても問題がない程度の
戦果を上げなければならない。
籠城戦をする上で、士気の高さは非常に重要だからだ。
一瞬戦場に訪れた静寂だったが
突然の叫び声が、それを破った。
「あ、ああ、あの女騎士を、討ち取れぇぇぇッ!!!」
叫んだのは、ポルク卿だ。
「な、何をしているのですっ!!
さっさと討ち取りなさいッ!!!」
「で、ですが皇子より―――」
「お前こそ解らないのですかッ!?
アレをここで討ち取らねば
今後10年・・・いや20年は、我々の脅威となるのですよッ!?」
近くに居た側近の言葉に狂ったような叫び声で答えるポルク卿。
「討ち取れるのは、今しかありませんッ!!!
さあ、早く行きなさいッ!!!」
必死な主の命令により彼の残り僅かな手勢である
300が、リシア1人に対して突撃しようと陣形を構える。
「・・・仕方がない。
最後まで温存しておきたかったんだがな」
リシアは、相手が更に自分に突撃してくる雰囲気を察すると
街の方に合図を送る。
すると街から狼煙があがる。
あがった狼煙にポルクが気づく前に
兵士の1人がポルクの前に駆け込んできた。
「報告します!
後方より敵襲ですッ!!」
「こ、後方にどうして敵が居るのですッ!?」
「わ、わかりません!!
ですが後方の森から多数の敵が迫っております!!」
慌てて後方を確認すると
森から叫び声と共に多数の騎馬兵が突撃してくる。
「いくぞ、お前達ッ!!
我々は、この時のために耐え忍んできたのだッ!!!」
先頭を賭ける騎馬に乗るのは
街の守備隊長のナザックだ。
後ろについてくるのも、街の守備隊の中でも
戦争経験者が大半である。
数にして50。
明らかに無謀とも思える突撃だが
相手の大混乱により、敵陣深くまで突き刺さる。
それを遠くから見ていた皇子は、声をあげる。
「あんなところにどうやって移動したのだ!?」
「・・・恐らく、最初から潜んでおったのでしょうな」
「最初からだと?」
「戦いが始まるよりも先に潜伏し
この時のために、ずっと潜んでおったのでしょう。
一応、周囲を索敵させていたにも関わらず
見つからなかったことを考えると
よほどの将が率いているとみて間違いありますまい」
将軍が皇子に戦況の解説をしている間にも
ナザック達の突撃は、止まらない。
正確に言えば、止まった時点で死ぬしかないのだ。
そんな命懸けの突撃が、ついにポルクを捉える。
「覚悟ぉぉぉッ!!!」
「ぎゃぁぁぁっ!!!」
騎馬のすれ違いざまに放たれた槍の一撃で
ポルクは、胸を貫かれながら落馬する。
「全員、駆け抜けることだけ考えよッ!!」
ナザックは、そう叫びながら敵陣を街の方へ向かって
ひたすらに駆け抜ける。
1人、また1人と敵に捕まり数を減らすも
ポルクを倒されたことで指揮系統が混乱し
組織的な行動が出来なくなったため
ナザック達は、敵を突破して街へと駆け抜けた。
「・・・26騎か。
思ったより多く帰ってきたな」
こちらに向かって逃げてくるナザック達を見て
リシアは、そう呟く。
「リシア殿ッ!」
ナザックが駆け抜けながら馬上より手を伸ばす。
それを掴んで勢いを殺すことなく、リシアも馬に乗る。
街に帰れば、大勢の人間が歓喜の声をあげている。
劣勢を跳ね返したのだ。
士気が大きくあがっている。
対して生き残りの兵士達が逃げ帰り
集まっている帝国軍の士気は、下がる一方だ。
「おのれッ! おのれッ!!」
周囲の机や椅子を蹴り飛ばし
皇子は、荒れていた。
これでは、もはや勝ったとして負け戦と何ら変わらない。
「・・・ふむ、そろそろか」
今まで後ろで大人しくしていた将軍は
そう呟くと、素早く部下に合図を送る。
そして機嫌の悪い皇子の前に立つ。
「何の用だっ!」
「これで理解出来たでしょう。
どんな相手も侮ってはいけないということが」
「まさか、撤退しろなどと言うつもりではあるまいな!?」
「残念ながら皇子には、ここでお帰り頂きます」
「誰に向かって言っているッ!
