豪華で幻想的な調度品の数々が飾られた立派な場所に集まった
この国最高の権力者達は、それぞれに頭を悩ませていた。
「しかし、これはどういうことか・・・」
思わず呟いたジェイス元帥。
だがそれに誰も答えない。
ここは、ランバルト王国。
その王都であるグリアスフォルドにある王城。
ここは、外からの客人を出迎える場所。
謁見の間。
そこには、宰相と2人の元帥。
そして国王が、頭を抱えていた。
「これでは、あの若造が次期国王だと言っておるようなものではないかっ!」
思わず叫んだ宰相の言葉だったが
それに対しても誰も反応しない。
第26章 皇帝の思惑
そもそもの話。
最初は、国王の部屋にて
ダムル元帥の街で起きた襲撃事件についての話をしていた。
明らかに帝国による挑発行為であるが、それを非難する証拠がない。
しかしその挑発行為は、2人の元帥の娘によって切り返された。
相手にとっても予想外の出来事だろう。
レナード元帥から届いていた報告と
今回、自ら王都に来て報告を入れたダムル元帥。
2人の元帥の報告を聞いても、リッツダールは手痛い打撃になったはずだ。
新たに英雄となった2人の元帥の娘は
今、王都に用意された部屋に通され、この後に
国王自ら話を聞いて褒美を出すという予定になっている。
そこまでは、よかったのだ。
問題は、そんな話が終わりに差し掛かった頃。
突然やってきたリッツダール帝国の使者から告げられた台詞である。
『このたびは、野盗風情のせいで双方に誤解が生じかねない事態となり
我々としても大変苦慮している。
そこで、互いのより一層の平和と繁栄のために予定していた
カタリナ・フェーン・リッツダール皇女の学園都市留学について
時期を早めることにした』
あくまで今回の件は、野盗のせいであり帝国は何ら関係ないと宣言する。
ここまでは予想通りではあったが
まさかこのタイミングで留学してくるとは思ってもみなかった。
しかも双方で行うはずの予定を無視しての一方的な通知である。
本来なら外交問題になりかねない話だ。
それらを含め「突然過ぎる」と反論すれば
『既にカタリナ・フェーン・リッツダール皇女は
ガーランド国に向けてご出発された後でございます。
そこからアスタブローグを経由し学園都市フォレスに到着される予定です』
と既に皇女は、移動中のため予定変更はありえないと突っぱねられる。
とてもではないが同格の国相手にやることではない。
それらを含め散々抗議したが、流石に選ばれた外交官だけあり
のらりくらりと曖昧な返事で切り返し、一方的に言いたいことだけを言って
さっさと帰っていったのだ。
これには宰相だけでなく2人の元帥も「何という礼儀知らずな!」と
怒りを爆発させていた。
しかしそれよりも問題なのは、カタリナ皇女の移動しているルートである。
本来学園都市に行くのなら
帝都から真っ直ぐ南下して国境の川にある巨大な橋と一体化した
ダムル元帥が守護するハミルニア要塞を越え
王都を経由して学園都市に行くのが最短ルートであり
そのルートで一度王都で陛下に謁見して挨拶を終えてから行くと思われていた。
だが今回説明されたルートは
わざわざ東側へと移動してガーランド王国を経由し
東側からランバルト王国へと入り、アスタブローグに寄ってから
学園都市に行くというあり得ない遠回りのルートなのだ。
それだけガーランドを重要視しているという見方も出来るが
そうではないと4人は判断していた。
問題なのは、わざわざ東側のアスタブローグに行くことについてである。
超巨大城塞都市『アスタブローグ』
全てが赤レンガなどで整備され、一から造られたために綺麗に区画整備がされた
いまや王都を超える大きさで、未だに増築が繰り返されている巨大都市。
そしてその街の主は、ランバルトの英雄と呼ばれている
レナード=ライドック元帥。
そう、アスタブローグは彼の本拠地なのだ。
カタリナ皇女の目的が、明らかにレナード元帥に対する挨拶であると推察できる。
だからこそ、国王は考える。
レナードは次期国王になって貰おうと考えている若者だけに
帝国からちょっかいをかけられるのは、喜ばしくない。
レナードの忠誠心を疑ってはいないが、こちらから何か
手が打てる訳でもないため、どうしたものかと。
宰相は、考える。
陛下すら無視してあの若造に挨拶をするということは
帝国では、次期国王は既にレナードであると思っているということ。
ガーランドも最近、レナードと密接な関係である以上
自分の息子は、2歩も3歩も国王争いから遅れていることになる。
何とか巻き返しをせねばと。
ダムル元帥は、考える。
明らかに自分を軽視した帝国の判断に憤りを覚えるものの
東側を注視してくれるのは、正直有難い。
城塞都市ガルガンの件も対策を始めたばかりで正直手が回らないのだ。
国から出る支援金も全てハミルニア要塞の改修費用になっているため
金銭的な問題もあって、なかなか思うように進まない。
だが今のうちに可能な限り軍備を整え、次こそ必ず一矢報いてやるのだと。
ジェイス元帥は、考える。
皇帝の狙いは何なのかと。
カタリナ皇女をわざわざ挨拶に向かわせた意味。
明らかにレナード元帥を重要視していますと言っているようなもの。
・・・まさか皇女を嫁がせて東側を切り崩そうと?