私は、リッツダール帝国の第一皇子ッ!!
グラッツ・フェーン・リッツダールであるぞッ!!」
「皇子こそ、誰に向かって言っておられるのですか?
私は、帝国軍の将軍にして皇帝陛下よりの勅命を受けた騎士。
私の邪魔をするということは、すなわち皇帝陛下の邪魔をするということ。
・・・陛下に逆らうというのですかな?」
そう言いながら将軍は、1枚の高級感のある巻紙を広げる。
そこには皇帝直筆の命令が書かれていた。
「・・・父上は、私が負けると」
「その可能性もお考えだったというだけですな」
怒りの表情のまま固まった皇子の横に
いつの間にか兵士が2人、並んで立つ。
「さあ皇子、こちらに」
「ええぃ! 触るな!
一人で歩ける!!」
皇子の腕を掴もうとした兵士の手を跳ねのけ
怒ったまま本陣を去っていった。
「さて、残った兵の状況を把握しろ。
その後、もう一度攻め込む。
あと、もうすぐ夕暮れとなる。
時間にも注意しろ」
「はっ!」
将軍に敬礼をした後、兵士達が各地に走っていく。
対して戦勝ムード漂う街でも
相手が軍を再編成していることに気づいたリシアによって
大急ぎで炭板の補修などが行われていた。
「次の攻撃を耐えきれば、我々の勝利は目前となります!」
セレナにそう言って回らせ、士気が落ちないようにする。
流石に人が死に過ぎたし、人々も連戦で疲労の色が濃い。
「動き出したぞー!」
見張りの1人の声にリシアは
正面扉の上の城壁通路まで駆け上がり
そこから少し横の壁の隙間から相手を見る。
「・・・破城槌か」
正面に盾を持った兵士が、隙間なく盾を敷き詰めて
巨大な壁を作り、ゆっくりと迫って来る。
その後ろには、丸太のようなものが見え
屈強な男達が、その丸太についた縄を持ち
運んでいるのが見えた。
そして正面に展開していた巨大な盾壁は
その破城槌を護るように覆い
ゆっくりとだが、確実に城門へと迫ってきている。
当然、矢を撃っても隙間なく敷き詰められた盾によって
一切通らない。
「これは、アレの出番じゃな」
リシアの隣にいつの間にか老兵の1人が立っていた。
左腕を負傷しているのか、包帯でグルグル巻きにされ
更に頭に撒いた包帯も血で染まっていた。
「ええ、火矢の準備をお願いします」
「了解じゃ」
ボロボロと言ってもいい状態の老兵は
それでも弱音を吐かずに指示を飛ばす。
そんな姿に新兵や街の人々も
必死になって動く。
やがて城門前の道の近くまで迫っていた帝国兵達だったが
突然、足元が崩れて穴に落下する。
「な、何なんだッ!」
「くそっ! はやくどけ!」
盾を構えた一部と、破城槌を持った男達の半数が
落とし穴にはまる。
「何だこの大量の革袋は・・・」
「おい! これ中身は油だぞ!」
そこには、板で補強された落とし穴があったのだ。
補強されている分、ちょっとしたことでは落ちない落とし穴。
だが、破城槌や重装備で固めた数多くの男達が一斉に板に乗ったせいで
落とし穴として発動したのだ。
しかも中には、革袋に入った大量の油。
「今じゃー!!」
老兵の掛け声で、一斉に火矢が落とし穴に向けて放たれる。
落とし穴の中にある油に引火して
巨大な火柱があがる。
「あつぃぃぃぃ!!」
「助けてくれぇぇぇぇ!!」
「うぁぁぁぁぁ!!!」
火だるまになって燃える敵兵。
中には、水堀に入ろうとするものも出たが
水堀にも、ここ数日の防衛で
上から落とした過熱した油の残りが浮いている。
それを忘れて飛び込んだ兵士のせいで
水の上の油が燃え、堀の周囲も火柱が上がる。
いつもならこれで大混乱になって敗走する敵兵だが
今回は、被害に遭った一部以外は冷静なままだ。
「落ち着いて立て直せっ!
相手の小細工など力でねじ伏せるぞっ!」
冷静な部隊長らしき騎士の一声で
スグに陣形が再編成される。
「もう一度、アレを持って前進させろ。
あとは、彼らを出せ」
後方から指示を出す将軍。
次々と出てくる仕掛けや策の数々に感心しているようにも見える。
帝国兵は、一度少し下がると再度、盾の壁を作り直す。
そして後ろからは、また破城槌として使う丸太に縄が付いたものを
兵士達が運んできていた。
しかし今回は、ひと際黒い鎧を着た騎士が2人護衛に付いていることだ。
「さっきとやることは変わらぬ!
しっかり当てていくんじゃ!」
老兵の声を共に弓を構える兵士達。
炭壁のおかげで一方的に攻撃出来るからこそ
圧倒的差を覆せていると言える。
―――だが。
破城槌の隣に居た騎士が1人、近くに落ちていた投石器の
投げ損なった巨大岩の所までやってくると
「うおぉぉぉぉぉッ!!」
その巨大な岩をたった1人で持ち上げる。
そして
「どりゃぁぁぁぁぁ!!」
そのままこちらに投げてきたのだ。
物凄い音と共に、炭壁と城壁の一部に命中して破壊される。
「な、なんなんだ!」
「アレは人間なのか!?」
街の人々や兵士は、そのたった1発で混乱に陥る。
「この程度の炭壁で、我が炎が止めれると思うなよ!」
そしてダメ押しとばかりに
破城槌と一緒にきたもう1人の兵士が
巨大な炎の弾を炭壁に投げつける。
ぶつかった壁は、爆炎と共に吹き飛ばされる。
「そ・・・想力者・・・」
誰かが言った一言。
だが、それが真実だ。
その言葉が、防衛している兵士や街の住民に広がり
激しい動揺が起こる。
想力者は、まさに一騎当千であり
たった1人で戦局を変えるとまで言われる存在だ。
壁が無くなった場所は、相手の矢も飛んでくるため
誰も近寄れなくなり、攻撃する箇所が減少してしまう。
そうなると破城槌は、何の障害も無く速度をあげて迫ってくる。
「ひ、怯むなっ!」
誰かが声をあげるも
兵士達は、前に出ようとしない。
何故なら、相手の想力者の2人が
また巨大な岩を持ち上げ、または巨大な炎を構えたからだ。
そして、それらがまた
城壁通路に向かって投げ込まれる。
しかしその瞬間。
巨大な岩に、巨大な氷柱がぶつかり互いに砕ける。
巨大な炎には、巨大な炎がぶつかって相殺される。
「絶対に、やらせない!」
「ようやく、私の出番って訳ね」
いつの間にか城壁通路の上には
セレナとシルビアが立っていた。
「あの2人の攻撃を相殺し続けるだけで構いません
・・・出来ますか?」
「みんなを護るためだもの・・・やってみせる!」
「それぐらい、やってみせるわ」
リシアの言葉にそう返事をした2人。
対して攻撃を潰された2人の騎士も
まるで強敵の出現を喜ぶように不敵な笑みを浮かべる。
「セレナ様が先頭に立たれておるのだ!
我々が後ろにおる訳にはいかんぞぅ!!」
「皆、あと少しの辛抱だっ!」
老兵やナザック達が、味方を鼓舞して
配置に付かせる。
だがその瞬間、振動と共に大きな破壊音が響く。
「ちっ、とりつかれたか」
リシアは舌打ちをしながら状況を確認する。
一連の騒ぎに乗じて破城槌が門までやってきたのだ。
掛け声と共に何度も丸太を門にぶつける帝国兵。
上から矢を射かけるも、盾に阻まれ上手くいかない。
熱した油でも上から撒ければ良かったのだが
それまでの混乱などで連携が取れず用意が間に合いそうにない。
想力者同士が相殺し合っている間に
何とかしなければならないのだが
これ以上の有効な手が無い以上は、次の段階を考えねばならない。
そう考えたリシアは
下に飛び降りて、下に居る兵士や住民達に声をかけていく。
「次の作戦を行います!