あの皇帝ならあり得なくはないが、そうなると厄介だ。
いざという時、東の英雄は中立になりかねない。
今、一番の軍事力と経済力を持っているのは
紛れもなくレナード元帥である。
王国で一番重要な人間となりつつある彼に皇帝が目をつけるのは
むしろ遅すぎたぐらいだ。
ただあの人物は、陛下に対する高い忠誠心を示している以上
帝国側も一筋縄ではいかないだろうと。
降って湧いたような爆弾に、それぞれが思考を巡らせる。
それぞれが、次の一手を打つために。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
その日も、よく晴れた青空が広がっていた。
そんな空の下をゆっくりと馬車が進む。
整備された大きな道は、より多くの荷物を輸送するのに便利だ。
野盗やモンスターの襲撃も、この道を定期的に通る領主の私兵によって
駆逐されている。
よってこの道は、驚くほど旅人にとって快適であり
通行する人々にも余裕の表情が窺える。
「へぇ、変われば変わるものね」
馬車の窓から顔を出し、景色を眺めていた少女は
ほんの少しだけ興味を示した声を出す。
少女の名は、カタリナ・フェーン・リッツダール。
長く淡いピンク色の髪が細いリボンで整えあり
見るからに気品漂う良家のお嬢様という雰囲気をまとっているが
その瞳には、何とも言えない黒い感情が見え隠れしていた。
彼女こそ、リッツダール帝国の皇女である。
「例のランバルトの英雄から支援を受け
あちらと同じような方法を試しているのだとか。
おかげでこの前行った経済封鎖が逆手に取られたと
陛下が笑っておられました」
少女の対面に座るメイドの姿をした女性が
淡々と説明するように答える。
彼女は、ナナリー=レガンタ。
帝国近衛騎士の中で唯一の女騎士であり
その剣の腕は、帝国一であるのだが
女性ということもあり、あまり評価されていないため
基本的に皇女の騎士として護衛を務めている。
「確か、コルスンを巻き込んでたやつよね?」
「そうです。
おかげで最近、ガーランドはコルスン帝国を
一切相手にしなくなって、逆に経済的な痛手を受けたとか何とか」
「ああ、それでこの前
外交官が出入りしていたのね」
「ええ。
何を言い出すかと思えば、協力したが故に出た損失なので
その損害を補償して欲しいと」
「利用されるだけの小国にしては
思い切ったことするじゃない」
「己の価値が暴落していることに気づかぬ哀れな国です」
「よくお父様は、あの国を残しているわね」
「何でもまだ利用価値があるとか」
「利用価値・・・ねぇ」
そう呟くと、何かを考え込むように瞳を閉じるカタリナ。
思い出すのは、自らの父である皇帝との会話だ。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
「失礼します。
お呼びですか、お父様?」
控え目なノックと共に寝室に入ってきた娘を見て
皇帝は、椅子に座るように促す。
娘が座ったのを確認してから
皇帝は話を切り出す。
「お前をランバルトに行かせる件だが
少し時期を早めることにした」
「あら? 何かございました?」
「お前の目で、どういう人物かを見極めて欲しい相手が増えた。
学園都市・・・お前の行く場所に居る女騎士。
名をリシア=ナリアスという」
「・・・聞いたことがない名前ですわね」
「2人の元帥の娘と街の警備兵や市民合わせて500の雑兵で
帝国兵3000を追い払った騎士だ」
「・・・ああ、なるほど。
最近、グラッツお兄様がやたらと不機嫌な理由が解りましたわ」
「ほぅ?」
「最近、急に見なくなったグラッツお兄様。
帰ってきたかと思えば、最近不機嫌らしく周囲に当たり散らしているとか。
そう言えば、その頃にちょっとした軍事演習名目で
それなりの軍勢が集められていた様子。
かと思えば、グリザ=グランド将軍が最近になって
お父様の部屋に出入りしていたと聞いております。
と考えれば、大体何があったのか。
想像出来るというものですわ」
「ふふふっ、お前が女であるのが惜しいと思ったのは
これで何度目であろうな」
「また御冗談を。
・・・しかし、そうなると面白くなってきますわね。
ランバルトの英雄にして、負けなしの天才である
レナード=ライドック元帥に
新たなる英雄とも呼ぶべき女騎士の
リシア=ナリアス。
そのどちらにも会えるのですもの」
「お前の目で見た感想を、教えてくれればいい」
「解っておりますわ。
特にレナード元帥にお会いするのが愉しみです」
「我が娘は、あの英雄に強い興味があるようだな」
「もちろんですわ。
場合によっては、私の結婚相手になる方ですもの。
どの程度の殿方なのか興味が尽きません。
・・・まあ万が一、下らない男だったら
その時は、ガーランドごと消えて貰うだけでしょうけど、ね」
その言葉に、皇帝は大きく笑い
そして思うのだった。
もし男であれば、文句なく跡継ぎにしたものを・・・
世の中とは、上手くいかぬものだと。
第26章 皇帝の思惑 ~完~
皆様、お久しぶりです。
ちょっと色々あり過ぎて投稿できませんでした。
シナリオに関しても第26話は方向性が定まらず
総合すると10話分ぐらい書き直しするなど
色んな意味で時間を無駄にしまくりました。
おかげで大量の没シナリオだらけです。
とりあえず何とか落ち着いてきたので
また投稿を再開したいと思います。