槍を持てる者は、全員手にしなさい!
訓練通りにやれば大丈夫!!」
声をかけながらリシア自身も準備してある大量の槍の1本を持つ。
街では門が破壊された場合に備えての準備が始まっている頃
何度目かの能力による相殺を迎える。
炎同士で相殺し、岩は氷と一緒に砕ける。
不毛にも見えるが、どちらかにバランスが傾けば
一気に勝負が決まってしまうだろう。
「門が破られちゃう・・・!!」
破城槌が門にぶつかる音が響くたびに
セレナは、集中力が削がれる。
そのため相手よりも格上であるはずなのに
相殺するだけの炎しか生み出せていない。
「集中しなさい!」
「やってるわよ!」
「普段のアナタなら、その程度の相手ぐらい
余裕で倒せるでしょ!」
「それを言ったらアンタだって、いつもなら
それぐらいの相手、簡単に倒せてるじゃないの!」
こんな時でも喧嘩をする2人。
だが、それも互いを知り過ぎているからこそだ。
肩で息をするセレナは、左手で炎を構える。
「もう限界?」
「・・・うっさい」
隣から聞こえてくるシルビアの言葉に
隣を見ることなく反論するセレナ。
「手が震えてるじゃない」
「震えてないわよ!」
そうセレナが言い返した時
空いていた右手に、ふと温もりを感じた。
「やっぱり、震えてるじゃないの」
それは、セレナの右手を左手で握るシルビアの手の温もりだった。
それに気づいたセレナは、驚いてシルビアの方を向く。
すると彼女も肩で息をしていた。
「・・・何よ、アンタだって限界そうじゃない」
「そんなこと無いわよ」
「手だって汗で濡れてるし」
「それはアナタも同じでしょう」
そう言いながら、どちらも繋いだ手を放そうとはしない。
二人は、大きく深呼吸をすると声をあげる。
「私は、バルズウェルト家の長女!
セレナ=バルズウェルトッ!
数多くの元帥を輩出し、現当主も元帥である名門貴族の娘ッ!!」
「私は、シルビア=ヴァルフォードッ!
三元帥の一角、ヴァルフォード家の長女ッ!
私に喧嘩を売ったことを後悔させてあげるわッ!!」
名乗りと共に、2人の想力が一気に膨れ上がる。
「くそっ!!」
「させるかぁ!!」
相手の想力者2人が、直感でマズイと判断して
先制攻撃を仕掛ける。
「行くわよ」
「ええ」
「「せーのっ!!!」」
明らかに巨大化したセレナの炎は、僅かに黄金色を纏い
シルビアの氷柱も、内部から黄金色の発光をしたまま飛んでいく。
4人の想力がぶつかるも、あっという間に
帝国側の想力者の放ったものが消滅し
炎と氷が帝国の想力者に迫る。
咄嗟に逃げ出した帝国側の2人だが
岩を投げていた者は、砕け散って大量に降り注ぐ氷槍に貫かれ
炎を操っていた者は、迫りくる巨大な炎に呑まれて消えた。
想力が爆発する爆音と同時に門が破られ
敵兵は後方の騒動に気づかず一気に流れ込んでくる。
―――だが。
「何だこれはっ!?」
「どうなってる!?」
「くそ、押すなっ!!」
門を破って中に入った兵士達は
門から真っ直ぐ続く、複雑に組まれた
木の柵で出来た道に驚いて立ち止まろうとする。
「何だこれはっ!!
壊せないぞっ!!」
柵を壊そうにも狭すぎて武器が振るいにくく
しかも複雑に組まれており、力任せでは壊れない。
更に門が開いたことによって雪崩れ込もうとする兵士達のせいで
止まりたくとも止まれず、どんどんと奥へと押し込まれる。
そして奥まで入った所で
行き止まりには、何重にも立てたれた柵の数々。
「今だっ!
突き刺せぇぇぇぇっ!!」
ナザックの掛け声と共に
柵で身動きが取れない相手に向かって
兵士や住民達が柵に向かって突進し
柵越しに槍を突き立てる。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
「ちくしょーー!!」
身動きが取れない相手に周囲から無数の槍が突き出され
あっという間に数多くの敵兵が命を落とす。
「も、戻れっ!
戻るんだっ!!」
敵兵の中からそんな声が聞こえてきて
侵入した兵士達が後ろに下がろうとする。
「フランッ!!」
リシアが正面門の上を見上げながら叫ぶと
「せーのっ!!」
いつの間にか正面門の上にある城壁通路に駆け上がっていたフランが
3本の太くて大きな縄がまとまっている場所に向かって槍斧を振り下ろす。
縄が切れると、炭壁の裏に用意してあった
巨大な鉄の板が、勢い良く落下して地面に突き刺さる。
するとそれは、まるで壊された門の代わりの如く
正面門を綺麗に塞いだ。
退路を断たれた敵兵は、半狂乱となり
騒いで柵を壊そうとするものが出るも
狭い場所で暴れる行為は、味方にも被害が出る。
そして結局は、3度目の槍の一斉攻撃により
侵入してきた敵兵は、全滅することになった。
住民達が勝利の雄叫びを上げているのを無視して
リシアは、城壁通路まで駆け上がり敵の様子を伺う。
そんなリシアにフランがゆっくりと近づいて声をかける。
「さて・・・次は、どうするの?」
「相手次第だな。
相手はまだ切り札である黒騎士部隊が居る。
対してこちらは士気は高いが満身創痍だ。
あと1度ぐらい相手の総攻撃を受ける必要がある」
「援軍は、確か明日なのよね?」
「予定では、な」
朝から始まった猛攻も、既に夕暮れの空となっている。
今日を凌いだとしてもまだ明日があるのだ。
フランと会話をしていると
ふと気配を感じて、後ろを振り向く。
すると見慣れた男が、階段を上がってきている所だった。
リシアの視線に気づくと、その場で軽く会釈をする。
そしてフランの方に一瞬視線を向ける。
「あら? 知り合い?」
「部下の1人だ。
構わん、報告しろ」
「はっ。
実は―――」
・・・・・
・・・
一方、グリザ将軍は
感心するように頷いていた。
「この短期間に、よくぞあそこまで準備をしたものだ」
「兵士の士気、練度もそうですが
想力者の数や質も警戒すべきかと」
グリザの言葉に側近の1人が答える。
「そうだな。
2人の元帥の娘も良い想力者ではあるが
問題なのは、あの想力者と思われる白銀の女騎士。
アレは今後、我々にとって脅威となる存在だ」
「そうですね。
願わくば、ただの騎士として終わって欲しい所です。
もし将軍や司令官のような立場になられると非常に厄介です」
「やはり、今ここで討ち取らねば今後に響く・・・か。
では、そろそろ黒騎士隊の準備を―――」
「―――報告します!」
グリザが次の指示を出そうとした瞬間
伝令兵が急いだ様子で入ってくる。
「何事だ?」
「時間切れのようです。
数は、5000」
「・・・そうか。
では、全軍に撤退命令を」
「はっ!」
・・・・・
・・・
仕切り直しのような状態になり
緊張感のある睨み合いとなっていた両軍。
だが、街の城壁通路で弓を構えていた1人の兵士が
『それ』を偶然見つける。
「お、おい!」
「なんだよ」
「あ、あれを見ろ!」
隣で声をかけられた兵士が
俺も疲れてるんだよと愚痴を言いながら
声を上げた兵士が指差す方向を見る。
そして、それを見た兵士も驚きの表情のまま固まる。
2人の様子がおかしいことに気づいた老兵が
槍を杖代わりにしてボロボロの身体を引きずるように
彼らの元まで歩く。
「お前ら、どうしたんじゃ?」
声をかけられた2人は、涙を流しながら
必死に山のある方角を指さす。
その様子に、何が見えるんだと思いながらも
老兵がその方角を見ると―――
「あ、あれは・・・ッ!!!」
山の頂上付近に見えたのは、旗。
中心に盾。
そしてその盾の前に槍が2本斜めに
Xのようにクロスしている紋様が描かれた青い旗が
夕暮れの空にたなびいていた。
「元帥閣下じゃ・・・。
閣下の援軍じゃぞっ!!!」
老兵が叫ぶように声をあげると
兵士達が、次々と押し寄せ
山に並ぶ旗の群れを見つけて歓声をあげる。
それと同時に帝国軍が、撤退を開始する。
その話題は、一気に街中に広がり
人々は、城壁通路に集まって歓声をあげた。
・・・・・
・・・
ダムル元帥が街に到着した頃には、既に夜になっていた。
周囲では、まだ片づけなども終わっておらず
負傷兵も大量に居る。
それでも街では元帥の到着を歓迎し
また戦勝記念にと、用意出来るだけの
宴の準備を行っていた。
そこに馬に乗ったまま街に入った元帥が
厳しい表情のまま、ナザックに声をかける。
「セレナは、どこにいる」
「はっ!
こちらです」
街で宴の準備を手伝っていたセレナは
いきなり自分の父親が現れて驚く。
馬から降りた元帥は、真っすぐセレナの元まで近づくと
「この、馬鹿者がッ!!!」
思いっきりセレナの頬に平手打ちを入れた。
その一撃でセレナは、倒れる。
周囲が一気にざわつく。
当たり前だ。
誰もがそんなことになると思っていなかったのだ。
「何故さっさと逃げなかったのだっ!?
お前にそんなことをさせるために、剣を握らせた訳ではないのだぞっ!?
一体何人を巻き込んだっ!?
一体何人を殺したと思っておるっ!?」
怒りに任せて一方的に話をする元帥。
「閣下、それぐらいで―――」
「ナザックッ!!
お前が付いていながら、何をやっておるのだっ!?」
止めようとしたナザックも、逆に攻撃される対象となり
反論出来なくなる。
「とにかくお前は、来いっ!!」
一通りの話を終えたかと思えば
まだ足りないのか、セレナの腕を掴んで引っ張っていこうとする。
「その娘が、どれだけ頑張ったのかを知らず
一方的に決めつけて怒鳴りつけるのが元帥のすることですかっ!?」
そんな元帥の腕を払ったのは
意外にも、シルビアだった。
「ジェイスの所の小娘か。
これは、我がバルズウェルト家の問題だ。
口を挟まないで貰おうか!」
元帥としての自信と歴戦の騎士としての風格による
高圧的な睨みを受け、シルビアの言葉が詰まる。
「・・・いや、本当に大人げない。
小娘相手に元帥閣下とあろう方が、何をされているのです?」
誰も反論出来ないような空気の中
世間話をするかのような声が聞こえてきて
誰もが声のした方を向く。
「お前は、何者だ」
「『初めまして』閣下。
私は、ナリアス伯爵家のリシア=ナリアスと申します。
セレナさんとは、親しくさせて頂いております」
貴族の娘らしい優雅な立ち振る舞いと
怒っている元帥に対して怯むことなく挨拶をする姿が
何とも異質に見えた。
「ナリアス?
ああ、あの辺境貴族の娘か。
お前にも関係ない話だ。
黙っていて―――」
「それが関係あるのですよ。
何せ一緒に戦った仲ですから」
「そもそも何故戦ったのだっ!
数の差を見れば、街を捨て逃げるべきだろうっ!!」
「それを閣下が言ってしまわれるのですか?
この街がどういう街かは、閣下が一番ご存じのはず」
「それでもだっ!
街は立て直せるが、死んだ者は生き返らせることなど出来んっ!」
「それでも、街の者は戦いを選んだ。
その意味を理解しようとせず一方的に攻めることが
この街の領主の・・・元帥のすることですか?」
「だから小娘には関係のない話だと言っておるだろうっ!
これは我が領土の問題であり、バルズウェルトの問題だっ!」
「そこまで言うのなら、何故伝令の1つも出して
早期撤退を命じなかったのです?
兵士は、街を守護するのが仕事。
その命令を忠実に守ったとも言えます。
なのにどうして閣下は、自らの不手際を認めず
一方的な理論で、そうすべきだったと言うのでしょう?
それとも常にそういう場合は逃げるべきだと軍規で
決まっているのでしょうか?」
「ぐっ、それは・・・」
もちろんそんな軍規が無いのは知っている。
そして先ほどの部下からの報告で
元帥が慌てて軍を編成して強行軍で駆け抜けてたので
伝令を出していないことも、知っていた。
解っていて、あえて聞いているのだ。
「少なくとも私には
『劣勢を跳ね返し勝利した指揮官』を
『一方的な理屈せ責め立てて罰を与える』ことが
元帥のすることではないと思いますが?
バルズウェルトの問題だというのなら
せめて誰も見ていない家族だけの時にでも
すれば良いだけの話。
それとも元帥閣下の軍隊では
勝利した指揮官に平手打ちをするのが褒美とでも?」
リシアの言葉に元帥が口ごもる。
自分でも多少感情的になっていると気づいたのだろう。
「そ、そうです!
セレナさまを責めないでください!」
「そうですよ、ダムル様!
セレナ様は、私達のために命懸けで戦ってくれたんです!」
「この街のために戦って下さったんです!」
「せれなさまをいじめないでー!」
「私達のワガママに付き合って頂いただけなんです!
罰するというなら我々を!」
周囲で状況を見ていた兵士や住民達が
次々と元帥に声をかける。
「・・・ふん、勝手にしろ」
状況に耐えきれなくなったのか
元帥は、そう言うとその場を去ろうとする。
「いえ、待ってください。
勝利した司令官であるセレナさんに褒美を。
それとも元帥閣下の軍では、平手打ちが本当に褒美なのですか?」
そう言われた元帥は、リシアに近づくと胸ぐらを掴もうと腕を伸ばす。
だが直前で、リシアの手が元帥の手を掴む。
「―――とても元帥が淑女にする行為とは思えませんね」
「お前は何者だ」
自分の腕を掴む速さも、その力も
そして先ほどまでの会話も
とてもではないが単なる貴族の娘とは思えない。
「先ほど名乗ったと思いますが?」
「・・・もう一度聞かせろ」
「ナリアス伯爵家の長女、リシア=ナリアスですよ、閣下」
「その名、覚えておくぞ」
そういうと元帥は、乱暴に腕を振り払うと街の者達に向き直る。
「街の修理や褒美などに関しては、明日から行う!
だがバルズウェルトの名に懸けて約束しよう!
この戦いに参加した全ての者に、名誉と褒美を与えると!!」
その宣言によって歓声があがる。
元帥は、こちらを一瞬だけ睨みつけると
そのまま去っていった。
「大丈夫?」
「・・・うん」
倒れたセレナをシルビアが支えて起こす。
涙ぐむセレナに誰も何も言えなかった。
「・・・あら、何だか嫌な空気ね?」
料理を持ってきたフランが、暗い空気に気づいて声をかける。
「いえ、ちょっと怖い人が来ただけですよ」
リシアが、それに苦笑しながら答える。
「そう? 何でもないなら別に良いのだけど」
「むしろ声をかけてくれて助かりました」
そう言いながらリシアがワインの入ったグラスを持つ。
「さて、そろそろ始めましょうか」
その言葉に待ってましたとばかりに皆がグラスを持つ。
本来ならセレナに言わせるつもりだったが
今は無理だろう。
なので仕方なく私が言うとするか。
「では、我々の勝利に。
そして共に戦い、散って逝った英霊達に」
「乾杯っ!!!」
散って逝った者達を涙ではなく笑顔で語り、送り出す。
そうしなければ、彼らが心置きなく天へと旅立てないからだ。
だからこそ宴を行い、皆で笑顔で送り出してやろう。
それが昔から続く、死者の弔い方である。
こうして始まった勝利の宴は、夜遅くまで盛り上がった。
・・・・・
・・・
その頃、バルズウェルト家の屋敷の奥。
領主が使う書斎では、ダムル元帥が一人で酒を飲んでいた。
酒が置いてある机には、1枚の絵。
絵師に描かせた子供の頃のセレナの肖像画だ。
「そうか、あの子が・・・やりおったのか。
劣勢を跳ねのけ、街を護って勝ったのか。
・・・ようやった、ようやったっ!」
セレナの肖像画を見て泣きながら酒を飲むダムル。
そこには溺愛する娘の心配を表に出せない
不器用な男の姿があるだけだった。
第25章 総力戦 ~完~